- 著者: Solomon BJ, Mok T, Kim DW, Wu YL, Nakagawa K, Mekhail T, Felip E, Cappuzzo F, Paolini J, Usari T, Iyer S, Reisman A, Wilner KD, Tursi J, Blackhall F, for the PROFILE 1014 Investigators
- Corresponding author: Solomon BJ (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne, VIC, Australia)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-10-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 25470694
背景
ALK遺伝子再構成は非小細胞肺癌 (NSCLC) の3〜5%に認められ、若年・軽喫煙/非喫煙者・腺癌という特徴的な臨床プロファイルを持つことが、Soda et al. Nature 2007 や他の研究で報告されている。ALK阻害剤であるクリゾチニブは、ALK、MET、ROS1キナーゼを標的とする経口小分子チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) である。2010年の第I相試験 (Kwak et al. NEnglJMed 2010) でクリゾチニブの顕著な抗腫瘍活性が示され、2011年にFDA承認を取得した。その後の第I/II相試験では、ALK陽性NSCLC患者において客観的奏効率 (ORR) が約60%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値が7〜10ヶ月と報告された。
2013年のPROFILE 1007試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2013) では、プラチナ製剤ベースの化学療法歴のある進行ALK陽性NSCLC患者において、クリゾチニブが単剤化学療法 (ペメトレキセドまたはドセタキセル) に比べてPFS中央値を7.7ヶ月 vs 3.0ヶ月 (ハザード比 [HR] 0.49; 95% CI 0.37-0.64; P<0.001) と有意に延長し、その優越性が明確に示された。この結果を受け、未治療のALK陽性NSCLC患者に対する一次治療としてのクリゾチニブの有効性を検証することが喫緊の課題となった。
当時のALK陽性NSCLCの一次治療の標準は、プラチナ製剤とペメトレキセドの併用化学療法であった。ALK陽性腺癌はチミジル酸シンターゼ (TS) の低発現を示すことが多く、ペメトレキセドへの感受性が高い可能性が示唆されていた。先行するEGFR陽性NSCLCにおける複数の第III相試験 (例: Mok et al. NEnglJMed 2009、Maemondo et al. NEnglJMed 2010、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、Rosell et al. LancetOncol 2012) では、EGFR-TKIが一次治療として化学療法に対してPFSの優越性を示しており、同様の検証がALK-TKIでも期待されていた。しかし、未治療のALK陽性NSCLC患者に対するクリゾチニブと標準化学療法の比較に関するデータは不足しており、その有効性と安全性を評価する大規模な無作為化比較試験が未確立であった。PROFILE 1014試験は、この知識ギャップを埋めることを目的として計画された初の第III相試験である。
目的
本研究の目的は、全身化学療法未施行の進行ALK陽性非扁平上皮NSCLC患者において、クリゾチニブ (250 mg 1日2回経口投与) と標準化学療法 (ペメトレキセドとプラチナ製剤の併用、最大6サイクル静脈内投与) を一次治療として比較し、その有効性、安全性、および患者報告アウトカム (QOL) を評価することである。
主要評価項目は独立評価委員会 (IRC) 判定による無増悪生存期間 (PFS) とした。副次評価項目には、客観的奏効率 (ORR)、全生存期間 (OS)、安全性プロファイル、および欧州癌研究治療機構QOL質問票 (EORTC QLQ-C30)、肺癌モジュール (QLQ-LC13)、EuroQol 5次元自己評価質問票 (EQ-5D) を用いた患者報告アウトカムの評価を含めた。本試験は、ALK陽性NSCLCに対する一次治療の新たな標準を確立することを目指した。
結果
