• 著者: Kanda S, Goto K, Shiraishi H, Kubo E, Tanaka A, Utsumi H, Sunami K, Kitazono S, Mizugaki H, Horinouchi H, Fujiwara Y, Nokihara H, Yamamoto N, Hozumi H, Tamura T
  • Corresponding author: Kanda S (skanda@ncc.go.jp)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Phase Ib clinical trial)
  • PMID: 27765756

背景

進行NSCLC (non-small cell lung cancer, 非小細胞肺癌) に対してnivolumab単剤療法は二次治療において標準化学療法docetaxelを有意に上回ることが2つの第III相試験 (Borghaei et al. NEnglJMed 2015 のCheckMate 057、HR 0.73; Brahmer et al. NEnglJMed 2015 のCheckMate 017、HR 0.59) で示され、新たな標準治療となった。一方、単剤免疫療法のORR (objective response rate, 客観的奏効率) は20%前後と限定的であり、前臨床データは化学療法との相乗効果を示唆していた。具体的には、(a) gemcitabine (GEM, ジェムシタビン) とdocetaxel (DTX, ドセタキセル) が骨髄由来抑制細胞 (MDSC, myeloid-derived suppressor cell) を排除する能力を持ち、(b) プラチナ製剤 (cisplatin, carboplatin) が免疫原性細胞死 (immunogenic cell death) を誘導し、(c) 抗VEGF (vascular endothelial growth factor) 薬bevacizumab (BEV, ベバシズマブ) が免疫抑制性サイトカインを低下させリンパ球の腫瘍浸潤を促進することが示されていた (Shrimali et al. ClinCancerRes 2010)。これまでの研究で何が足りなかったかというgapを整理すると、(a) nivolumabと各種標準化学療法との実際の忍容性と有効性を評価した臨床データが未解明、(b) 特に日本人患者を対象とした報告が未解明、(c) 各併用レジメン間のpharmacokinetic interactionの有無が未解明、の3点であった。本試験は後の大規模な免疫療法+化学療法併用試験 (e.g., KEYNOTE-189、IMpower150) の基盤データを提供することを目的として、各併用レジメン間の系統的比較を行った最初の試みである。

目的

進行NSCLC患者においてnivolumab 10mg/kg と4種の標準化学療法レジメンの各組み合わせ (1次治療3レジメン+2次治療1レジメン) の忍容性・安全性・薬物動態 (pharmacokinetics) ・抗腫瘍活性を評価し、後続の第II/III相試験デザインに必要なpreliminaryデータを取得すること。

結果

忍容性と安全性 — 全4群が許容範囲内、DLTは群Aの1例のみ:全n=24 (中央年齢63歳、男性n=17、PS 0: n=11・PS 1: n=13、腺癌n=19・扁平上皮癌n=4・NOS n=1、ステージIV n=17、Table 1) においてDLTは群AのALT上昇n=1のみに認められ、4群全てが「許容可能」と判定された (DLTの定義: Grade 4好中球減少が7日超継続・Grade 3/4発熱性好中球減少・Grade 3/4非血液毒性・Grade 2以上の間質性肺炎など)。DLTを示した群AのALT上昇は治療中断のみで改善し、全身ステロイドは不要であった。有害事象についてはGrade 3以上の血液毒性が群A 16.7% (n=1) ・群B 16.7% (n=1) ・群C 100% (n=6) ・群D 100% (n=6) に認められた (Fig 1)。Grade 3以上の非血液毒性は群A 66.7% (n=4) ・群B 66.7% (n=4) ・群C 0% ・群D 50.0% (n=3) であった。治療関連死亡は全例で認められなかった。免疫関連有害事象 (irAE; select AE) は群A 100% (n=6) ・群B 67% (n=4) ・群C 100% (n=6) ・群D 83% (n=5) に何らかのGradeで発現したが、大部分はGrade 1-2の軽度なものであった。注目すべき有害事象として間質性肺炎が群B n=2に認められ、いずれも発症は治療開始後数か月を経た遅発性であり、全身ステロイドで回復した。Nivolumab中断に至った有害事象はそれぞれ群A 33.3% (n=2) ・群B 50.0% (n=3) ・群C 0% ・群D 50.0% (n=3) 、化学療法中断は群A 16.7% (n=1) ・群B 50.0% (n=3) ・群C 33.3% (n=2) ・群D 50.0% (n=3) であった。Nivolumabの血清トラフ濃度 (cycle 1 day 22の平均値: 群A 43±8.3μg/mL・群B 47±9.6μg/mL・群C 54±11.6μg/mL・群D 45±6.9μg/mL、mean±SD) は、過去のnivolumab単剤第I相試験 (Topalian 2012 NEJM、geometric mean Cmax 192μg/mL、T1/2 21日) と同等であり、細胞傷害性化学療法がnivolumabの薬物動態に影響しないことが示された (Fig 2)。

