- 著者: Yang Y, Zhou J, Zhou J, Feng J, Zhuang W, Chen J, Zhao J, Zhong W, Zhao Y, Zhang Y, Song Y, Hu Y, Yu Z, Gong Y, Chen Y, Ye F, Zhang S, Cao L, Fan Y, Wu G, Guo Y, Zhou C, Ma K, Fang J, Feng W, Liu Y, Zheng Z, Li G, Wu N, Song W, Liu X, Zhao S, Ding L, Mao L, Selvaggi G, Yuan X, Fu Y, Wang T, Xiao S, Zhang L
- Corresponding author: Zhang L (Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou, China)
- 雑誌: Lancet Respiratory Medicine
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-10-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 31628085
背景
ALK遺伝子再構成はNSCLCの約5%に認められ、EML4-ALK融合が最も一般的な亜型として同定されている。ALKを標的とした第一世代TKI (チロシンキナーゼ阻害剤) のクリゾチニブは、ALK陽性NSCLCに対して化学療法より優れた有効性を示したが、ほとんどの患者は1年以内に耐性を獲得し、約50%がCNS (中枢神経系) 進行を経験する。これはクリゾチニブの血液脳関門 (BBB) 透過性が低いことに起因する (Shaw et al. NEnglJMed 2013)。
クリゾチニブ耐性後の治療として、第二世代・第三世代のALK阻害薬が開発された。ASCEND-2試験でセリチニブはクリゾチニブ後のORR (客観的奏効率) 39%・PFS (無増悪生存期間) 中央値5.7ヶ月を、NP28761/NP28673のプール解析でアレクチニブはORR 51%・PFS 8.3ヶ月を、ALTA試験でブリガチニブは180 mg用量でORR 54%・PFS 12.9ヶ月をそれぞれ達成した。しかし、二次的ALK変異はクリゾチニブ耐性の約50%を占め、各ALK阻害薬はカバーする変異スペクトルが固有であり、次治療の最適選択のためには各薬剤の変異別活性プロファイルを明確にすることが重要とされた (Gainor et al. CancerDiscov 2016)。
エンサルチニブ (X-396、Betta Pharmaceuticals) は酵素アッセイでクリゾチニブの10倍以上の効力を持つ新規小分子ALK阻害薬であり、前臨床試験でF1174・C1156Y・G1269A・L1196M・S1206R・T1151などの既知クリゾチニブ耐性変異への活性が確認されていた。米国での第I/II相試験 (Horn 2018) ではクリゾチニブ後患者においてORR 69%・PFS中央値9ヶ月、中国の第I相試験 (Fang 2018) では14例中9例 (64%) に奏効が報告され、225 mg QDが推奨用量として確立された。しかし、大規模かつアジア人を主体とするコホートでのエンサルチニブの有効性・安全性の系統的評価は未確立であり不足していた。特に、血漿ゲノタイピングを用いたクリゾチニブ耐性変異別の奏効率との前向き相関解析が行われておらず、変異スペクトルに基づく患者選択の根拠が未解明のままであった。各ALK変異サブグループでのエンサルチニブ感受性データが不足していたため、どの変異プロファイルを持つ患者に最も有益かを示すバイオマーカーエビデンスが確立されていないことが本試験の直接的な動機となった。
目的
クリゾチニブ耐性ALK陽性進行NSCLCを対象に、エンサルチニブ225 mg QDの有効性 (主要評価項目: IRC評価ORR)、頭蓋内ORR、PFS、OS (全生存期間)、安全性を中国多施設共同試験で評価し、クリゾチニブ耐性変異別の有効性との相関をバイオマーカー解析として前向きに探索すること。
結果
全身性奏効 (主要評価項目):
