- 著者: Justin F. Gainor, Leila Dardaei, Satoshi Yoda, Luc Friboulet ほか全 34 名 (筆頭: Gainor JF, Dardaei L 共同)
- Corresponding author: Alice T. Shaw, Jeffrey A. Engelman (Massachusetts General Hospital, Boston, USA)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-08-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 27432227
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は NSCLC (non-small cell lung cancer) の独立した分子サブタイプを規定し、EML4-ALK 融合遺伝子として初めて同定された。第1世代 ALK 阻害薬クリゾチニブはその後の第 III 相試験 (PROFILE 1007/1014) において化学療法に比べ客観的奏効率 (ORR) と無増悪生存 (PFS) を有意に改善し、ALK 陽性進行 NSCLC の標準治療として確立された (Shaw et al. NEnglJMed 2013; Solomon et al. NEnglJMed 2014)。しかしながら、ほぼ全例が概ね 1〜2 年以内にクリゾチニブ耐性を獲得する。これまでの進行時再生検研究により、耐性機序は on-target 機序 (ALK キナーゼドメイン変異・ALK 遺伝子増幅) と off-target 機序 (EGFR・KIT・IGF1R・SRC (Src proto-oncogene kinase)・MEK/ERK などのバイパス経路活性化) に分類されることが示されてきたが、クリゾチニブ耐性時に on-target 変異が検出される頻度は約3分の1に過ぎなかった。
セリチニブ・アレクチニブ・ブリガチニブなど複数の第2世代 ALK 阻害薬が開発され、クリゾチニブ耐性患者での ORR が 48〜71% に達することが示された (Shaw et al. NEnglJMed 2014)。これらはクリゾチニブ耐性変異をも一部克服できる一方、第2世代阻害薬への耐性もやはり不可避であった。しかし 2016 年時点では、第2世代 ALK 阻害薬耐性の分子機序に関する知見は in vitro 研究・症例報告・小規模シリーズに限られており、薬剤ごとの耐性変異スペクトルの違い・複合変異の出現頻度・EMT (epithelial-to-mesenchymal transition) などの off-target 機序の臨床的実態・第3世代 lorlatinib の有効性予測因子など、治療選択に直結する問いに対するエビデンスが手薄であった。また EGFR 変異 NSCLC の耐性時再生検研究 (Sequist et al. SciTranslMed 2011) と対照的に、逐次 ALK 阻害薬治療が複合変異の出現を促進するかどうかも不明であり、これらの点における gap in knowledge が本研究の出発点となった。
目的
ALK 陽性 NSCLC においてクリゾチニブ・セリチニブ・アレクチニブ・ブリガチニブの各 ALK 阻害薬耐性時の再生検検体を系統的に解析し、(1) 各薬剤に特有の耐性変異スペクトル、(2) 逐次 ALK 阻害薬治療による複合変異の出現頻度、(3) off-target 耐性機序 (バイパス経路・EMT など) の臨床的頻度、ならびに (4) 第3世代 ALK 阻害薬 lorlatinib の活性と予測的バイオマーカーを同定することを目的とした。
結果
クリゾチニブ耐性での on-target 変異の頻度と分布: クリゾチニブ耐性 55 検体を解析した結果、ALK キナーゼドメイン変異は 11 検体 (20%) に同定された (Fig. 1A)。最多変異は L1196M (ゲートキーパー変異、7%)、G1269A (4%) であり、C1156Y・G1202R・I1171T・S1206Y・E1210K がそれぞれ 2% に認められた。ALK FISH を施行したクリゾチニブ耐性 36 検体のうち 3 検体 (8.3%) に ALK 遺伝子増幅が確認され、増幅例と ALK 変異の同時存在はなかった。変異・増幅を合算した on-target 機序は評価可能 36 検体の 31% を占めた。この低い on-target 頻度は、クリゾチニブ耐性患者でも第2世代 ALK 阻害薬が ALK 変異の有無に関わらず 48〜71% の ORR を示す既報の臨床データと整合し、クリゾチニブの ALK 阻害が不完全であることを反映する。内因性耐性が疑われた 2 例 (初回評価で進行) には ALK 変異は認められなかった。
