• 著者: Shaodong Hong, Nan Chen, Wenfeng Fang, Jianhua Zhan, Qing Liu, Shiyang Kang, Xiaobo He, Lin Liu, Ting Zhou, Jiaxing Huang, Ying Chen, Tao Qin, Yaxiong Zhang, Yuxiang Ma, Yunpeng Yang, Yuanyuan Zhao, Yan Huang, Li Zhang
  • Corresponding author: Li Zhang (State Key Laboratory of Oncology in South China, Sun Yat-Sen University Cancer Center, Guangzhou, China)
  • 雑誌: OncoImmunology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2015-09-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27141355

背景

NSCLC (non-small cell lung cancer) は全肺がんの約85%を占め、EGFR変異とEML4-ALK融合遺伝子がアジア人患者を中心に主要なドライバー変異として同定されている。EML4-ALKは全NSCLCの4-8.1%に認められ、クリゾチニブをはじめとするALK-TKI (tyrosine kinase inhibitor) が第一選択治療として確立されてきた。しかし大多数の患者は最終的にALK-TKIへの獲得耐性を来し、耐性後の治療選択肢は限られている (Sequist et al. SciTranslMed 2011)。

免疫チェックポイント療法の登場により、抗PD-1/PD-L1抗体がNSCLC患者の一部に持続的な奏効をもたらすことが示されたが (Brahmer et al. NEnglJMed 2015)、全体的な奏効率は限定的であり、治療恩恵を受ける患者集団の同定が課題であった。PD-L1はNSCLC患者の19.63-65.38%で過剰発現し、抗PD-1/PD-L1治療の予測バイオマーカー候補として注目されていた。EGFR変異によるPD-L1誘導と免疫逃避機序については、Chen Nら (JTO 2015) がEGFR活性化がp-ERK/AKT/STAT3を介してPD-L1を上方制御し免疫逃避を引き起こすことを報告した (Chen et al. JThoracOncol 2015)。また、リンパ腫ではNPM-ALKがJAK3/STAT3経路を介してPD-L1を誘導することが報告されていた。

ここで手薄だったのは、EML4-ALK融合タンパクによるPD-L1調節の詳細な下流シグナル経路が未解明であったことである。特にERK1/2・AKT・JAK3/STAT3の各経路の寄与の相違、ならびにALK-TKIや抗PD-1/PD-L1抗体がALK陽性NSCLC細胞の免疫機能に与える機能的な影響については gap in knowledge として残されていた。クリゾチニブ耐性例における抗PD-1/PD-L1療法の位置付けも不明であった。

目的

EML4-ALK融合タンパクによるPD-L1誘導の詳細な分子機序を解明すること (ERK1/2・AKT・JAK3・STAT3各経路の役割を特定)、ALK-TKIがT細胞免疫機能に与える影響を評価すること、抗PD-1抗体がクリゾチニブ感受性・耐性両NSCLC細胞株に有効であるかを検証すること、そしてALK陽性NSCLC患者に対する最適な免疫療法戦略の方向性を提示すること。

結果

PD-L1発現とEML4-ALK/EGFR変異状態の相関:EML4-ALK陽性NSCLC細胞株 (H3122、H2228、DFCI076) およびEGFR変異株 (PC9、HCC827、H1975) では、double wild-type (A549、H1993) および正常気道上皮Beas-2B細胞と比較してPD-L1タンパク発現が有意に高値であった (Fig. 1A)。この傾向はPD-L1 mRNAレベルでも同様に確認され、DFCI076細胞のmRNA発現は特に高値を示した (Fig. 1B)。免疫蛍光法ではDFCI076細胞で細胞膜および細胞質にPD-L1の強い緑色シグナルが観察され (Fig. 1C)、フローサイトメトリーによる細胞表面PD-L1発現もA549と比較してDFCI076で顕著に高かった (Fig. 1D)。EML4-ALK (V1) 発現プラスミドをBeas-2B細胞にトランスフェクションすると、対照vector細胞と比較してPD-L1タンパクが誘導された。この誘導はALK特異的阻害薬TAE684 (50 nM) により拮抗されたことから、EML4-ALKがPD-L1発現を直接制御していることが示された (Fig. 2A、B)。HEK293T細胞での過剰発現実験でも同様の結果が再現され、免疫蛍光法によりBeas-2B-EML4-ALK (V1) 細胞膜上でのALKとPD-L1の共局在も確認された (Fig. 2C、D、E)。

EML4-ALKによるPD-L1誘導シグナル経路: p-ERK1/2とp-AKTの優位性:H3122細胞に対してALK siRNA 3種を処理すると、いずれのsiRNAも48時間後にALKを有意にノックダウンし、PD-L1タンパクおよびmRNAが低下した (Fig. 3A、B)。ALK阻害薬TAE684を0・25・50・100 nMの濃度で24時間処理すると、ALKリン酸化とPD-L1タンパクが用量依存的に低下した (Fig. 3C)。クリゾチニブ耐性DFCI076細胞ではクリゾチニブ (0.2 μM) がALKリン酸化とPD-L1に影響しなかった一方、第2世代ALK-TKIであるLDK378 (0.2 μM) はALKリン酸化を有意に抑制し、PD-L1を低下させた (Fig. 3D)。この結果は、クリゾチニブ耐性にもかかわらずALKキナーゼ活性が持続していること、かつALK感受性TKIのみがPD-L1を下方制御できることを示す。

