- 著者: Christopoulos P, Engel-Riedel W, Grohe C, Kropf-Sanchen C, von Pawel J, Gutz S, Kollmeier J, Eberhardt W, Ukena D, Baum V, Nimmrich I, Sieder C, Schnabel PA, Serke M, Thomas M
- Corresponding author: Prof. Michael Thomas (Department of Thoracic Oncology, Thoraxklinik at Heidelberg University Hospital, Heidelberg, Germany)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-06-01
- Article種別: Original Article (前向き多施設単群第II相試験)
- PMID: 28535181
背景
肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) は1991年にTravisらによって初めて記述された希少な高悪性度肺癌であり (全肺癌の2-3%)、神経内分泌形態と高い有糸分裂指数・広範な壊死を特徴とする。組織学的にはSCLC (小細胞肺癌) との生物学的近縁性が示唆される一方でNSCLC (非小細胞肺癌) とも異なる独立した病態を呈し、WHO分類ではシナプトフィジン・クロモグラニンA・CD56のうち少なくとも1種の陽性と神経内分泌形態の両方を確認することが診断要件とされる。
治療の観点では、希少性ゆえに大規模無作為化試験のデータが手薄であり、最適な治療レジメンを定義するエビデンスに大きな gap in knowledge が存在した。プラチナ系化学療法が主に用いられてきたが、フランス多施設前向き第II相試験 (GFPC 0302試験) ではシスプラチン-エトポシド療法のDCR (病勢制御率) 50%が目標とされ (LeTreut et al. AnnOncol 2013)、イリノテカン-シスプラチン療法の多施設第II相試験も実施されたが (Niho et al. JThoracOncol 2013)、中央値OS 8-12か月と予後は依然として不良であり、人口ベース解析でも化学療法後の中央値OSは7.7か月に留まることが示されていた (Derks et al. EurRespirJ 2016)。また、EGFRやALKなど現在actionableな遺伝子変異はLCNECでは希少であるため、プラチナ系化学療法の枠を超えた新規治療戦略が不足していた。
一方、mTOR (哺乳類ラパマイシン標的タンパク質) 経路はLCNECを含む肺神経内分泌腫瘍で過剰活性化されており、エベロリムスは膵・消化管・肺の高分化神経内分泌腫瘍に対してすでに承認を受けている。さらに次世代シークエンシングにより (Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016)、LCNECがSCLCライクとNSCLCライクのゲノムサブタイプに分類可能であることが示され、治療感受性の分子的背景が明らかにされつつあった。エベロリムスの抗増殖作用と免疫調節作用 (CD8+T細胞性抗腫瘍免疫の増強を含む) の両面的な活性、ならびに以前の第I相試験でのカルボプラチン+パクリタキセルとの組み合わせの忍容性確認が、本試験の科学的根拠を提供した。
目的
化学療法未施行のStage IV LCNEC患者を対象として、エベロリムス+パクリタキセル+カルボプラチン一次治療の有効性と安全性を前向き多施設デザインで評価すること。主要エンドポイントは治療開始3か月時点のPFS (無増悪生存) 率とした。
結果
登録患者の特性:2011年4月〜2015年3月にドイツ10施設で49例が登録された (Table 1)。平均年齢62±9歳 (範囲44-78歳)、男性71% (n=35)、全例コーカサス人種。喫煙歴あり98% (現喫煙者45%、元喫煙者53%、非喫煙者2%)。WHO PS 0が45% (n=22)、PS 1が55% (n=27)。主要転移部位は骨31% (n=15)、肝臓27% (n=13)、副腎22% (n=11)。転移部位数は1か所35% (n=17)、2か所41% (n=20)、3か所14% (n=7)、4か所以上10% (n=5)。ベースラインNSE値は25例で測定可能であり、平均69 (範囲11-569) U/L。4例は前治療歴あり (全脳照射1例・不完全切除後放射線療法1例・プラチナ-ビノレルビン胸部化学放射線療法後進行2例で、後者2例はプロトコル逸脱)。治療曝露はカルボプラチン-パクリタキセルの中央値サイクル数4 (範囲1-4)、エベロリムス平均投与期間106±75日、平均日用量4.7±0.6mg。15例 (30%) で用量調整または投与遅延を要した。
