- 著者: B.A. Williams, H. Sugimura, C. Endo, F.C. Nichols, S.D. Cassivi, M.S. Allen, P.C. Pairolero, C. Deschamps, P. Yang
- Corresponding author: P. Yang (Mayo Clinic, Rochester, MN, USA)
- 雑誌: Annals of Thoracic Surgery
- 発行年: 2006
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 16488713
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は、完全切除後も高頻度に再発する疾患であり、その再発率は病期や追跡期間によって20%から85%と広範に報告されている Williams et al. AnnThoracSurg 2006。再発後の生存期間 (postrecurrence survival: PRS) は、患者の人口統計学的特性、臨床的特性、生物学的特性、および治療特性に依存する多因子プロセスであると考えられてきた。しかし、再発後の予後因子を大規模かつ系統的に検討し、複数の予後因子を統合してリスクスコアを算出し、患者を層別化することで治療方針決定に活用できる実践的ツールの開発は不足していた。既存の報告は、コホート規模が小さく、統計的検出力が不十分であるため、多数の潜在的な予後因子を適切に評価することが困難であった。さらに、これらの研究の多くは局所再発または遠隔再発のいずれかに解析対象を限定しており、両者を包括した予後モデルの開発には至っていなかった点が課題として残されていた。
Mayo Clinicでは1997年以来、肺癌患者を前向きに登録し追跡する大規模な疫学・遺伝研究プログラム (Mayo Clinic Epidemiology and Genetics of Lung Cancer Research Program) が整備されており、本研究の基盤となった。このプログラムにより、多数の患者データが収集され、詳細な臨床情報と長期追跡が可能となった。先行研究である Sugimura et al. (2005) は、同一コホートを用いて再発後生存に関連する治療効果やその他の特性を記述的に同定したが、患者の再発後死亡リスクを層別化する予測モデルの開発には至っておらず、この点が未解明であった。この知識ギャップを埋めることが、本研究の重要な出発点となった。再発後の予後を正確に予測し、患者をリスクに応じて層別化するツールは、個別化された治療戦略の策定や臨床試験の設計において極めて重要な臨床的意義を持つと考えられる。本研究は、この不足している臨床的ツールを提供することを目指している。
目的
本研究の目的は、完全切除後に再発した非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象として、以下の2点を達成することである。(1) 再発後の死亡リスクに独立して関連する予後因子をCox比例ハザードモデルを用いて同定すること。(2) 臨床現場で容易に算出可能なリスクスコアモデルを開発し、患者を再発後死亡リスクに応じて層別化することを可能にすること。これにより、治療選択の最適化、臨床試験の設計、および患者と家族への予後説明に資する実践的なツールを提供することを目指した。特に、従来の主観的な臨床評価に加えて、客観的な数値情報に基づくリスク評価を可能にすることで、より個別化された医療の実現に貢献することを意図した。本研究は、後向きコホート研究として、再発後の死亡リスク予測モデルを構築することを主要な目的としている。
結果
全体の再発後生存期間 (PRS) とその不良な予後: 完全切除後に再発したNSCLC患者390例の再発後生存期間 (PRS) 中央値は8.1ヶ月であり、1年生存率は37%、2年生存率は17%と極めて不良な予後であることが示された。この結果は、再発が確認された患者にとって、その後の生存が非常に厳しい状況にあることを明確に示唆している。
初回肺癌特性と再発後死亡リスクの関連: 単変量Cox解析により、初回肺癌の特性が再発後死亡リスクに与える影響が評価された (Table 1)。初回病期は段階的なリスク増大を示し、特にStage IIBが最も高い死亡リスクと関連した (ハザード比 [HR] 2.28, 95% CI 1.55-3.36, p<0.01)。Stage IIIA (HR 1.43, 95% CI 1.01-2.04, p<0.01) および Stage IIIB (HR 1.50, 95% CI 0.97-2.30, p<0.01) も有意なリスク増大を示した。初回診断時のECOG-PS不良 (PS 2-3でHR 1.62, 95% CI 1.01-1.58, p=0.02)、症状の存在 (HR 1.43, 95% CI 1.06-1.91, p=0.02)、扁平上皮癌組織型 (HR 1.28, 95% CI 1.00-1.62, p=0.05、腺癌を基準)、および高分化度不良 (Grade 3でHR 1.97, 95% CI 1.34-2.89, p<0.01; Grade 4でHR 1.71, 95% CI 1.15-2.54, p<0.01) が、それぞれ独立した予後不良因子として同定された。これらの因子は、初回治療後の再発リスクだけでなく、再発後の生存にも影響を与えることが示された。
