- 著者: Satomi Watanabe, Hidetoshi Hayashi, Kunio Okamoto, Kimiko Fujiwara, Yoshikazu Hasegawa, Hiroyasu Kaneda, Kaoru Tanaka, Masayuki Takeda, Kazuhiko Nakagawa
- Corresponding author: Hidetoshi Hayashi (Department of Medical Oncology, Kinki University Faculty of Medicine, Osaka, Japan)
- 雑誌: Clinical Lung Cancer
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-05-18
- Article種別: Original Article
- PMID: 27318655
背景
ALK遺伝子再構成はNSCLCの約4%に検出され、EML4 (echinoderm microtubule-associated protein-like 4)-ALK融合遺伝子が最も多いバリアントとして同定されている。ALK融合を持つNSCLCは腫瘍依存性 (oncogene addiction) を示し、ALK-TKIに対して高感受性を示す。第一世代ALK-TKIであるcrizotinibは第III相試験において二次治療 (PROFILE 1007) ではPFS中央値7.7ヶ月、一次治療 (PROFILE 1014) ではPFS中央値10.9ヶ月と、それぞれ化学療法を有意に上回ることが実証された (Shaw et al. NEnglJMed 2013、Solomon et al. NEnglJMed 2014)。しかし、crizotinib投与患者の大多数が経時的に獲得耐性を呈する。耐性機序としては、EML4-ALKキナーゼドメイン内の二次変異 (L1196Mゲートキーパー変異、C1156Y等)、ALK融合遺伝子の増幅、そしてEGFR/c-KIT/IGF1R (insulin-like growth factor-1 receptor) を介するバイパスシグナル経路の活性化が複数報告されている (Gainor et al. ClinCancerRes 2016)。
これらの耐性機序を克服すべく開発された第二世代ALK-TKIのalectinib (CH5424802) はcrizotinib耐性変異 (L1196M、G1269A等) に対して強力な抗腫瘍活性を持ち、日本での第I/II相試験 AF-001JP (alectinib Japanese phase I/II first-in-human trial) ではALK-TKI未治療患者でORR 93.5%、2年PFS率76%、2年OS率79%を達成した。crizotinib失敗後患者を対象とした別の第I/II相試験 AF-002JG (Alectinib global phase I/II trial in crizotinib-refractory patients) ではORR 55%が示され、日本では転移・再発ALK陽性NSCLCに対して承認された。しかし、crizotinibとalectinibを逐次投与した場合の全生存 (OS) 改善効果のデータが乏しく、first-line alectinib単独投与と逐次crizotinib→alectinib戦略のどちらが最適かという比較的な問いに対する知見が手薄であった (gap in knowledge)。
目的
ALK再構成NSCLCにおいてcrizotinib→alectinibの逐次投与を受けた患者の後方視的多施設解析を実施し、各薬剤のPFS、逐次治療の合計combined PFS、そして転移診断時およびcrizotinib開始時からのOSを明確化することで、このレジメンが長期生存利益をもたらすかどうかを評価する。
結果
患者背景 (Table 1): n=11例が対象となった。転移性肺癌診断時の年齢中央値は54歳 (range 19-71)。性別は男性5例 (45%)、女性6例 (55%)。喫煙歴なし6例 (55%)、喫煙歴あり5例 (45%、うち10 pack-years超が4例 [36%])。病期はIV期9例 (82%)、再発2例 (18%)。全11例が腺癌組織型で、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 0が5例 (45%)、PS 1が6例 (55%)。crizotinib開始前にCNS (central nervous system) 転移を有した症例は3例 (27%)。ALK確認手法はIHCまたはFISHが10例 (91%)、PCRが2例 (18%、1例でFISHとPCRの両方を使用)。crizotinib前の化学療法ライン数は0が5例 (45%)、1が5例 (45%)、3が1例 (9%) で、前治療中央値は1 (range 0-3) であった。