無増悪生存期間 (PFS) の延長: ITT集団343例において、独立評価委員会 (IRC) 判定によるPFS中央値は、クリゾチニブ群で10.9ヶ月 (95% CI 8.3-13.9) であったのに対し、化学療法群では7.0ヶ月 (95% CI 6.8-8.2) であった。クリゾチニブ群は化学療法群と比較して、疾患進行または死亡のリスクを統計学的に有意に低減した (HR 0.45; 95% CI 0.35-0.60; P<0.001)。18ヶ月時点でのPFS率は、クリゾチニブ群で31% (95% CI 23-39%)、化学療法群で5% (95% CI 2-10%) と大きな差が認められた (Figure 1A)。サブグループ解析では、年齢、性別、人種、喫煙状況、ECOG PS、脳転移の有無など、全ての事前に規定されたサブグループにおいてクリゾチニブのPFS延長効果が認められ、効果の一貫性が示された (Figure 1C)。例えば、65歳以上の患者群ではHR 0.37 (95% CI 0.17-0.77)、脳転移のある患者群ではHR 0.57 (95% CI 0.35-0.93) であり、いずれもクリゾチニブ群で優位性が認められた。
客観的奏効率 (ORR) と奏効期間 (DOR) の改善: ITT集団におけるORRは、クリゾチニブ群で74% (95% CI 67-81%) vs 化学療法群で45% (95% CI 37-53%) であり、クリゾチニブ群で統計学的に有意に高かった (P<0.001)。完全奏効 (CR) はクリゾチニブ群で2% (3例)、化学療法群で1% (2例) に認められた。部分奏効 (PR) はクリゾチニブ群で73% (125例)、化学療法群で44% (75例) であった。疾患制御率 (CR+PR+安定疾患 [SD]) は、クリゾチニブ群で93%、化学療法群で75%であった。奏効までの期間中央値は、クリゾチニブ群で1.4ヶ月 (範囲 0.6-9.5) vs 化学療法群で2.8ヶ月 (範囲 1.2-8.5) と、クリゾチニブ群でより迅速な奏効が認められた。奏効期間 (DOR) 中央値は、クリゾチニブ群で11.3ヶ月 (95% CI 8.1-13.8) vs 化学療法群で5.3ヶ月 (95% CI 4.1-5.8) と、クリゾチニブ群で倍以上の延長が認められた (Table 2)。
頭蓋内病変の進行と全生存期間 (OS): 頭蓋内病変の進行 (新規病変の出現または既存病変の増大) は、クリゾチニブ群の25例 (15%) と化学療法群の26例 (15%) で同程度であった。この結果は、クリゾチニブの血液脳関門透過性が限定的である可能性を示唆している。データカットオフ時点での死亡イベントはITT集団343例中90例 (26%) と比較的少なく、OS中央値は両群ともに未到達であった。OSのハザード比は0.82 (95% CI 0.54-1.26; P=0.36) であり、統計学的な有意差は認められなかった (Figure 1B)。1年OS率はクリゾチニブ群で84% (95% CI 77-89%)、化学療法群で79% (95% CI 71-84%) であった。化学療法群の患者171例中120例 (70%) が疾患進行後にクリゾチニブ治療にクロスオーバーしたことが、OS解析の解釈を複雑にする要因と考えられた。Rank-preserving structural failure time modelを用いたクロスオーバー補正後のOSハザード比は0.60 (95% CI 0.27-1.42、Wilcoxon検定) または0.67 (95% CI 0.28-1.48、ログランク検定) であり、クロスオーバーがOS結果に影響を与えた可能性が示唆された。
患者報告アウトカム (QOL) の改善: EORTC QLQ-C30のglobal QOLスコアは、クリゾチニブ群が化学療法群と比較してベースラインからの全体的な改善が有意に大きかった (P<0.001)。身体機能、社会機能、感情機能、役割機能の各ドメインにおいても、クリゾチニブ群が有意に優れた結果を示した (P<0.001)。QLQ-C30で評価された症状 (疼痛、呼吸困難、不眠) およびQLQ-LC13で評価された症状 (呼吸困難、咳嗽、胸痛、腕/肩の痛み、その他の疼痛) の軽減においても、クリゾチニブ群が有意に優れていた (全ての比較でP<0.001)。肺癌症状複合エンドポイント (咳嗽、呼吸困難、胸痛) の悪化までの期間もクリゾチニブ群で有意に長く (HR 0.59; 95% CI 0.45-0.77; P<0.001)、6ヶ月時点での無悪化確率はクリゾチニブ群で38%、化学療法群で22%であった。EQ-5Dの全般的健康状態スコアもクリゾチニブ群で有意に高かった (P=0.002)。
