- 著者: Brahmer J, Reckamp KL, Baas P, Crinò L, Eberhardt WEE, Poddubskaya E, Antonia S, Pluzanski A, Vokes EE, Holgado E, Waterhouse D, Ready N, Gainor J, Arén Frontera O, Havel L, Steins M, Garassino MC, Aerts JG, Domine M, Paz-Ares L, Reck M, Baudelet C, Harbison CT, Lestini B, Spigel DR
- Corresponding author: Julie Brahmer, MD (Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center at Johns Hopkins, Baltimore, MD, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-05-31
- Article種別: Original Article (Phase 3 randomized trial — CheckMate 017)
- PMID: 26028407
背景
扁平上皮非小細胞肺癌 (NSCLC) は全NSCLC症例の約30%を占める組織型であり、EGFRやALK変異などのドライバー変異が稀であるため、標的療法が適用できない患者が多く、治療選択肢が限られていた。特に、プラチナ製剤を含む一次治療後に病勢が進行した患者に対する二次治療においては、1999年にドセタキセルが承認されて以来、新たな標準治療が確立されておらず、全生存期間 (OS) 中央値は6〜8ヶ月と予後不良であった Fossella et al. JClinOncol 2000、Shepherd et al. JClinOncol 2000、Hanna et al. JClinOncol 2004。このような状況下で、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブ (PD-1阻害薬) は、扁平上皮NSCLC患者を含む第I/II相試験において、客観的奏効率 (ORR) 15〜17%、1年OS率41%、3年OS率19%という持続的な抗腫瘍活性を示し、その有効性が期待されていた Brahmer et al. JClinOncol 2010、Topalian et al. NEnglJMed 2012、Rizvi et al. LancetOncol 2015。しかし、扁平上皮NSCLCにおけるニボルマブの有効性と安全性、特にPD-L1発現との関連性については、大規模な第III相試験での検証が不足しており、新たな標準治療としての位置付けは未確立であった。CheckMate 017試験は、扁平上皮NSCLCを対象としたPD-1阻害薬の初の第III相試験として、この治療ギャップを埋めることを目的として設計された。
目的
プラチナ製剤含有レジメン後に病勢が進行した進行扁平上皮NSCLC (Stage IIIB/IV) 患者において、ニボルマブ (3mg/kgを2週間ごとに投与) が標準治療であるドセタキセル (75mg/m²を3週間ごとに投与) と比較して、主要評価項目である全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価すること (CheckMate 017試験、NCT01642004)。副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、安全性、およびPD-L1発現と有効性の関連性を評価した。
結果
全生存期間 (OS) の有意な改善: ニボルマブ群のOS中央値は9.2ヶ月 (95% CI, 7.3-13.3) であったのに対し、ドセタキセル群では6.0ヶ月 (95% CI, 5.1-7.3) であった。ニボルマブ群はドセタキセル群と比較して死亡リスクを41%有意に低減させ (HR 0.59; 95% CI, 0.44-0.79; p<0.001)、OSにおいて統計学的かつ臨床的に意義のある優越性を示した (Figure 1)。1年OS率はニボルマブ群で42% (95% CI, 34-50) であったのに対し、ドセタキセル群では24% (95% CI, 17-31) であり、絶対差で18%ポイントの改善が認められた。このOSの優位性は、年齢、性別、喫煙状況、前治療ラインなどのほとんどの事前に規定されたサブグループで一貫して観察されたが、75歳以上の患者群および「その他の地域」の患者群ではサンプルサイズが小さいため、ハザード比の信頼区間が広く、統計的有意性は示されなかった (Figure S2)。
PD-L1発現と有効性の非関連性: PD-L1発現レベルは、ニボルマブの有効性の予測因子とはならなかった。PD-L1発現が1%以上の患者群 (ニボルマブ群 n=83 / ドセタキセル群 n=76) におけるOSのハザード比は0.62 (95% CI, 0.41-0.94) であった。一方、PD-L1発現が1%未満の患者群 (ニボルマブ群 n=48 / ドセタキセル群 n=60) においても、OSのハザード比は0.56 (95% CI, 0.33-0.96) であり、PD-L1陰性患者においてもニボルマブによる有意なOSの利益が認められた (Figure 2C)。PD-L1発現レベル (1%、5%、10%のいずれのカットポイントでも) と治療効果との間に統計学的な交互作用は認められず、扁平上皮NSCLCにおいてはPD-L1発現がニボルマブの有効性を予測するバイオマーカーではないことが示された。
客観的奏効率 (ORR) と無増悪生存期間 (PFS) の改善: ニボルマブ群のORRは20% (95% CI, 14-28) であったのに対し、ドセタキセル群では9% (95% CI, 5-15) であり、ニボルマブ群で有意に高い奏効率が認められた (p=0.008) (Table 2)。奏効までの期間中央値はニボルマブ群で2.2ヶ月、ドセタキセル群で2.1ヶ月と両群で同程度であったが、奏効期間中央値はニボルマブ群で未到達であったのに対し、ドセタキセル群では8.4ヶ月であり、ニボルマブの奏効がより持続的であることが示唆された。PFS中央値はニボルマブ群で3.5ヶ月 (95% CI, 2.1-4.9) であったのに対し、ドセタキセル群では2.8ヶ月 (95% CI, 2.1-3.5) であり、ニボルマブ群で有意なPFSの延長が認められた (HR 0.62; 95% CI, 0.47-0.81; p<0.001) (Figure 2B)。1年PFS率はニボルマブ群で21% (95% CI, 14-28) であったのに対し、ドセタキセル群では6% (95% CI, 3-12) であった。
