- 著者: Petros Christopoulos, Marc A. Schneider, Farastuk Bozorgmehr, Jonas Kuon, Walburga Engel-Riedel, Jens Kollmeier, Volker Baum, Thomas Muley, Philipp A. Schnabel, Helge Bischoff, Christian Grohé, Monika Serke, Michael Thomas, Paul Fisch, Michael Meister
- Corresponding author: Petros Christopoulos (Department of Thoracic Oncology, Thoraxklinik at Heidelberg University Hospital, Germany)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-03-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 29656752
背景
肺LCNEC (large cell neuroendocrine lung carcinoma: 肺大細胞神経内分泌癌) は、全肺癌の2%から3%を占めるに過ぎない極めて稀少かつ予後不良な悪性腫瘍である。この疾患は1991年に Travis et al. (1991) によって提唱されたが、現在でも治療オプションが非常に限られている。非小細胞肺癌 (NSCLC) で頻見されるEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などの現行のアクショナブルな遺伝子変異は、LCNECにおいては極めて稀であることが Rekhtman et al. (2016) や Christopoulos et al. (2017) などの先行研究で報告されている。進行期 (Stage IV) LCNEC患者に対する初回治療としては、プラチナ製剤をベースとした化学療法が一般的に施行されるが、多くの臨床試験において生存期間中央値 (mOS) は1年未満にとどまっており、予後の劇的な改善をもたらす新たな治療戦略の確立が強く望まれている。
近年、腫瘍微小環境におけるT細胞をはじめとする免疫細胞の浸潤や活性化状態が、腫瘍の病態生理や治療感受性に決定的な役割を果たすことが明らかになりつつある。例えば、Schalper et al. JNatlCancerInst 2015 などの先行研究において、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の客観的な測定とその臨床的意義が示されている。しかしながら、LCNECにおける末梢血中のT細胞免疫の実態や、それが治療反応性や予後に与える影響については、これまでほとんど解析されておらず、未解明な領域として残されていた。特に、LCNEC患者における全身性の免疫抑制状態や、抗原特異的なT細胞応答の動態に関する詳細なデータは決定的に不足していた。このように、末梢血免疫動態に関する知見が手薄であるため、治療効果を予測するバイオマーカーとしての有用性も不明であった。
T細胞受容体 (TCR: T-cell receptor) β鎖のスペクトラタイピング (TCRβ spectratyping) は、末梢血中のT細胞コンパートメント全体の多様性を低コストかつ簡便に評価できる優れた手法である。T細胞受容体の相補性決定領域3 (CDR3: complementarity-determining region 3) の長さの分布は、抗原刺激を受けていないナイーブな状態では正規分布 (ガウス分布) を示すが、特定の腫瘍抗原などの刺激によって特定のT細胞クローンが選択的に増殖すると、そのCDR3長分布に歪み (skewing) が生じる。この歪みを定量化することで、宿主の免疫応答やクローン増殖の動態を捉えることが可能となる。免疫チェックポイント阻害薬の登場に伴い、LCNECにおける免疫学的特性の理解と、治療効果を予測するバイオマーカーの探索は極めて重要な課題となっている。
目的
本研究の目的は、Stage IVの肺LCNEC患者における末梢血T細胞レパートリーの変化を、TCRβ鎖スペクトラタイピングを用いて網羅的かつ系統的に評価することである。具体的には、以下の3つの学術的問いを検証することを目的とした。第一に、未治療のStage IV LCNEC患者におけるT細胞レパートリーの歪みおよび血球計数上の特徴を、年齢および喫煙歴をマッチさせた対照群 (現喫煙者・元喫煙者、および非喫煙者) と比較し、LCNECが全身性免疫系に及ぼす影響を明らかにすること。第二に、治療開始前のT細胞レパートリーの歪みやリンパ球数が、化学療法およびmTOR (mammalian target of rapamycin) 阻害薬エベロリムス (everolimus) 併用療法に対する治療反応性 (RECIST v1.1に基づく評価) とどのように関連しているかを検証すること。第三に、治療前および治療中のT細胞レパートリーの動的変化が、患者の生存期間 (OS: overall survival) に与える予後および予測因子としての臨床的有用性を確立することである。
結果
