• 著者: H. Yoshioka, I. Okamoto, S. Morita, M. Ando, K. Takeda, T. Seto, N. Yamamoto, H. Saka, S. Atagi, T. Hirashima, S. Kudoh, M. Satouchi, N. Ikeda, Y. Iwamoto, T. Sawa, Y. Nakanishi, K. Nakagawa
  • Corresponding author: I. Okamoto (Department of Medical Oncology, Kinki University Faculty of Medicine, Osaka, Japan)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2012-12-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23277482

背景

進行非小細胞肺癌 (non-small-cell lung cancer: NSCLC) の治療において、組織型は化学療法レジメン選択の重要な決定因子として認識されるようになってきた。Scagliotti らによる第 III 相試験 (Scagliotti et al. JClinOncol 2008) では、cisplatin+pemetrexed が非扁平上皮癌 (non-squamous cell carcinoma: non-SCC) において cisplatin+gemcitabine より全生存期間 (overall survival: OS) を改善する一方、扁平上皮癌 (squamous cell carcinoma: SCC) では改善が認められないという組織型依存的な治療効果の差異が示された。また、bevacizumab を carboplatin+paclitaxel に追加した無作為化試験 (Sandler et al. NEnglJMed 2006) では non-SCC での生存延長が示されたが、SCC においては致死的出血リスクから使用禁忌であった。さらに、EGFR 変異や ALK 再構成の同定とチロシンキナーゼ阻害薬 (tyrosine kinase inhibitor: TKI) の有効性確立 (Maemondo et al. NEnglJMed 2010) により、non-SCC の治療選択肢は急速に拡充した。一方、SCC に対する有効な新規薬剤の開発は手薄であり、SCC 患者の予後改善は臨床上の喫緊の課題であった。

West Japan Oncology Group (WJOG) は進行 NSCLC に対する一次化学療法として carboplatin+S-1 (CS) と carboplatin+paclitaxel (CP) を比較する第 III 相試験・Lung Cancer Evaluation of TS-1 (LETS) を実施し、中間解析において OS 非劣性の主要エンドポイントを達成した。S-1 はフッ化ピリミジン系経口抗癌剤であり、tegafur・gimeracil・oteracil potassium を 1:0.4:1 のモル比で含有する。LETS 試験の当初プロトコルでは組織型別サブグループ解析は事前規定されていなかったが、現行のガイドラインで SCC に推奨できる薬剤が cisplatin+gemcitabine や cisplatin+cetuximab+vinorelbine に限られており、SCC に対する CS 療法の有効性・安全性を評価するデータが不足していた。この gap in knowledge を埋める組織型別詳細解析が臨床的に不可欠とされていた。

目的

LETS 試験の計画された 2 年間フォローアップ完了後に更新 OS データを提示し、組織型 (SCC vs non-SCC) によるサブグループ解析を事後的 (post hoc) に実施して、carboplatin+S-1 の組織型別有効性・安全性・生活の質 (quality of life: QOL) を評価する。

結果

全体集団における更新生存解析:中央値フォローアップ期間 33.4 ヶ月 (range 2.1-43.6 ヶ月) の時点で計 446 件の死亡イベント (CS 群 n=227 件、CP 群 n=219 件) が集積された。CS 群の median OS は 15.2 ヶ月 (95% CI 12.3-17.8 ヶ月)、CP 群は 13.1 ヶ月 (95% CI 11.7-14.9 ヶ月) であり (median OS 15.2 vs 13.1 ヶ月)、HR 0.956 (95% CI 0.793-1.151) で CS 群の全体的非劣性が確認された (Table 2)。PFS の中央値は CS 群 4.1 ヶ月 (95% CI 3.8-4.7 ヶ月) 対 CP 群 4.8 ヶ月 (95% CI 4.3-5.2 ヶ月)、HR 1.035 (95% CI 0.875-1.224) で両群間に有意差はなかった。組織型の内訳は SCC が n=114 (CS 群 n=55、CP 群 n=59)、non-SCC が n=450 (CS 群 n=227、CP 群 n=223) であり、ベースライン患者特性は両組織型コホートで治療群間がバランスされていた (Table 1)。

