• 著者: Shaw AT, Kim DW, Nakagawa K, Seto T, Crinò L, Ahn MJ, De Pas T, Besse B, Solomon BJ, Blackhall F, Wu YL, Thomas M, O’Byrne J, Scott V, Frewer P, Botwood N, Selaru S, Boral A, Dix D, Luo Z, Wilner KD, Mok T, Camidge DR
  • Corresponding author: Shaw AT (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-06-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23724913

背景

ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は、非小細胞肺癌 (NSCLC) の約5%に認められる分子サブタイプであり、世界中で年間60,000例以上のALK陽性NSCLC患者が存在すると推定されている。このALK再構成は、特定のチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) に対する感受性を示すことが知られている。クリゾチニブは、ALK、MET、ROS1を標的とする経口TKIであり、初期の単一施設研究 (PROFILE 1001/1005) において、ALK陽性NSCLC患者に対して奏効率約60%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値8〜10ヶ月という顕著な抗腫瘍活性が報告されていた Kwak et al. NEnglJMed 2010。しかし、これらの先行研究は単群試験であり、既治療ALK陽性NSCLC患者を対象とした標準化学療法との前向き無作為化比較試験は存在せず、クリゾチニブの生存改善効果は未確立であった。

当時の標準的な単剤化学療法は、一般NSCLC患者において奏効率10%以下、PFS中央値2〜3ヶ月と報告されており Shepherd et al. JClinOncol 2000、ALK陽性NSCLCにおける化学療法の有効性は未解明な点が残されていた。一部の後ろ向き研究では、ALK陽性NSCLCがペメトレキセドに対して一般NSCLC集団よりも高い感受性を示す可能性が示唆されていたが、その効果は限定的である可能性も指摘されていた Hanna et al. JClinOncol 2004。このため、クリゾチニブが標準化学療法と比較して優越性を示すか否かを検証する大規模な前向き試験が不足しており、ALK陽性NSCLCの治療戦略を確立するためのエビデンスが求められていた。本試験 (PROFILE 1007) は、既治療ALK陽性NSCLCに対する最初の第III相無作為化比較試験として計画され、この知識のギャップを埋めることを目的とした。

目的

本試験の主要な目的は、プラチナ製剤を含む一次化学療法後に病勢進行した既治療のALK陽性進行NSCLC患者において、クリゾチニブが標準化学療法 (ペメトレキセドまたはドセタキセル) と比較して、独立評価委員会 (IRC) による無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長するかどうかを検証することであった。副次評価項目として、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、安全性プロファイル、および患者報告アウトカム (QOLおよび症状コントロール) を評価し、クリゾチニブの全体的な臨床的有用性を確立することを目指した。

結果

無増悪生存期間 (PFS) の優越性: 347例のITT (intention-to-treat) 集団において、データカットオフ時点 (2012年3月30日) までに227例が病勢進行または死亡した。独立評価委員会 (IRC) 評価によるPFS中央値は、クリゾチニブ群で7.7ヶ月 (95% CI 6.0-8.8) であったのに対し、化学療法群では3.0ヶ月 (95% CI 2.6-4.3) であった。クリゾチニブは化学療法と比較して、病勢進行または死亡のリスクを統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるレベルで低下させた (HR 0.49; 95% CI 0.37-0.64; p<0.001)。この優越性は、ペメトレキセドとの比較 (HR 0.59; 95% CI 0.43-0.80; p<0.001) およびドセタキセルとの比較 (HR 0.30; 95% CI 0.21-0.43; p<001) のいずれのサブグループにおいても一貫して認められた (Figure 1B)。ベースライン特性や層別化因子で定義された全てのサブグループ解析においても、クリゾチニブのPFS延長効果は一貫していた。データカットオフ時点で、クリゾチニブ群の49%、化学療法群の16%が試験治療を継続中であった。クリゾチニブ群では58例がRECIST進行後も治療を継続し (中央値15.9週)、化学療法群の17例 (中央値6.9週) よりも長期間であった。

客観的奏効率 (ORR) の大幅な改善: IRC確認によるORRは、クリゾチニブ群で65% (95% CI 58-72) であったのに対し、化学療法群では20% (95% CI 14-26) と、クリゾチニブ群で統計学的に有意に高かった (p<0.001)。クリゾチニブ群の内訳は、完全奏効 (CR) 1例 (1%)、部分奏効 (PR) 112例 (65%)、安定 (SD) 32例 (18%)、病勢進行 (PD) 11例 (6%) であった。一方、化学療法群ではCR 0例、PR 34例 (20%)、SD 63例 (36%)、PD 60例 (34%) であった (Table 2)。as-treated集団では、クリゾチニブ群のORRは66%であったのに対し、ペメトレキセド群では29%、ドセタキセル群では7%と、特にドセタキセルとの差が顕著であった。奏効期間 (DOR) 中央値はクリゾチニブ群で32.1週 (約7.4ヶ月) であり、化学療法群の24.4週 (約5.6ヶ月) と比較して長かった。奏効までの期間 (time to response) 中央値は、クリゾチニブ群で6.3週、化学療法群で12.6週であり、クリゾチニブではより迅速な奏効が得られた。

