• 著者: Atagi S, Mizusawa J, Ishikura S, Takahashi T, Okamoto H, Tanaka H, Goto K, Nakagawa K, Harada M, Takeda Y, Nogami N, Fujita Y, Kasai T, Kishi K, Sawa T, Takeda K, Tomii K, Satouchi M, Seto T, Ohe Y
  • Corresponding author: Shinji Atagi, MD (Department of Thoracic Oncology, Kinki-chuo Chest Medical Center, Osaka, Japan)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-05-05
  • Article種別: Original Article (Phase III RCT Long-term Follow-up Report)
  • PMID: 29887243

背景

局所進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する標準治療は白金製剤ベースの化学療法と同時胸部放射線療法 (radiotherapy: RT) の併用であるが、高齢者 (70歳以上) を専門的に対象とした第 III 相ランダム化比較試験はほとんど存在せず、若年患者で得られた知見をそのまま高齢者へ外挿することの妥当性は長年にわたり不明確なままであった。Aupérin ら (JCO 2010) による 23 試験・8,507 例の個人データメタ解析では、逐次療法に対する同時放射線化学療法 (chemoradiotherapy: CRT) の全生存期間 (OS: overall survival) 絶対利益が確認されたが、高齢者サブグループへの適用可能性に関するエビデンスは不足していた。Dillman ら (NEJM 1990) や Le Chevalier ら (JNCI 1991) の先駆的ランダム化比較試験では化学放射線療法の優越性が示されたが、いずれも高齢者専用のデザインではなく、高齢患者に特化した長期安全性データが手薄であった。Santana-Davila ら (Santana-Davila et al. JClinOncol 2015) の退役軍人データ解析では carboplatin-paclitaxel 同時 CRT が cisplatin-etoposide と同等の生存成績を示したが、71 歳以上の fit な高齢者に特化した prospective な長期追跡コホートは依然として不在であった。

Stinchcombe ら (JCO 2017) の米国 NCI 協調グループ試験の個人データプール解析では、同時 CRT を受けた高齢患者 (≥70歳) では若年患者と比較して Grade 5 有害事象発生率が約 2 倍 (9.0% vs 4.4%) であり生存成績も劣ることが示され、高齢者における同時 CRT において決定的に不足していたのは 5 年超の長期 OS・晩期毒性追跡データであることが浮き彫りになった。この背景から、日本臨床腫瘍研究グループ [Japan Clinical Oncology Group (JCOG)] は毎日低用量カルボプラチンと胸部 RT の同時併用が高齢局所進行 NSCLC 患者で RT 単独より生存を改善するかを検証する第 III 相試験 JCOG0301 を実施した (Atagi et al. LancetOncol 2012)。初回報告 (追跡中央値 19.4 ヶ月) では CRT の OS 優越性が示されたが、中間解析の停止規則に基づく早期終了のため追跡期間が限定的であり、長期生存データと晩期毒性の累積パターンが未解明であった。PACIFIC 試験 (Antonia et al. NEnglJMed 2017) での CRT 後 durvalumab 維持療法の有効性確立を踏まえると、ベースラインとなる CRT 単独の長期成績を高齢者特化試験として明示することがより強く求められた。5年以上にわたる長期 OS・晩期毒性データという重要な知識が gap in knowledge として残っており、本報告がその解明を目的とする。

目的

JCOG0301 試験において最低 6.4 年の長期追跡後の更新 OS・無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)・晩期放射線毒性プロファイルを評価し、高齢者 (71歳以上) の切除不能 stage III NSCLC に対する毎日低用量カルボプラチン同時 CRT の長期有効性と安全性を確認すること。

結果

長期 OS の確認と年次生存率:2003 年 9 月から 2010 年 5 月に 27 施設から 200 例が登録された (RT 群 n=100、CRT 群 n=100)。患者背景は両群間でバランスが保たれており、年齢中央値は両群ともに 77 歳 (range: RT 群 71-93 歳、CRT 群 71-89 歳)、男性 82%、ECOG PS 0-1 が 96.5%、stage IIIA が 52.5%、喫煙歴あり 89.5% であった (Table 1)。更新 OS 中央値は CRT 群 21.7 ヶ月 (95% CI 16.5-28.9) vs RT 群 16.5 ヶ月 (95% CI 12.8-19.6)、HR 0.743 (95% CI 0.552-0.998)、片側 p=0.0239 (層別 log-rank) であり、長期追跡においても初回報告と整合する CRT 優越性が確認された (Figure 1A)。年次生存率は 1 年 CRT 68.7% vs RT 65.3%、3 年 34.3% vs 16.3% (絶対差 18.0%ポイント)、5 年 15.2% vs 9.2% であった。3 年時点での生存率の約 2 倍という差は、高齢局所進行 NSCLC において日低用量カルボプラチン CRT が中長期的な実質的生存改善をもたらすことを定量的に示した。初回報告時の HR 0.77 と本長期解析の HR 0.743 がほぼ一致していることから、早期公表という特殊経緯にかかわらず CRT の OS 優越性が長期にわたり安定して維持されることが実証された。

