- 著者: Kwak EL, Bang YJ, Camidge DR, Shaw AT, Solomon B, Maki RG, Ou SH, Dezube BJ, Jänne PA, Costa DB, Varella-Garcia M, Kim WH, Lynch TJ, Fidias P, Stubbs H, Engelman JA, Sequist LV, Tan W, Gandhi L, Mino-Kenudson M, Wei GC, Shreeve SM, Ratain MJ, Settleman J, Christensen JG, Haber DA, Wilner K, Salgia R, Shapiro GI, Clark JW, Iafrate AJ
- Corresponding author: A. John Iafrate, MD, PhD (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2010
- Epub日: 2010-10-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 20979469
背景
EML4-ALK融合遺伝子は2007年にSoda et al. Nature 2007によって非小細胞肺癌 (NSCLC) に発見され、NSCLC全体の約2〜7%に存在する発癌ドライバー遺伝子である。この融合タンパクは構成的なALKキナーゼ活性を持ち、細胞増殖を駆動する。ALK陽性NSCLCは若年・非喫煙者・腺癌に多く、EGFR変異とは相互排他的に生じるという臨床的特徴を持つことがShaw et al. JClinOncol 2009やKoivunen et al. ClinCancerRes 2008によって報告されている。しかし、これらの臨床的特徴のみではALK陽性患者を完全に特定することはできず、分子診断の必要性が示唆されていた。
クリゾチニブ (PF-02341066、Pfizer) はALKおよびMETチロシンキナーゼの経口選択的ATP競合阻害剤であり、ALKを有する細胞株に対しナノモル濃度での増殖抑制活性を示すことがChristensen et al. MolCancerTher 2007によって前臨床試験で示されていた。600超のヒト癌細胞株パネルで、ALK遺伝子異常を持つ細胞のみに選択的増殖抑制が確認されている。本薬剤の用量漸増第I相試験 (PROFILE 1001) において、ALK陽性NSCLC 2例への投与で劇的な臨床効果が観察され、ALK陽性NSCLCの拡大コホートが組み込まれることになった。EML4-ALK融合遺伝子の発見から2年以内に臨床試験を開始し、Phase 1から3年でPhase 3登録を開始した速度は、EGFR阻害薬が10年を要したこととの対比で、分子標的療法の開発加速を示す「translational research成功例」として注目された。
EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の劇的な効果は、分子標的治療の有効性を示す先例となったが、ALK陽性NSCLCにおけるALK阻害薬の臨床的有効性については、大規模な前向き試験での検証が不足していた。特に、ALK融合遺伝子の検出方法として蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法が確立されていたものの、その臨床的妥当性や、クリゾチニブの奏効率、無増悪生存期間 (PFS)、安全性プロファイルに関する詳細なデータは未解明であった。本研究は、ALK陽性NSCLC患者におけるクリゾチニブの臨床的意義を大規模コホートで評価し、精密医療の新たな道を切り拓くことを目的とした。
目的
本研究の主要な目的は、ALK陽性進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象としたクリゾチニブ第I相拡大コホート試験 (PROFILE 1001) において、主要評価項目である奏効率 (ORR) を評価することである。副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS) および安全性を評価した。
さらに、本研究は以下の点を検証することを目的とした。
- 前臨床試験で示されたALK阻害の臨床的意義を、ヒトの進行NSCLC患者において大規模に検証すること。
- 蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法によるALK再構成の選択基準が、クリゾチニブに対する臨床応答を予測する上で妥当であることを確認すること。
- ALK陽性NSCLC患者の臨床病理学的特徴を詳細に解析し、クリゾチニブの治療効果との関連を明らかにすること。
- クリティゾニブの安全性プロファイルを詳細に評価し、忍容性を確認すること。
