- 著者: Soda M, Choi YL, Enomoto M, Takada S, Yamashita Y, Ishikawa S, Fujiwara SI, Watanabe H, Kurashina K, Hatanaka H, Bando M, Ohno S, Ishikawa Y, Aburatani H, Niki T, Sohara Y, Sugiyama Y, Mano H
- Corresponding author: Mano H (Jichi Medical University, Tochigi, Japan)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2007
- Epub日: 2007-07-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 17625570
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界的に癌関連死の主要な原因であり、その予後改善には病態を分子レベルで理解し、新たな治療標的を同定することが不可欠である。これまでの研究により、一部のNSCLC患者において上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子の活性化変異が同定され、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) であるゲフィチニブに対する反応性が示されてきた Lynch et al. NEnglJMed 2004、Paez et al. Science 2004。しかし、これらのEGFR変異は非喫煙者やアジア人集団に偏りが見られ Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004、喫煙歴のある患者やEGFR変異陰性の患者に対する効果的な治療標的は依然として不足している。慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABL融合遺伝子のように、異常なキナーゼ活性を持つ融合遺伝子は発癌ドライバーとして機能し、特異的なTKIによって高い治療効果が得られることが報告されている Schiller et al. NEnglJMed 2002。しかし、肺癌においてこのような融合キナーゼ遺伝子の同定は手薄であるという課題が残されていた。未分化大細胞リンパ腫 (ALCL) ではヌクレオフォスミン-未分化リンパ腫キナーゼ (NPM-ALK) 融合遺伝子が主要な発癌ドライバーとして同定されており、ALKキナーゼが治療標的として有望視されていたが、肺癌におけるALKキナーゼの役割は未解明であった。本研究は、NSCLCにおける新規融合キナーゼ遺伝子の探索を目的として、レトロウイルスcDNAライブラリースクリーニングという独自の手法を用いた。
目的
NSCLCにおいて新規の形質転換活性を持つ融合キナーゼ遺伝子を同定し、その発癌機序および臨床的意義を明らかにすること。さらに、同定した融合遺伝子が治療標的となりうるかを評価すること。
結果
EML4-ALK融合遺伝子の同定と構造解析: NSCLC患者由来cDNAライブラリーのスクリーニングにより、EML4とALKの融合遺伝子 (EML4-ALK) を同定した。この融合はEML4のエクソン13とALKのエクソン20がインフレームで結合したものであり、EML4のN末端側 (アミノ酸1〜495) とALKの細胞内ドメイン (アミノ酸1058〜1620) からなるキメラタンパク質をコードする (Figure 1)。EML4-ALKは構成的にリン酸化 (活性化) されたALKキナーゼドメインを有していた。ゲノムPCRおよびFISH解析により、EML4-ALK融合遺伝子は染色体2番短腕の逆位inv(2)(p21p23)によって生じることが確認された。EML4遺伝子 (2p21) とALK遺伝子 (2p23) はともに染色体2番短腕に位置しており、逆位によってエクソンが逆向きに結合するという特異な構造を形成することが示された。
EML4-ALKの発癌活性とドメイン機能: EML4-ALKを発現するNIH 3T3細胞は培養下でフォーカス形成を示し、ヌードマウスへの異所性移植で腫瘍を形成した (皮下注射後10日以内、腫瘍形成率 8/8)。対照群 (EML4のみ、ALKのみ) では腫瘍形成を認めなかった (腫瘍形成率 0/8)。したがってEML4-ALK融合タンパク質が独立した発癌ドライバーとして機能することが証明された (Figure 2a)。EML4の各ドメイン欠失変異体の解析により、EML4のcoiled-coilドメイン (N末端領域) がALKキナーゼの二量体化・活性化に必須であることが明らかになった。coiled-coilドメインを欠失させるとALKのリン酸化が消失し、形質転換活性も失われた。一方、EML4のWD (WD repeat) 繰り返し領域はキナーゼ活性化に必須ではなかった。Myc-EML4-ALKとFlag-EML4-ALKの共発現実験では、Myc-EML4-ALKはFlag-EML4-ALKと共沈したが、EML4のbasicドメインを欠損したFlag-EML4-ALK (ΔBasic) とは結合が大幅に減少した (Figure 2c)。これにより、EML4のbasicドメインがEML4-ALKの二量体化に重要な役割を果たすことが示された。in vitroキナーゼアッセイでは、ΔBasic変異体は野生型EML4-ALKと比較してキナーゼ活性が約84%低下した (Figure 2d)。