全160例が少なくとも1回エンサルチニブを投与され安全性解析集団 (n=160) に含まれた。4例が包含基準逸脱で除外され、FAS (full analysis set; 主要評価集団) はn=156。このうちIRC評価が可能であったn=147の患者において、確定奏効 (全例PR [partial response]) が76例に認められ、IRC評価ORR 52% [95% CI: 43-60%] vs 治験担当医師評価ORR 51% [95% CI: 43-59%] と両評価で一致した (Table 2)。CR (complete response) は0例、SD (stable disease) 61例 (41%)、PD (progressive disease) 10例 (7%)。DCRは93% (88-97%)、奏効までの期間中央値は1.3ヶ月 (IQR [interquartile range]: 1.2-1.5)。少なくとも1回のベースライン後腫瘍評価が可能であったn=147のうち121例 (82%) でベースラインからの腫瘍縮小が確認された (Figure 1)。治験担当医師評価でもORR 75/147例 (51%)、DCR 138/147例 (94%、89-97%) と同様の結果であった。
生存・奏効期間:
FAS n=156においてPFS中央値は9.6ヶ月 (95% CI 7.4-11.6) であった (Figure 2)。データカットオフ時点で96例 (62%) が増悪または死亡イベントに到達した。OS中央値は未到達であり、死亡イベントは27件のみの記録に留まった。データカットオフ時点で147例中38例 (26%) が後治療を受けており、標的療法 (n=27)、化学療法 (n=16)、放射線療法 (n=10)、その他 (n=6) が含まれた。
頭蓋内奏効 (脳転移患者):
FAS n=156のうち97例 (62%) がベースラインに脳転移を有した (Table 1)。脳転移97例中40例 (41%) がIRC評価で測定可能であり、これがintracranial (頭蓋内) 奏効解析の主要対象となった。IRC評価による頭蓋内ORRは28/40例 (70%、95% CI 53-83%)、頭蓋内DCRは39/40例 (98%、87-100%) であった (Table 3)。放射線療法歴ありサブグループ (n=8) vs なしサブグループ (n=32) の頭蓋内ORRはそれぞれ88% [95% CI: 47-100%] vs 66% [95% CI: 47-81%] であり、放射線療法歴によらず高い頭蓋内奏効が示された。頭蓋内DOR中央値は8.6ヶ月 (95% CI 6.4-NR [not reached])。FAS全体ではCNS進行が36例 (23%) に認められ、うち32例 (33%) はベースライン脳転移保有患者であった。
バイオマーカー解析 (ALK変異と有効性の相関):
IRC評価可能例n=147のうち75例 (51%) でALK融合遺伝子がベースライン血漿ゲノタイピングで検出された。75例中70例 (93%) がEML4-ALK融合であり、V1 (Variant 1、26例)・V2 (Variant 2、12例)・V3 (Variant 3、24例) の順に多かった。残る5例はALK-HIP1 (n=2)、ALK-KIF5B (n=1)、ALK-PPFIBP1 (n=1)、ALK-DCHS1 (n=1) であった (Table 4)。45例 (31%) に二次的ALK変異 (点変異または増幅) が確認された。バイパスシグナル関連変異 (KRAS・EGFR・PIK3CA・ERBB2) は5例 (3%) に認められた。
変異別ORRは大きく異なった。F1174 (F1174L n=6・F1174V n=1、計n=7): ORR 5/7例 (71%)、C1156Y (n=7): ORR 5/7例 (71%)、G1269A (n=6): ORR 4/6例 (67%)、T1151 (T1151R n=1・T1151M n=2、計n=3): ORR 2/3例 (67%) と高い感受性を示した。I1171 (n=4): ORR 2/4例 (50%)、L1152 (n=4): ORR 2/4例 (50%)。対照的にL1196M (n=12) はORR 3/12例 (25%) と最も低く、G1202R (n=6) はORR 2/6例 (33%) に留まった。二次ALK変異全体では20/45例 (44%)、ALK融合検出例では43/75例 (57%)、耐性機構未検出例では56/98例 (57%) のORRであった。バイパスシグナル変異5例 (KRAS 2例、EGFR 1例、PIK3CA 1例、ERBB2 1例) では奏効なし (0/5) であった。測定可能脳転移40例について、二次ALK変異保有n=14では頭蓋内ORR 9/14例 (64%)、変異未検出n=26では頭蓋内ORR 19/26例 (73%) であり、頭蓋内応答は変異の有無によらず高い水準を維持した。
