- 著者: Caicun Zhou, Yi-Long Wu, Gongyan Chen, et al.
- Corresponding author: Caicun Zhou (Shanghai Pulmonary Hospital, Tongji University, Shanghai, China); Yi-Long Wu (Guangdong Lung Cancer Institute, Guangdong General Hospital, Guangzhou, China)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-07-22
- Article種別: Original Article (Phase III)
- PMID: 21783417
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界的に癌関連死亡の主要な原因であり、多くの患者が進行期で診断される。近年、化学療法および分子標的治療の進歩により、新たな治療選択肢が提供されてきた。特に、上皮成長因子受容体 (EGFR) のチロシンキナーゼドメインを阻害する経口分子標的薬であるerlotinibは、第III相BR.21試験で最良支持療法に対する全生存期間 (OS) の改善を示し、二次治療として承認された実績がある Shepherd et al. NEnglJMed 2005。さらに、erlotinibは一次治療の進行NSCLC患者を対象とした第II相試験でも10〜20%の奏効率と10.9〜12.9ヶ月の中央OSを示し、臨床的有用性が報告されていた。
近年、NSCLC研究は、特定の薬剤に対する臨床的利益の増加を予測できるバイオマーカーの特定に焦点を当ててきた。その中でも最も有望なバイオマーカーはEGFR変異ステータスである。EGFR遺伝子に活性化変異(すなわち、エクソン19欠失またはエクソン21 L858R点変異)を有する腫瘍を持つ患者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)治療から実質的に大きな利益を得ることが、変異を持たない患者と比較して示されてきた Mok et al. NEnglJMed 2009、Rosell et al. NEnglJMed 2009、Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、Maemondo et al. NEnglJMed 2010。注目すべきは、EGFR変異は白人患者と比較してアジア人患者でより高頻度に発生し、典型的な変異率はそれぞれ約30%と8%である Shigematsu et al. JNatlCancerInst 2005。したがって、アジア人患者のほぼ3人に1人がEGFR TKI治療に対する優れた反応を予測するバイオマーカーを持つ可能性がある。正確なEGFR変異検査の実施は、臨床診療におけるバイオマーカーに基づく治療戦略の利用において重要な要素である。
WJTOG3405、NEJ002、IPASSサブグループ解析など、日本・アジア系患者を中心とした試験から、EGFR変異陽性NSCLCに対するTKI一次治療の優越性が示されつつあった。しかし、中国人患者のみを対象とした無作為化第III相試験はOPTIMALが最初であった。中国では肺腺癌患者の30〜40%でEGFR変異が見られ、EGFR変異陽性患者へのTKI最適化治療の確立が特に重要な臨床課題であった。従来の一次化学療法がもたらす生存期間の改善は不十分であり、より効果的で忍容性の高い治療戦略が求められていた。また、中国での標準一次治療がgemcitabine+carboplatinであったことから、この化学療法との直接比較が設定された。OPTIMAL試験 (CTONG-0802) は22施設にわたる中国肺癌コンソーシアム (CTONG) 主導の前向き無作為化試験であり、中国人EGFR変異陽性患者への一次erlotinibの有効性と安全性の定量的エビデンスを提供することを目的とした。これまでの研究では、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるerlotinibの一次治療としての有効性と安全性を、標準化学療法と比較して大規模かつ前向きに評価したデータが不足しており、特に中国人集団に特化したデータは未解明な点が多かった。
目的
本研究の目的は、EGFR変異陽性(エクソン19欠失またはエクソン21 L858R点変異)のステージIIIBまたはIVの進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、一次治療としてerlotinib 150mg/日単剤療法と、標準化学療法であるgemcitabine 1000mg/m² (day 1, 8) + carboplatin (AUC=5、day 1) の4サイクルを比較することであった。主要評価項目は、RECIST 1.0に基づき治験責任医師が評価した無増悪生存期間 (PFS) とした。副次評価項目には、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、疾患制御率 (DCR)、奏効持続期間 (DoR)、安全性、およびQOL (FACT-LおよびLCSスコア) が含まれた。本試験は、中国人患者におけるEGFR変異陽性NSCLCに対するerlotinibの一次治療としての有効性と忍容性を確立し、臨床的有用性を示すことを目指した。