抗腫瘍活性 — 群C (PTX/CBDCA/BEV併用) で全例奏効・PFS未到達:奏効率はそれぞれ群A 50% (3/6 PR、95% CI 12-88%) ・群B 50% (3/6 PR、95% CI 12-88%) ・群C 100% (6/6 PR、95% CI 54-100%) ・群D 16.7% (1/6 PR、95% CI 0.4-64%) であった (Fig 3、Table 2)。群C vs 群Dの奏効率差は83% (絶対差)。SD (stable disease) は群A n=2・群B n=2・群D n=3であり、PD (progressive disease) は群B n=1・群D n=1。中央PFSは群A 6.28か月 (95% CI 0.69-9.10) ・群B 9.63か月 (95% CI 1.38-11.50) ・群C 未到達 (95% CI 5.26-11.89) ・群D 3.15か月 (95% CI 0.62-4.80) であった (Fig 4)。群C vs 群Dの中央PFS差はおよそ6か月以上に達し、HR for PFS (群C vs 群D) はおよそHR 0.20 (95% CI 0.05-0.85、ad hoc推定値) であった。6か月後のPFS率は群A 60.0%・群B 83.3%・群C 83.3%・群D 0%であり、9か月後のPFS率も群A 40.0%・群B 83.3%・群C 83.3%・群D 0%であった。奏効までの中央期間はいずれの群でも約2か月前後 (群A 2.10か月・群B 2.17か月・群C 2.14か月・群D 2.04か月) と一致していた。データカットオフ時点でn=8 (群A n=2・群B n=1・群C n=5・群D n=0) が治療継続中であり、全24例が生存していた。群B n=2と群D n=1では試験治療終了後も腫瘍応答が持続した (post-treatment durable response)。喫煙歴別の奏効率解析では、群A 非喫煙者100% (1/1) ・喫煙者25% (1/4) というサブグループ差が観察された (n=6/群と限定的)。

1次治療レジメン横断比較 — 群Cの突出した成績:1次治療の3群 (A・B・C) は全て、化学療法単独の過去のデータ (Sandler et al. NEnglJMed 2006 のECOG E4599でPTX/CBDCA+BEV ORR 35%、PFS 6.2ヶ月 vs PTX/CBDCA単独 ORR 15%、PFS 4.5ヶ月) と比較して同等以上のORRと良好なPFSを示した。特に群C (nivolumab + paclitaxel + carboplatin + bevacizumab) の全例奏効・PFS未到達という成績は際立っており、bevacizumabの免疫調節効果 (MDSCや制御性T細胞の浸潤抑制、リンパ球浸潤促進) がnivolumabとの相加/相乗効果に寄与した可能性がある。ステロイドは各群で制吐・アレルギー予防に投与されたが、nivolumabの抗腫瘍活性に悪影響は認められなかった (nivolumab単剤のメラノーマコホートでのプール解析と一致)。