優れた安全性プロファイル: 治療関連のグレード3または4の有害事象は、ニボルマブ群で7%であったのに対し、ドセタキセル群では55%と大幅に低かった (Table 3)。治療関連の重篤な有害事象もニボルマブ群で7% (グレード3または4は2%) であったのに対し、ドセタキセル群では24% (グレード3または4は19%) と、ニボルマブ群で明らかに少なかった。治療関連の有害事象による治療中止率は、ニボルマブ群で3%であったのに対し、ドセタキセル群では10%であった。ニボルマブ群では治療関連死は報告されなかったが、ドセタキセル群では3例の治療関連死 (間質性肺疾患、肺出血、敗血症各1例) が認められた。ニボルマブ群で最も頻繁に報告された治療関連有害事象 (いずれかのグレード) は疲労 (16%)、食欲減退 (11%)、無力症 (10%) であった。ドセタキセル群では好中球減少症 (33%)、疲労 (33%)、脱毛症 (22%)、悪心 (23%) が多く報告された。免疫関連の有害事象 (皮疹、肺臓炎、甲状腺機能低下症など) はニボルマブ群で認められたが、ほとんどがグレード1または2であり、確立されたガイドラインに従って管理可能であった。
考察/結論
CheckMate 017試験は、プラチナ製剤治療後に進行した扁平上皮NSCLC患者において、ニボルマブが標準治療であるドセタキセルと比較して、OS、ORR、PFSの全てにおいて有意な優越性を示し、かつ安全性プロファイルも大幅に改善されたことを示した画期的な第III相試験である。ニボルマブ群のOS中央値は9.2ヶ月 vs ドセタキセル群6.0ヶ月 (HR 0.59; 95% CI, 0.44-0.79; p<0.001)、1年OS率は42% vs 24%という結果は、この患者集団におけるニボルマブの明確な臨床的有用性を示している。
先行研究との違い: 本研究の最も重要な知見の一つは、PD-L1発現レベルがニボルマブの有効性を予測するバイオマーカーとならなかった点である。PD-L1発現が1%未満の患者においても、ニボルマブはドセタキセルと比較して有意なOSの利益を示した。これは、同時期に実施された非扁平上皮NSCLCを対象としたCheckMate 057試験でPD-L1発現が有効性の予測因子となり得るとされた結果とは対照的である。この違いは、扁平上皮NSCLCが非扁平上皮NSCLCと比較して、喫煙関連変異による高い腫瘍変異負荷 (TMB) を有する傾向があり Rizvi et al. Science 2015、PD-L1発現に依存しない腫瘍免疫原性を有している可能性を示唆する。
新規性: 本研究は、扁平上皮NSCLCの二次治療において、PD-1阻害薬がドセタキセルを凌駕する有効性を示した初めての第III相試験であり、ニボルマブがこの患者集団の新たな標準治療となり得ることを新規に確立した。また、PD-L1発現が扁平上皮NSCLCにおけるニボルマブの予測バイオマーカーとならないという知見は、これまでのPD-L1を重視する考え方に対し、新たな視点を提供するものであった。
臨床応用: 本試験の結果は、2015年3月の米国FDAによる進行扁平上皮NSCLC二次治療に対するニボルマブの承認の根拠となり、臨床現場における治療選択肢を大きく変革した。ニボルマブはドセタキセルと比較して、OSの延長に加え、治療関連のグレード3または4の有害事象が7% vs 55%と劇的に少なく、患者のQOL向上にも大きく貢献する。この優れた安全性プロファイルは、免疫チェックポイント阻害薬が従来の細胞傷害性抗がん剤と比較して、より忍容性の高い治療選択肢であることを明確に示している。
残された課題: 今後の検討課題として、ニボルマブの長期的な有効性と安全性プロファイルのさらなる評価、およびPD-L1以外のより高感度かつ特異的なバイオマーカーの同定が残されている。特に、PD-L1発現陰性患者におけるニボルマブの有効性をより詳細に予測できる因子の探索は、治療の個別化を進める上で重要である。また、高齢者や特定のサブグループにおけるニボルマブの利益の程度をより完全に特徴付けるためのさらなる研究も必要である。
方法
本研究は、国際共同第III相無作為化オープンラベル試験として実施された。対象患者は、Stage IIIBまたはIVの扁平上皮NSCLCと診断され、プラチナ製剤含有一次治療後に病勢が進行した患者、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) が0または1の患者、および治療前の腫瘍組織検体を提供可能な患者であった。合計272名の患者が無作為に割り付けられ、ニボルマブ群 (n=135) またはドセタキセル群 (n=137) にそれぞれ1:1で割り振られた。ニボルマブ群には3mg/kgを2週間ごとに静脈内投与、ドセタキセル群には75mg/m²を3週間ごとに静脈内投与された。無作為化は、パクリタキセル前治療歴 (あり/なし) および地域 (米国またはカナダ/ヨーロッパ/その他) で層別化された。治療は病勢進行または許容できない毒性が発生するまで継続された。腫瘍効果判定は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ガイドラインバージョン1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づき、9週目以降は6週間ごとに実施された。安全性評価は、米国国立がん研究所の有害事象共通用語規準 (CTCAE) バージョン4.0に従って行われた。主要評価項目はOSであり、ログランク検定を用いて解析され、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は層別Cox比例ハザードモデルを用いて推定された。PD-L1発現は、クローン28-8抗体を用いた免疫組織化学 (IHC) 法により、腫瘍細胞の膜染色が1%、5%、10%以上のカットオフ値で後向きに評価された。独立データ安全性モニタリング委員会 (DSMC) の勧告に基づき、中間解析でニボルマブ群のOS優越性が確認されたため、試験は早期中止された。データカットオフ日は2014年12月15日であり、最小追跡期間は約11ヶ月であった。