PFS の更新と再発パターン:更新 PFS 中央値は CRT 群 8.9 ヶ月 (95% CI 7.4-10.1) vs RT 群 6.9 ヶ月 (95% CI 5.5-8.0)、HR 0.661 (95% CI 0.495-0.884)、両側 p=0.0049 (非層別 log-rank) であり CRT 群の有意な PFS 延長が確認された (Figure 1B)。解析時点で RT 群 90 例・CRT 群 85 例が疾患進行または再発を経験した。照射野内再発の割合は RT 群 60.0% (54/90)、CRT 群 58.9% (50/85) と類似しており、再発部位の分布パターンも両群間で同様であった。後治療については RT 群 59% (58/98)、CRT 群 52% (51/99) が何らかの肺癌関連治療を受け、レジメン化学療法の実施率は RT 群でやや高い傾向がみられた (39.6% vs 21.4%)。

晩期放射線毒性の長期安全性評価:Grade ≥2 の肺毒性は RT 群 27.7% (94 例中 26 例)、CRT 群 25.8% (93 例中 24 例) であり両群間に有意差はなかった (Table 2)。Grade 3/4 晩期毒性の割合は RT 群 7.4% (心臓 2.1%・肺 5.3%) vs CRT 群 7.5% (食道 1.1%・肺 6.5%) と実質的に同等であった。初回報告以降に新規 Grade 3/4 晩期毒性の発症例は 1 例も認められず、Grade ≥2 皮膚毒性および Grade 1 以上の脊髄毒性は両群ともに 0% であった。FEV1.0 (forced expiratory volume in 1 second:1秒量) と Grade 3 以上の肺炎発症との関連を評価したところ、FEV1.0 ≥2.0 L 群 57 例中 4 例 (7.0%) vs <2.0 L 群 125 例中 7 例 (5.6%) で有意差はなかった (p=0.74)。単変量解析 (Table 3) では治療群 (RT 群 29.8% vs CRT 群 26.9%、Fisher p=0.75) を含む全 7 因子で Grade ≥2 心または肺毒性との有意な関連は認められず、多変量対数線形回帰モデル (Table 4) でも CRT 群のリスク比 0.98 (95% CI 0.56-1.69、p=0.93) と同様の結果であった。カルボプラチン 30 mg/m² 日低用量単剤の増感が晩期毒性を長期的に増強しないことが明確に示された。

死因の内訳と治療関連死亡:解析時点での死亡は RT 群 98 例中 93 例 (95.0%)、CRT 群 99 例中 93 例 (93.9%) であった (Table 5)。主たる死因は肺癌死で、RT 群 91.4% (85/93)、CRT 群 83.9% (78/93)。他疾患死は RT 群 3.2% (肺炎 2 例・呼吸不全 1 例)、CRT 群 8.6% (肺炎・呼吸不全・結核・脳虚血・認知症・硬膜下血腫・前立腺癌・肝細胞癌 各 1 例) であり CRT 群でやや高い傾向を示したが、これは CRT 群の長期生存者が多く後発合併症による死亡が生じやすい結果と解釈された。TRD は計 7 例 (RT 群 4 例 [4.0%]、CRT 群 3 例 [3.0%]) で、いずれも初回報告に記録済みであり、本長期追跡中に新規 TRD の発生は 1 例もなかった。

サブグループ解析による OS 利益の修飾因子:サブグループ解析 (Figure 2) では stage IIIA 疾患、男性、ECOG PS 0、喫煙歴ありの患者サブグループで CRT 群における OS 改善が統計的に有意であった。一方、各サブグループ間で定性的な交互作用は観察されず、特定の患者特性を持つサブグループのみが CRT のベネフィットを享受するという一貫したパターンは示されなかった。PS 1-2 や stage IIIB の患者においても点推定値は CRT 群での生存延長傾向を示しており、71 歳以上の fit な高齢者全体で低用量カルボプラチン CRT の有効性が期待できることを示唆した。

考察/結論

本長期追跡解析の主要な意義は、JCOG0301 における日低用量カルボプラチン同時 CRT の OS 優越性 (HR 0.743、95% CI 0.552-0.998) が初回報告 (追跡中央値 19.4 ヶ月、HR 0.77) から変わらず 6.4-12.6 年にわたる長期追跡後においても維持されていることを実証した点にある。これまでの研究では高齢局所進行 NSCLC における 5 年超の長期 OS データをランダム化比較試験として提示したものはなく、3 年生存率 34.3% vs 16.3%・5 年生存率 15.2% vs 9.2% という具体的な数値を高齢者特化の第 III 相試験として本研究で初めて提供したという新規性がある。