未治療LCNECにおける血球計数異常とリンパ球減少: 解析対象となったStage IV LCNEC患者35例の平均年齢は62±9歳であり、全員に喫煙歴が認められた (現喫煙者49%、平均パックイヤー 44±17)。年齢マッチ喫煙対照群 (n=11、平均年齢65±12歳、パックイヤー 30±20) との間で、年齢や抽出されたRNAの品質 (RNA integrity number: LCNEC群 8.7±0.5 vs 喫煙対照群 8.9±0.3) に有意な差は認められなかった。診断時におけるLCNEC患者の血球計数では、喫煙対照群と比較して有意な白血球プロファイルの変化が観察された。具体的には、LCNEC患者群において有意な好中球増多 (中央値 5.75/nl vs 4.82/nl、p<0.05) および単球増多 (中央値 0.6/nl vs 0.49/nl、p<0.01) が認められ、腫瘍随伴性の全身性炎症反応が示唆された。さらに、LCNEC患者群では顕著なリンパ球減少症も観察された。LCNEC患者の末梢血リンパ球数中央値は1.54/nlであり、喫煙対照群の2.51/nlと比較して有意に低値であった (p<0.01) (Table 1)。軽度リンパ球減少 (<1.500/μl) は、診断時のLCNEC患者の50% (17/34例) に認められたが、喫煙対照群では0% (0/11例) であった。
未治療LCNECにおけるTCRβレパートリーの歪みとT細胞活性化: 治療開始前の未治療LCNEC患者群は、年齢および喫煙歴をマッチさせた喫煙対照群と比較して、末梢血TCRβレパートリーに極めて有意な歪みを示した。平均HDa値は、LCNEC患者群で21.1±0.04%であったのに対し、喫煙対照群では16.6±0.02%であり、統計学的に極めて有意な差が認められた (p<0.001) (Fig. 1)。LCNEC患者の51% (18/35例) において、喫煙対照群の平均値に標準偏差 of the HDa distribution の2倍を加えた閾値 (20%) を超える顕著なTCRレパートリーの歪みが確認された。興味深いことに、未治療LCNEC患者における基準時のHDa値と血中リンパ球数との間には、有意な正の相関が認められた。この相関は、Spearman r=0.49 (cohort n=34 patients、p=0.003) であった (Fig. 2A)。この結果は、リンパ球数が保たれている患者ほど、T細胞レパートリーの歪み (特定のクローンの増殖) が大きいことを示している。さらに、RT-qPCR解析により、細胞傷害性リンパ球の活性化マーカーであるパフォーリン1 (PRF1) およびグランザイムB (GZMB) 、ならびに増殖マーカーであるKi67 (MKI67) の発現量が、LCNEC患者の末梢血において喫煙対照群よりも有意に高発現していることが確認された (p<0.001) (Fig. 3)。
治療反応性および生存期間に対する予測・予後因子としての免疫指標: 治療開始3ヶ月後におけるRECIST v1.1に基づく評価において、部分奏効 (PR: partial remission) を達成した患者 (n=15) は、非達成患者 (n=20) と比較して、治療前の基準時HDa値が有意に高く (22.3% vs 19.3%、p<0.001) (Fig. 2B) 、基準時リンパ球数も有意に高値であった (中央値 1.8/nl vs 1.3/nl、p=0.044) (Fig. 2C)。単独の指標では生存期間との関連は傾向を示すのみであったが、これら2つの免疫学的指標を組み合わせた「基準時HDa × リンパ球数」の積は、極めて強力な予測・予後因子となった。この積の値は、3ヶ月時点での治療反応性 (PR、安定: SD、進行: PD) と有意に相関し (中央値はそれぞれ 0.37/nl、0.28/nl、0.24/nl、Kruskal-Wallis p=0.021、Kendall’s τb=-0.371、p=0.007) (Fig. 2D) 、積が中央値以上の高値群は低値群と比較して生存期間が有意に延長した (mOS 441日 vs 157日、log-rank p=0.019) (Fig. 2E)。
治療によるTCRレパートリーの正規化と予後との独立した関連: 治療開始3ヶ月後において、LCNEC患者の平均HDa値は20.5±0.04%へとわずかに低下する傾向を示したが、基準時と比較して統計学的な有意差には至らなかった (p=0.26) (Table 1)。しかし、個々の症例におけるTCRレパートリーの正規化度 (Δ[HDa] = 3ヶ月時HDa - 基準時HDa) を解析したところ、治療によってT細胞レパートリーの歪みが改善し、正規化が進んだ患者群 (高Δ[HDa]群、n=12) は、正規化端が進まなかった患者群 (低Δ[HDa]群、n=12) と比較して、生存期間が極めて有意に延長することが示された (mOS 617日 vs 316日、log-rank p=0.036) (Fig. 4B)。重要なことに、この生存期間 of the patients は、3ヶ月時点での画像上の放射線学的腫瘍反応 (PR率) とは完全に独立していた (両群ともにPR率は約50%で同等)。なお、治療3ヶ月後のHDa値は基準時のHDa値と極めて強く相関しており、Spearman r=0.68 (cohort n=24 patients、p=0.0003) であった。一方、化学療法に伴う非特異的なリンパ球数の減少 (Δ[Ly]) は、TCRレパートリーの変化や生存期間とは相関せず、Spearman r=0.23 (cohort n=24 patients、p>0.05) であった (Fig. 4A)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、予後不良な稀少肺癌であるStage IV LCNEC患者を対象に、末梢血T細胞免疫の動態を初めて系統的に解析した画期的なパイロット試験である。Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016 などの先行研究では、LCNECのゲノムプロファイルに基づき小細胞癌類似および非小細胞癌類似のサブセットが同定されているが、全身性の宿主免疫状態に着目した報告はこれまで存在しなかった。本研究は、局所の腫瘍遺伝子変異解析にとどまる従来の多くのアプローチと異なり、末梢血という低侵襲な検体を用いて、宿主のT細胞受容体レパートリーの多様性と動的変化が治療反応性や予後と密接に関連していることを実証した。この成果は、局所のみを評価していたこれまでの知見と異なり、全身の免疫動態が腫瘍制御に果たす役割を明らかにした点で極めて対照的である。
