• 著者: Spicer JD, Shewale JB, Nelson DB, Mitchell KG, Bott MJ, Vallieres E, Wilshire CL, Vaporciyan AA, Swisher SG, Jones DR, Darling GE, Sepesi B
  • Corresponding author: Jonathan D. Spicer (McGill University Health Centre, Montreal, Quebec, Canada)
  • 雑誌: Annals of Thoracic Surgery
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30227129

背景

同側縦隔リンパ節転移 (N2) を伴うStage III非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する最適な術前治療戦略は、長年にわたり議論の的となってきた。局所制御の最大化を目指す導入同時化学放射線療法 (CxRT) と、全身用量での薬剤投与により遠隔転移制御を重視する導入化学療法単独 (CxT) のどちらが優位であるかについては、これまで十分なエビデンスが不足しており、この知識のギャップが高容量施設間においても治療方針の大きな差異を生み出してきた主要因である。

過去の主要な臨床試験であるIntergroup 0139試験では、CxRT後の手術追加が病勢進行のない生存期間 (PFS) を改善したものの、全生存期間 (OS) には有意な差が認められなかったと報告されている (Albain et al. Lancet 2009)。ただし、同試験のサブグループ解析では、CxRT後に肺葉切除術を受けた患者群で生存期間の改善が示唆された。この結果は、N2 NSCLCに対する集学的治療における手術の役割を支持する根拠の一つとされてきた。

しかし、N2 NSCLCの治療に関するランダム化比較試験は依然として不足しており、その異質性の高さも相まって、世界的に治療パターンの大きなばらつきが生じている。例えば、vanMeerbeeck et al. JNatlCancerInst 2007Katakami et al. Cancer 2012 のような試験も実施されたが、いずれも小規模であったり、早期に終了したりしたため、決定的な結論には至っていない。この領域における最適な治療戦略は未解明な状態であり、高容量センター間でも意見が分かれている。

AJCC第8版によるStage III疾患のさらなる詳細な分類が導入されたにもかかわらず、N2疾患に対する治療戦略の標準化は依然として未確立な状態である。特に、導入CxRTと導入CxTのどちらが術前治療として最適であるかについては、経験豊富な高容量センター間でも意見が分かれており、この領域における知識の不足が課題として残されている。本研究は、この未解明な領域に光を当てることを目的としている。

目的

本研究の目的は、N2非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する術前治療として導入化学療法単独 (CxT) または導入同時化学放射線療法 (CxRT) を施行後に手術を受けた患者の多施設における腫瘍学的アウトカムを比較することである。具体的には、両治療戦略が全生存期間 (OS)、無病生存期間 (DFS)、再発率、および再発パターンに与える影響を評価し、最適な術前治療戦略に関するエビデンスを強化することを目指した。また、周術期死亡率や病理学的奏効、R0切除率などの副次アウトカムも比較検討し、両治療戦略の安全性と有効性の側面から包括的な評価を行うことを意図した。これにより、N2 NSCLC患者に対する個別化された治療選択に資する情報を提供することを目的とした。

結果

対象コホートの概要と患者背景の差異: 本研究では合計822例の患者が特定された。内訳は導入化学療法単独 (CxT) 群が662例、導入同時化学放射線療法 (CxRT) 群が160例であった。手術後の追跡期間中央値は、CxT群で25ヵ月 (範囲: 0〜170ヵ月)、CxRT群で34ヵ月 (範囲: 0〜189ヵ月) であった。患者背景において、CxT群はCxRT群と比較して平均年齢が高く (平均64歳 vs 62歳、p=0.004)、一酸化炭素拡散能 (DLCO) 低下例が多く (61.5% vs 50.9%、p=0.033)、慢性閉塞性肺疾患 (COPD) の合併率も高かった (21.6% vs 10.8%、p=0.002)。侵襲的縦隔ステージング (EBUS、縦隔鏡など) の実施率はCxRT群で有意に高く (94.4% vs 61.0%、p<0.001)、CxRT群では縦隔病変の病理学的確認がより徹底されていたことが示された (Table 1)。

病理学的奏効とR0切除率: 病理学的N0 (ypN0、縦隔リンパ節ダウンステージ) 達成率は、CxT群で35.2%に対しCxRT群で44.4% (p=0.076) であった。また、病理学的完全奏効 (ypT0) 達成率はCxT群で5.6%に対しCxRT群で10.7% (p=0.064) であり、CxRT群で良好な傾向が認められたものの、統計学的な有意差には至らなかった。しかし、R0切除率に関してはCxRT群で有意に高く (95.6% vs 90.0%、p=0.045)、放射線照射による局所制御の優位性が切除完遂率に反映された可能性が示唆された (Table 2)。