扁平上皮癌 (SCC) コホートにおける生存・奏効アウトカム:SCC コホートでは CS 群が CP 群に対し数値的に優れた OS を示した (Figure 1A)。CS 群の median OS は 14.0 ヶ月 (95% CI 11.4-16.7 ヶ月)、CP 群は 10.6 ヶ月 (95% CI 8.7-12.6 ヶ月) であり (median OS 14.0 vs 10.6 ヶ月)、HR 0.713 (95% CI 0.476-1.068) と CS 群で 3.4 ヶ月の数値的 OS 延長が観察された。組織型と治療群の交互作用 p=0.093 であり、SCC 集団において CS 療法が有利な傾向が示唆されたが統計的有意差には達しなかった。PFS の中央値は CS 群 4.4 ヶ月 (95% CI 3.65-5.79 ヶ月) 対 CP 群 4.9 ヶ月 (95% CI 3.98-5.72 ヶ月)、HR 0.938 (95% CI 0.642-1.371) で有意差なし。ORR は CS 群 27.3% 対 CP 群 33.9% (p=0.444、奏効率比 0.805、95% CI 0.460-1.408)、disease control 率は CS 群 80.0% 対 CP 群 76.3% で同等であった (Table 2)。Kaplan-Meier 生存曲線は研究治療終了後まもなく乖離し始め、忍容性の差が後続治療を介して生存に影響した可能性を視覚的に示した。

非扁平上皮癌 (non-SCC) コホートにおける生存・奏効アウトカム:non-SCC コホートでは CS 群と CP 群の OS は同等であった (Figure 1B)。CS 群の median OS は 15.5 ヶ月 (95% CI 11.7-18.4 ヶ月)、CP 群は 13.9 ヶ月 (95% CI 12.1-16.8 ヶ月)、HR 1.060 (95% CI 0.859-1.308) であった (Table 2)。PFS 中央値は CS 群 4.1 ヶ月 対 CP 群 4.8 ヶ月、HR 1.063 (95% CI 0.881-1.282) で有意差なし。ORR は CS 群 18.5% 対 CP 群 27.4% で CP 群が有意に高かった (p=0.027、奏効率比 0.680、95% CI 0.4805-0.960)。一方、disease control 率は CS 群 68.7% 対 CP 群 72.6% (p=0.393) で同等であり、ORR の差異が OS アウトカムに直接反映されなかったことが示された。これは non-SCC においても CS 療法が病勢制御という点では CP 療法と同等であることを示唆する。

組織型別安全性プロファイル:有害事象プロファイルは両組織型で一貫したパターンを示した (Table 3)。CS 群では CP 群と比較して grade 3/4 血小板減少の頻度が高く (SCC: CS 群 43% vs CP 群 15%、non-SCC: CS 群 30% vs CP 群 8%)、grade 3/4 白血球減少 (SCC: CS 群 2% vs CP 群 31%、non-SCC: CS 群 7% vs CP 群 33%)・好中球減少 (SCC: CS 群 24% vs CP 群 68%、non-SCC: CS 群 20% vs CP 群 78%) はいずれも CS 群で著明に少なかった。SCC コホートにおける発熱性好中球減少 (febrile neutropenia) の発生率は CS 群 4% 対 CP 群 19% (p=0.017) と CS 群で有意に低く、non-SCC でも CS 群 1% 対 CP 群 4% と良好な忍容性を示した。感覚性末梢神経障害 (sensory neuropathy) は SCC コホートで CS 群 16% 対 CP 群 81%、non-SCC で CS 群 16% 対 CP 群 81% と CS 群で著明に少なく、脱毛 (alopecia) も SCC で CS 群 11% 対 CP 群 73%、non-SCC で CS 群 9% 対 CP 群 78% と CS 群で大幅に低率であった。消化器毒性 (嘔気・嘔吐・下痢) は CS 群でやや多い傾向があったが grade 3/4 は少数にとどまった。