シグナル経路解析では、EML4-ALK (V1) 過剰発現Beas-2BおよびH3122細胞においてp-ERK1/2・p-AKT・p-STAT3の活性化が認められた (Fig. 4A、B)。ERK1/2阻害薬SCH772984を0・0.25・0.5・1.0 μMで処理するとp-ERK1/2とPD-L1が用量依存的に低下した (Fig. 4C)。AKT1/2/3阻害薬MK-2206 2HCLを0・0.5・1.0・2.0 μMで処理してもp-AKTとPD-L1が用量依存的に低下した (Fig. 4D)。一方、JAK3阻害薬Tofacitinib (0・1.0・2.0・4.0 μM) およびSTAT3阻害薬Cryptotanshinone (0・3.0・7.0・10.0 μM) によるJAK3またはSTAT3のリン酸化阻害後もPD-L1発現に有意な変化は認めなかった (Fig. 4E、F)。以上より、EML4-ALKはp-ERK1/2およびp-AKT経路を介してPD-L1を転写レベルで誘導するが、JAK3/STAT3経路には依存しないことが明確に示された。

DC-CIK共培養系でのT細胞免疫機能評価: EML4-ALKとALK-TKIの効果:Beas-2B-EML4-ALK (V1) 細胞とDC-CIK細胞の共培養系では、Beas-2B-vector共培養と比較してCD3陽性T細胞のアポトーシス率が24.9±3.4% vs 9.8±1.0% (p<0.05、n=3独立実験) と有意に高く、EML4-ALKによるPD-L1誘導がPD-1/PD-L1軸を介してT細胞を抑制することが示された (Fig. 5B)。この系に抗PD-1抗体 (1,000 μg/mL) を添加するとT細胞アポトーシス率は12.2±1.7% (p<0.05) に低下し、TAE684 (0.2 μM) 添加では17.1±1.3% (p<0.05) に低下した。クリゾチニブ感受性H3122/DC-CIK共培養系では、ベースラインのT細胞アポトーシス率28.8±1.4%がTAE684 (0.2 μM) 処理で19.3±1.5% (p<0.05) に低下し、抗PD-1抗体では13.4±2.1% (p<0.05) まで低下した (Fig. 6A、B)。IFNγ産生はTAE684処理後に共培養上清で著明に増加した (Fig. 6E)。

クリゾチニブ耐性NSCLC細胞における抗PD-1抗体の有効性:クリゾチニブ耐性DFCI076/DC-CIK共培養系では、ベースラインのT細胞アポトーシス率35.5±2.3%がLDK378 (0.2 μM) 処理で23.7±3.4% (p<0.05) に低下し、抗PD-1抗体では16.4±1.9% (p<0.05) まで低下した (Fig. 6C、D)。クリゾチニブ (0.2 μM) はT細胞アポトーシスに有意な影響を与えず (p=0.7)、IFNγ産生も変化しなかった (Fig. 6F)。一方、LDK378処理後はIFNγが顕著に増加した。xCELLigenceシステムによるリアルタイム腫瘍細胞生存評価では、抗PD-1抗体がH3122・DFCI076両細胞のcell indexを低下させた (Fig. 7A、B)。TAE684はH3122細胞の生存を有意に抑制し、LDK378はDFCI076細胞の生存を抑制したが、クリゾチニブはDFCI076に対して効果を示さなかった。ALK-TKI+抗PD-1抗体の組み合わせ処理では、どちらの共培養系においても単剤と比較して追加的な腫瘍殺傷効果は認められなかった。

考察/結論

本研究はEML4-ALK陽性NSCLCにおいてEML4-ALK融合タンパクがPD-L1を転写・タンパクレベルで上方制御し、PD-1/PD-L1軸を介したT細胞免疫抑制 (T細胞アポトーシス率の著明な上昇: 9.8%→24.9%) を引き起こすことを本研究で初めて細胞株レベルで包括的に示した。この機序はp-ERK1/2とp-AKTシグナルが中心的役割を果たすことを明確に同定した点で新規な分子標的の知見を提供する。

これまでの研究ではNPM-ALK融合タンパクによるPD-L1誘導がJAK3/STAT3経路を介することが報告されていたが、本研究のEML4-ALKはSTAT3阻害薬・JAK3阻害薬によっても PD-L1発現が変化しなかった点が対照的であり、ALK融合パートナー (EML4 vs NPM) の違いが下流シグナル経路の選択性を規定することが示唆される。同様に、EGFR変異では複数経路 (ERK/AKT/STAT3) が寄与するとされているのに対し、EML4-ALKではJAK3/STAT3経路への依存がないという相違点も、NSCLC内でのドライバー変異別の免疫回避機構の多様性を示している。