主要エンドポイントの達成:中央放射線委員会評価による3か月時点のPFS率はKaplan-Meier法で76% (95% CI 64-88%) であった (Figure 1A)。事前設定の有効閾値67.5%以上 (中央値PFS 5.3か月相当) との正式な比較は早期終了により実施できなかったものの、Kaplan-Meier推定値は閾値を上回るものであった。投与中断例を非増悪例の分母に含めた解析では49% (95% CI 34-64%) であった。6か月PFS率は36%、OS率は3か月94%・6か月67%・1年34%であった (Figure 1B)。
奏効率と病勢制御率:中央放射線委員会評価で最良奏効はPR (部分奏効) 45% (n=22)、SD (病勢安定) 29% (n=14) であり、DCRは74% (95% CI 59-85%)。完全奏効例はなかった。7例は早期のインフォームドコンセント取り下げ (n=4) または早期死亡 (n=3) のため評価不能であった (Table 2)。本試験のORR 45% vs 既報LCNEC試験の40-50%前後、DCR 74% vs GFPC 0302試験 (シスプラチン-エトポシド療法) の目標値50%という比較で、本試験が数値的に同等またはそれ以上の有効性を達成した。
無増悪生存と全生存:中央値PFSは132日 (4.4か月、95% CI 3.2-6.0か月)、中央値OSは298日 (9.9か月、95% CI 6.9-11.7か月) であった (Figure 1)。オランダ癌登録 (Derks 2016) の化学療法施行例中央値OS 7.7か月 vs 本試験9.9か月、Stage IV LCNEC全体中央値OS 4.0か月 vs 本試験9.9か月という比較において、本試験が数値的に良好な生存成績を示した。中央値追跡期間は増悪評価で91日、生存評価で249日であった。
NSEバイオマーカー解析:ベースラインNSE値は25例で測定可能 (平均69 U/L、範囲11-569 U/L) であったが、臨床アウトカムとの有意な相関は認められなかった。一方、治療中のNSE最低値 (minimal induced NSE) は35例で測定可能 (平均19 U/L、範囲6-91 U/L) であり、高値であることは短いPFS (Cox回帰、P=0.0114) および短いOS (P=0.0003) と有意に関連していた。この知見はSCLCにおけるNSEの独立予後因子としての報告と一致し、Stage IVのLCNECでは初期腫瘍量よりも治療に対する生物学的反応が予後を主に規定することを示唆する。
安全性プロファイル:全体として86% (n=42) に何らかの有害事象が認められ、Grade 3/4の毒性は51% (n=25) で発生した (Table 2)。主な全Grade有害事象は疲労/全身状態低下22% (Grade 3/4: 8%)・下痢22% (Grade 3/4: 4%)・貧血20% (Grade 3/4: 6%)・好中球減少18% (Grade 3/4: 16%)・脱毛18%・血小板減少16% (Grade 3/4: 2%)・感染症/発熱16% (Grade 3/4: 10%)・悪心16% (Grade 3/4: 2%)・口内炎/粘膜炎14% (Grade 3/4なし)・多発性神経障害12% (Grade 3/4: 2%)・発疹12% (Grade 3/4なし)・眼症状12% (Grade 3/4なし)。重篤な口内炎は1例も認められなかった。エベロリムス特有の有害事象 (口内炎・発疹・眼症状) は少数例 (<15%) にのみ発現し、全てGrade 1-2に限定された。治療中断または減量は15例 (30%) で生じ、主な原因は骨髄抑制・感染症・呼吸器症状・全身状態低下であった。
考察/結論
本試験はLCNECという希少疾患に対してmTOR阻害薬と化学療法の組み合わせを評価した初の前向き多施設試験の一つであり、主要エンドポイントである3か月PFS率76%を達成した。中央値OS 9.9か月は既存のLCNECコホートと比較して遜色ない、あるいは良好な成績であることが示された。
既存研究との相違点:ORR 45%・DCR 74%・中央値PFS 4.4か月・中央値OS 9.9か月は、シスプラチン-エトポシド療法のGFPC 0302試験 (ORR 40%前後、中央値OS 7.7か月) やイリノテカン-シスプラチン療法の多施設第II相試験と対照的に、エベロリムスの追加による明確なORRやPFSの改善シグナルを検出するには至らなかった。これまでの研究では化学療法単独の歴史的データのみで比較対照が存在せず、本試験においても無作為化対照群を置かなかった点が解釈を制約する。既報との比較では、オランダ人口ベース解析で化学療法後の中央値OS 7.7か月が示されており (Derks 2016)、本試験の9.9か月は数値的に良好だが直接比較は困難である。