再発特性と再発後死亡リスクの関連: 再発時の患者特性もPRSに大きく影響した (Table 2)。再発時のECOG-PSは最も強力な予後因子であり、PSスコアの悪化に伴い死亡リスクが段階的に増加した。具体的には、PS 3-4でHR 4.09 (95% CI 2.65-6.31, p<0.01)、PS 2でHR 2.33 (95% CI 1.66-3.25, p<0.01)、PS 1でHR 1.62 (95% CI 1.20-2.20, p<0.01) であった。再発時の症状の存在も強力な予後不良因子であり、症状がある患者では死亡リスクが2.69倍に増加した (HR 2.69, 95% CI 1.97-3.66, p<0.01)。再発部位に関しては、肝再発が唯一、多変量モデルにおいて独立した予後不良部位として採用された (HR 1.73, 95% CI 1.23-2.43, p<0.01)。骨再発も単変量解析では有意なリスク増大を示したが (HR 1.44, 95% CI 1.10-1.88, p<0.01)、多変量モデルには残らなかった。一方、肺再発は保護因子として関連した (HR 0.71, 95% CI 0.56-0.89, p<0.01)。無病期間が0.50年未満の患者は、より長い無病期間の患者と比較して死亡リスクが高かったが (HR 1.47, 95% CI 1.05-2.06, p=0.01)、多変量モデルでは初回病期との相関により除外された。多発再発 (2部位以上) も独立した予後不良因子であった (HR 1.50, 95% CI 1.19-1.89, p<0.01)。
リスクスコアモデルの構成と点数配分: 最終的な多変量Coxモデルは、再発後生存を予測する5つの独立した因子で構成された (Table 3)。これらの因子は、再発時のECOG-PS、再発時の症状、肝再発の有無、初回肺癌の病期 (IIB以上)、および多発再発の有無である。各因子には以下のリスクスコア点が割り当てられた:再発時ECOG-PS (PS 1: 1.5点、PS 2: 2.8点、PS 3-4: 4.2点)、再発時症状あり (3.6点)、肝再発あり (2.3点)、初回病期IIB/IIIA/IIIB (1.8点)、多発再発 (1.0点)。患者の合計リスクスコアは、これらの点数を合計することで算出された。対象患者390例における合計リスクスコアの平均は6.0点、標準偏差は2.6点であった。最も頻繁に観察された因子の組み合わせ (n=33) は、「初回病期IIB以上 (1.8点) + 再発時症状あり (3.6点) + 単発再発 (0点) + 肝再発なし (0点) + PS 1 (1.5点)」であり、合計リスクスコアは6.9点であった (Table 4)。
4群リスク層別化と生存成績: 合計リスクスコアに基づき、患者は以下の4つのリスク群に層別化された:低リスク (スコア≤4.0, n=80)、中低リスク (4.1〜6.0, n=81)、中高リスク (6.1〜8.0, n=150)、高リスク (>8.0, n=79)。これらの群間では、再発後生存期間に明確な差が認められた (p<0.01) (Figure 1)。PRS中央値は、低リスク群で21.0ヶ月、中低リスク群で12.0ヶ月、中高リスク群で6.4ヶ月、高リスク群で3.1ヶ月であった。1年生存率は、低リスク群で75%、中低リスク群で51%、中高リスク群で25%、高リスク群で9%と、リスク群間で明確な識別能が示された。2年生存率も同様に、低リスク群で45%、中低リスク群で20%、中高リスク群で11%、高リスク群で2%と大きな差が認められた。このリスクスコアモデルのc統計量は0.70であり、再発後死亡リスクに対する良好な識別能を有することが示された。
全リスク群における治療の有益性: 治療モダリティの分布はリスクスコア群間で異なり、高リスク群では手術施行率が低く、無治療の割合が高い傾向が認められた (51%) (Table 5)。しかし、全ての4つのリスク群において、何らかの治療を受けた患者は無治療の患者と比較して再発後生存期間が改善する傾向が示された (Figure 2)。特に、低リスク群 (スコア≤4.0) では外科的切除により70%以上の死亡リスク低下が認められた (95% CI 10-80%)。高リスク群 (>8.0) では化学療法により60%以上の死亡リスク低下が認められた (95% CI 10-80%)。一方、放射線単独療法は、リスクスコア6.1〜8.0の中高リスク群では生存利益が認められなかった。これらの結果は、高リスク患者であっても、適切な治療介入が予後改善に寄与する可能性を示唆している。
考察/結論
本研究は、完全切除後に再発したNSCLC患者における再発後死亡リスクを層別化する実践的なリスクスコアモデルを初めて開発した。このモデルは、再発時ECOG-PS、再発時症状、肝再発、初回病期IIB以上、および多発再発の5因子で構成されており、すべての変数が日常臨床で容易に把握可能である点が重要な特徴である。モデルのc統計量0.70は、同種の予後モデルとして良好な識別能を示しており、従来の主観的な臨床評価に対して客観的な数値的付加情報を提供できる。
