• 著者: Ayyoub M, Memeo L, Álvarez-Fernández E, Colarossi C, Costanzo R, Aiello E, Martinetti D, Valmori D
  • Corresponding author: Maha Ayyoub および Danila Valmori (INSERM U1102, Institut de Cancérologie de l’Ouest, Nantes-Saint Herblain, France; Danila.Valmori@univ-nantes.fr)
  • 雑誌: Cancer Immunology Research
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-05-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24866168

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は、男女ともに癌関連死亡の主要な原因であり、その治療は公衆衛生上の大きな課題である Siegel et al. CancerJClin 2013。特に進行期NSCLCにおいては、従来の化学療法に加えて、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題であった。標的療法として、EGFR変異を有する患者に対するチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) が有効であることが Maemondo et al. NEnglJMed 2010Zhou et al. LancetOncol 2011 によって示されていた。しかし、KRAS変異はTKI耐性と関連することが示唆されており (Eberhardら、Massarelliら)、これらの標的療法が適用可能な患者数は限られているという課題があった。さらに、これらの治療効果が永続的でない場合があり、抵抗性の獲得が問題となることも報告されていた。したがって、より多くの患者、特に早期病期の患者にも適用可能で、安定した臨床反応を誘導し、生存期間を延長できる新たな治療アプローチが強く求められていた。

免疫療法は、NSCLCが腫瘍特異的抗原を発現し、免疫原性を持つという知見に基づき、新たな治療アプローチとして注目されていた Brahmer et al. JClinOncol 2013。MAGE-A (Melanoma-Associated Antigen-A) は、X染色体Xq28に集積する15の遺伝子から構成されるがん精巣抗原 (CTA) の一種である。MAGE-A抗原は生理的には精巣のみで発現し、正常体細胞では発現しないため、悪性腫瘍での再活性化は高い腫瘍特異性を持つ免疫療法標的として非常に有望である。MAGE-A抗原の発現は、プロモーターのDNA脱メチル化やヒストンアセチル化といったエピジェネティックな機序によって制御されることが知られている (Wischnewskiら)。MAGE-A抗原は免疫原性が高く、T細胞療法やペプチドワクチンなどの免疫療法標的として開発が進められており、MAGE-A3を標的とした術後補助免疫療法の第II相試験も実施されていた (Vansteenkisteら)。

しかし、NSCLCにおけるMAGE-A発現と組織型、臨床病理学的特性、およびEGFRやKRASといった主要なゲノム変異との関係は十分に解明されていなかった。MAGE-Aの発現頻度は腫瘍の種類やサブタイプによって変動することが知られていたが、その変動を説明する分子メカニズムは未解明であった。また、MAGE-Aタンパク質の生理的機能や癌における役割も完全には解明されていなかった。MAGE-A標的免疫療法の効果を最大化するためには、適切な患者選択基準を確立することが不可欠であり、そのためにはMAGE-A発現の包括的なプロファイリングが不足していた。本研究は、これらのギャップを埋め、MAGE-A標的免疫療法の患者選択のための合理的なプロファイリング基準を提供することを目的とした。

目的

本研究の目的は、外科的に切除された非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者216例を対象に、免疫組織化学 (IHC) を用いてMAGE-A抗原の発現を評価し、その発現が組織型、腫瘍グレード、病期、および患者の疾患特異的生存とどのように関連するかを明らかにすることである。さらに、EGFRおよびKRAS遺伝子の変異状態とMAGE-A発現との相関関係を包括的に解析し、MAGE-A標的免疫療法の患者選択のための合理的なプロファイリング基準を確立することを目指した。具体的には、MAGE-A発現が特定の組織型や遺伝子変異プロファイルを持つ患者群で高頻度であるか、またMAGE-A発現が予後因子となりうるかを検証する。本研究は、MAGE-A標的免疫療法の臨床応用を促進するための基盤情報を提供することを意図している。