結果
試験規模と患者背景: 2008年8月24日から2009年7月17日の間に549名の患者がEGFR変異スクリーニングを受け、165名が無作為に治療群に割り付けられた (Figure 1)。このうち、測定可能な病変を有し、少なくとも1回の治験薬投与を受けた患者は154名であった(erlotinib群 n=82、化学療法群 n=72)。両治療群はベースライン特性に関して概ね良好に一致していた (Table 1)。erlotinib群の治療期間中央値は55.5週 (範囲 3.1-93.0) であったのに対し、gemcitabine+carboplatin群では10.4週 (範囲 1.0-18.9) であった。化学療法群の治療サイクル数中央値は4サイクル (範囲 1-6) であった。用量減量はerlotinib群の5名 (6%)、化学療法群の40名 (56%) で必要となり、治療中止はerlotinib群の1名 (1%)、化学療法群の7名 (10%) で必要であった。これらの用量減量または治療中止は有害事象に起因するものであったが、化学療法群の5名が個人的理由 (n=3)、許容できない毒性 (n=1)、または治験責任医師の判断 (n=1) により中止した。
主要評価項目 (PFS) の結果: 一次治療としてのerlotinibは、化学療法と比較して有意に長いPFSと関連していた (Figure 2)。erlotinib群のPFS中央値は13.1ヶ月 (95% CI 10.58-16.53) であったのに対し、化学療法群では4.6ヶ月 (95% CI 4.21-5.42) であった。ハザード比 (HR) は0.16 (95% CI 0.10-0.26, p<0.0001) であり、erlotinibが化学療法に対して統計学的に圧倒的な優越性を示した。1年PFS率はerlotinib群で52%であったのに対し、化学療法群では0%であった(1年時点で化学療法群は全例が増悪)。このHR 0.16という値は、当時の同種試験(IPASS EGFR変異サブグループ HR 0.48 Mok et al. NEnglJMed 2009、WJTOG3405 HR 0.489 Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、NEJ002 HR 0.30 Maemondo et al. NEnglJMed 2010)の中で最も大きなPFS改善効果を示しており、比較対照群であるgemcitabine+carboplatin(cisplatin+docetaxelよりも活性が低い可能性がある)との組み合わせが影響した可能性が考えられる。PFSの利益は、年齢、性別、パフォーマンスステータス、病期、腫瘍組織型、喫煙歴にかかわらず、すべての臨床サブグループで一貫しているように見えた (Figure 3)。
奏効率 (ORR) および疾患制御率 (DCR): erlotinib群の客観的奏効率 (ORR) は83.0% (82例中68例) であり、完全奏効 (CR) が2例 (2%)、部分奏効 (PR) が66例 (80%) であった。一方、化学療法群のORRは36.1% (72例中26例) であり、CRは0例、PRが26例 (36%) であった (p<0.0001)。疾患制御率 (DCR) はerlotinib群で96% (82例中79例) であったのに対し、化学療法群では82% (72例中59例) であった (p=0.0022)。奏効持続期間 (DoR) 中央値はerlotinib群で11.2ヶ月、化学療法群で4.2ヶ月と、erlotinib群で顕著に延長し、応答の質的優越性も示した。ORR 83%は、同時期の他のEGFR変異選択試験(WJTOG3405 62%、IPASS変異陽性サブグループ 71.2%)と比較しても高水準であった。
変異サブタイプ別PFS (探索的解析): EGFR変異サブタイプ別のPFS解析では、エクソン19欠失患者(erlotinib群 n=43、化学療法群 n=39)において、erlotinib群のPFS中央値は13.1ヶ月であったのに対し、化学療法群では4.6ヶ月であった (HR 0.17)。L858R変異患者(erlotinib群 n=39、化学療法群 n=33)においても、erlotinib群のPFS中央値は13.2ヶ月、化学療法群では4.6ヶ月であった (HR 0.16)。del19とL858Rの両変異型で同等の顕著な効果 (HR 0.16〜0.17) が観察されたことは、OPTIMAL試験の特徴的な知見であり、他試験でしばしば観察されるdel19優位のパターン(WJTOG3405: del19 HR 0.462 vs L858R HR 0.558)とは異なる結果であった。