安全性プロファイル: 治療期間中央値は、クリゾチニブ群で10.9ヶ月 (範囲 0.4-34.3)、化学療法群で4.1ヶ月 (範囲 0.7-6.2) であった。クリゾチニブ群で頻度が5%以上高かった有害事象は、視覚障害 (71%、Grade 3-4: 1%)、下痢 (61%、Grade 3-4: 2%)、浮腫 (49%、Grade 3-4: 1%)、嘔吐 (46%、Grade 3-4: 2%)、便秘 (43%)、アミノトランスフェラーゼ上昇 (36%、Grade 3-4: 14%)、上気道感染 (32%)、腹痛 (26%)、味覚障害 (26%) であった。一方、化学療法群で頻度が5%以上高かった有害事象は、疲労 (38%、Grade 3-4: 2%)、貧血 (32%、Grade 3-4: 9%)、好中球減少 (30%、Grade 3-4: 15%)、口腔炎 (20%)、無力症 (24%)、血小板減少 (18%、Grade 3-4: 7%)、白血球減少 (15%、Grade 3-4: 5%) であった (Table 3)。ほとんどの有害事象はGrade 1または2であった。Grade 3または4のアミノトランスフェラーゼ上昇はクリゾチニブ群で14%に発生したが、多くは用量調整で管理可能であった。クリゾチニブ群で治療の永続的中断を要した肝毒性は4例 (Hy’s law基準を満たす1例を含む) であった。間質性肺疾患はクリゾチニブ群の2例 (1%) で発生し、治療の永続的中断に至った。治療関連有害事象による永続的中断は、クリゾチニブ群で5%、化学療法群で8%であった。発熱性好中球減少症はクリゾチニブ群で0例、化学療法群で2例であった。
考察/結論
先行研究との違い: PROFILE 1014試験は、未治療のALK陽性NSCLC患者に対する一次治療として、クリゾチニブが標準化学療法 (ペメトレキセドとプラチナ製剤の併用) に対してPFSとORRにおいて有意な優越性を示した初の第III相試験である。この結果は、ALK陽性NSCLCにおける一次治療の標準を確立した歴史的な意義を持つ。先行研究であるPROFILE 1007試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2013) では、既治療患者におけるクリゾチニブの有効性が示されたが、本研究は一次治療での優越性を明確に示した点で異なる。一次治療でのPFS中央値10.9ヶ月、ORR 74%は、二次治療での7.7ヶ月、65%よりも優れており、クリゾチニブをより早期に投与するメリットが示唆された。この差は、ALK陽性癌細胞が化学療法による選択圧を受ける前により均質な状態で存在し、ALK阻害がより効果的に機能する可能性を示唆している。本試験のPFS改善度 (HR 0.45; 95% CI 0.35-0.60; P<0.001) は、EGFR-TKIの一次治療試験 (例: Mok et al. NEnglJMed 2009のHR 0.48、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010のHR 0.49) と類似した水準であり、ALK-TKIがEGFR-TKIと同様に分子標的治療薬として高い有効性を持つことを裏付けている。
新規性: 本研究で初めて、未治療のALK陽性NSCLC患者においてクリゾチニブが標準化学療法と比較してPFS、ORR、肺癌症状の軽減、およびQOLの改善において優れていることが大規模な無作為化試験で実証された。これにより、ALK陽性NSCLCの一次治療におけるクリゾチニブの優位性が確立され、臨床現場での治療選択に大きな影響を与えた。化学療法対照群のORR 45%は、一般的なNSCLC集団での一次治療ORR (約30%) よりも高く、ALK陽性NSCLC (腺癌が94%を占める) に対するペメトレキセドベース化学療法の相対的感受性の高さを新規に確認した所見である。
臨床応用: 本試験の結果は、ALK陽性NSCLC患者の一次治療としてクリゾチニブを強く支持するものであり、2015年以降の国際的な診療ガイドライン (NCCN、ESMOなど) においてクリゾチニブが推奨される根拠となった。患者報告アウトカムの改善は、クリゾチニブが単に疾患を制御するだけでなく、患者の生活の質を向上させるという臨床的意義を持つことを示している。クリゾチニブの視覚障害や消化器症状は主にGrade 1〜2であり、化学療法に比べて骨髄抑制関連の重篤な有害事象が少ないことから、忍容性も良好であると評価された。
