• 著者: Hung JJ, Hsu WH, Hsieh CC, Huang BS, Huang MH, Liu JS, Wu YC
  • Corresponding author: Yu-Chung Wu (Division of Thoracic Surgery, Taipei Veterans General Hospital, Taipei, Taiwan)
  • 雑誌: Thorax
  • 発行年: 2009
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19252018

背景

肺癌は世界的に癌死の主要な原因であり、非小細胞肺癌 (NSCLC) の早期病期においては外科的切除が標準治療である。Stage I NSCLC患者の切除後の5年生存率は55%から80%と報告されており、比較的良好な予後を示すが、完全切除後も27%から38%の患者で再発が認められることが複数の研究で報告されている NSCLCMetaAnalyses et al. BMJ 1995。特に、同側胸腔内や縦隔を含む局所・区域再発は、Stage I NSCLC術後再発の7%から15%を占めるとされる。これらの局所再発の一部では、外科的再切除による根治が期待できる場合がある。

再発後の治療戦略としては、化学療法、放射線療法、またはこれらの併用療法が一般的に用いられるが、外科的再切除が適用されるのは限られた患者である。これまでの研究では、Stage I NSCLCの局所再発後の再発後生存 (post-recurrence survival) およびその予後因子については十分に検討されておらず、再治療戦略(外科切除、化学療法、放射線療法)の効果を比較したデータは不足していた。例えば、Sugimura et al. AnnThoracSurg 2007 は再発NSCLC患者の生存について報告しているが、Stage Iの局所再発に特化した詳細な解析は限定的であった。また、Williams et al. AnnThoracSurg 2006 は再発後生存の予測因子を検討しているものの、局所再発に焦点を当てた治療戦略の比較は未解明な点が多かった。

本研究の背景には、Stage I NSCLCの完全切除後に局所再発を来した患者群における再発後の臨床経過と予後予測因子に関する知識ギャップが存在する。特に、再発時の治療選択が再発後生存に与える影響について、詳細な比較データが不足しており、最適な再治療戦略を確立するためのエビデンスが求められていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とし、完全切除されたStage I NSCLC患者における局所再発後の予後因子を特定し、特に再発時の治療介入が再発後生存に与える影響を評価する。

目的

本研究の目的は、病理学的Stage I NSCLCの完全切除後に局所再発を来した患者群を対象に、後方視的コホート研究デザインを用いて、再発後生存の予後予測因子を解析することである。特に、再発後の治療(外科的再切除、化学療法、放射線療法、または無治療)が再発後生存に与える影響を評価し、最適な再治療戦略に関するエビデンスを提示することを目的とする。

結果

コホート概要と再発パターン: 970例のStage I NSCLC完全切除患者のうち、933例 (96.2%) で完全な追跡データが得られた。全体の5年生存率は51.7%、10年生存率は31.8%であった。再発は289例 (31.0%) で認められ、その内訳は遠隔再発のみ166例 (17.8%)、局所再発のみ74例 (7.9%)、局所および遠隔再発49例 (5.3%) であった。局所再発を来した123例の患者における中央値追跡期間は28.9ヶ月 (平均 35.7 ± 26.0ヶ月)、初回再発までの中央値期間は15.2ヶ月 (平均 18.3 ± 13.5ヶ月) であった。局所再発患者全体での1年および2年再発後生存率はそれぞれ48.0%および18.7%と不良であった。局所再発の約78%が術後2年以内に発生した。再発形式の内訳は局所再発のみ74例 (60.2%) と局所+遠隔再発49例 (39.8%) であった (Table 1)。なお、局所再発のみの患者と局所+遠隔再発の患者間での再発後生存に有意差は認められなかった (p=0.664)。