第2世代 ALK 阻害薬耐性における ALK 変異の高頻度化と G1202R の優位性: 第2世代 ALK 阻害薬耐性では ALK 変異頻度が顕著に上昇した (Fig. 2A): セリチニブ後 54% (13/24 検体)、アレクチニブ後 53% (9/17 検体)、ブリガチニブ後 71% (5/7 検体)、3 剤合算 56% (27/48 検体)。クリゾチニブ後 20% との差は P=0.0002 と高度に有意であった。最も注目すべき知見は G1202R (ソルベントフロント変異) が第2世代耐性後の最多変異として出現した点であり (Fig. 2B)、クリゾチニブ後 2% から、セリチニブ後 21%、アレクチニブ後 29%、ブリガチニブ後 43% と薬剤の強度に応じて段階的に増加した。G1202R のソルベントフロント領域への置換は嵩高い側鎖により第2世代阻害薬の結合を立体障害で阻害する。薬剤特異的変異パターンも明確であり、F1174C/L はセリチニブ後 17% に認められたがアレクチニブ後には検出されず、I1171T/N/S はアレクチニブ後 12% に優位であった (Table 1)。セリチニブ後検体の 17% (4/24) に 2 種以上の ALK 変異が同時検出された。
逐次 ALK 阻害薬治療による複合 ALK 変異のクローン進化: 第2世代 ALK 阻害薬耐性 48 検体のうち 6 検体 (12.5%) に 2 種以上の ALK 耐性変異の同時保有を確認し、全例がクリゾチニブ + 第2世代 ALK 阻害薬の両者の投与歴を有していた。患者 MGH086 では WES による縦断的クローン解析により、クリゾチニブ耐性時に E1210K 変異が出現 (cancer cell fraction CCF 0.82) し、その後のブリガチニブ投与中に同一クローンが E1210K + S1206C の複合変異を獲得し (Fig. 3B)、外科的切除後のさらなるブリガチニブ投与で E1210K + D1203N 複合変異へと進化した経過が記録された (Fig. 3C)。Ba/F3 モデルでは D1203N + E1210K および D1203N + F1174C の複合変異に対し、クリゾチニブ (IC50 153〜339 nmol/L)・セリチニブ (98〜238 nmol/L)・アレクチニブ (75〜83 nmol/L)・ブリガチニブ (123〜136 nmol/L) はいずれも活性を失った一方、lorlatinib は D1203N + E1210K に対して IC50 26.6 nmol/L の有意な活性を保持した (Fig. 6)。
Off-target 耐性機序:バイパス経路活性化と EMT の臨床的頻度: 組織量が十分だった 27 検体のうち 15 検体 (56%) に ALK 変異以外の遺伝子異常が認められ、TP53 変異が最多 (n=9、33%) であった。患者由来細胞株 MGH034-2A では MAP2K1 K57N 変異が同定され、MEK 阻害薬 AZD6244 との併用がセリチニブへの再感受性を回復させ MAPK 経路の関与が示された。MGH075-2E では 77 剤スクリーンでダサチニブのみがヒットし、SRC ファミリーキナーゼ依存性の関与が示唆された。EMT は 12 検体の IHC 評価で 5 検体 (42%) に認められ (ヴィメンチン陽性 + E-カドヘリン消失)、うち 3 例は ALK 耐性変異も同時保有していた (Fig. 5C)。代表例 MGH067 ではクリゾチニブ前のベースライン生検と比較し、セリチニブ耐性後生検でびまん性ヴィメンチン発現と E-カドヘリン消失が確認され EMT 獲得が示された。本シリーズでは SCLC (small cell lung cancer) への組織学的転換は 1 例も認められなかった (Fig. 5B)。
Lorlatinib の ALK 変異特異的感受性:予測的バイオマーカーとしての確立: Ba/F3 モデルによる系統的 IC50 評価では、lorlatinib は 14 種の単一 ALK 耐性変異すべてに対して他の ALK 阻害薬より低い IC50 を示した (Fig. 6)。特に G1202R に対して lorlatinib IC50 は 49.9 nmol/L であり、クリゾチニブ 381.6 nmol/L・セリチニブ 124.4 nmol/L・アレクチニブ 706.6 nmol/L・ブリガチニブ 129.5 nmol/L に比べ最も強力であった。