結果

MAGE-A発現頻度と臨床病理学的特性: 切除NSCLC患者216例中、93例 (43.1%) でMAGE-A陽性発現が認められた (Table 1)。MAGE-A発現は不均一であったものの、陽性サンプルの大部分は高い発現スコアを示し、腫瘍細胞の50%超がMAGE-Aを発現するものが多数を占めた (Supplementary Table S1)。MAGE-A発現は、60歳未満の患者 (56.6% vs. 60歳以上38.9%、p=0.032) および男性患者 (45.8% vs. 女性20.8%、p=0.020) で有意に高頻度であった。喫煙歴とMAGE-A発現との間には有意な関連は認められなかった (Table 1)。

組織型別MAGE-A発現の差異: MAGE-A発現頻度において最も顕著な差異は組織型間に認められた。扁平上皮癌102例中63例 (61.8%) がMAGE-A陽性であり、腺癌75例中12例 (16.0%) に比較して約4倍高い発現頻度を示した (p<0.0001)。腺扁平上皮癌8例中3例 (37.5%)、大細胞癌13例中7例 (53.8%)、その他の組織型18例中8例 (44.4%) でも一定の陽性率が認められた。この組織型間の有意な差異は、MAGE-A標的免疫療法の患者選択において重要な意味を持つと考えられる。

腫瘍グレードとMAGE-A発現の相関: MAGE-A発現は腫瘍グレードと有意な正の相関を示した (p<0.0001)。Grade 1 (13例中2例、15.4%) およびGrade 2 (44例中7例、15.9%) の腫瘍と比較して、Grade 3の腫瘍 (154例中81例、52.6%) でMAGE-A発現頻度が著しく高かった。この結果は、MAGE-A発現が高悪性度または低分化型腫瘍でより頻繁に認められることを示唆する。一方、病期とMAGE-A発現との間には有意な相関は認められなかった (Stage I: 42.8%、Stage II+III: 44.3%、p=ns)。これは、MAGE-A発現が早期病期から一定の頻度で存在することを示しており、早期NSCLC患者に対するMAGE-A標的免疫療法の適用可能性を支持する。

MAGE-A発現と疾患特異的生存の関連: 全体コホートにおけるKaplan-Meier解析では、MAGE-A陽性患者はMAGE-A陰性患者と比較して有意に不良な疾患特異的生存を示した (HR 1.63, 95% CI 1.02-2.60, p=0.039) (Figure 2A)。組織型別の解析では、腺癌 (HR 2.76, 95% CI 1.04-7.31, p=0.040) およびその他の組織型 (HR 2.47, 95% CI 1.04-5.89, p=0.040) において、MAGE-A陽性患者で有意な生存不良が確認された。しかし、扁平上皮癌ではMAGE-A発現の有無による生存差は有意ではなかった (p=0.136) (Figure 2A)。病期別の解析では、早期病期 (Stage I) の患者においてMAGE-A陽性による有意な生存不良が認められた (HR 2.21, 95% CI 1.19-4.11, p=0.011) (Figure 2C)。しかし、Stage II+IIIの患者ではMAGE-A発現と生存との間に有意差はなかった (p=0.883)。腫瘍グレード別では、MAGE-A発現と生存との間に統計的に有意な差は示されなかった (p=0.050、境界域) (Figure 2B)。これらの結果は、MAGE-A発現がNSCLC全体の独立した予後因子ではないものの、特定の腫瘍サブタイプや病期においては価値ある予後因子となりうることを示唆する。

EGFRおよびKRAS変異状態の解析: 全コホートにおいて、EGFR変異は21例 (9.7%)、KRAS変異は29例 (13.4%) に認められた (Table 1)。重要なことに、EGFR変異およびKRAS変異はいずれも扁平上皮癌では検出されず、主に腺癌に存在した (腺癌におけるEGFR変異頻度21.3%、KRAS変異頻度26.7%)。大細胞癌ではKRAS変異が31%に認められたが、EGFR変異は検出されなかった。EGFR変異とKRAS変異は相互排他的であった (Figure 3)。EGFR変異は女性患者 (p<0.0001) と有意に相関し、KRAS変異は非喫煙者 (p=0.047) と有意に相関した。KRAS変異は低腫瘍グレード (p=0.001) および早期病期 (Stage I: 17.2% vs. Stage II+III: 5.7%、p=0.020) とも有意に相関した。