残された課題: 本試験のOS中央値が両群で未到達かつ有意差が認められなかった (HR 0.82; 95% CI 0.54-1.26; P=0.36) という結果は、化学療法群の70%という高いクロスオーバー率と観察期間の短さ (中央値約17ヶ月、死亡26%) によるものと考えられる。有効なALK阻害剤が後続治療で使用されることで、ITT集団でのOS解析が希釈されるという問題は、EGFR-TKIの第III相試験でも同様に観察されており、今後の検討課題である。また、クリゾチニブのCNS転移に対する限定的なコントロール (頭蓋内進行率が両群で15%と同等) は、その後の第II世代ALK阻害薬 (例: アレクチニブ、ブリガチニブ、ロルラチニブ) が一次治療でクリゾチニブを上回る有効性、特にCNS転移制御において顕著な優位性を示す主要な動機となった。これらの次世代ALK阻害薬は、本試験後に実施されたALEX試験 (アレクチニブ vs クリゾチニブ) などでクリゾチニブを大きく上回るPFS延長を示し、現在のガイドラインでは一次治療として優先的に推奨されている。したがって、本試験はALK陽性NSCLCの一次治療の標準を確立した基盤試験として、その後の次世代ALK-TKI開発の比較対照となる歴史的役割を果たしたが、より効果的な治療法の開発という残された課題を浮き彫りにした。
方法
本研究は、国際多施設共同無作為化非盲検第III相試験 (PROFILE 1014、ClinicalTrials.gov識別子: NCT01154140) として実施された。2011年1月から2013年7月にかけて、合計343例の患者が無作為に割り付けられた。データカットオフは2013年11月30日であった。
患者選択基準: 組織学的または細胞学的に確認された局所進行、再発、または転移性の非扁平上皮NSCLC患者で、Vysis ALK Break Apart FISH Probe Kit (Abbott Molecular) を用いた中央判定によりALK再構成陽性であることが確認された。全身化学療法歴がないこと、年齢18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が0〜2、RECIST v1.1基準 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) で測定可能病変を有すること、および十分な肝機能、腎機能、骨髄機能を有することが求められた。治療済みの脳転移を有する患者も、神経学的に2週間以上安定しており、グルココルチコイドを継続的に必要としない場合は組み入れ可能であった。全ての患者は書面によるインフォームドコンセントを提出した。
治療割り付け: 343例の患者は、1:1の割合でクリゾチニブ群 (n=172) または化学療法群 (n=171) に無作為に割り付けられた。クリゾチニブ群の患者には、クリゾチニブ250 mgを1日2回経口投与した。化学療法群の患者には、ペメトレキセド500 mg/m²とシスプラチン75 mg/m²またはカルボプラチン (AUC 5〜6 mg/mL/min) を3週ごとに最大6サイクル静脈内投与した。プラチナ製剤の選択は担当医師に委ねられた (シスプラチン91例、カルボプラチン78例)。化学療法終了後のペメトレキセド維持療法は、試験開始時点では標準的なアプローチではなかったため実施されなかった。
層別化因子: 無作為化は、ECOG PS (0または1 vs 2)、人種 (アジア人 vs 非アジア人)、および脳転移の有無によって層別化された。
評価項目: 主要評価項目は、独立評価委員会 (IRC) がRECIST v1.1基準に基づいて評価したPFSであった。副次評価項目には、ORR、OS、安全性、および患者報告アウトカムが含まれた。腫瘍評価は、スクリーニング時、治療中は6週ごと、治療終了後のフォローアップ訪問時 (6週ごと) にRECIST定義の疾患進行まで実施された。脳転移および骨転移のモニタリングのため、脳および骨スキャンは12週ごとに繰り返された。全ての画像は、治療群を盲検化された放射線科医による中央独立評価に提出された。
統計解析: 229件の進行または死亡イベントが発生した場合、本研究はクリゾチニブ群が化学療法群に対してPFSを50%改善する (6ヶ月から9ヶ月へ) ことを検出する85%の検出力を有すると推定された (片側α=0.025)。PFSおよびOSの群間比較には、ベースラインの層別化因子で層別化した両側ログランク検定が用いられ、ハザード比の推定には層別化Cox回帰モデルが適用された。化学療法群におけるクリゾチニブへのクロスオーバーの影響を評価するため、プロトコルで事前に規定された通り、OSはrank-preserving structural failure time modelを用いて解析された。ORRの比較には、両側層別化Cochran-Mantel-Haenszel検定が用いられた。安全性評価は、少なくとも1回治験薬を投与されたas-treated集団で実施された。安全性結果は、化学療法群の治療期間が短いことによる調整は行われなかった。患者報告アウトカムは、ベースライン評価と少なくとも1回のベースライン後評価を受けたITT集団の患者で評価された。