患者由来細胞株 6 株を用いた増殖試験では、ALK 耐性変異保有 3 株 (MGH021-5A、MGH051-2C [ALK G1202R]、MGH084-1D [ALK I1171N + C1156Y]) が lorlatinib に感受性を示した一方、ALK 変異非保有 3 株 (MGH034-2A、MGH049-1A、MGH075-2E) は lorlatinib に対して GI50 >10,000 nmol/L と完全耐性であった (P=0.0014、Fig. 7E)。セリチニブ・アレクチニブはいずれも全 6 株において GI50 が 115 nmol/L から >10,000 nmol/L と不安定な活性に留まった。これらの結果から、第2世代 ALK 阻害薬耐性後の ALK 変異保有は腫瘍の ALK シグナル依存性継続を示すサロゲートであり lorlatinib 感受性を高精度で予測すること、逆に変異非保有は ALK 依存性の喪失を示し lorlatinib への耐性を予測することが示された (Fig. 7F)。
考察/結論
本研究は 103 例の多様な ALK 阻害薬耐性時再生検を対象とした当時最大規模の系統的解析であり、ALK 陽性 NSCLC における逐次治療アルゴリズムの分子的根拠を提供した。
既存研究との相違:第2世代耐性では on-target 変異が主役に: クリゾチニブ後の on-target 変異頻度 (~20%) は Doebele ら (CCR 2012) や Katayama ら (Sci Transl Med 2012) の既報と一致する。これと異なり第2世代 ALK 阻害薬後では 53〜71% と 2〜3 倍以上の高頻度を示した。このパターンは EGFR 変異 NSCLC での逐次 EGFR 阻害薬治療の経験 (Sequist et al. SciTranslMed 2011) に相当しており、より強力な標的阻害が on-target 耐性変異を選択的に増強することを臨床的に裏付ける。さらに、F1174 変異がセリチニブ後に優位でアレクチニブ後に不在、I1171 変異がアレクチニブ後に優位という薬剤特異的パターンは、各阻害薬の構造的結合様式が異なる選択圧を与えることを示唆しており、これまで報告されていない臨床上重要なエビデンスである。
新規の治療概念:ALK 変異ステータスに基づく lorlatinib 適応の決定: 本研究で初めて示された新規な発見は、「第2世代 ALK 阻害薬耐性後における ALK 変異の有無が lorlatinib 感受性の二分法的予測因子となる」という biomarker 仮説の確立である。変異保有 = ALK 依存性維持 = lorlatinib 有効、変異非保有 = ALK 非依存性 = lorlatinib 無効という図式は患者由来細胞株 6 株で明確に実証された。この概念はその後の lorlatinib 第 I/II 相試験での ORR 44% (変異保有患者でとりわけ奏効) によって臨床的に検証された。また複合変異に対しても lorlatinib が部分的活性を保持したことは、化学療法や BCR-ABL 阻害薬の場合と同様の意義をもち、upfront 強力阻害や combination therapy で複合変異出現を抑制する戦略の必要性を示している。
off-target 機序の臨床的意義:EMT と多様なバイパス経路: 本研究が臨床的に初めて示したもう一つの新規の知見は、第2世代 ALK 阻害薬耐性時に EMT が 42% (5/12 例) という高頻度で認められる点である。前臨床モデルでは EMT と ALK 阻害薬耐性の関連が指摘されていたが、患者検体での実証は本研究が初となる。EMT は ALK 変異と共存する場合も単独で存在する場合もあり、耐性機序の複合性を示す。また MAP2K1 変異・SRC 経路・PIK3CA 変異などの多様な off-target 経路が個別患者に存在することは、一律の後継治療では対応できない分子的多様性を示唆する。
臨床応用と再生検の重要性: 本研究の臨床的意義は、「第2世代 ALK 阻害薬耐性後の再生検を治療決定プロセスに組み込むべき根拠」を初めて明示した点にある。クリゾチニブ耐性後とは異なり、第2世代後では ALK 変異ステータスが bench-to-bedside で直接的な治療選択 (lorlatinib vs 非 ALK 標的治療) に反映される actionable 情報となる。Fig. 7F に示す治療スキーマは現在の ALK 陽性 NSCLC 逐次治療アルゴリズムの原型である。