QOL 評価および 2 次治療施行率:QOL 評価において FACT-L 肺がんサブスケールスコアは、SCC コホートの調整済み平均スコアが 6 週・9 週時点でそれぞれ CS 群 20.8・21.1、CP 群 21.0・20.8 (p=0.723)、non-SCC でも CS 群 21.1・21.5、CP 群 21.3・21.3 (p=0.702) と、両組織型で両治療群間に有意差はなかった (Figure 2A-B)。一方、FACT/GOG-Ntx 神経毒性スケールは CS 群が両組織型コホートで CP 群に対し有意に優れていた。SCC では CS 群 6 週・9 週の調整済み平均 41.1・41.5 対 CP 群 36.9・35.4 (p<0.001)、non-SCC では CS 群 41.2・40.9 対 CP 群 38.6・37.6 (p<0.001) であり (Figure 2C-D)、末梢神経障害の回避が神経毒性 QOL の有意な維持に寄与した。

2 次治療施行率は SCC コホートで CS 群 78.2% 対 CP 群 66.1% (p=0.15)、non-SCC で CS 群 74.0% 対 CP 群 70.0% (p=0.34) であり両群で概ね同等であった (Table 4)。注目すべきことに、docetaxel を用いた 2 次治療施行率は SCC コホートにおいて CS 群 58.2% 対 CP 群 30.5% (p=0.003) と CS 群で有意に高く、non-SCC ではCS 群 47.1% 対 CP 群 44.4% (p=0.56) と同等であった。SCC コホートにおける high docetaxel 2 次治療施行率は、CS 療法の良好な忍容性—特に末梢神経障害と発熱性好中球減少の少なさ—が performance status を温存し次治療への移行を可能にしたことと一致する。

考察/結論

本 LETS 試験の更新解析は、2 年間フォローアップと十分な死亡イベント (n=446) 蓄積をもって carboplatin+S-1 の進行 NSCLC 全体での OS 非劣性を確認した。最も注目すべき知見は SCC コホートにおける数値的 OS 改善 (14.0 vs 10.6 ヶ月、HR 0.713) であり、これはこれまでの研究で示されてきた SCC 標準治療の成績と対照的な結果である。当時の NCCN ガイドラインで SCC に推奨されていた cisplatin+gemcitabine の SCC median OS は 10.8 ヶ月 (Scagliotti et al.)、また First-Line Erbitux in Lung Cancer (FLEX) 試験での cetuximab+化学療法の SCC median OS が 10.2 ヶ月であり、本試験の CP 群 SCC median OS 10.6 ヶ月は既報の標準治療と同水準である。これに対し CS 群の SCC median OS 14.0 ヶ月は既報 SCC 標準治療成績を上回る数値であり、これまで報告されていない程度の数値的 OS 優位を示した点で本研究の新規な知見として位置づけられる。

CS 療法が SCC において数値的な OS 優位を示したメカニズムについては複数の仮説が考えられる。SCC コホートにおける ORR・PFS は両群で同等であったことから、有効性の内在的な差よりも CS 療法の優れた忍容性を介した間接効果が OS に寄与した可能性がある。SCC コホートにおける発熱性好中球減少 (4% vs 19%)・末梢神経障害 (16% vs 81%) の著明な低頻度は performance status の維持につながり、docetaxel 2 次治療施行率の有意な差 (58.2% vs 30.5%、p=0.003) として観察された。進行 NSCLC の OS に対する後続治療の寄与は重大であることが知られており、臨床的意義として「1 次治療の忍容性が後続治療移行率を介して OS に間接的に影響する」という treatment continuum の観点から 1 次化学療法を選択することが重要な臨床応用上の示唆となる。SCC 患者においては、治療計画策定時に後続ライン治療まで含めた全体戦略の中で 1 次治療を位置づけることが有益と考えられる。