Crizotinib治療成績: ORR 82%・PFS中央値6.1ヶ月: 11例中9例 (82%) がcrizotinibに客観的奏効を達成 (ORR 82%; CR [complete response] 2例、PR [partial response] 7例)。病勢制御率 (DCR; disease control rate) は10/11例 (91%)。crizotinibのPFS中央値は6.1ヶ月 (range 1.0-15.4) であった (Figure 1A)。有害事象によるcrizotinib中止例は認められなかった。患者4はPD到達前に本人希望によりcrizotinibを中止した。患者5はcrizotinib中に既存脳転移の増悪を呈したが、頭蓋外病変はcrizotinibに奏効した。11例中6例がRECISTによるPD確認後もcrizotinibを継続投与し、このpost-progression crizotinib継続期間の中央値は9.4ヶ月 (range 0-20.5) に達した。alectinib移行前に8例が介在治療なし、1例が細胞障害性化学療法、2例が治験薬による介在治療を受けた。crizotinibからalectinibへの移行間隔中央値は0.5ヶ月 (range 0.0-24.1)、移行前の介在治療ライン数中央値は0であった。
Alectinib治療成績: ORR 64%・PFS中央値15.2ヶ月: 11例中7例 (64%) がalectinibに客観的奏効を達成 (ORR 64%; CR 1例、PR 6例)。DCRは10/11例 (91%)。追跡期間中央値14.5ヶ月 (range 10.2-28.3) でのalectinib PFS中央値は15.2ヶ月 (range 1.0-28.3) であった (Figure 1B)。データカットオフ時点でPFS経過観察を継続していた症例は5例。crizotinib中に脳病変にPDを呈した患者5 (crizotinib PFS 1.0ヶ月) がalectinibに切り替えてからCNS CRを達成し、骨転移でのPDまでalectinib PFS 11.5ヶ月を維持した。また患者3はcrizotinib中に脳転移に対してSDだったが、alectinib後に脳転移PRを達成した。
Combined PFS中央値18.2ヶ月・OS中央値48.6ヶ月: 逐次治療の長期生存利益: 逐次治療の統合的有効性として、crizotinib→alectinib combined PFS中央値は18.2ヶ月 (range 10.3-43.7) であった (Figure 1C)。なお、crizotinib PFS 6.1ヶ月 vs alectinib PFS 15.2ヶ月という内部比較では、alectinib治療期間が逐次戦略の生存利益の大部分を担っている。各患者のcrizotinib PFS・post-progression crizotinib継続期間・alectinib PFSの時系列はFigure 2に詳示される。OS解析では、転移性NSCLC診断起点のOS中央値51.1ヶ月 (range 20.9-69.5) (Figure 3A) で、crizotinib治療開始起点では48.6ヶ月 (range 19.8-50.1) (Figure 3B) と、両指標ともに40ヶ月を超える長期生存を示した。データカットオフ時点で6例がOS経過観察継続中 (censored) であり、そのうち3例が診断から5年以上の長期生存を達成していた。外部参照として、PROFILE 1014試験のcrizotinib一次治療PFS中央値10.9ヶ月 (95% CI 8.3-13.9) に対し本試験combined PFS 18.2ヶ月 vs 10.9ヶ月は7.3ヶ月の追加利益に相当し、OS中央値48.6ヶ月 vs 20.3ヶ月 (PROFILE 1007、2次治療crizotinib群) という対比が逐次戦略の生存延長効果を量的に示す。
注目すべき個別症例 (Table 2): 患者4 (前治療なし) はcrizotinib 15.4ヶ月 (患者希望でPD前に中止) 後、alectinibを28.3ヶ月以上継続 (censored) し、combined PFS 43.7ヶ月以上・OS 69.5ヶ月以上と全例中最長経過を示した。患者10は3ヶ月のcrizotinib後にPD (リンパ節・脳含む多部位) となり、WBRT (whole-brain radiotherapy) 併用でcrizotinibをさらに20.5ヶ月継続後alectinibに切り替え、alectinib PFS 15.2ヶ月 (carcinomatous meningitisで進行) を達成し、OS 65.1ヶ月を記録した。患者5はcrizotinib開始1ヶ月後に多発脳転移のPDを呈しPFSは最短1.0ヶ月だったが、alectinib切り替え後にCNS CRを獲得しOS 44.4ヶ月を達成した。これらの症例はcrizotinibへの初期感受性や応答期間にかかわらず、alectinibが長期の病勢制御をもたらしうることを示す。
考察/結論