残された課題と今後の展望: 本研究の limitation として後ろ向き単施設解析・小規模コホート・治療前生検の欠如が挙げられる。単一生検での腫瘍内不均一性の捕捉には限界があり、今後の課題として循環腫瘍 DNA (ctDNA) を用いた非侵襲的な耐性モニタリングの開発と前向き検証が必要である。また第2世代阻害薬の選択が後継耐性スペクトルに与える影響や upfront lorlatinib 投与の妥当性、さらに ALK 変異陰性耐性例に対する最適な後継治療の決定についてもさらなる検討が求められる。future research として、複合変異の予防を目指す upfront TKI 併用療法の前臨床的・臨床的探索も重要な方向性として挙げられている。
方法
2009 年 1 月から 2016 年 6 月にかけて ALK 陽性 NSCLC と診断された患者 83 例が Massachusetts General Hospital で疾患進行時の再生検を受け、合計 103 検体が解析された。内訳はクリゾチニブ耐性 55 検体 (51 例)、セリチニブ耐性 24 検体 (23 例)、アレクチニブ耐性 17 検体 (17 例)、ブリガチニブ耐性 7 検体 (6 例) であり、大部分は投薬中または中止後 1 か月以内に採取された。生検部位はリンパ節・肝臓・胸水など多様で、多施設参加ではなく MGH 単一施設の後ろ向き解析として実施され、全患者からインフォームドコンセントを取得した (Institutional Review Board (IRB) 承認プロトコル)。
遺伝子解析には MGH NGS プラットフォーム v1.1.4 (anchored multiplex PCR で ALK エクソン 22・23・25 を含む癌関連 39 遺伝子の一塩基多型/挿入欠失を検出)、FoundationOne NGS (315 遺伝子全コーディング配列 + 28 遺伝子の select intron)、または Sanger シークエンシング (ALK キナーゼドメイン全域) を使用した。一部検体には全エクソーム解析 (WES; SureSelect v2 Exome bait、Illumina HiSeq、腫瘍 DNA 平均カバレッジ 134〜210×) を施行しクローン分析を行った。ALK FISH (fluorescence in situ hybridization) はクリゾチニブ耐性 36 検体に対して dual-color break-apart probe で実施し、ALK/centromere 2 比 >2.0 を増幅と定義した。EMT 評価は IHC (免疫組織化学) によるヴィメンチンおよび E-カドヘリン染色にて、セリチニブ耐性 12 検体を対象に実施した。
in vitro 機能評価として (1) Ba/F3 細胞 (RIKEN BRC (Bioresource Research Center) Cell Bank 由来マウス骨髄由来前駆 B 細胞) に野生型 EML4-ALK バリアント 1 (E13;A20) または 16 種類の ALK 耐性変異体を lentiviral 発現させた Ba/F3 モデルを用い、各 ALK 阻害薬の細胞増殖 IC50 を CellTiter-Glo アッセイ (n=3 独立反復実験)・GraphPad Prism 5.0・4 パラメータ非線形回帰で算出した。(2) セリチニブ耐性患者由来細胞株 6 株 (MGH021-5A (pleural effusion-derived cell line, 2011)、MGH034-2A (liver biopsy-derived cell line, 2012)、MGH049-1A (pleural effusion-derived cell line, 2012)、MGH051-2C (liver biopsy-derived cell line, 2013)、MGH075-2E (pleural effusion-derived cell line, 2014)、MGH084-1D (liver biopsy-derived cell line, 2014)) に対し lorlatinib・セリチニブ・アレクチニブを投与し増殖阻害 50% 濃度 (GI50; growth inhibition 50%) を評価した。ALK 変異陰性 3 株には 77 剤組み合わせ薬剤スクリーン (0.3 μmol/L セリチニブ存在下/非存在下) も施行した。なお lorlatinib はこの時点で進行中だった第 II 相試験 (NCT01970865) で評価中の第3世代 ALK/ROS1 阻害薬であった。統計解析は Fisher 正確確率検定 (Fisher’s exact test) でクリゾチニブ後 vs 第2世代 ALK 阻害薬後の on-target 変異頻度差を評価し (有意水準 P<0.05)、in vitro GI50 の群間比較は Mann-Whitney U 検定を適用した (GraphPad Prism 5.0)。