臨床検体におけるEML4-ALKの頻度と相互排他性: 手術切除されたNSCLC患者75例の腫瘍検体をRT-PCRで解析したところ、5例 (6.7%) にEML4-ALK融合転写産物が検出された (Figure 3a)。陽性患者は全例腺癌であり、うち3例が非喫煙者であった。EML4-ALK陽性患者とEGFR変異陽性患者の重複は認められず、両者は相互排他的な関係にあることが示された (p<0.001)。また、EML4-ALK融合遺伝子は急性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、胃癌、大腸癌の計261例の検体では検出されず、NSCLCに特異的であることが示唆された。さらに、EML4-ALK融合遺伝子には複数のバリアントが存在することが明らかになった。本研究で最初に同定されたEML4エクソン13とALKエクソン20の融合はバリアント1と命名され、別の2例のNSCLC患者からはEML4エクソン20とALKエクソン21の融合であるバリアント2が同定された (Supplementary Fig. 4)。これらのバリアントも同様にinv(2)(p21p23)によって生じることが示された。
ALK阻害剤による増殖抑制効果と早期診断の可能性: EML4-ALK陽性細胞株 (BA/F3細胞) に対してALK阻害剤WHI-P154を処理すると、用量依存的に増殖抑制が得られた (IC50約3μmol/L) (Figure 4b)。WHI-P154はEML4-ALKのチロシンリン酸化を濃度依存的に抑制した (Figure 4c)。一方、EML4-ALK陰性細胞株では同等濃度での増殖抑制効果は認めなかった。この結果はEML4-ALK陽性NSCLC患者においてALK阻害が有効な治療戦略となりうることを示唆した。また、EML4-ALKを発現するBA/F3細胞を様々な細胞数で健常者の喀痰に混合しRT-PCRを行った結果、1mlの喀痰中にわずか10個のBA/F3細胞が存在する場合でもEML4-ALK融合mRNAが検出可能であることが示された (Figure 3b)。これはEML4-ALK融合遺伝子の検出がNSCLCの早期診断に有用である可能性を示唆している。
考察/結論
本研究はNSCLCにおけるEML4-ALK融合遺伝子を世界で初めて同定した画期的なものである。EML4-ALKは染色体2番短腕の逆位という比較的単純な構造変異によって生じ、NSCLCの約6.7%に存在する。これはEGFR変異 (東アジア人腺癌の約30%) より頻度は低いものの、NSCLC全体で年間数万人規模の患者が対象となりうる実践的な治療標的である。
先行研究との違い: 本研究の独自性は、形質転換スクリーニングという古典的手法を現代の分子生物学と組み合わせることで新規融合遺伝子を発見した点、および染色体逆位という新規の発生機序を明らかにした点にある。これまで報告されていたALCLにおけるNPM-ALKとは異なり、肺癌におけるALK融合遺伝子の存在と発癌メカニズムを初めて解明した。
新規性: EML4-ALKとEGFR変異の相互排他性は、ALK陽性NSCLCが独立した分子サブタイプを構成することを新規に示している。これは、EGFR変異を持たないNSCLC患者に対する新たな治療選択肢を提供する点で極めて重要である。
臨床応用: 本論文が発表された後、クリゾチニブをはじめとするALK阻害剤の開発が急速に進展し、2011年に米国食品医薬品局 (FDA) がクリゾチニブを承認するに至った。本研究が示したWHI-P154によるALK阻害の原理証明 (proof of concept) が、その後のALK標的治療薬の臨床開発を方向付けた。EML4-ALKはNSCLCの診断マーカーおよび治療標的として臨床応用が期待される。特に、喀痰検体を用いたRT-PCRによる早期診断の可能性は、スクリーニングへの応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題としては、EML4-ALK以外のALK融合パートナー遺伝子の同定、EML4-ALKの複数バリアント (variant 1〜7以上が後に報告された) の臨床的意義の解明、およびALK阻害剤耐性機序の理解が挙げられる。また、EML4の各ドメインがALKのキナーゼ活性と形質転換活性に与える影響の乖離に関する分子メカニズムも残された課題である。本論文はNSCLC分子標的治療の歴史において最重要論文の一つとして位置づけられる。
方法
本研究は、NSCLCにおける新規融合遺伝子を同定するための探索的な研究デザインを採用した。まず、NSCLC患者の肺腺癌組織から調製したcDNAライブラリーをレトロウイルスベクターに組み込み、NIH 3T3細胞に形質導入して形質転換フォーカス形成アッセイを実施した。形質転換活性を持つクローンからcDNA配列を決定し、echinoderm microtubule-associated protein-like 4 (EML4)-anaplastic lymphoma kinase (ALK) 融合遺伝子を同定した。染色体学的解析では蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) およびゲノムPCRを用いて融合遺伝子の構造 (inv(2)(p21p23)) を確認した。臨床サンプルとして、手術切除されたNSCLC患者75例の腫瘍検体で逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) による融合転写産物の検出を行った。発癌活性の検証には、EML4-ALKを発現するNIH 3T3細胞をヌードマウスに異所性移植するモデルを用いた。ドメイン機能解析ではEML4各ドメインの欠失変異体を作製し、形質転換能とALKリン酸化を評価した。ALK阻害の効果は、ALK阻害剤であるWHI-P154 (JAK3阻害剤として開発されたがALKにも作用) を用いて評価した。統計解析にはFisherの正確確率検定およびカイ二乗検定を用いた。