全生存期間 (OS) の暫定解析: データカットオフ時点でのOS暫定解析では、クリゾチニブ群で49例 (28%)、化学療法群で47例 (27%) の死亡が確認された。これは最終OS解析に必要なイベント数の40%に相当する。OS中央値はクリゾチニブ群で20.3ヶ月 (95% CI 18.1-未到達) であったのに対し、化学療法群では22.8ヶ月 (95% CI 18.6-未到達) であり、統計学的に有意な差は認められなかった (HR 1.02; 95% CI 0.68-1.54; p=0.54)。化学療法群の174例中112例 (64%) が、病勢進行後にクリゾチニブへのクロスオーバーを経験したことが、この結果の主要な交絡因子であると考えられた。化学療法群の20% (34例) は化学療法中止後にクリゾチニブを受けず、そのうち13例は化学療法中またはフォローアップ治療開始前に死亡した。

患者報告アウトカム (QOL) の改善: EORTC QLQ-C30およびQLQ-LC13を用いた患者報告アウトカムの評価では、クリゾチニブ群は化学療法群と比較して、脱毛、咳嗽、呼吸困難、疲労、胸痛、腕/肩の痛み、その他の疼痛の減少において有意に優れていた (P<0.001、多重比較補正なし)。全体的なQOLの改善もクリゾチニブ群で有意に大きく (P<0.001)、サイクル4ではベースラインから10点以上の臨床的意義のある改善が観察された (Figure 2A)。咳嗽、呼吸困難、胸痛の複合エンドポイントによる症状悪化までの期間 (time to deterioration) 中央値は、クリゾチニブ群で5.6ヶ月、化学療法群で1.4ヶ月であり (HR 0.54; 95% CI 0.40-0.71; p<0.001)、クリゾチニブが症状コントロールにおいても大きく優れていることが示された (Figure 2B)。

安全性プロファイル: 安全性解析はas-treated集団343例で実施された。クリゾチニブ群の治療期間中央値は31週であり、化学療法群の12週よりも長かった。クリゾチニブ群で化学療法群より5%以上高頻度に認められた有害事象は、視覚障害 (60% vs 9%、ほとんどがgrade 1-2)、下痢 (60% vs 19%、grade 3-4は0%)、悪心 (55% vs 37%、grade 3-4は1%)、嘔吐 (47% vs 18%)、便秘 (42% vs 23%)、アミノトランスフェラーゼ上昇 (38%、grade 3-4は16%)、浮腫 (31%) であった (Table 3)。アミノトランスフェラーゼ上昇の1例では、Hy’s law基準を満たし致死的な肝不全に至った。化学療法群で高頻度であった有害事象は、疲労 (33%、grade 3-4は4%)、脱毛 (20%)、呼吸困難 (19%、grade 3-4は3%)、発疹 (17%) であった。Grade 3-4の有害事象の発現率は両群でほぼ同等 (クリゾチニブ33% vs 化学療法32%) であった。治療関連重篤有害事象もほぼ同等 (12% vs 14%)。治療中止率はクリゾチニブ群6% vs 化学療法群10%であった。クリゾチニブ群では間質性肺疾患/肺炎が3例 (2%) に発生し、うち2例が致死的であった。クリゾチニブ群の治療関連死は3例 (心室性不整脈1例、間質性肺疾患/肺炎2例) であった。化学療法群では敗血症による治療関連死が1例報告された。Grade 3-4の好中球減少はクリゾチニブ群13% vs 化学療法群19%であり、発熱性好中球減少症は化学療法群で16例に対しクリゾチニブ群で1例と少なかった。

考察/結論

先行研究との違い: 本試験 (PROFILE 1007) は、ALK陽性NSCLC既治療患者においてクリゾチニブが標準化学療法と比較してPFS (HR 0.49; 95% CI 0.37-0.64; p<0.001) およびORR (65% vs 20%; p<0.001) で有意な優越性を示すことを示した初の第III相無作為化試験である。これは、先行した単群研究 (PROFILE 1001/1005) でのORR約60%・PFS 8〜10ヶ月という結果を、対照群との比較という形で再現した点で歴史的意義がある。ドセタキセル群のPFS中央値2.6ヶ月という成績は、一般NSCLC集団と同等であり、ALK陽性であることがドセタキセル感受性を高めないことを示した点で、これまでの仮説と異なっていた。一方、ペメトレキセドのORR 29%は一般NSCLC腺癌集団 (12.8%) より高く、後ろ向き研究で示唆されたALK陽性NSCLCのペメトレキセド感受性増強が確認された。しかし、ペメトレキセドのPFS中央値4.2ヶ月はクリゾチニブの7.7ヶ月に大きく劣っており、ペメトレキセドがクリゾチニブの代替とはなりえないことが明確に示された。