既報と異なる重要な点は毒性プロファイルの良好さである。Stinchcombe ら (JCO 2017) が高齢患者での Grade 5 有害事象 9.0% (若年患者の約 2 倍) を報告したのと対照的に、JCOG0301 では TRD が CRT 群 3.0% vs RT 群 4.0% と同等水準に抑えられ、Grade 3/4 晩期毒性も CRT 群 7.5% vs RT 群 7.4% と実質的に差がなかった。この相違は、本試験が白金二重化学療法ではなくカルボプラチン 30 mg/m² の低用量単剤という高齢者への deintensification デザインを採用したことによるものと考えられる。晩期肺・食道・心毒性の増強がないことが 6 年超の長期データで確認されたことは、低用量カルボプラチン CRT がこれまで報告されていない長期安全性を持つことを示した点で独自の知見である (Santana-Davila et al. JClinOncol 2015 では標準白金二重療法との毒性差が論じられている)。

臨床的意義として、本研究の長期結果は適切に選択された高齢患者 (71 歳以上・ECOG PS 0-2・肺機能基準適合) に対する毎日低用量カルボプラチン同時 CRT を標準治療として位置付けることを長期データで支持する。現在の臨床現場では PACIFIC 試験 (Antonia et al. NEnglJMed 2017) を経て CRT 後の durvalumab 維持療法が局所進行 NSCLC の標準として確立しているが、高齢者における免疫チェックポイント阻害薬の長期安全性・有効性データは依然として限定的であり、高齢者特化の根拠としては JCOG0301 が最も堅固なエビデンスを提供し続けている。

残された課題として、本試験にはいくつかの重要な limitation がある。第一に対象は PS・肺機能基準で選別された fit な高齢者に限定されており、frail な高齢者を含む実臨床集団への一般化には注意を要する。第二に、CGA (comprehensive geriatric assessment: 包括的老年学的評価) が試験デザインに組み込まれておらず、治療リスクを客観的に層別化する指標が欠如していた。Rebollo ら (BJC 2018) は VES-13 (Vulnerable Elders Survey) スコアが毒性リスクと有意に関連することを前向きに示しており、今後の高齢者対象試験への CGA 統合が求められる。第三に、強度変調放射線療法 (IMRT: intensity-modulated radiotherapy) の普及や免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせという現代的な治療環境における高齢者特化データは依然として不十分であり、新規モダリティとの組み合わせの安全性・有効性については今後の検討として future research が重要な課題として残されている。

方法

JCOG0301 は 27 施設参加の多施設第 III 相無作為化比較試験 (登録: UMIN-CTR (University hospital Medical Information Network - Clinical Trials Registry) C000000060、ClinicalTrials.gov: NCT00132665) である。適格基準は年齢 71 歳以上、細胞学的または組織学的に確認された切除不能 stage IIIA/IIIB NSCLC (UICC TNM 第 5 版)、測定可能病変あり、化学療法・RT 未施行、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance status (PS) 0-2。肺 V20 (lung volume receiving 20 Gy) ≤35% または照射野が同側肺の半分以下であることを肺機能保護の観点から必須要件とした。

患者は PS (0/1/2)・病期 (IIIA/IIIB)・施設を層別因子とした最小化法で RT 単独群または CRT 群に無作為割り付けした (各 n=100)。RT 群は 60 Gy/30 分割 (6 週間)、前後対向野で 40 Gy 照射後に原発巣・転移リンパ節への追加照射 20 Gy。CRT 群は同一 RT に加え、最初の 20 分割照射の各 1 時間前にカルボプラチン 30 mg/m² を 30 分間静脈内投与した。毒性評価は NCI-CTC (National Cancer Institute Common Toxicity Criteria) version 2.0 (日本語版) に基づき実施し、晩期毒性は RT 開始後 90 日超に発生した有害事象と定義、RTOG/EORTC 晩期放射線障害スコアリングシステムで評価した。TRD (treatment-related death: 治療関連死亡) は、他の死因の明確なエビデンスなしに治療開始後に死亡した場合、または治療毒性・放射線肺炎後のコルチコステロイド合併症による死亡と定義した。

統計解析は Kaplan-Meier 法による生存曲線算出、OS には PS・病期を層別因子とした層別 log-rank 検定、PFS には非層別 log-rank 検定を実施。OS の HR (hazard ratio) は層別 Cox 比例ハザードモデルで推定した。晩期 Grade ≥2 心または肺毒性に関連する因子については Fisher 正確検定 (単変量解析) および多変量対数線形回帰モデルを用い、性別・年齢・病期・ECOG PS・喫煙歴・組織型を共変量として解析した。データカットオフは 2016 年 11 月 14 日、生存例の追跡中央値は 9.0 年 (range 6.4-12.6 年)。解析ソフトウェアは SAS version 9.4。