手術および周術期成績: 肺切除術の術式では、両群ともに肺葉切除術が主体であった (CxT群79.2%、CxRT群84.4%)。開胸アプローチが両群で大部分を占め (CxT群94.3%、CxRT群91.7%)、術式のアプローチに有意差はなかった。しかし、sublobar resectionはCxT群で8.3%に施行されたのに対し、CxRT群では0%であり、有意差が認められた (p<0.001)。術後補助療法として、CxT群では術後放射線治療の実施率が高く (39.3% vs 13.4%、p<0.001)、CxRT群では術後化学療法の実施率が高かった (66.4% vs 16.6%、p<0.001)。周術期死亡率については、30日死亡率はCxT群1.5%に対しCxRT群1.9% (p=0.740)、90日死亡率もCxT群3.2%に対しCxRT群4.4% (p=0.452) であり、両群間に有意差は認められなかった (Table 2)。

主要アウトカム:全生存期間 (OS) および無病生存期間 (DFS) に有意差なし: 5年全生存期間 (OS) 率はCxT群で39.9%に対しCxRT群で42.9% (p=0.250) であり、統計学的な有意差は認められなかった。同様に、5年無病生存期間 (DFS) 率もCxT群で28.7%に対しCxRT群で29.8% (p=0.207) であり、両群間に有意差はなかった。中央値OSはCxT群で37.5ヵ月 (95% CI 34.0-44.3ヵ月)、CxRT群で48ヵ月 (95% CI 34.7-62.6ヵ月) であった。中央値DFSはCxT群で19.6ヵ月 (95% CI 15.4-22.8ヵ月)、CxRT群で30.1ヵ月 (95% CI 18.4-41.7ヵ月) であった (Figure 1)。再発率もCxT群で46.8%に対しCxRT群で51.6% (p=0.282) で差はなかった。再発パターンにおいても、局所再発率 (CxT群9.8% vs CxRT群9.7%、p=0.764) および遠隔再発率 (CxT群30.4% vs CxRT群33.1%、p=0.764) は両群で同等であった (Table 3)。

サブグループ解析:侵襲的縦隔ステージング施行例: 術前に侵襲的縦隔ステージングを施行した症例のサブグループ解析 (n=555) においても、OS (p=0.341) およびDFS (p=0.455) に有意差は認められなかった (Figure 2)。この結果は、より均質な患者群においても両治療戦略の同等性が支持されることを示唆している。

全生存期間に関連する因子: 多変量解析の結果、病理学的N2 (ypN2) ステータス (ハザード比 [HR] 1.98、95% CI 1.57-2.48、p<0.001)、肺全摘術 (HR 1.51、95% CI 1.13-2.00、p=0.005)、および切除断端陽性 (HR 1.66、95% CI 1.24-2.23、p=0.001) がOSの不良因子として同定された。一方で、術後補助化学療法 (HR 0.63、95% CI 0.48-0.82、p=0.001) または術後同時化学放射線療法 (HR 0.51、95% CI 0.35-0.74、p<0.001) はOSの改善と関連していた。導入CxTまたはCxRTのいずれの治療戦略も、単変量解析および多変量解析のいずれにおいてもOSとの有意な関連は認められなかった (Table 4)。

考察/結論

本研究は、北米の4つのハイボリュームセンターによる最大規模の多施設後方視的研究であり、N2非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する導入化学療法単独 (CxT) と導入同時化学放射線療法 (CxRT) の術後成績を比較した。結果として、全生存期間 (OS)、無病生存期間 (DFS)、再発率、および再発パターンのいずれにおいても、両治療戦略間に統計学的な有意差は認められなかった。両戦略ともに過去の報告と比較して良好な5年OS率 (約40%) を示しており、高容量施設での集学的治療の実施がN2 NSCLC患者の予後改善に重要であることが示唆される。

先行研究との違い: 過去のメタアナリシスや大規模データベース研究では、導入CxRTが腫瘍のダウンステージングや縦隔リンパ節の病理学的完全奏効、局所制御の改善をもたらす一方で、5年生存期間や無病生存期間には差がないと報告されてきた (Pless et al. Lancet 2015など)。本研究の結果はこれらの報告と一致するものであり、CxRTの局所制御における理論的優位性が、必ずしも長期生存の改善に直結しないという実臨床での知見を裏付けるものである点で、これまでの知見と対照的ではない。特に、再発パターンの比較において局所再発率 (約10%) に差がなかった点は特筆すべきであり、CxRTが局所制御を最大化するという仮説が、遠隔再発の優位性により相殺される可能性を示唆している。