MAGE-A発現とKRAS変異の負の相関: 腺癌において、MAGE-A発現とKRAS変異は有意な負の相関を示した (KRAS変異を有する腺癌でのMAGE-A発現: 0% vs. KRAS野生型腺癌でのMAGE-A発現: 21.8%、p=0.02) (Figure 3)。この結果は、KRAS変異を有する腺癌ではMAGE-Aが全く発現しないことを示している。一方、EGFR変異の有無によるMAGE-A発現頻度の差は有意ではなかった (EGFR変異陽性腺癌: 25% vs. EGFR野生型腺癌: 13.6%、p=ns)。腺扁平上皮癌や大細胞癌などその他の組織型では、MAGE-A発現とEGFRまたはKRAS変異のいずれとの間にも有意な相関は認められなかった。

KRAS変異と生存の関連: KRAS変異を有する腺癌患者は、有意に良好な生存を示した (HR 0.44, 95% CI 0.20-0.97, p=0.040) (Figure 2D)。この結果は、KRAS変異が主に早期病期 (Stage I) および低グレードの腺癌に集中していることと関連している可能性がある。これは、KRAS変異がNSCLC発癌の非常に早期段階で発生し、追加の遺伝子異常がない限り腫瘍進行に繋がりにくいという概念 (Yatabeら) と一致する。

考察/結論

本研究は、切除されたNSCLCにおけるMAGE-A抗原の包括的な発現プロファイルを初めて系統的に評価し、MAGE-A標的免疫療法の開発に有用な知見を提供した。

新規性: 本研究で初めて、MAGE-A発現がNSCLCの組織型、腫瘍グレード、およびKRAS変異状態と密接に関連していることを大規模コホートで明らかにした。特に、MAGE-A発現が扁平上皮癌で高頻度であり、腺癌ではKRAS変異と相互排他的であるという知見は新規である。

先行研究との違い: 従来のMAGE-Aに関する研究では、その発現と臨床病理学的特性や遺伝子変異との詳細な関連は十分に解析されていなかった。本研究は、MAGE-A発現が全体コホートで不良な予後と関連するものの、扁平上皮癌ではその関連が有意でなく、腺癌およびその他の組織型で不良な予後と関連するという点で、これまでの報告とは異なる詳細な知見を提供した。また、KRAS変異が早期病期および低グレードの腺癌に集中し、良好な予後と関連するという本研究の知見は、進行期肺癌を対象とした一部の先行研究とは対照的であり、KRAS変異の予後への影響が病期によって異なる可能性を示唆する。

臨床応用: 第一に、扁平上皮癌におけるMAGE-Aの高発現頻度 (61.8%) は、当時従来の化学療法以外の治療選択肢が限られていたこの組織型において、MAGE-A標的免疫療法が特に有望な治療戦略となりうることを示唆する。第二に、MAGE-Aが早期病期から発現しているという事実は、Stage I-IIIAの外科的切除可能な患者に対する術後補助免疫療法としてのMAGE-A標的療法の応用可能性を支持する。第三に、KRAS変異を有する腺癌ではMAGE-Aが全く発現しないため、KRAS変異陽性の腺癌患者はMAGE-A標的療法の対象外であることを明確化した。これにより、KRAS変異検査がMAGE-A標的療法の患者選別において除外診断として機能しうる。EGFR変異を有する腺癌でもMAGE-Aが一定の頻度 (25%) で発現することは、EGFR変異陽性腺癌患者においてTKIとMAGE-A標的免疫療法を組み合わせる戦略の検討余地があることを示唆する。これらの知見は、MAGE-A標的免疫療法の臨床応用における患者選択基準を確立する上で重要な意義を持つ。