安全性プロファイル: 化学療法群は、erlotinib群と比較して有意に高い頻度で血液学的有害事象(好中球減少症 p<0.0001、血小板減少症 p<0.0001)を伴い、多くのイベントがグレード3または4に分類された (Table 2)。化学療法群では、好中球減少症が72例中30例 (42%)、血小板減少症が72例中29例 (40%) で発生したのに対し、erlotinib群ではいずれのイベントも発生しなかった。erlotinib群では、皮膚発疹 (p<0.0001) と下痢 (p=0.00085) の発生率が有意に高かったが、ほとんどの症例はグレード1または2の重症度であった。erlotinib群で最も一般的なグレード3または4の有害事象は、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 濃度上昇 (83例中3例, 4%) と皮膚発疹 (83例中2例, 2%) であった。治療関連の重篤な有害事象は、化学療法群で10例 (14%) で発生し(血小板減少症 n=8、好中球減少症 n=1、肝機能障害 n=1)、erlotinib群では2例 (2%) で発生した(いずれも肝機能障害) (Table 3)。化学療法群の17%が治療関連毒性により全スケジュールを完了できなかった。骨髄毒性が完全に回避されたerlotinibの安全性プロファイルは特に顕著な利点であった。
後続治療と全生存期間 (OS): OSデータはまだ成熟していなかった。主要解析時(2010年7月16日)において、erlotinib群の82例中16例 (20%)、化学療法群の72例中12例 (17%) が死亡していた。2011年1月9日時点で88名の患者がOSの追跡調査中であった。最終的なOS中央値は、erlotinib群で22.8ヶ月、化学療法群で27.2ヶ月であり、HRは1.19 (95% CI 0.83-1.71, p=0.2) であった。化学療法群でOSが数値的に長いというパラドキシカルな結果は、化学療法群の進行後に多数の患者がEGFR-TKI治療を受けた(クロスオーバー効果)ことに起因すると解釈された。クロスオーバーは事前設定されていなかったが、施設裁量で実施され、化学療法群でのOS計算が後続TKI投与により複雑化した。このOS評価の困難さは、EGFR変異選択試験に共通する問題として認識された。
QOL評価: 事前計画された解析では、erlotinibがQOLに臨床的に関連する改善をもたらすことが示された。パフォーマンスステータス、喫煙歴、性別を共変量としたロジスティック回帰分析、または変異型、喫煙歴、組織型を共変量とした分析では、erlotinib投与患者は化学療法投与患者と比較して、総FACT-Lスコア (両方の共変量分析でp<0.0001) およびLung Cancer Subscale (LCS) スコア (両方の共変量分析でp<0.0001) の有意な改善を示した。
考察/結論
OPTIMAL試験は、EGFR変異陽性進行NSCLCを対象とした中国人集団での初のプロスペクティブな第III相試験であり、一次erlotinibのgemcitabine+carboplatinに対する圧倒的な優越性を示した。erlotinib群のPFS中央値は13.1ヶ月 (95% CI 10.58-16.53) であったのに対し、化学療法群では4.6ヶ月 (95% CI 4.21-5.42) であり、HRは0.16 (95% CI 0.10-0.26, p<0.0001) であった。このHRは、他のEGFR変異選択試験(WJTOG3405: HR 0.489 Mitsudomi et al. LancetOncol 2010、EURTAC: HR 0.37)と比べて最も低く、erlotinibの有効性が際立った結果である。
新規性: 本研究は、EGFR変異陽性NSCLC患者がerlotinibの一次治療を受けることで、1年以上無増悪で生存できることを示した初の第III相試験であり、肺癌における分子バイオマーカー検査が治療選択を導き、患者アウトカムを改善する臨床的有用性を明確に示した点で新規性がある。また、del19とL858R変異型で同等のPFS改善効果 (HR 0.16〜0.17) が観察されたことは、他試験でしばしば観察されるdel19優位のパターンとは異なる知見であり、本研究で初めて示された重要な点である。
先行研究との違い: 本研究の結果は、Mok et al. NEnglJMed 2009の結果と一致しており、EGFR TKIがEGFR変異陽性NSCLCにおいて化学療法よりも優れた一次治療効果を持つことを示唆する。特に、骨髄毒性がゼロという安全性プロファイルの優位性も顕著であり、化学療法群で頻繁にみられたグレード3/4の好中球減少症 (42%) や血小板減少症 (40%) とは対照的であった。erlotinib群で観察された皮膚発疹や下痢といった有害事象は、既存のガイドラインに基づいて管理可能であり、治療中止に至ることは稀であった。
臨床応用: OPTIMAL試験の結果は、中国を中心としたアジア太平洋地域でのEGFR変異検査の普及と一次TKI治療の標準化を加速し、その後の中国独自の試験(CTONG試験シリーズ)の礎となった。本知見は、進行NSCLCの診断時に、組織型や喫煙歴にかかわらず、すべてのEGFR変異陽性アジア人患者に対してEGFR変異検査を広く実施し、erlotinibを一次治療として推奨する根拠を提供する点で、臨床的意義は大きい。