本研究には残された課題がある。第一に、組織型別解析はプロトコルに事前規定されない post hoc サブグループ解析であり、仮説生成的な性格であること。第二に、SCC コホートのサンプルサイズが CS 群 n=55・CP 群 n=59 と限られており、HR 0.713 という有望な数値が統計的有意差に達しなかった (交互作用 p=0.093) のは検出力不足に起因する可能性が高い。第三に、SCC コホートにおける高い docetaxel 2 次治療施行率 (CS 群 58.2%) が OS 改善に寄与した可能性があり、1 次治療の直接効果を後続治療の影響から分離することが困難である。今後の検討として、SCC に対する carboplatin+S-1 の有効性を前向きに検証するためには SCC を primary population とした独立した第 III 相試験が必要であり、また immune checkpoint 阻害薬や分子標的薬との併用レジメンとしての可能性についても更なる検討が求められる。

以上より、carboplatin+S-1 は組織型に関わらず進行 NSCLC の一次化学療法として有効かつ忍容性に優れたプラチナ系レジメンであり、その安全性プロファイルは QOL の維持と後続治療への橋渡しをもたらす。SCC コホートにおける数値的 OS 優位性 (HR 0.713) は、治療選択肢に乏しい SCC 患者に対して carboplatin+S-1 が有望な治療オプションである可能性を示す根拠となる。

方法

本報告は LETS 試験の更新解析および post hoc 組織型別サブグループ解析である。LETS 試験の対象は組織学的に確認された進行 NSCLC (stage IIIB/IV)、Eastern Cooperative Oncology Group performance status (ECOG PS) 0-1、化学療法未治療、年齢 20-74 歳の患者とし、n=564 名を 1:1 に無作為化した。CS (carboplatin+S-1) 群 (n=282) は carboplatin を area under the curve (AUC) 5 の用量で day 1 に持続点滴静注し、TS-1 (S-1; tegafur-gimeracil-oteracil potassium oral fluoropyrimidine) 80 mg/m² を 1 日 2 回に分けて days 1-14 に経口投与、3 週毎に最大 6 サイクル繰り返した。CP (carboplatin+paclitaxel) 群 (n=282) は carboplatin AUC 6 + paclitaxel 200 mg/m² を day 1 に持続点滴静注し、3 週毎に最大 6 サイクル繰り返した。主要エンドポイントは OS (非劣性)、副次エンドポイントは腫瘍奏効率 (overall response rate: ORR)、無増悪生存期間 (progression-free survival: PFS)、安全性、QOL であった。

更新解析では intention-to-treat 集団を対象とし、データカットオフ時点での OS・PFS を組織型別 (SCC: n=114、non-SCC: n=450) に評価した。後治療 (docetaxel および EGFR-TKI) の影響も治療ライン・薬剤別に解析した。QOL は FACT (Functional Assessment of Cancer Therapy) スコアリング体系に基づく 2 尺度で評価した。FACT-L (FACT-Lung) 肺がんサブスケール (最大 28 点) と GOG-Ntx (Gynecologic Oncology Group-Neurotoxicity) 尺度を組み合わせた FACT/GOG-Ntx 神経毒性サブスケール (最大 44 点) を登録時・6 週後・9 週後に実施した (高スコアほど良好)。

統計解析:生存曲線は Kaplan-Meier 法で推定し、中央値生存の 95% 信頼区間 (CI) は Brookmeyer-Crowley 法で算出した。ハザード比 (hazard ratio: HR) と CI の算出ならびに組織型と治療群の交互作用効果の検定には Cox 比例ハザードモデルを用いた。ORR の群間比較にはカイ二乗検定を、縦断的 QOL データには線形混合効果モデル (linear mixed-effects model) を使用し、すべて SAS version 9.2 で解析した。p<0.05 を統計的有意とした。