安全性 (n=160):
145例 (91%) に少なくとも1件の治療関連有害事象 (TRAE) が認められた (Table 5)。全グレードTRAEで最多は皮疹 (rash) 89例 (56%、Grade 3-4: 9例 [6%])、次いでALT (alanine aminotransferase) 上昇74例 (46%、Grade 3-4: 10例 [6%])、AST (aspartate aminotransferase) 上昇65例 (41%、Grade 3-4: 4例 [3%])、クレアチニン上昇30例 (19%)、便秘29例 (18%)、そう痒感28例 (18%)、顔面浮腫25例 (16%、Grade 3-4: 7例 [4%])。Grade 3のTRAEは36例 (23%) に認められ、Grade 4のTRAEは報告されなかった。用量減量を要したのは19例 (12%)、用量中断は24例 (15%)、副作用による投与中止は8例 (5%、うち治療関連毒性による中止は4例: 肝機能異常2例・膿疱性発疹1例・胸水1例)。重篤な有害事象は41例 (26%) に、治療関連重篤有害事象は12例 (8%) に認められた。死亡有害事象は4例 (3%) であったが、いずれも治療との関連はないと判定された。ILD (間質性肺疾患) やQTc延長の臨床的に重要な事例は報告されなかった。体重増加は1例 (1%、Grade 1) のみであった。
患者報告アウトカム (Lung Cancer Symptom Scale) では、多くの患者が治療中に症状負担スコアの改善 (ベースラインから≥10点の改善) または安定 (変化量<10点) を示し、症状負担スコアの平均変化量は-12.2から0.5の範囲であった。
考察/結論
本試験は中国27施設を主体とするアジア人コホートにおいてエンサルチニブのクリゾチニブ後活性を大規模に確認した。IRC評価ORR 52% (95% CI 43-60%)・PFS中央値9.6ヶ月・頭蓋内ORR 70% (53-83%) という結果は、既報の第二世代ALK阻害薬と比較して臨床的に意義ある水準にある。既報のASCEND-2試験ではセリチニブのクリゾチニブ後ORRは39%・PFS 5.7ヶ月 (95% CI 5.4-7.6) であり、本試験のエンサルチニブはこれらとは異なり数値的に上回る結果を示した。アレクチニブのNP28761/NP28673プール解析 (ORR 51%・PFS 8.3ヶ月 [7.0-11.3]) とはほぼ同等であり、ALTA試験のブリガチニブ180 mg (ORR 54%・PFS 12.9ヶ月 [11.1-NR]) と比較するとPFSはやや短い傾向があった。なお、第三世代阻害薬ロルラチニブはクリゾチニブ後のORR 73% (60-84%) を示しているが (Solomon et al. LancetOncol 2018)、ロルラチニブは第二世代阻害薬耐性後の重要なサルベージ療法でもあり、クリゾチニブ後にロルラチニブを使用することの適否は現在も議論がある。
新規の知見として、エンサルチニブが他のALK阻害薬と異なる固有の変異感受性スペクトルを持つことが前向きバイオマーカー解析で明確化された。F1174・C1156Y変異への71%という高い奏効率は特に重要であり、これらはセリチニブやアレクチニブの耐性変異としても知られる変異であることから、エンサルチニブがシーケンシャルALK阻害薬療法の選択肢を拡大する可能性を示す新規の根拠となった。T1151・G1269A変異への67%という高い奏効率も同様に、エンサルチニブ固有の活性プロファイルを支持する。G1202Rへの活性は限定的 (33%、2/6例) であり、ロルラチニブがこの変異に対して強力な活性を示すことから、変異別の薬剤選択における情報として有用である。L1196Mへの低活性 (25%) は一部の前臨床データとは相違する予想外の所見であり、ATPポケットのゲートキーパー変異が単独でなく複合的な耐性機構と関連している可能性が示唆された。バイパスシグナル変異 (EGFR・KRAS・PIK3CA) を有する患者での奏効不良は、クリゾチニブ耐性時の再生検・liquid biopsy (液体生検) により耐性機構を同定することの臨床的意義を裏付けている。
