• 著者: Manish R. Sharma, John Powderly, Yasutoshi Kuboki, John H. Strickler, Ruth Perets, Jonathan E. Cohen, Julien Raimbourg, Takako Eguchi Nakajima, Noboru Yamamoto, Marcia Cruz-Correa, Bert O’Neil, François Ghiringhelli, Kanwal Raghav, Michael Cecchini, Jair Bar, Zoë Hunter, Michael Burns, Martha Blaney, Gladys Morrison-Thiele, Martha Neagu Aristide, Kevin J. Freise, Rui Li, Martha Li, Athan Vasilopoulos, Carla Biesdorf, David Sommerhalder
  • Corresponding author: Manish R. Sharma (START Center for Cancer Research—Midwest, Grand Rapids, MI, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42066233

背景

c-Met (MET) protein の発現亢進は、転移性大腸がん (metastatic colorectal cancer, mCRC) の 50-70% をはじめ、胃食道腺がん (gastroesophageal adenocarcinoma, GEA) や非小細胞肺がん (non-small cell lung cancer, NSCLC) などの多様な固形腫瘍において観察される。c-Met の活性化は、腫瘍細胞の増殖、生存、血管新生、浸潤、および転移を促進する oncogenic driver として機能する。先行研究である Liu et al. (2015) や Lee et al. (2018)、さらに Armstrong et al. (2021) などの large cohort 研究およびメタアナリシスにおいて、c-Met 発現亢進が mCRC 患者における全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) の有意な独立予後不良因子であることが一貫して示されてきた。

現在、標準治療に抵抗性となった進行・転移性大腸がんに対する三次治療以降の選択肢は極めて限定的である。代表的な標準治療として、(a) trifluridine/tipiracil ± bevacizumab 療法、(b) regorafenib 療法、(c) fruquintinib 単剤療法などが挙げられるが、奏効率 (ORR) は 1-6% と極めて低く、生存期間の延長効果も modest なものにとどまっている。mCRC 全体の 5 年生存率は 14% と極めて dismal であり、予後を劇的に改善する新規治療薬の開発が強く望まれている。

これまでに c-Met を標的とする小分子チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) である capmatinib や tepotinib、savolitinib などが開発され、MET 遺伝子増幅や MET exon 14 skipping 変異を有する NSCLC において承認されている。しかし、mCRC においては腫瘍内の不均一な c-Met 発現やシグナル伝達経路の代償的活性化により、小分子 TKI による持続的な経路阻害は困難であり、臨床効果は極めて限定的であった。この治療抵抗性を克服するアプローチとして、標的特異的なペイロード送達とバイスタンダー効果を併せ持つ抗体薬物複合体 (antibody-drug conjugate, ADC) が注目されている。

Telisotuzumab adizutecan (Temab-A, ABBV-400) は、c-Met 標的抗体である telisotuzumab (ABT-700) に、新規の強力なトポイソメラーゼ 1 (Top1) 阻害ペイロードである adizutecan を drug-antibody ratio (DAR) = 6 で結合させた first-in-class の c-Met 標的 ADC である。前臨床モデルにおいて、Temab-A は c-Met 陽性の mCRC、NSCLC、GEA に対して強力な抗腫瘍活性を示した。しかし、ヒトにおける安全性、忍容性、薬物動態 (PK) プロファイル、および最適な推奨用量については未解明であり、臨床開発における大きな knowledge gap となっていた。特に、重度の前治療歴を有する mCRC 患者における有効性と安全性のバランスを最適化するための用量設定データが不足していた。本研究はこの課題を解決するため、進行固形がん患者を対象とした第 I 相試験 (NCT05029882) の用量漸増パート (Part 1) および mCRC 患者を対象とした用量最適化拡大パート (Part 4) の結果を報告する。