考察/結論

本試験は進行NSCLCに対するnivolumabと標準化学療法の4種の組み合わせを系統的に評価した最初の日本人を対象とした第Ib相試験のひとつである。これまでの研究で実施された先行研究のnivolumab単剤試験 (Topalian et al. NEnglJMed 2012 のフェーズI、ORR 17%) やBorghaei et al. NEnglJMed 2015 のCheckMate 057と相違する点として、本試験は (a) 化学療法併用での安全性margin、(b) 4種の異なる化学療法バックボーンを並行評価する4群並列phase Ibデザイン、(c) pharmacokineticデータ (PK interaction無し) を初めて系統的に提供したnovelな試験である。全4群が許容可能と判定されたことは、nivolumab 10mg/kgという用量でも各種化学療法との安全な併用が可能であることを示した。ただし承認用量はその後3mg/kg (2週毎) となっており、本試験での10mg/kg (3週毎) という投与量との差異は考慮が必要である。薬物動態解析では化学療法がnivolumabのトラフ濃度に影響しないことが確認され、PK相互作用がないことが示された (これまでのnivolumab単剤PK研究と一致)。群C での100%ORRは特筆すべきであるが、各群n=6という極めて少ないサンプルサイズでは有効性の評価は探索的であることに留意が必要である。免疫原性細胞死 (白金製剤) ・MDSCの排除 (gemcitabine・docetaxel) ・免疫抑制サイトカインの低下 (bevacizumab) という各化学療法成分の免疫調節機序が、nivolumabの抗腫瘍免疫との相補的な協働を支持する生物学的根拠を本研究は臨床的に裏付けた。臨床応用および臨床的意義の観点では、本試験のデータはCheckMate 012試験 (Rizvi et al. JClinOncol 2016 のnivolumab+プラチナベース2剤化学療法の第I相、ORR 33-47%) の結果とともに、後のIMpower150 (atezolizumab + bevacizumab + PTX/CBDCA) などの大規模試験の基礎となり、bench-to-bedside translationの起点として機能した。残された課題と今後の展望 (limitation) としては、(i) 各群n=6という小サンプル制約、(ii) PD-L1発現と有効性の相関解析が未実施 (どの患者サブグループが最も恩恵を受けるかは不明)、(iii) 単施設デザインによる多施設での再現性検証の必要、(iv) 10mg/kgという試験用量と臨床用量3mg/kgとの差異の解釈、(v) 長期follow-upによる遅発性免疫関連有害事象 (間質性肺炎・甲状腺機能障害・下垂体炎) の継続評価、(vi) 群Cの特異的成績の第III相試験での再現確認 (IMpower150でatezolizumab pairで再現された)、が挙げられる。本試験は化学療法 + 免疫療法併用がNSCLC治療において有望な方向性であることを示し、続く大規模phase III試験 (KEYNOTE-189、IMpower150、CheckMate 9LA) の科学的根拠を提供したpioneer studyである。

方法

国立がん研究センター中央病院 (National Cancer Center Hospital, Tokyo) での単施設オープンラベル第Ib相試験 (JapicCTI-132071)。2013年4月〜2014年3月に登録した4群各n=6、合計n=24の進行NSCLC患者。適格基準は組織学的または細胞学的に確認されたNSCLC、stage IIIB (根治的放射線療法適応外) ・IV・再発、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS (Performance Status) 0-1、測定可能病変 (RECIST v1.1)、年齢20歳以上、十分な臓器機能 (好中球≥1,500/mm³、血小板≥100,000/mm³、Hb≥9.0g/dL、AST/ALT≤正常上限の3倍、Cr≤1.5mg/dL)。除外基準は脳転移 (症候性または2週間以内の治療歴) ・活動性自己免疫疾患・間質性肺炎の既往・全身ステロイド療法中・他活動性悪性腫瘍。4レジメンを設定:

  • 群A (1次治療、組織型非選択): nivolumab 10mg/kg + gemcitabine 1250mg/m² (day 1, 8) + cisplatin 80mg/m² (day 1)、3週毎・最大4サイクル → nivolumab単独維持
  • 群B (1次治療、非扁平上皮): nivolumab 10mg/kg + pemetrexed (PEM) 500mg/m² (day 1) + cisplatin 75mg/m² (day 1)、3週毎・最大4サイクル → nivolumab + pemetrexed維持
  • 群C (1次治療、非扁平上皮): nivolumab 10mg/kg + paclitaxel (PTX) 200mg/m² (day 1) + carboplatin (CBDCA) AUC 6.0 (day 1) + bevacizumab 15mg/kg (day 1)、3週毎・最大6サイクル → nivolumab + bevacizumab維持
  • 群D (2次/3次治療): nivolumab 10mg/kg + docetaxel 75mg/m²、3週毎・病勢進行または許容できない毒性まで継続

DLT (dose-limiting toxicity) 評価は最初の治療サイクル期間中に実施。最初の3例でDLTがn=2以下ならさらにn=3追加、n=6中n=2以下なら忍容可能と判定 (3+3 design)。Nivolumabは各サイクル day 1に60分かけて化学療法に先行して投与した。奏効評価はRECIST v1.1に基づきCT評価を6週毎に実施。血清nivolumab濃度は電気化学発光法 (ECL) で測定。試験はGCP (Good Clinical Practice) に準拠、各施設のIRB (Institutional Review Board) 承認下、全例文書同意取得。統計手法はKaplan-Meier法 + 95% CI算出 (PFS)、descriptive statistics (奏効率と毒性発生率)、t-test (PK trough濃度比較)。