結果
奏効率 (ORR) — 主要評価項目: クリゾチニブ投与を受けたALK陽性NSCLC患者82例において、RECIST基準に基づく確認奏効率は57% (47/82例、95% CI 46-68%) であった。内訳は、完全奏効 (CR) が1例 (1%)、部分奏効 (PR) が46例 (56%) であった。さらに、27例 (33%) で病勢安定 (SD) が認められ、8週時点での病勢制御率 (DCR) は87% (71/82例) であった。病勢進行 (PD) は6例 (7%) であり、うち2例は最初の再評価スキャンで進行が確認された。図2Aのウォーターフォールプロットでは、大多数の患者でベースラインからの腫瘍縮小が30%以上達成されていることが示された。一部の患者では18F-FDG PETによる代謝応答も評価され、臨床奏効と一致する結果が得られた。奏効率は前治療ライン数 (0〜1ライン vs ≥2ライン) によらず同等に高かった。この高い奏効率は、当時の進行NSCLCに対する二次治療化学療法と比較して顕著な改善を示し、ALK阻害がALK陽性肺癌の治療において有望な戦略であることを強く示唆する。
分子解析 (EML4-ALK融合タイプおよび関連遺伝子): RT-PCRにより解析可能な31例の腫瘍組織において、最も頻繁に同定されたEML4-ALK融合タイプはEML4 exon13-ALK exon20であり、29例中13例 (45%) で認められた (図1C)。その他、EML4 exon 6b、6、18、20のブレークポイントも確認された (29例中7例)。RT-PCRでEML4-ALK融合転写産物が検出されなかった9例については、別のALK融合パートナー (KIF5Bなど) や未知のEML4エクソンの関与が示唆された。免疫組織化学 (IHC) 解析では、ALKタンパク発現は25例全例でFISH陽性結果と一致し、FISH陰性正常肺組織ではALK発現は認められなかった (図1D)。クリゾチニブがMETチロシンキナーゼも阻害することから、33例の腫瘍組織でMET増幅が検査されたが、全例で陰性であった。この結果は、本コホートにおけるクリゾチニブの応答にMET阻害活性が関与しないことを示唆する。また、ALK再構成陽性例ではEGFR変異が同時に認められることはなく、両遺伝子変異の相互排他性が確認された。これらの分子解析結果は、FISH法によるALK再構成の検出がクリゾチニブの治療効果を予測する上で信頼性の高いバイオマーカーであることを裏付ける。
無増悪生存期間 (PFS): データカットオフ時点 (平均投与期間6.4ヶ月) で、82例中63例 (77%) がクリゾチニブの投与を継続しており、大多数の患者が臨床的有効性を維持していた (図4A)。6ヶ月無増悪生存 (PFS) 確率は72% (95% CI 61-83%) と推定され、PFS中央値はデータカットオフ時点で未到達であった (図4B)。このPFS結果は、当時の進行NSCLCに対する標準的な二次治療化学療法 (ペメトレキセドやドセタキセルなど) で報告されていた6ヶ月PFS率約27%やPFS中央値14週と比較して、著しく良好な成績であった。例えば、過去のメタアナリシスでは二次治療におけるPFS中央値が14週であったのに対し、本研究ではPFS中央値が未到達であり、統計的に有意な差が示唆される。
安全性プロファイル: クリゾチニブの安全性データは、主に250 mg 1日2回投与を受けた82例から得られた (Table 2)。最も頻繁に報告された有害事象 (Grade 1-2が主体) は、悪心54% (Grade 3: 0%)、下痢48% (Grade 3: 0%)、嘔吐44% (Grade 3: 0%)、視覚障害41% (Grade 3: 0%)、便秘24%、浮腫16%、めまい15%であった。視覚障害は、光の軌跡、飛蚊症、光視症などとして報告され、特に明暗の変化時に悪化する傾向があったが、投与継続とともに改善する傾向が認められた。詳細な眼科検査を受けた3例では異常は発見されなかった。Grade 3または4の有害事象としては、ALT上昇が5% (Grade 3: 4例、Grade 4: 1例)、AST上昇が6% (Grade 3: 5例) と報告された。肝酵素上昇は通常サイクル2以降に発症し、クリゾチニブの中断により回復した。肝酵素上昇を経験した5例中4例は、減量後に投与を再開でき、用量制限毒性の再発はなかった。1例はGrade 3のALT上昇が再発したため、最終的に投与中止となった。その他のGrade 3-4有害事象は、リンパ球減少2%、低リン血症1%、好中球減少1%、低酸素1%、肺炎1%、肺塞栓1%であった。治療関連死は認められなかった。全体として、クリゾチニブは良好な忍容性を示し、毒性による投与中止は1例 (1.2%) のみであった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、EGFR阻害薬の開発が非選択患者での失敗を経て最終的に承認されたのとは対照的に、ALKではFISH陽性による前向き分子選択を試験設計段階から組み込むことで、より効率的な開発を可能にした。EML4-ALK融合遺伝子の発見からわずか3年でPhase 3試験が開始されたことは、従来の抗癌剤開発プロセスと比較して画期的な速度であった。これにより、患者の治療選択がより迅速かつ効果的に行われる可能性が示された。