局所再発のみ74例の再発後生存と部位分布: 局所再発のみの74例における中央値追跡期間は28.3ヶ月 (平均 36.1 ± 28.8ヶ月) であった。これらの患者の1年および2年再発後生存率はそれぞれ48.7%および17.6%であった (Figure 1)。最長再発後生存は15.8年であり、これは切除断端再発後に外科的再切除を受けた患者で認められた。初回局所再発部位の内訳は、縦隔再発なしが38例 (51.4%)、切除断端または肺実質への再発が34例 (45.9%)、縦隔再発ありが18例 (24.3%) であった (Table 2)。切除断端や肺実質への再発は、外科的再介入の主要な候補となる部位である。

再発後治療の実施状況と外科的再切除の転帰: 局所再発のみの74例中、初回再発時の治療に関する詳細なデータが利用可能であったのは41例であった。治療の内訳は、外科的再切除を受けた患者が8例、化学療法および/または放射線療法を受けた患者が26例、無治療の患者が7例であった。無治療の患者のうち8例はパフォーマンスステータスが不良であったため治療を受けなかった。外科的再切除を受けた10例(局所再発のみ8例、局所+遠隔再発2例)の患者における5年再発後生存率は15%であった。再切除を受けた患者のうち2例で術後死亡が発生しており、いずれも完全肺切除術後の合併症によるものであった。これらの死亡は、再切除の適応を慎重に検討する必要性を示唆する。

単変量解析による予後因子: 局所再発のみの74例を対象とした単変量解析では、腫瘍径 (p=0.033) と初回再発時の治療 (p<0.001) が再発後生存に有意な影響を与える予後因子であることが示された (Table 3)。腫瘍径が1cm増加するごとに死亡ハザードは1.132倍 (95% CI 1.010-1.267) に増加した。初回再発時の治療に関しては、無治療群と比較して、外科的再切除群のハザード比 (HR) は0.118 (95% CI 0.035-0.400) であり、化学療法および/または放射線療法群のHRは0.319 (95% CI 0.134-0.763) であった。その他の因子(年齢、性別、喫煙指数、腫瘍の左右、組織型、肺切除範囲、T病期、臓側胸膜浸潤、郭清リンパ節数、無病期間、縦隔再発の有無)は有意な予後因子ではなかった。

多変量解析による独立予後因子: 初回再発時の治療に関するデータが利用可能な41例を対象とした多変量解析では、初回再発時の治療のみが唯一の有意な独立予後因子であることが示された (p=0.001) (Table 4)。外科的再切除群のHRは0.089 (95% CI 0.024-0.333) であり、無治療群と比較して死亡ハザードが約91%低下した。これは、化学療法および/または放射線療法群のHR 0.326 (95% CI 0.131-0.813) と比較しても顕著に良好な結果であった。単変量解析で有意であった腫瘍径は、多変量解析では独立した予後因子とはならなかった。これらの結果は、再切除可能な局所再発に対する外科的介入が、患者の生存期間を大幅に延長する可能性を示唆している。

考察/結論

本研究の最も重要な知見は、Stage I NSCLC完全切除後の局所再発において、初回再発時の治療、特に外科的再切除の実施が唯一の有意な独立予後因子であることを示した点である。外科的再切除群は無治療群と比較してHR 0.089 (95% CI 0.024-0.333) と、死亡ハザードが約91%低下するという極めて良好な結果を示した。これは、化学療法および/または放射線療法群のHR 0.326 (95% CI 0.131-0.813) をはるかに上回る効果であり、選択された患者における外科的再介入の強力な有効性を示唆する。この結果には、パフォーマンスステータスが良好で切除可能な症例が手術を受けるという選択バイアスが一部含まれる可能性は否定できないが、切除断端再発など限局した局所再発では積極的な外科的再介入が生存延長に大きく寄与することを支持するものである。

先行研究との違い: これまでの研究、例えばSugimura et al. AnnThoracSurg 2007やWalsh et al. (1995) の報告と同様に、治療意図(根治的 vs 緩和的)が再発後生存を規定する主要因子と位置づけられる。しかし、本研究はStage I NSCLCの局所再発に特化し、再発時の治療選択が生存に与える影響を詳細に比較した点で、これまで報告された研究とは異なる知見を提供している。