新規性: 本研究は、北米の主要な高容量センターにおけるN2 NSCLCに対する導入CxTとCxRT後の手術成績を、大規模なコホートで詳細に比較した点で新規性がある。特に、侵襲的縦隔ステージングの実施率がCxRT群で有意に高かったという患者背景の差異を考慮したサブグループ解析においても、両戦略の同等性が支持されたことは、本研究で初めて示された重要な知見である。また、R0切除率がCxRT群で有意に高かった一方で、OSやDFSに差がなかったという結果は、手術による完全切除の重要性を再認識させるとともに、導入治療の種類が長期予後に与える影響は限定的である可能性を示唆する。

臨床応用: 本研究の結果は、N2 NSCLCに対する導入治療の選択において、CxTとCxRTのいずれも同等の腫瘍学的アウトカムをもたらすことを示しており、臨床現場での治療方針決定に重要な情報を提供する。特に、患者の併存疾患や忍容性、施設の専門性などを考慮した個別化医療の重要性を強調するものである。術後の補助療法がOSと関連していたことから、導入治療後の適切な補助療法の選択も予後改善に寄与する可能性がある。

残された課題: 本研究の限界は、後方視的研究であること、導入治療の選択が施設の方針に依存するため選択バイアスが存在すること、追跡期間の中央値が比較的短いこと、および各施設の術後補助療法の方針が異なることである。また、N2疾患の病変量 (bulky/multi-station N2) や特定の化学療法レジメンに関する詳細な情報が不足していた点も今後の課題である。

今後の検討課題として、免疫療法 (PD-1/PD-L1阻害薬) を組み込んだ集学的治療との比較が極めて重要である。例えば、切除不能なStage III NSCLCに対するAntonia et al. NEnglJMed 2017で示されたように、免疫療法は遠隔転移制御に大きな進歩をもたらしている。本研究が示した従来の化学療法・化学放射線療法それぞれの成績は、ネオアジュバント免疫療法試験 (CheckMate 816など) の歴史的対照として参照されることとなる。N2 NSCLCに対する治療パラダイムは、免疫腫瘍学の進展により今後大きく変化することが予想される。

方法

本研究は、北米の4つの主要胸部腫瘍センター (McGill University Health Centre、MD Anderson Cancer Center、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center、Swedish Cancer Institute/Toronto General Hospital) の前方視的に管理されたデータベースから後方視的にデータを解析した共同研究である。本研究デザインは後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) であり、特定のNCT番号は付与されていない。対象患者は、1997年から2015年の間にclinical Stage III N2 NSCLCと診断され、導入CxTまたは導入同時CxRTを施行後に手術を受けた患者とした。

N2陽性は、CT、PET-CT、および侵襲的縦隔ステージング (気管支鏡下超音波ガイド下生検 (EBUS)、縦隔鏡検査、Chamberlain法など) のいずれか、または組み合わせによって確認された。特に、術前に侵襲的縦隔ステージングを施行した患者群に限定したサブグループ解析も実施した。

主要アウトカムは全生存期間 (OS) と無病生存期間 (DFS) と定義した。OSは手術日からあらゆる原因による死亡までの期間、DFSは手術日から腫瘍再発または死亡までの期間とした。イベントが確認されなかった患者は、最終フォローアップ日に打ち切りとした。副次アウトカムには、30日および90日周術期死亡率、ならびに局所再発率および遠隔再発率を含めた。

統計解析には、カテゴリカル変数の群間差を評価するためにPearson χ²検定およびFisherの正確検定を、連続変数の比較にはt検定およびノンパラメトリックMann-Whitney U検定を用いた。生存期間の比較にはKaplan-Meier法とlog-rank testを適用した。共変量とOSまたはDFSとの関連性を評価するためにCox proportional hazards regressionモデルを用いた。単変量解析でp値が0.25未満の変数は、臨床的妥当性を考慮し、後方ステップワイズWald除去法 (エントリーおよび除去確率p=0.10) を用いて多変量解析でさらに評価した。ハザード関数の比例性および対数ハザードと独立変数間の線形性を検証するための診断も実施した。統計的有意水準はp値が0.05未満とした。すべての統計解析はStataバージョン13 (StataCorp, College Station, TX) を用いて実施された。