残された課題: 本試験の限界としては、独立中央画像判定の不在が挙げられる。しかし、これは本試験設計当時の中国における臨床試験の実践状況を踏まえると許容範囲とみなされた。また、OSデータが未成熟であり、化学療法群における後続TKI治療によるクロスオーバー効果がOS評価を複雑化させたため、erlotinibのOS延長効果を直接評価できなかった点が残された課題である。今後の検討課題として、TKI耐性メカニズムの解明と、耐性獲得後の治療戦略の開発が挙げられる。また、erlotinibとgefitinibの直接比較試験の必要性はないと考えられ、むしろTKIに対する抵抗性を獲得した患者の治療法に関するさらなる研究が必要である。
方法
本試験は、中国国内の22施設で実施された多施設共同、非盲検、無作為化第III相試験 (NCT00874419) である。対象患者は18歳以上で、組織学的に確認された進行性または再発性のステージIIIBまたはIV NSCLC(UICC分類第6版)を有し、EGFR遺伝子に活性化変異(エクソン19欠失またはエクソン21 L858R点変異)が確認された患者であった。RECIST 1.0に基づき測定可能な病変を有し、ECOGパフォーマンスステータスが0〜2、十分な血液学的、生化学的、および臓器機能を有することが適格基準とされた。制御不能な脳転移を有する患者、または進行疾患に対する全身性抗癌治療歴のある患者は除外された(ただし、非転移性疾患に対する術後補助療法または術前補助療法は、最終治療から6ヶ月以上経過していれば許容された)。
患者は、EGFR変異型(エクソン19変異 vs エクソン21変異)、組織型(腺癌 vs 非腺癌)、および喫煙歴(現在または過去の喫煙者 vs 非喫煙者)で層別化され、Mini Randomisationソフトウェア(バージョン1.5)を用いた動的最小化法により、erlotinib群と化学療法群に1:1で無作為に割り付けられた。治験責任医師および患者は、治療内容について非盲検であった。
EGFR変異検査は、新鮮またはパラフィン包埋腫瘍組織サンプルから、PCRベースの直接シーケンシングにより中央検査室(Takara Biotechnology, 大連, 中国)で実施された。その他、エクソン19欠失変異には4%アガロースゲル電気泳動、エクソン21 L858R変異にはCycleaveリアルタイムPCRなどの方法も同時に適用された。
erlotinib群の患者にはerlotinib 150mgを1日1回経口投与し、疾患進行または許容できない毒性発現まで継続した。化学療法群の患者には、中国における標準レジメンであるプラチナ併用化学療法として、gemcitabine 1000mg/m²を3週間のサイクルの1日目と8日目に静脈内投与し、carboplatin (AUC=5) を1日目に静脈内投与する治療を最大4サイクル実施した。
有効性評価は6週間ごとに実施され、CTスキャン、MRI、骨スキャンを用いて標的病変を評価した。腫瘍反応および疾患進行はRECIST 1.0に従って分類された。腫瘍反応および疾患進行の評価は、各施設の放射線科医の意見を参考に、治験責任医師が行った。独立した放射線学的レビューは実施されなかった。OPTIMAL試験の設計時、中国では独立委員会によるレビューや中央レビューが一般的ではなかったため、事前に定義された独立レビューは行われなかった。試験は部分的にF. Hoffmann-La Roche (China) および上海市科学技術委員会からの研究助成金によって支援された。
有害事象および重篤な有害事象はすべて記録され、NCI-CTCAE v3.0に従ってグレード分類された。毒性発現時の用量調整または治療中断に関する厳格なガイドラインが設けられた。化学療法群では、前サイクル中に報告された最も重篤な毒性または異常な検査値に基づいて用量調整が行われた。erlotinib群では、グレード3または4の有害事象後に用量調整または中断が許容された。間質性肺疾患 (ILD) が疑われた場合、治療は直ちに中止された。
統計解析は、erlotinibの化学療法に対するPFSの優越性を示すために実施された。サンプルサイズは152例(必要なイベント数103)と設定された。これは、erlotinib群でPFS中央値11ヶ月、化学療法群で6ヶ月という仮定に基づき、ハザード比 (HR) 0.54を検出する80%の検出力、10%の脱落率、および両側αレベル2.5%(最終解析のα-spending 0.025)を考慮した。統計解析にはSASバージョン9.1.3が使用された。PFSデータの主要なカットオフ日は2010年7月16日であったが、その後10件のイベントが発生したため、2010年8月16日に更新された解析が実施され、本論文で報告されている。生存期間はKaplan-Meier法で推定され、中央値と95%信頼区間 (CI) で要約された。両側ログランク検定が2つの治療群間の生存期間を比較する主要な方法として用いられた。治療効果の推定値は、erlotinib対化学療法のハザード比 (HR) と両側95% CIで表された。PFSの探索的および事前計画されたサブグループ解析はCox比例ハザードモデルを用いて実施され、無作為化時の層別化因子が含まれた。