• 著者: Alice T. Shaw, Anna M. Varghese, Benjamin J. Solomon, Daniel B. Costa, Silvia Novello, Mari Mino-Kenudson, Mark M. Awad, Jeffrey A. Engelman, Gregory J. Riely, Valentina Monica, Beow Y. Yeap, Giorgio V. Scagliotti
  • Corresponding author: Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2012-08-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22887466

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) の約3-5%に認められる未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 遺伝子再構成は、近年、分子標的治療の重要なターゲットとして認識されている Soda et al. Nature 2007。ALK再構成陽性NSCLCは、ALKチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) であるクリゾチニブに対し著明な感受性を示し、早期の第I相試験では客観的奏効率 (ORR) 56%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値10ヶ月という優れた成績が報告された Kwak et al. NEnglJMed 2010。この有効性と安全性に基づき、クリゾチニブは進行ALK陽性NSCLCの標準治療として確立されつつある。

しかし、ALK陽性NSCLC患者の多くは疾患経過中に標準化学療法を受ける機会があるため、この遺伝子型に定義された患者集団における化学療法剤の有効性を確立することは、臨床的に極めて重要である。これまでの研究では、ALK陽性患者はプラチナ併用化学療法に対し、ALK陰性・上皮成長因子受容体 (EGFR) 野生型患者と同程度の奏効を示すことが示されている (ORR 25-35%)。一方で、EGFR TKI治療に対する奏効は不良であり、ORR 0%、PFS中央値1.4-1.6ヶ月と報告されている。

近年、2つの小規模な後方視的解析研究が、ALK陽性NSCLC患者がペメトレキセド含有化学療法に対し特に感受性が高い可能性を示唆した。ある研究では、19例のALK陽性患者が様々なペメトレキセド含有レジメンを一次から四次治療として受けた結果、PFS中央値が9ヶ月であり、37例のALK/EGFR/KRAS陰性患者のPFSを5ヶ月上回ったと報告された (Camidge et al. J Thorac Oncol 2011)。また別の研究では、15例のALK陽性患者が二次治療以降に単剤ペメトレキセドを受けた場合、病勢進行までの期間 (TTP) 中央値が9.2ヶ月であったのに対し、37例のALK陰性・EGFR野生型対照群ではわずか2.9ヶ月であったと報告された (Lee et al. J Thorac Oncol 2011)。これらの知見は、ALK再構成がペメトレキセド感受性の予測バイオマーカーとして機能する可能性を示唆し、ペメトレキセドベースの化学療法の有効性がクリゾチニブの臨床試験で観察されたものと同程度である可能性を提起した。

しかし、これらの先行研究はサンプルサイズが非常に小さく、治療レジメンや治療ラインの多様性も存在したため、結果の一般化には限界があった。特に、ALK陽性NSCLC患者のPFSがペメトレキセドベースの化学療法で著しく延長するという仮説は、より大規模な患者コホートでの検証が不足しており、その真の臨床的意義は未解明であった。また、ALK陽性NSCLC患者の臨床病理学的特徴として、若年発症、非喫煙歴、腺癌組織型が挙げられるが、これらの交絡因子がペメトレキセド感受性に与える影響についても十分な検討がなされていなかった。したがって、大規模な患者集団を用いて、ALK再構成がペメトレキセド感受性の真の予測因子であるかを検証し、先行研究で示唆された知見を確固たるものとする必要があった。

目的

本研究の目的は、大規模な多施設後方視的解析を通じて、進行ALK陽性NSCLC患者におけるペメトレキセド含有化学療法の無増悪生存期間 (PFS) を評価することである。さらに、ALK陽性患者のPFSを、ALK陰性かつEGFR野生型の対照患者群(KRAS変異型およびKRAS野生型を含む)と比較し、ALK再構成がペメトレキセド感受性の予測バイオマーカーとして機能するかどうかを検証する。特に、治療ラインや併用薬の違いによるPFSへの影響、および喫煙歴などの臨床病理学的特徴がペメトレキセド感受性に与える交絡効果を詳細に解析することを目的とする。また、ペメトレキセドの標的酵素であるチミジル酸シンターゼ (TS) の発現レベルとPFSとの関連を探索的に評価し、ALK陽性NSCLCにおけるペメトレキセド感受性の分子基盤を解明することも目指す。本研究は、進行ALK陽性NSCLC患者におけるペメトレキセドベース化学療法の臨床的有用性をより明確に位置づけることを最終目標とする。