目的

本研究の主な目的は、標準治療後に進行した進行固形がん患者を対象に、新規 c-Met 標的 ADC である Temab-A (telisotuzumab adizutecan) 単剤療法の安全性、忍容性、および用量制限毒性 (DLT; dose-limiting toxicity) プロファイルを特定し、最大耐用量 (MTD; maximum tolerated dose) および推奨相 II 用量 (RP2D; recommended phase II dose) を確立することである。さらに、二次的・探索的目的として、Temab-A の薬物動態 (PK; pharmacokinetics) 特性 (ADC 複合体、総抗体、および遊離 Top1 阻害ペイロード) を明らかにし、重度前治療歴のある転移性大腸がん (mCRC) 患者における抗腫瘍活性 (ORR、病勢コントロール率 [DCR; disease control rate]、奏効期間 [DOR; duration of response]、PFS、OS) を用量別に評価する。また、腫瘍組織における c-Met タンパク質発現レベルを免疫組織化学染色 (IHC; immunohistochemistry) により解析し、将来の臨床開発における患者選択のための予測バイオマーカーとしての有用性を検証することを目的とする。

結果

用量漸増における安全性とMTDの決定: 用量漸増パート (Part 1) には計 57 例の進行固形がん患者が登録され、1.6 mg/kg (n=3)、2.4 mg/kg (n=16)、3.0 mg/kg (n=18)、3.5 mg/kg (n=6)、4.0 mg/kg (n=9)、6.0 mg/kg (n=5) の各用量が評価された。全例で 1 回以上の治療関連有害事象 (TEAE) が観察され、グレード ≥3 の TEAE は 83% に認められた。DLT は 3.0 mg/kg 以上の用量群において、計 13 例 (23%) に 18 イベントが発生した (Table A3)。主な DLT は発熱性好中球減少症、血小板減少症、好中球減少症、および急性腎障害であった。3.0 mg/kg を超える用量群で DLT 発現率が 33.3% を超えたため、本剤の最大耐用量 (MTD) は 3.0 mg/kg Q3W に決定された。

mCRCコホートの患者背景と前治療: 用量漸増および拡大パートを合わせ、計 122 例の mCRC 患者が Temab-A の投与を受けた (Table 1)。患者の年齢中央値は 56 歳 (範囲: 24-81) であり、67% に肝転移、55% に KRAS 変異、15% に NRAS 変異を認めた。前治療ライン数の中央値は 4.0 (範囲: 1-12) であり、92% が bevacizumab、39% が anti-EGFR 抗体、31% が trifluridine/tipiracil の治療歴を有し、95% が irinotecan などの Top1 阻害薬 (topoisomerase 1 inhibitor) による前治療を受けていた。

mCRCコホートにおける安全性プロファイル: 安全性評価対象となった 122 例において、グレード ≥3 の TEAE は 74% (90/122 例) に認められた (Table 2)。最も頻度の高い毒性は血液毒性 (71%) および消化器毒性 (78%) であった。血液毒性の内訳は、貧金 58% (グレード ≥3 は 38%)、好中球減少症 43% (グレード ≥3 は 28%)、白血球減少症 28%、血小板減少症 25% であった。非血液毒性では、悪心 57%、疲労 43%、嘔吐 41%、食欲減退 29%、筋肉痛 25%、下痢 21% が観察されたが、グレード ≥3 の発現率はすべて 5% 未満であった。間質性肺疾患 (ILD) /肺臓炎の判定率は、全グレードで 6% (7/122 例) であり、グレード ≥3 は 0.8% (1/122 例) のみであった。