残された課題: MAGE-A高発現と高グレード・不良生存の相関は、MAGE-Aの発現が腫瘍の脱分化や悪性進展に伴うエピジェネティック変化を反映するという概念と一致する。MAGE-A3タンパク質が線維結合素 (fibronectin) 制御を介した癌進展に関与する可能性も示唆されているが、MAGE-Aファミリー全体の機能的役割についてはさらなる研究が残された課題である。本研究は免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) が臨床標準となる前の知見であるが、MAGE-A陽性腫瘍がICBにも感受性を持つのか、またICBとMAGE-A標的療法の組み合わせが相乗効果をもたらすのかという問いは今後の検討課題である。結論として、NSCLCにおけるMAGE-Aを標的とする免疫療法の患者選別には、組織型 (扁平上皮癌優先)、KRAS変異状態 (陽性なら非対象)、およびMAGE-A IHCを組み合わせたプロファイリングが合理的なアプローチである。本研究の結論は、より大規模なコホートでのさらなる検証によって裏付けられる必要がある。

方法

患者および腫瘍検体: 本研究は、スペイン・マドリードのHospital General Universitario Gregorio Marañónの病理部門から提供された、1993年から2008年の間に外科的切除術を受けたStage I-IIIAのNSCLC患者216例のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織検体を用いたレトロスペクティブコホート研究である。これらの検体は、解析に十分な量の腫瘍組織が利用可能であった。手術術式の内訳は、葉切除 (n=153)、二葉切除 (n=7)、全肺切除 (n=34)、その他の術式 (n=22) であった。患者の臨床病理学的データおよび臨床追跡データは、患者の診療記録から取得された。患者からの書面によるインフォームドコンセントと、病院の倫理委員会による研究承認を得て実施された。検体は24時間中性緩衝ホルマリンで固定後、自動的にパラフィン包埋された。中央観察期間は57週間 (範囲1-169週) であった。

MAGE-A発現解析 (免疫組織化学): FFPE組織から5μm厚の切片を作成し、キシラン処理スライドにマウントした。切片は脱パラフィン処理および段階的アルコールによる再水和を行った。脱パラフィン処理されたサンプルは、MAGE-A特異的モノクローナル抗体 (mAb) 6C1 (0.3 μg/mL; Abcam) を用いて免疫組織化学染色を実施した。6C1抗体はMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12を認識する。対比染色にはヘマトキシリン溶液を用いた。腫瘍細胞の核および/または細胞質に1%以上の染色が認められた場合をMAGE-A陽性と判定した。MAGE-A陽性サンプルは、MAGE-A陽性腫瘍細胞の割合に基づき、以下のスコアで層別化した: スコア1 (<10%)、スコア2 (10-25%)、スコア3 (25-50%)、スコア4 (>50%)。精巣組織を陽性コントロールとして使用した。

EGFRおよびKRAS変異解析: FFPE組織サンプルからQIAamp DNA FFPE tissue kit (Qiagen) を用いてゲノムDNAを抽出した。EGFR遺伝子 (エクソン18-21) の変異は、Therascreen EGFR Mutation Test kit (Qiagen) を用いたリアルタイムPCRにより検出した。このキットは、エクソン19の19種類の欠失、エクソン20の3種類の挿入、およびG719X (エクソン18)、S768I、T790M (エクソン20)、L858R、L861Q (エクソン21) などの一般的なEGFR点変異を検出する。データ解析にはRotor-Gene Q seriesソフトウェアバージョン2.0.2を使用した。KRAS遺伝子エクソン2の変異解析は、PCR産物の直接サンガーシーケンシングによって実施した。PCR産物はExoI/SAPで精製後、BigDyeH Terminator v1.1 cycle sequencing kit (Applied Biosystems) とABI 3500 Genetic Analyzer (Applied Biosystem) を用いて両鎖を直接シーケンシングした。

統計解析: MAGE-A発現、EGFR変異、KRAS変異と臨床病理学的特性との相関の統計的有意性は、χ²検定またはFisher’s exact testを用いて評価した。生存解析は、肺癌による死亡 (疾患特異的生存) を考慮したKaplan-Meier曲線を用いて実施し、群間の差の統計的有意性はLog-Rank検定 (Prism, Graphpad software Inc.) によって評価した。