結果

ALK陽性患者におけるペメトレキセドベース化学療法のPFSアウトカム: 進行NSCLCに対しペメトレキセドベース化学療法を受けたALK陽性患者121例を特定した。このうち70例がプラチナ/ペメトレキセド併用レジメンを受け、多くは一次治療としてであった。この群のPFS中央値 (mPFS) は7.3ヶ月 (95% CI 5.5-9.5) であった (Figure 1A)。シスプラチンとカルボプラチンを併用した患者間でのPFSに統計的有意差は認められなかった (mPFS 5.9ヶ月 vs 8.6ヶ月, P=0.361)。ベバシズマブ併用または維持療法を受けた患者ではPFSの改善傾向がみられたが、統計的有意差はなかった (mPFS 9.5ヶ月 vs 5.5ヶ月, P=0.087)。一次治療としてプラチナ/ペメトレキセド併用療法を受けたALK陽性患者56例のサブグループでは、mPFSは8.5ヶ月 (95% CI 5.9-10.9) であった (Figure 1B)。

単剤ペメトレキセドまたは非プラチナ/ペメトレキセド併用療法におけるPFS: 単剤ペメトレキセドまたは非プラチナ/ペメトレキセド併用療法を受けたALK陽性患者51例のmPFSは5.5ヶ月 (95% CI 2.8-9.0) であった (Figure 1C)。二次または三次治療として単剤ペメトレキセドを受けた31例のサブグループでは、mPFSは4.4ヶ月 (95% CI 2.1-9.0) であった (Figure 1D)。これらの結果は、先行研究で示唆された単剤ペメトレキセドまたは非プラチナ/ペメトレキセド併用療法におけるALK陽性NSCLCの著しいPFS延長効果を再現するものではなかった。

ALK陽性患者とALK陰性患者におけるPFSの比較: ALK陰性・EGFR野生型対照患者266例(KRAS変異型79例、WT/WT/WT 187例)とALK陽性患者のPFSを比較した。いずれかのラインでプラチナ/ペメトレキセド併用療法を受けた患者において、ALK陰性群はALK陽性群と比較してPFSが短い傾向を示し、KRAS変異型患者でmPFS 4.5ヶ月、WT/WT/WT患者でmPFS 5.9ヶ月であった (Figure 2A)。ALK陽性群とKRAS変異型群のPFSの差は統計的に有意であった (HR 0.65, 95% CI 0.43-0.98, P=0.042)。一次治療としてプラチナ/ペメトレキセド併用療法を受けたサブセットでは、ALK陽性群のmPFS 8.5ヶ月に対し、KRAS変異型患者ではmPFS 4.1ヶ月 (HR 0.48, 95% CI 0.29-0.79, P=0.004)、WT/WT/WT患者ではmPFS 5.4ヶ月 (HR 0.64, 95% CI 0.44-0.93, P=0.018) と、ALK陽性群で統計的に有意なPFSの延長が認められた (Figure 2B)。

対照的に、単剤ペメトレキセドまたは非プラチナ併用ペメトレキセド療法を受けた患者では、3群間でPFSに差は認められず、ALK陽性群でmPFS 5.5ヶ月、KRAS変異型群でmPFS 7.8ヶ月、WT/WT/WT群でmPFS 3.9ヶ月であった (Figure 2C; P=0.860およびP=0.409)。同様に、二次または三次治療として単剤ペメトレキセドを受けた患者においても、PFSに統計的有意差は認められなかった (Figure 2D; P=0.606およびP=0.787)。これらの結果は、ALK陽性患者が一次治療のプラチナ/ペメトレキセド併用療法ではPFSが改善する可能性があるものの、単剤ペメトレキセドまたは非プラチナ/ペメトレキセド併用療法ではALK陰性患者とPFSが同程度であることを示唆している。