新規性: 本研究の新規性は2点にある。第1に、約1500例のNSCLC患者を対象とした大規模な前向きゲノムスクリーニングをPhase 1試験に統合し、「genotype-driven expanded cohort」という新しい試験デザインを確立したことである。これは分子選択に基づく精密医療モデルの先駆例として、その後の「basket trial」や「umbrella trial」設計の参照となった。第2に、重喫煙者 (>10 pack-year) 5例もALK陽性でクリゾチニブに応答し、臨床的特徴 (非喫煙・腺癌) のみでは一部のALK陽性例を見落とすことを示したことである。これは「臨床特徴ではなく遺伝子検査による分子選択の必要性」を強調する。
臨床応用: 本知見は、ALK陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブの臨床応用を強力に支持するものであった。FDA承認 (2011年8月、ブレークスルーセラピー指定と加速承認) 後、クリゾチニブはALK陽性NSCLCの標準一次治療となり、その後のPhase 3試験 (PROFILE 1014) で一次化学療法に対する優越性 (ORR 74% vs 45%、mPFS 10.9 vs 7.0ヶ月、HR 0.454 (95% CI 0.345-0.596, p<0.001)) を達成し、正規承認に至った。本研究はALK陽性NSCLCという「分子的に定義されたサブグループ」を確立し、NSCLC治療の分子サブタイプ分類 (EGFR/ALK/ROS1/KRAS等) という精密医療革命の重要な一角を担った。
残された課題: 今後の検討課題として、クリゾチニブに対する後天的耐性機序 (ALK二次変異: L1196M・G1269A・G1202R等; EMT; MET増幅; KRAS変異) の解明と克服が重要である。これが第2世代 (alectinib・ceritinib・brigatinib) および第3世代 (lorlatinib) ALK-TKI開発の動機となった。また、クリゾチニブの中枢神経系移行性が限定的であることから、CNS転移の管理がlimitationとして残されており、alectinib (CNS応答率81%) が現在の一次標準治療として置き換わった。
方法
本研究は、オープンラベル多施設第I相試験 (PROFILE 1001、NCT00585195) の拡大コホートとして実施された。用量漸増フェーズでは、クリゾチニブを50 mg 1日1回から300 mg 1日2回まで投与し、最大耐用量 (MTD) を250 mg 1日2回と確立した。300 mg 1日2回では用量制限毒性として疲労が認められた。
拡大コホートには、2008年8月から2010年2月10日までに、米国、オーストラリア、韓国の施設からALK陽性NSCLC患者82例が登録された。ALK陽性判定は、Vysis ALK Break-Apart FISH Probe Kitを用いたFISH法により行われ、スコアが15%以上の腫瘍細胞でシグナル分離が認められた場合に陽性とされた。中央検査機関によるFISH確認は、82例中70例 (85%) で実施された。
患者背景は以下の通りである (Table 1)。年齢中央値は51歳 (範囲25〜78歳)、男性52%、白人56%、アジア系35%であった。ECOG Performance Status (PS) は0が29%、1が54%、2が16%であった。組織型は腺癌が96%を占め、非喫煙者または軽度喫煙者 (≤10 pack-year) が76%と多数を占めたが、>10 pack-yearの重喫煙者も5例 (6%) 含まれた。前治療歴は、0ラインが5例 (6%)、1ラインが27例 (33%)、2ラインが15例 (18%)、3ライン以上が34例 (41%) と、多重治療歴を持つ患者が多かった。
クリゾチニブは250 mg 1日2回経口投与され、1サイクルを28日とした。腫瘍評価はRECIST v1.0に基づき、8週ごとに実施された。部分奏効 (PR) は4週後に確認スキャンを行うこととされた。主要評価項目はORR、副次評価項目はPFSおよび安全性であった。データカットオフは2010年4月7日であり、平均投与期間は6.4ヶ月であった。統計解析にはKaplan-Meier法を用いてPFSを推定し、SAS統計ソフトウェアバージョン9.2を使用した。