新規性:本研究で初めてLCNECに対するエベロリムス+化学療法という組み合わせを前向き多施設単群デザインで評価した。最大の新規知見として、ベースラインNSEではなく治療中NSE最低値が独立予後因子になることを前向きコホートで初めて実証した。この発見は、LCNECという Stage IV 疾患群において神経内分泌マーカーの治療誘導性変化が腫瘍の治療応答性の代替マーカーとして機能しうることを示唆している。さらに、10施設の病理医を対象とした3回の対面トレーニングセッションにより病理診断精度を標準化した点も、希少腫瘍を対象とした多施設試験における診断均質性確保の先進的手法として評価できる。
臨床的意義:エベロリムス特有の毒性 (口内炎・発疹・眼症状) が15%未満かつGrade 1-2に限定されており、化学療法にmTOR阻害薬を追加することの臨床的有用性として安全性プロファイルの許容範囲が確認された。NSEモニタリングは治療応答の早期生物学的評価に有用であり、臨床現場でのルーチン検査としての活用可能性がある。臨床応用に向けては、LCNECのゲノムサブタイプ (SCLCライク対NSCLCライク) 別の治療感受性差異を踏まえた患者選択が今後の鍵となる。臨床的含意として、本試験は将来の分子マーカー選択型LCNEC試験の基盤となるパイロットデータを提供している。
残された課題:今後の検討課題として、PI3K/AKT/mTOR経路の変異状態がエベロリムス恩恵の予測バイオマーカーになりうるかが重要である (乳癌のTAMRAD試験 (tamoxifen and everolimus breast cancer phase II trial)・BOLERO試験 (Breast cancer trials Of oral Everolimus)、腎癌での既報) 。またLCNECのゲノムサブタイプ (RB1/TP53変異に基づくSCLCライク対NSCLCライク) による化学療法感受性の差異、免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせの可能性、NSE最低値の独立予後因子としての前向き検証も今後の重要な研究課題である。本試験の主な限界点は、早期終了による小サンプルサイズ (計画71例に対し49例)、無作為化対照群の欠如、および登録時の分子サブタイピング未実施である。更なる検討を要する課題として、エベロリムスの免疫調節効果と化学療法感受性との関係性の解析も重要な研究の方向性として残されている。
方法
NCT01317615 (EudraCT 2010-022273-34)、ドイツ10施設による前向き多施設単群第II相試験。2011年4月〜2015年3月に組織学的に確認されたStage IV LCNEC (WHO PS 0-1) の化学療法未施行成人患者を対象とした。LCNEC診断基準は2015年WHO分類に準拠し、オルガノイド配列・柵状配列・ロゼット構造等の神経内分泌形態と、シナプトフィジン/クロモグラニンA/CD56のうち少なくとも1種の陽性、および増殖能 (有糸分裂像>11/10HPF、Ki67>50%があれば加える) の確認を必須とした。主な除外基準は明確なSCLC形態の存在、ステロイド投与 (メチルプレドニゾロン換算≥10mg/日)、症候性または治療未施行の脳転移 (登録前3か月以内)、過去3年以内の他悪性腫瘍、肺癌に対する前化学療法歴。参加10施設の病理医間の診断均一性を担保するため3回の対面トレーニングセッションを実施した。
治療レジメン: エベロリムス5mg/日 (連日経口投与) +パクリタキセル175mg/m² (3時間静注) +カルボプラチンAUC (area under the curve) 5 (30-60分静注) を3週毎に最大4サイクル投与。4サイクル後に少なくとも病勢安定が得られた患者は、病勢進行または許容不能な毒性が生じるまでエベロリムス5mg/日の維持療法を継続した。骨髄抑制時 (好中球<1500/μl、血小板<100,000/μl) は化学療法を延期。忍容性問題に対しパクリタキセル135mg/m²・カルボプラチンAUC4への減量、エベロリムスの隔日投与または最大21日間の休薬が許容された。
主要エンドポイントは3か月時点のPFS率。副次エンドポイントはPFS率 (6か月時点)、ORR (全奏効率、完全奏効+部分奏効)、DCR (病勢制御率)、PFS中央値、OS中央値。腫瘍評価はRECIST v1.1 基準に基づき中央放射線委員会が6週毎に実施。有害事象はCTCAE (有害事象共通用語基準) v4.0に従って記録。統計解析: time-to-eventデータはKaplan-Meier法で解析。比率の95%信頼区間はClopper-Pearson法で算出。NSE (神経特異的エノラーゼ) レベルと生存の相関はCox回帰モデルで検定した。試験は計画71例に対し低登録速度により2014年11月に早期終了となり、ITT (intention-to-treat) 全集団49例をカットオフ日2015年5月の単回解析の対象とした。