臨床応用の観点では、頭蓋内ORR 70%という高率は、脳転移を高頻度に合併するALK陽性NSCLCにおいてエンサルチニブが臨床現場での有力な選択肢となり得ることを示す。エンサルチニブのCSF (脳脊髄液) 濃度が血漿の約1.7%で、平均定常状態トラフCSF濃度が野生型ALKおよび主要変異のIC50 (半数阻害濃度) の15倍以上に達するという薬物動態データが、この頭蓋内活性の薬理学的根拠を裏付ける。放射線療法歴や二次ALK変異の有無によらず頭蓋内ORRが60%以上を維持した点は、脳転移組織生検が困難な状況でも使用できるという臨床的意義を持つ。安全性プロファイルについては、皮疹が最も一般的なTRAEとしてエンサルチニブの特徴的な副作用であり、ALK阻害薬特有の設計として皮膚濃度が血漿の約9倍に達することが関連すると推察された。他のALK阻害薬で頻度が高い下痢 (セリチニブ57-85%・ブリガチニブ19-49%・アレクチニブ19-45%) はエンサルチニブでは3%に留まり、副作用プロファイルの違いは他剤不耐患者への代替選択肢としての可能性を示す。エンサルチニブは本試験を根拠として2020年に中国でクリゾチニブ後の2次治療として承認された。
残された課題として、本試験では腫瘍組織生検ではなく血漿ゲノタイピングのみでバイオマーカー解析を実施しており、liquid biopsyの偽陰性が変異検出率および変異別奏効率の解釈に影響を与えた可能性がある。また、エンサルチニブ耐性時の耐性機構は定義されておらず、継続的なliquid biopsyによる探索が今後の検討課題として挙げられている。各ALK変異サブグループのn数が少ない (最大n=12) ため、変異別奏効率の解釈には統計的な制約がある点もlimitationである。さらに、他の第二世代ALK阻害薬 (アレクチニブ・ブリガチニブ) 耐性後にエンサルチニブが有効かどうかは本試験では評価されておらず、セリチニブ耐性変異 (F1174・C1156Y) やアレクチニブ耐性変異 (I1171T) への活性を示す初期所見はfuture researchとしてさらなる検証が必要と述べられている。1次治療としてのエンサルチニブの位置づけはeXalt3試験 (NCT02767804、エンサルチニブ vs クリゾチニブ比較第III相) の結果によって明確化されることが期待される。
方法
中国27施設で実施された単群非盲検第II相試験 (NCT03215693)。適格患者はALK陽性 (Ventana IHC [免疫組織化学]、RT-PCR [逆転写PCR]、またはFISH [蛍光in situハイブリダイゼーション] で確認) のステージIIIbまたはIV NSCLC、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0-2、クリゾチニブ投与中の増悪 (ウォッシュアウト期間≥7日)、3次治療以内の患者とした。CNS転移は無症候性でステロイド不要な場合に登録可とし、クリゾチニブ以外のALK阻害薬の前治療は不可とした。
全患者がエンサルチニブ225 mg QD (once daily; 1日1回) を経口連続投与した。有害事象発生時の用量減量は200 mg/日または150 mg/日への2段階まで許容。腫瘍評価はRECIST v1.1に基づき、最初24週は6週毎、その後は9週毎にcontrast-enhanced CTおよびgadolinium-enhanced MRIで実施し、IRC (独立審査委員会) および治験担当医師が独立評価した。確定奏効は初回奏効確認から≥4週後の再確認を必要とした。バイオマーカー解析として、ベースライン血漿からQiagen QIAampキットでcfDNA (cell-free DNA) を抽出し、212遺伝子パネル (Repugene社、NGS、平均深度約20,000倍) で解析した。
主要評価項目はIRC評価ORR (RECIST v1.1)。副次評価項目はDCR (疾患制御率)、頭蓋内ORR (脳転移測定可能患者)、DOR (奏効期間)、PFS、OS、安全性、患者報告アウトカム (Lung Cancer Symptom Scale、EORTC QLQ-C30 [Quality of Life Questionnaire-Core 30]、QLQ-LC13)。統計解析はSAS version 9.4で実施。PFS・OSはKaplan-Meier法で推定、95% CIを算出した。サンプルサイズはPASS version 15.0.3で算出し、ORR 40% → 55%への向上を検出するために121例が必要と推定、脱落20%考慮で計画サンプルサイズ152例とした。2017年9月28日から2018年4月11日に160例を登録、データカットオフ (2019年4月29日) 時点の追跡期間中央値は294日 (IQR 125-420)。