臨床的意義として、ALK感受性TKI (TAE684/LDK378) はPD-L1を下方制御してT細胞免疫を回復させるため、ALK陽性NSCLCにおいてALK-TKI単剤が直接的な腫瘍殺傷効果に加えて免疫賦活効果を持つことが示された。特に重要なのはクリゾチニブ耐性細胞 (DFCI076) への知見であり、クリゾチニブが免疫機能に寄与しないのに対して、抗PD-1抗体は耐性細胞でも独立してT細胞アポトーシスを35.5%から16.4%まで有意に低下させ、腫瘍細胞生存を抑制した。この結果は、クリゾチニブ耐性後においても抗PD-1/PD-L1療法が有望な臨床応用の可能性を持つことを示している。この臨床現場への橋渡し的エビデンスは、ALK-TKI耐性患者に対する免疫療法のシーケンス戦略の立案に直接貢献するものである。

ALK-TKI+抗PD-1の組み合わせで共培養系での相乗的腫瘍殺傷効果が認められなかった点は注目すべき知見である。BRAF変異メラノーマではBRAF阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせで相乗効果が報告されており、既報との相違点として本研究の結果は、EML4-ALK陽性NSCLCではALK-TKIと抗PD-1が類似したメカニズム (PD-1/PD-L1相互作用の遮断) で作用するため追加効果が生じない可能性を示唆している。後に臨床で報告されたブリガチニブ+ニボルマブ等の組み合わせでの重篤な有害事象 (肺臓炎等) との文脈でも、この警告的所見の重要性は際立つ。

残された課題として、今後の検討では本研究のin vitro共培養系の知見をin vivoモデルで検証する必要があり、EML4-ALKのバリアント別 (V1 vs V3) 、あるいは各種ALK耐性機序 (二次変異・増幅等) によって免疫機能への影響が異なるかも重要な future research課題として残される。また、ALK陽性患者の腫瘍内PD-L1発現量と実際の抗PD-1/PD-L1奏効率の相関を前向き臨床試験で検証することが求められる。limitation として、本研究はin vitro細胞株モデルに限定されており、腫瘍微小環境の複雑なimmune cell compositionや患者腫瘍組織での実際のPD-L1調節機序を反映していない点に注意が必要である。更なる検討として、ALK-TKI治療後の腫瘍免疫微小環境の縦断的変化を追うバイオマーカー研究が有望なアプローチと考えられる。

方法

使用細胞株: EML4-ALK陽性NSCLC細胞株としてH3122 (EML4-ALK variant 1、クリゾチニブ感受性)、H2228 (variant 3)、DFCI076 (クリゾチニブ耐性)、EGFR変異細胞株 (PC9、HCC827、H1975)、double wild-type細胞株 (A549、H1993)、および非腫瘍気道上皮Beas-2B (human bronchial epithelial cell line) 細胞にEML4-ALK variant 1 (V1) を安定過剰発現させたBeas-2B-EML4-ALK (V1) と対照Beas-2B-vector細胞を使用した。HEK293T (Human Embryonic Kidney 293T) 細胞でも過剰発現実験を施行。

発現解析: Western blot (PD-L1抗体 E1L3N、ALK D5F3、p-ALK Tyr (tyrosine) 1604、p-ERK1/2 Thr (threonine) 202/Tyr204、p-AKT Ser (serine) 473、p-JAK3 Tyr980/981、p-STAT3 Tyr705を含む一次抗体)、定量RT-PCR (ABI Prism 7900-HT、PD-L1プライマー指定配列)、免疫蛍光法、フローサイトメトリー (FlowJo 7.6.1) の4手法でPD-L1発現を多角的に評価した。

ALK阻害実験: ALK siRNA (#1 GAGACATTGCTGCCAGAAA、#2 CGAGGATACCATTCTGAAA、#3 CCGCTTTGCCGATAGAATA の3種) によるノックダウン (Lipofectamine RNAiMAX、48時間)。キナーゼ阻害薬はTAE684・LDK378・クリゾチニブ (ALK-TKI)、SCH772984 (ERK1/2阻害薬)、MK-2206 2HCL (AKT1/2/3阻害薬)、Tofacitinib (JAK3阻害薬)、Cryptotanshinone (STAT3阻害薬) を各種用量で24時間処理した。

DC-CIK共培養系: DC-CIK (dendritic cell-cytokine-induced killer) 細胞は健常ボランティア末梢血PBMC (peripheral blood mononuclear cells) をFicoll-Paque密度遠心で分離後、IFNγ・抗CD3・IL-2・IL-4・GM-CSF・TNFαを14日間段階的に添加して作製した。腫瘍細胞:DC-CIK=1:2の比率で48時間共培養し、CD3陽性T細胞のアポトーシス率をAnnexin V-APC (allophycocyanin)/7-AAD (7-aminoactinomycin D) 法・フローサイトメトリーで評価、IFNγをELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) で測定した。腫瘍細胞生存率はxCELLigence real-timeインピーダンスシステム (E-plate、Roche) で15分毎にモニタリングした。統計: two-tailed Student’s t-testを用い、p<0.05を有意差ありと判断した。すべての実験は独立した3回の反復実験を実施し、代表的なデータを提示した。