用量別の治療有効性と生存ベネフィット: 全用量プール解析 (N=122) において、奏効率 (ORR) は 15.6% (19/122 例、95% CI 9.6-23.2)、病勢コントロール率 (DCR) は 74.6% (91/122 例、95% CI 65.9-82.0) であった。生存期間の解析において、2.4 mg/kg Q3W 投与群 (n=40) は、PFS 中央値 5.3 months (95% CI 3.8-5.9) および OS 中央値 10.7 months (95% CI 8.9-16.2) を達成した (Table 3)。一方、3.0 mg/kg Q3W 投与群 (n=41) では、PFS 中央値 4.5 months (95% CI 2.6-6.7) および OS 中央値 9.4 months (95% CI 7.5-13.0) であった。

c-Met発現レベル別の奏効率解析: c-Met IHC 評価が可能であった 107 例のうち、31% (33/107 例) が c-Met 高発現 (IHC ≥10%|3+) の基準を満たした。有効用量である 2.4 mg/kg 以上の投与群 (n=90) におけるバイオマーカー解析の結果、c-Met 高発現群 (n=25) では ORR 36.0% (9/25 例、95% CI 18.0-57.5) と顕著な治療効果の向上が認められた。これに対し、c-Met 低発現群 (<10%|3+、n=50) における ORR は 12.0% (6/50 例、95% CI 4.5-24.3) であった (Figure 3)。

推奨相II用量(RP2D)の選定根拠: 2.4 mg/kg Q3W 群は、3.0 mg/kg Q3W 群と比較してグレード ≥3 の血液毒性の発現頻度が低く、相対用量強度 (relative dose intensity) が高値に維持された (95.7% vs 86.5%)。2.4 mg/kg 群は良好な忍容性を示しつつ、mPFS 5.3 vs 4.5 months、mOS 10.7 vs 9.4 months と 3.0 mg/kg 群と同等以上の生存ベネフィットを示したことから、2.4 mg/kg Q3W が単剤療法の RP2D として選定された。

考察/結論

本研究は、新規 c-Met 標的 ADC である Temab-A (ABBV-400) の安全性、忍容性、および重度前治療歴を有する mCRC 患者における有望な抗腫瘍活性を初めて実証した重要な報告である。

先行研究との違い: 転移性大腸がんの三次治療以降において、既存の標準治療である fruquintinib (FRESCO-2 試験) では mPFS 3.7 ヶ月、mOS 7.4 ヶ月、また trifluridine/tipiracil + bevacizumab 療法では mPFS 5.6 ヶ月、mOS 10.8 ヶ月が報告されている。これら既存の標準治療データと対照的に、本研究における Temab-A 2.4 mg/kg Q3W 投与群は、対象患者の 95% が irinotecan などの Top1 阻害薬を含む平均 4 ラインの前治療歴を有する極めて予後不良な集団であったにもかかわらず、mPFS 5.3 ヶ月、mOS 10.7 ヶ月という極めて良好な生存ベネフィットを達成した。さらに、従来の c-Met 標的小分子 TKI (capmatinib や tepotinib など) が MET 遺伝子増幅や exon 14 skipping 変異を有する極めて限定的な患者集団でのみ有効であったのとは異なり、本研究では c-Met タンパク質発現 (IHC) を指標とすることで、より広範な患者集団に対して有効な治療選択肢を提供できる点で大きく異なる。

新規性: Temab-A は c-Met 標的 ADC として first-in-class であり、本研究で初めてヒトにおける安全性、MTD、RP2D、および臨床的有効性を新規に同定した。特に、新規 Top1 阻害ペイロードである adizutecan を用いた ADC 設計が、既存の化学療法抵抗性腫瘍に対して強力な抗腫瘍活性を示すことを臨床試験で初めて明らかにした。また、c-Met 低発現群 (<10%|3+) においても 12.0% の奏効率が得られたことは、ADC 特有のバイスタンダー効果が腫瘍内の c-Met 表の不均一性を克服し得ることを示す新規の臨床的知見である。