新規性: 本研究で初めて、未治療の進行期LCNEC患者において、顕著な末梢血TCRβレパートリーの歪み (HDaの増大) とリンパ球減少症が共存しているという逆説的な免疫異常状態を新規に同定した。さらに、T細胞の活性化・増殖マーカー (PRF1、GZMB、MKI67) の高発現と、HDa値とリンパ球数の正の相関から、このレパートリーの歪みが腫瘍抗原に駆動された特異的なT細胞クローンの増殖を反映していることを本研究で初めて明らかにした。また、治療前の「HDa × リンパ球数」の積が治療反応性および生存期間の強力な予測因子であること、および治療中のTCRレパートリーの正規化度が画像上の奏効とは独立した良好な予後因子であることを本研究で初めて示した。
臨床応用: 本知見は、LCNECにおける免疫モニタリングの臨床応用に直結する極めて重要な臨床的有用性を有している。全血球計算によるリンパ球数の測定と、血液RNAを用いたTCRスペクトラタイピングという簡便かつ再現性の高いアプローチを組み合わせることで、治療開始前に患者の予後 (mOS 441日 vs 157日) を高精度に予測することが可能となる。さらに、治療3ヶ月時点でのTCRレパートリーの正規化動態を評価することは、従来のRECISTガイドラインによる画像評価では捉えきれない、腫瘍と宿主免疫系との相互作用を反映した真の治療効果判定ツールとして、臨床現場における意思決定を支援する有用なバイオマーカーとなり得る。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究がエベロリムスと化学療法の併用療法を検証した単アームのCRAD001KDE37試験 (Christopoulos et al. AnnOncol 2017) の付随研究であるため、エベロリムス特有の免疫修飾作用が結果に与えた影響を完全には排除できないという limitation が残されている。症例数が35例と小規模であることも制限因子であり、今後は免疫チェックポイント阻害薬単剤または併用療法を施行された独立したLCNECコホートにおいて、このTCRレパートリー指標の予測能や予後予測における普遍性を検証することが今後の重要な研究方向性である。
方法
本研究は、多施設共同第II相臨床試験であるCRAD001KDE37試験 (NCT01317615) に登録されたStage IV LCNEC患者を対象とした後ろ向き横断・縦断的解析である。この臨床試験では、未治療の進行期LCNEC患者に対し、エベロリムス (5 mg/日、連日投与) とカルボプラチンおよびパクリタキセル (3週ごと、最大4サイクル) の併用療法が一次治療として投与された。本解析には、診断時 (治療開始前) にPAXgene (PAXgene Blood RNA Tube) 血液RNA検体が入手可能であった35例の患者が組み入れられた。さらに、治療開始3ヶ月後の時点で同様に血液検体が得られた24例についても縦断的な解析を行った。対照群として、年齢をマッチさせた現喫煙者および元喫煙者 (n=11) 、ならびに生涯非喫煙者 (n=10) の健康対照者から得られた血液検体を用いた。
末梢血RNA (500 ng) からcDNAを合成し、24種類のTCR Vβ (variable region of the T-cell receptor beta-chain) ファミリー特異的なプライマーを用いて40サイクルのPCR増幅を行った。PCR産物はFAM (6-carboxyfluorescein) で蛍光標識し、キャピラリー電気泳動装置 (3100-Avant Genetic Analyzer) を用いてCDR3長分布を解析した。T細胞レパートリーの歪みの定量化には、非喫煙者群の平均プロファイルを基準としたHamming距離 (HD: Hamming distance) を用い、24ファミリーの平均値 (HDa: average Hamming distance) を算出した。
また、全血球計算によりリンパ球数、好中球数、単球数などを測定した。さらに、細胞傷害性リンパ球の活性化マーカーであるパフォーリン1 (PRF1) 、グランザイムB (GZMB) 、および細胞増殖マーカーであるKi67 (MKI67) の発現量を、RT-qPCR (reverse transcription quantitative PCR) 法を用いて定量した。統計解析には、線形混合モデル、Mann-Whitney検定、Wilcoxon符号付き順位検定、Spearman相関係数、およびKaplan-Meier法による生存曲線とlog-rank検定を用いた。治療反応性の評価は Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づくRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1に準拠して実施された。