本後方視的多施設解析は、ALK再構成NSCLCにおけるcrizotinib→alectinib逐次投与によりcombined PFS中央値18.2ヶ月、crizotinib開始からのOS中央値48.6ヶ月という持続的長期生存が達成されることを明示した。この結果はPROFILE 1007での2次治療crizotinib単独のOS 20.3ヶ月と異なり、本試験の逐次投与OS 48.6ヶ月は2.4倍に達し、alectinib追加による顕著な生存延長効果を示唆する。同様に、Gainorらによるcrizotinib→ceritinibの逐次後方視的研究 (combined PFS 17.4ヶ月、診断からのOS 49.4ヶ月) やChiariらの多施設解析 (combined PFS 17.0ヶ月、逐次ALK-TKI治療開始からのOS 40.0ヶ月) と概ね一致しており、第一世代→第二世代ALK-TKIの逐次戦略が一貫してOS 40ヶ月超をもたらすという既報のパターンを支持する結果である。
本研究で新規に報告された重要な点は、crizotinib→alectinib逐次投与に関するOSデータがこれまで報告されていなかったことである。本研究は著者らの知る限り、この特定の逐次レジメン (crizotinib後alectinib) に対するOSを初めて定量化したものであり、novel な臨床的貢献を有する。本研究のcrizotinib単剤PFS 6.1ヶ月がPROFILE 1007/1014 (7.7/10.9ヶ月) より短かった理由として、crizotinib開始1ヶ月後に多発脳転移でPDとなった1例の影響が、n=11という小集団のメジアン値に大きく作用した可能性がある。また、alectinib後にcrizotinibを使用した2例でcrizotinibのPFSが1ヶ月未満であったことも、第二世代ALK-TKI投与後に第一世代ALK-TKIが有効でない可能性を示しており、逐次の順序 (crizotinib→alectinib) が治療設計上重要であることを示唆する。
本研究の臨床的意義は、ALK再構成NSCLC患者でのcrizotinib→alectinib逐次使い切り戦略が、アジア集団において約50ヶ月に近い長期生存をもたらしうることを示した点にある。3例の5年超長期生存は臨床現場での治療方針決定に対する参考情報となり、crizotinibへ初期奏効した患者においてalectinibへの切り替えが持続的利益をもたらす可能性を裏付ける。
本研究にはいくつかの重要な limitation が存在する。第一に小規模 (n=11) 後方視的デザインで比較群が存在しないこと。第二にcrizotinibとalectinibの投与タイミングや間隔治療の内容が患者間で不均一であること。第三に本研究に登録された患者がALK再構成NSCLC全体を代表しない選択バイアスの可能性があること。これらの限界を考慮すると、残された課題として、first-line alectinib vs 逐次crizotinib→alectinibの最適治療戦略を決定するためのランダム化比較試験が必要であり、この問いに対しては既にフェーズIII試験が進行中であった (NCT02075840、J-ALEX試験)。今後の検討として、各患者における耐性機序の解明とalectinib奏効性との関連分析も重要な課題として残されている。
方法
大阪府の3施設 (Kinki大学病院、岸和田市立病院、和泉市立病院) において、2010年10月から2015年8月までにcrizotinib後にalectinibを投与されたALK再構成NSCLCの患者を対象とした後方視的研究。データカットオフ日は2015年11月26日。患者背景と治療データは医療記録から後方視的に収集した。
適格基準とALK確認: ALK再構成の確認はIHC (immunohistochemistry)、FISH (fluorescence in situ hybridization)、またはPCR (polymerase chain reaction) によって実施し、一部の患者では複数手法を併用した。肺癌の組織分類はWorld Health Organization病理基準に従い、臨床病期はIASLC TNM分類第7版を用いた。腫瘍奏効はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1に基づき評価した。全患者がALK-TKI治療開始前に書面によるインフォームドコンセントを提供した。
統計解析: PFSおよびOSはKaplan-Meier法で算出した。PFSはcrizotinibまたはalectinib治療開始日から病勢進行 (PD)、死亡、または最終追跡日のいずれか最初の事象発生日までの期間と定義した。Combined PFSは、crizotinib PFSとalectinib PFSの合計と定義し、PD後のcrizotinib継続投与期間および両薬剤間の間隔期間は含めなかった。OSは (i) 転移性NSCLCの診断日、および (ii) crizotinib治療開始日を起点として別々に算出した。Crizotinib-alectinib間隔はcrizotinib単剤中止日からalectinib開始日までの期間と定義した。統計解析にはGraphPad Prism version 5.0を使用した。