臨床応用: 本研究の臨床的意義として、Temab-A 2.4 mg/kg Q3W 療法は、MSS/pMMR および BRAF 野生型の既治療 mCRC 患者における新たな治療オプションとなる可能性が示された。特に、c-Met 高発現 (IHC ≥10%|3+) 患者においては奏効率が 36.0% にまで向上することから、c-Met 発現を予測バイオマーカーとして用いたプレシジョンメディシンの臨床応用を強く支持する。安全性面においては、好中球減少症や貧血などの血液毒性に対する適切な休薬・減量基準の策定、および ILD/肺臓炎 (全グレード 6%) に対する早期発見と管理ガイドラインの構築が、今後の臨床現場における安全な投与管理において重要となる。

残された課題: 本研究の主な limitation として、単群の第 I 相試験であり症例数が限定的であること、また c-Met 発現の評価においてアーカイブ組織と新規採取組織が混在していることが挙げられる。今後の検討課題として、既存の標準治療 (trifluridine/tipiracil + bevacizumab など) を対照群とした第 III 相ランダム化比較試験による有効性の検証が必要である。さらに、現在進行中である NSCLC や GEA コホートにおける解析結果の統合、および bevacizumab との併用療法の開発により、c-Met 陽性固形がんにおける本剤の治療的地位を確立することが期待される。

方法

研究デザインと患者選択: 本研究は、進行固形がんおよび転移性大腸がん (mCRC) 患者を対象とした、第 I 相、オープンラベル、多施設共同、マルチパート試験である (ClinicalTrials.gov 識別子: NCT05029882)。対象患者は、18 歳以上、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) ≤1、RECIST v1.1 にベースラインで測定可能病変を有する症例とした。用量漸増パート (Part 1) では、標準治療に抵抗性または不耐となった進行固形がん患者を登録した。用量拡大パート (Part 4) では、(a) 病理学的に確認された mCRC、(b) BRAF V600E 野生型、(c) マイクロサテライト安定型 (MSS; microsatellite stable) またはミスマッチ修復機能欠損なし (MMR-p; mismatch repair-proficient)、(d) fluoropyrimidine、oxaliplatin、irinotecan を含む前治療後に進行した症例を対象とした。間質性肺疾患 (ILD; interstitial lung disease) または肺臓炎の既往を有する患者は除外された。

用量漸増および用量最適化設計: 用量漸増パートでは、Temab-A を 1.6 mg/kg から開始し、3 週に 1 回 (Q3W) 静脈内投与した。用量漸増および減量の決定は、標的毒性率を 30% に設定した Bayesian Optimal Interval (BOIN) 設計に基づき、各用量レベルで最低 3 名の DLT 評価可能患者を登録した。MTD の判定には少なくとも 6 名の評価可能患者を必要とし、DLT 発現率が 33.3% を超えない最高用量レベルと定義した。DLT 評価期間はサイクル 1 (21 日間) とし、グレード ≥2 の ILD/肺臓炎、グレード ≥3 の非血液毒性、7 日を超えて持続するグレード 4 の血液毒性などを対象とした。用量拡大パート (Part 4) では、mCRC 患者を 1.6 mg/kg、2.4 mg/kg、3.0 mg/kg Q3W の各群に中央ランダム化し、用量最適化と RP2D の選定を行った。

評価項目と統計解析: 主要評価項目は、安全性、忍容性、PK、RP2D、および mCRC における奏効率 (ORR) とした。二次的評価項目は、DCR、DOR、PFS、OS である。PK 解析では、サイクル 1 および 3 の Day 1、2、3、8、15 に血液サンプルを採取し、ノンコンパートメント解析を用いて Cmax、AUC、および消失半減期 (t1/2) を算出した。バイオマーカー解析として、Roche Diagnostics 社の VENTANA MET (SP44) 抗体を用いた免疫組織化学染色 (IHC) により、腫瘍組織における c-Met 発現を評価した。c-Met 高発現の定義は、3+ の染色強度を示す腫瘍細胞が 10% 以上 (IHC ≥10%|3+) とした。ORR の 95% 信頼区間 (CI) は Clopper-Pearson 法を用いて算出し、PFS および OS の生存曲線は Kaplan-Meier 法を用いて推定した。