新規性: 本研究で初めて、ALK陽性という特定の分子サブタイプに特化した治療薬が、標準化学療法に対してPFS、ORR、QOLの全てにおいて優越性を示すことを大規模前向き試験で確立した。これは、個別化医療の概念がNSCLC治療において極めて重要であることを新規に実証したものである。特に、患者報告アウトカムにおいてクリゾチニブが症状の軽減とQOLの改善をもたらすことが示された点は、これまでの化学療法では得られなかった新規の知見である。

臨床応用: 本試験の結果は、クリゾチニブが既治療ALK陽性NSCLC患者の標準治療となる強力な根拠を提供し、2013年のFDA正式承認の基盤となった。本知見は、ALK陽性NSCLC患者の治療戦略を大きく変革し、より効果的でQOLを維持できる治療選択肢を臨床現場にもたらした。OS暫定解析で有意差が認められなかったものの、クリゾチニブ群のOS中央値20.3ヶ月、化学療法群の22.8ヶ月という絶対値は、いずれの順序でクリゾチニブが投与されても高い生存が維持されることを示唆しており、クリゾチニブへの曝露が生存改善に貢献する可能性を臨床的に示唆する。

残された課題: 本試験のOS暫定解析で有意差が認められなかった主要な理由として、化学療法群の64%という高いクロスオーバー率が主要な交絡因子として機能したと考えられる。これは、EGFR陽性NSCLCにおけるEGFR-TKIの第III相試験 (例: Maemondo et al. NEnglJMed 2010, Rosell et al. LancetOncol 2012) と同様の課題である。今後の検討課題として、クリゾチニブのCNS転移に対する有効性が限定的であること (血液脳関門透過性の低さ)、後天的な耐性メカニズム (ALKキナーゼドメイン変異、ALKコピー数増加、バイパス経路活性化など) の克服、および第2世代ALK阻害薬 (セリチニブ、アレクチニブなど) へのシームレスな移行戦略の確立が残されている。また、クリゾチニブの重篤な副作用であるアミノトランスフェラーゼ上昇 (grade 3-4: 16%) と間質性肺疾患 (grade 3以上: 2%、うち2例致死) については、継続的なモニタリングと適切な管理が今後の課題である。本試験は2次治療における標準を確立したが、次のステップとして未治療患者への1次治療応用を検証するPROFILE 1014試験へと連なった。

方法

本研究は、国際多施設共同無作為化非盲検第III相試験 (PROFILE 1007、ClinicalTrials.gov: NCT00932893) として実施された。2010年2月から2012年2月にかけて、合計4,967例の患者がスクリーニングされ、そのうち347例が本試験に無作為に割り付けられた。

患者選択基準: 対象患者は、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法による中央判定でALK陽性と確認された局所進行または転移性NSCLC患者であった。主要な組み入れ基準には、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) 0〜2、およびプラチナベースの一次化学療法後に病勢進行した既往が含まれた。安定した脳転移を有する患者 (治療済みまたは未治療で無症候性) も組み入れ可能であった。全ての患者は書面によるインフォームドコンセントを提供した。

無作為化と治療: 347例の患者は、1:1の比率でクリゾチニブ群 (n=173) または化学療法群 (n=174) に無作為に割り付けられた。クリゾチニブ群の患者は、クリゾチニブ250 mgを1日2回経口投与された。化学療法群の患者は、ペメトレキセド (500 mg/m²) またはドセタキセル (75 mg/m²) のいずれかを3週ごとに静脈内投与された。化学療法の選択は、以前のレジメンにペメトレキセドが含まれていない限りペメトレキセドが優先され、扁平上皮癌の組織型を持つ場合はドセタキセルが選択された。無作為化は、ECOG PS (0-1 vs. 2)、脳転移の有無、および上皮成長因子受容体 (EGFR) TKI前治療歴の有無によって層別化された。化学療法群の患者で病勢進行が確認された場合、別の試験 (NCT00932451) の一部としてクリゾチニブへのクロスオーバーが許可された。

評価項目: 主要評価項目は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1に基づき、独立放射線科医による中央判定で評価されたPFSであった Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。副次評価項目には、OS、ORR、安全性 (有害事象はCommon Terminology Criteria for Adverse Events v4.0で分類・評価)、および患者報告アウトカム (EORTC QLQ-C30およびその肺癌モジュールQLQ-LC13を用いて評価) が含まれた Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993

統計解析: 統計学的検出力は、クリゾチニブ群のPFS中央値7.0ヶ月に対し化学療法群4.5ヶ月と仮定した場合、217件の病勢進行または死亡イベントで90%の検出力を有するよう設計された (片側α=0.025)。PFSおよびOSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間比較には層別ログランク検定が、ハザード比 (HR) の推定には層別Cox回帰モデルが用いられた。ORRの比較には層別Cochran-Mantel-Haenszel検定が用いられた。患者報告アウトカムは、反復測定混合効果モデルを用いて評価された。 患者のベースライン特性は両群間で良好にバランスが取れており、年齢中央値はクリゾチニブ群51歳、化学療法群49歳であった。非喫煙者が62〜64%、腺癌が94〜95%、脳転移を有する患者が34〜35%を占めた。