新規性: 本研究で初めて、局所再発のみの患者と局所+遠隔再発の患者の間で再発後生存に有意差がなかったという点が示された。これは、局所再発そのものが癌細胞の広範な播種の主要因ではなく、むしろ腫瘍の生物学的悪性度や予後不良の指標である可能性を示唆する新規な発見である。また、外科的再切除が他の治療法と比較して統計学的に有意な生存利益をもたらすことを明確に示した点も新規性がある。

臨床応用: 本知見は、パフォーマンスステータスが良好で、切除可能な局所再発(特に切除断端や同側肺実質への再発)を来したStage I NSCLC患者においては、外科的再切除を積極的に検討することが推奨されるという臨床的意義を持つ。しかし、本研究で2例の術後死亡が報告されたように、完全肺切除後の呼吸不全など術後合併症のリスクを十分に考慮した患者選択が極めて重要である。したがって、厳格な適応基準に基づき、多職種チームによる慎重な意思決定が臨床現場では求められる。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究は単施設の後方視的解析であり、1980年から2000年という長期にわたるデータ収集期間中に、手術手技、術後管理、診断技術が変化している可能性があるというlimitationがある。また、本研究のデータは補助療法や分子標的療法が確立される以前の時代のものであるため、現在の治療環境における再発後治療戦略を評価するためには、より新しいデータを用いた前向き研究や多施設共同研究が必要である。再発部位や再発までの期間、初回治療の詳細な内容などを考慮した、より層別化された解析が今後の研究方向性として挙げられる。

方法

本研究は、1980年1月から2000年12月の期間に台北栄民総医院で病理学的Stage I NSCLCの完全切除を受けた970例の患者を対象とした後方視的コホート研究である。本研究は、台北栄民総医院の倫理委員会によって承認された。術前には胸部および上腹部CTスキャン、核医学検査(骨シンチグラフィー、脳MRI)、気管支鏡検査が実施された。縦隔リンパ節腫大(直径1.0 cm超)がCTで認められた場合にのみ縦隔鏡検査が行われた。遠隔転移が疑われる患者は除外された。全患者は、以前に報告された方法に従い、縦隔リンパ節郭清を伴う肺癌の完全切除を受けた。切除された検体および郭清された全リンパ節は病理学的病期診断のために検査された。組織型は世界保健機関 (WHO) の分類に基づき、病期は国際対癌連合 (UICC) のTNM分類第5版に基づき決定された。初回手術後に補助療法を受けた患者はいなかった。

患者は術後2年間は3ヶ月ごと、その後は6ヶ月ごとに外来で追跡された。970例中、933例 (96.2%) で完全な追跡データが得られた。このうち、外科的切除後に局所再発を来した患者は123例 (13.2%) であった。局所再発は、同側胸腔内および縦隔を含む連続する解剖学的部位での腫瘍再発と定義された。遠隔再発は、対側肺または胸腔・縦隔外での腫瘍再発と定義された。再発後生存期間は、初回再発が確認された日から死亡日または最終追跡調査日までの期間(月単位)と定義された。

解析対象は、局所再発のみを来した74例 (60.2%) と、局所再発と遠隔再発を併発した49例 (39.8%) に分類された。再発後生存の予後因子を評価するため、局所再発のみの74例を対象に、年齢、性別、喫煙指数、腫瘍の左右、組織型、腫瘍径、肺切除範囲、T病期、臓側胸膜浸潤、郭清リンパ節数、無病期間、縦隔再発の有無、初回再発時の治療(無治療、外科的再切除、化学療法および/または放射線療法)などの臨床病理学的因子が単変量および多変量解析に用いられた。

再発後生存率はKaplan-Meier法を用いて算出された。単変量および多変量解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ、SPSSソフトウェア (V.12.0) を使用した。多変量解析では後方段階的変数選択法が適用された。初回再発時の治療に関する詳細なデータは、局所再発のみの74例中41例でのみ利用可能であったため、これらの41例のみが多変量解析の対象となった。統計的有意水準はp値が0.05未満とされた。