先行研究との違い: 従来の研究、例えば同一コホートを用いた Sugimura et al. (2005) の先行研究は予後因子の記述的同定に留まっていたのに対し、本研究はこれらの因子を統合し、リスクスコアによる患者層別化という実践的価値を追加した点で独自性がある。これにより、個々の患者の再発後死亡リスクを具体的に数値化し、治療方針決定の補助ツールとして活用できるようになった。
新規性: 肝再発が独立した予後不良因子として最終モデルに選択されたことは、本研究で初めて明確に示された重要な知見である。脳、肺、骨、副腎、縦隔など主要な再発部位を網羅した同時解析において、肝転移のみが他の部位と独立して最終モデルに残った点は、肝転移が全身病態や腫瘍侵攻性の指標として特別な意味を持つことを示唆している。その後の緩和ケア領域の複数の研究でも肝転移が予後の最も重要な規定因子の一つとして報告されており、この知見は普遍性を有している可能性がある。
臨床応用: 本リスクスコアは、再発後の治療方針決定(積極的治療 vs 緩和ケアへの移行)の補助ツールとして臨床応用が可能である。また、臨床試験における患者登録や層別化の枠組みとしても有用である可能性がある。全リスク群において治療介入が再発後生存の改善と関連したという示唆は、高齢やPS不良の高リスク患者においても積極的治療を検討すべき根拠となりうる。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、追跡情報が得られなかった患者(21%)のバイアスの可能性が挙げられる。これらの患者が解析対象患者と異なる再発パターンや再発後生存を有していた場合、結果に影響を与える可能性がある。第二に、再発スクリーニングの非均一性である。追跡訪問が様々な施設で異なる方法とタイミングで行われたため、観察研究の限界として均一な臨床的サーベイランスが実施されなかった点が挙げられる。第三に、提案された予後モデルの外部検証が実施されていない点である。c統計量はモデル開発コホートでは過大評価される傾向があるため、他の患者集団での検証が今後の課題である。最後に、本研究のコホートは主にコーカシア人患者で構成されており、人種的多様性に限界があるため、他の民族集団での結果の妥当性を検証する必要がある。将来の研究では、分子マーカー、ゲノムプロファイル、免疫療法感受性情報などを加えることで予測精度がさらに向上すると考えられる。
方法
本研究は、Mayo Clinicの肺癌研究プログラムに登録された前向きコホートデータを用いた後向きコホート研究 (retrospective cohort study) である。1997年1月1日から2001年12月31日までに完全切除術を受けたNSCLC患者1,361例を対象とし、2003年末までに再発の有無が確実に確認できた1,073例を再発追跡対象とした。このうち、再発が確認された445例から、再発日、解剖学的部位、および再発後治療に関する情報が完備していた390例 (88%) を最終解析に組み入れた。情報不足により除外された55例と解析対象の390例を比較した結果、初回肺癌診断時の年齢、居住地、喫煙状況、病期は同等であったが、男性の割合は除外群でやや高かった (78% vs 58%)。
評価変数としては、初回肺癌の特性(病期、ECOGパフォーマンスステータス (PS)、症状、組織型、腫瘍の分化度)と、再発時の特性(無病期間、再発時のECOG-PS、再発時の症状、再発数、再発部位)、および再発後治療の3つの主要カテゴリを網羅した。主要エンドポイント (primary endpoint) は再発後生存期間 (PRS) と定義され、再発診断日から死亡日または最終生存確認日までの期間を日数で測定した。生存確認日時点で生存している患者は打ち切りとした。
統計解析にはCox比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards regression models) を用いた。まず、各変数のPRSとの関連を単変量解析で評価した。その後、すべての候補変数を考慮し、前進ステップワイズ選択法 (p<0.05) を用いて多変量Coxモデルを構築した。再発後治療はすべてのCoxモデルにおいて調整変数として組み込まれた。
リスクスコアの算出方法は以下の通りである。最終多変量モデルで得られた回帰係数に基づき、モデル内で最も小さい回帰係数を持つ変数に1.0点のリスクスコアを割り当てた。他の変数には、その回帰係数を最小係数で除した相対比を算出し、小数点以下第1位に丸めて点数を配分した。各患者の合計リスクスコアは、これら5つの因子の点数を合計することで算出した。この合計リスクスコアを用いて患者を4つのリスク群に層別化し、Kaplan-Meier曲線 (Kaplan-Meier survival curves) を用いて各群の生存曲線を比較した。モデルの識別能はc統計量で定量的に評価した。c統計量は0.5(識別能なし)から1.0(完全な識別能)の範囲で示される。
対象患者390例の再発部位の内訳は、局所のみ再発が79例 (20%)、遠隔のみ再発が249例 (64%)、局所と遠隔の同時再発が62例 (16%) であった。初回切除から再発診断までの期間中央値は11.5ヶ月 (25th〜75thパーセンタイル: 6.0〜20.7ヶ月) であった。再発時年齢中央値は69歳であった。