喫煙歴による調整解析: ALK陽性患者は、非喫煙者 (73%) または軽度喫煙者 (≤10 pack-year, 17%) の割合が、ALK陰性患者 (非喫煙者25%、軽度喫煙者13%) と比較して著しく高かった (Table 1)。この喫煙歴の差がPFSに影響を与える可能性を考慮し、非喫煙者/軽度喫煙者に限定した解析を行った。その結果、いずれかのラインでプラチナ/ペメトレキセド併用療法を受けた非喫煙者/軽度喫煙者集団では、ALK陽性患者とWT/WT患者のPFSは非常に類似しており、mPFSはそれぞれ7.3ヶ月と7.5ヶ月であった (HR 0.96, 95% CI 0.66-1.40, P=0.671) (Figure 3A)。一次治療としてプラチナ/ペメトレキセド併用療法を受けた非喫煙者/軽度喫煙者においても、mPFSはALK陽性患者で8.5ヶ月、WT/WT患者で7.4ヶ月と差は認められなかった (HR 0.79, 95% CI 0.52-1.20, P=0.254) (Figure 3B)。同様に、単剤ペメトレキセドまたは非プラチナ/ペメtreキセド併用療法を受けた非喫煙者/軽度喫煙者では、ALK陽性患者とWT/WT患者のPFSはほぼ同一であり、mPFSはそれぞれ5.5ヶ月と5.3ヶ月であった (HR 0.98, 95% CI 0.61-1.57, P=0.941) (Figure 3C)。単剤ペメトレキセドのみを受けた非喫煙者/軽度喫煙者では、ALK陽性患者でmPFS 4.8ヶ月、WT/WT患者でmPFS 4.6ヶ月であった (HR 0.95, 95% CI 0.53-1.70, P=0.450) (Figure 3D)。これらの結果は、非喫煙者/軽度喫煙者という層別化を行うと、ALKステータスに関わらずペメトレキセドベース化学療法のPFSに有意差がなくなることを明確に示している。65歳以下の患者サブセットにおいても同様の傾向が観察され、ALKステータスによる有意差は消失した。

チミジル酸シンターゼ (TS) 発現とPFSの相関: ペメトレキセドの主要な標的酵素であるTSのmRNAレベルとPFSとの関連を探索的に評価した。評価可能なALK陽性症例12例中10例 (83%) で、TS mRNAレベルが対照群の中央値よりも低かった (P=0.039)。「高」TSレベルを示した2例のALK陽性患者は、グループ内で最短のPFS (21日および54日) を示し、統計的有意差には至らなかったものの (P=0.091)、TS低発現がALK陽性NSCLCにおけるペメトレキセド感受性の分子基盤となり得る可能性が示唆された (Figure 4)。

考察/結論

本研究は、ALK陽性NSCLC患者におけるペメトレキセドベース化学療法の感受性を、ALK陰性対照群と比較したこれまでで最大規模の後方視的解析である。

先行研究との違い: 本研究の主要な知見は、先行する2つの小規模な後方視的研究 (Camidge et al. J Thorac Oncol 2011; Lee et al. J Thorac Oncol 2011) とは異なる。先行研究が示唆した「ALK再構成がペメトレキセド感受性の予測マーカーである」という仮説は、サンプルサイズの小ささ、患者および治療レジメンの異質性、そして喫煙歴による交絡効果によって生じた可能性が高い。本研究の規模と対照群の設定により、これらの交絡因子をより詳細に評価することが可能となった。特に、非喫煙者/軽度喫煙者集団に限定すると、ALKステータスに関わらず全てのペメトレキセド含有レジメンにおけるPFSの差が完全に消失したことは、ALK再構成そのものよりも喫煙歴がペメトレキセド感受性の真の予測因子である可能性が高いことを示唆している。

新規性: 本研究で初めて、大規模な患者コホートにおいて、喫煙歴がALKステータスよりもペメトレキセド感受性のより強力な予測因子である可能性を明確に示した。また、ALK陽性NSCLC患者の腫瘍組織において、チミジル酸シンターゼ (TS) mRNAレベルが対照群と比較して低い傾向にあることを探索的に同定したことは新規の知見であり、ペメトレキセド感受性の分子基盤を理解する上で重要な手がかりとなる。

臨床応用: 本研究の知見は、ALK陽性NSCLCに対するペメトレキセド含有化学療法が、クリゾチニブ治療の代替となる可能性は低いことを示唆している。EGFR変異陽性NSCLCの治療パラダイムと同様に、ALK陽性NSCLCにおいても、分子標的治療が標準化学療法を上回る有効性を示す可能性が高い。この疑問は、現在進行中の2つの無作為化第III相試験(一次治療におけるプラチナ/ペメトレキセド対クリゾチニブ、二次治療におけるペメトレキセドまたはドセタキセル対クリゾチニブ)によって直接的に検証されるであろう。これらの試験の結果は、進行ALK陽性NSCLCの管理における分子標的治療と従来の化学療法の役割とタイミングを確立する上で極めて重要となる。したがって、本知見はALK陽性NSCLC患者の臨床現場における治療選択に重要な示唆を与える。

残された課題: 本研究の限界としては、後方視的解析に内在するサンプリングバイアスが挙げられる。多くのALK陽性患者は、遺伝子検査やクリゾチニブの臨床試験への登録目的で本研究の参加施設に紹介されており、これは一般的なALK陽性患者集団を代表しない可能性がある。また、治療レジメンやサイクル数に多様性があり、プロトコル外治療であるため放射線学的評価の標準化がなされていない点もlimitationである。これらの限界を最小限に抑えるため、ALK陽性患者の大部分と同じ施設で、同時期にスクリーニングされ、同様のペメトレキセド含有レジメンで治療されたALK陰性対照群を設定した。今後の検討課題として、TS発現レベルの測定は少数の患者サブセットでの探索的解析に留まっており、より大規模なコホートでの検証が残されている。また、非喫煙者/軽度喫煙者におけるペメトレキセド感受性のメカニズムについても、さらなる研究が必要である。

方法

本研究は、米国、オーストラリア、イタリアの5施設(マサチューセッツ総合病院、メモリアルスローンケタリングがんセンター、ピーターマッカラムがんセンター、ベスイスラエルディーコネス医療センター、S. Luigi Gonzaga病院)において、2007年12月から2011年8月の期間にペメトレキセド含有レジメンで治療を受けた進行NSCLC患者を対象とした多施設後方視的コホート研究である。本研究は各参加施設の治験審査委員会によって承認された。

患者集団: ALK陽性NSCLC患者121例を特定した。比較対照として、同時期にマサチューセッツ総合病院で遺伝子検査を受け、ペメトレキセド含有レジメンで治療されたALK陰性・EGFR野生型NSCLC患者266例を評価した。この対照群は、KRAS変異型79例と、KRAS野生型(WT/WT/WTと表記)187例にさらに分類された。全ての患者は生検で確認された進行NSCLCであり、EGFR変異は陰性であった。

データ収集: 診療記録をレビューし、臨床病理学的特徴および治療に関するデータを抽出した。PFSは、ペメトレキセド初回投与日から放射線学的または臨床的疾患進行、あるいは死亡までの期間として測定された。疾患進行の証拠がない患者は、最終フォローアップ日にデータが打ち切られた。疾患進行なしに異なる治療を開始した患者は、新しい治療が開始された日にデータが打ち切られた。データは2011年11月時点で更新された。PFSの定義は、臨床試験における主要評価項目として標準的に用いられるものであり、本研究の主要エンドポイントに設定された。

腫瘍病理学および遺伝子解析: 腫瘍組織型は、各施設の病理医が標準的な世界保健機関 (WHO) の基準に従って分類した。ALKステータスは、標準的なブレークアパートALK FISHアッセイを用いて決定された (Shaw et al. J Clin Oncol 2009)。ALK陰性症例については、SNaPshot法を用いてEGFR、KRAS、およびその他の癌関連遺伝子の変異が検査された (Dias-Santagata et al. EMBO Mol Med 2010)。これらの遺伝子解析は、患者の分子プロファイルを詳細に把握し、層別化解析の基礎を提供した。

チミジル酸シンターゼ (TS) RNAレベルの測定: 未染色切片からRNAを抽出し、標準プロトコルに従って相補的DNAを調製した。TSおよびβ-アクチンの定量的RT-PCRは、既報の方法に従って実施された (Monica et al. Clin Cancer Res 2009; Ceppi et al. Cancer 2006)。対照として、ヨーロッパで進行中のアジュバント研究から得られた切除されたALK陰性・EGFR野生型NSCLC症例も評価され、TS mRNAレベルの中央値が確立された。この探索的解析は、ペメトレキセド感受性の分子メカニズムを解明する手がかりとなることを期待された。

統計解析: ベースライン特性と遺伝子型ステータスの関連を評価するために、Fisherの正確検定およびWilcoxon順位和検定が用いられた。PFSはKaplan-Meier法により推定され、群間の差の比較にはログランク検定が用いられた。多変量解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ、喫煙歴などの交絡因子を調整したハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) が算出された。データ解析はSAS 9.2を用いて行われ、TS解析における正確P値はStatXact 6.0 (Cytel Software, Cambridge, MA) で計算された。全てのP値は両側仮説に基づいていた。