- 著者: Antonia SJ, Villegas A, Daniel D, Vicente D, Murakami S, Hui R, Yokoi T, Chiappori A, Lee KH, de Wit M, Cho BC, Bourhaba M, Quantin X, Tokito T, Mekhail T, Planchard D, Kim YC, Karapetis CS, Hiret S, Ostoros G, Kubota K, Gray JE, Paz-Ares L, de Castro Carpeño J, Wadsworth C, Melillo G, Jiang H, Huang Y, Dennis PA, Özgüroğlu
- Corresponding author: Scott J. Antonia, MD, PhD (H. Lee Moffitt Cancer Center and Research Institute, Tampa, FL, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-09-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 28885881
背景
切除不能なStage III非小細胞肺癌(NSCLC)は、全NSCLC患者の約3分の1を占める局所進行期の疾患であり、その治療は依然として困難な課題を抱えている。この疾患の標準治療は、白金製剤を含む根治的同時化学放射線療法(CRT)であるが、その治療成績は長年にわたり改善が見られず、無増悪生存期間(PFS)中央値は約8ヶ月、5年全生存率(OS)は約15%に留まっていた。この結果は、CRT後の治療戦略における新たなアプローチの必要性を示唆していた。過去の臨床試験では、CRT後の維持療法としてゲフィチニブ(Kelly et al)やテセモタイド(Butts et al)が試みられたが、いずれもプラセボと比較して有意なOS改善を示すには至らなかった。これらの先行研究の結果から、CRT後の治療成績を向上させるための新たな治療法が強く求められており、この領域には大きな知識のギャップが残されている。
近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が癌治療において画期的な効果を示しており、特にPD-L1阻害薬は様々な癌種で有効性が確認されている。前臨床研究では、放射線照射が腫瘍細胞におけるPD-L1発現を上昇させること、および腫瘍抗原の放出(免疫原性細胞死)を促進し、ICIとの相乗効果が期待されることが報告されていた。例えば、Dengら (2014) やDovediら (2014) の研究では、in vivoモデルにおいて放射線とPD-L1阻害薬の併用が単剤よりも強力な腫瘍制御効果を示すことが示された。これらの知見は、CRTによって誘導されるPD-L1発現の上昇が、その後のICIに対する感受性を高めるという仮説を支持するものであった。しかし、CRT後の切除不能Stage III NSCLC患者に対するデュルバルマブ維持療法の有効性と安全性は、大規模な臨床試験で確立されておらず、この点が未解明であった。
デュルバルマブは、高親和性を持つ完全ヒト型IgG1モノクローナル抗体であり、PD-L1がPD-1およびCD80に結合するのを選択的に遮断することで、T細胞の腫瘍認識および殺傷能力を回復させる。早期相試験では、Stage IIIB/IV NSCLCを含む進行固形癌において、デュルバルマブが有望な抗腫瘍活性を示すことが確認されていた。従来の治療法ではPFSの延長が不足しており、新たな治療選択肢が強く求められていた。この知識のギャップを埋めるため、CRT後のデュルバルマブ強化療法(consolidation therapy)の有効性を検証するPACIFIC試験が設計された。
目的
本研究の目的は、根治的白金製剤ベースの同時化学放射線療法(CRT、54〜66Gy、肺V20<35%)後に病勢進行が認められなかった切除不能Stage III非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象として、デュルバルマブ10mg/kgを2週間ごとに最長12ヶ月間投与する維持療法が、プラセボと比較して主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)および副次評価項目(12ヶ月および18ヶ月PFS率、客観的奏効率、奏効持続期間、遠隔転移または死亡までの時間、安全性)を改善するかどうかを検証することである。本試験は、CRT後の新たな標準治療を確立し、患者の予後を改善する可能性を探ることを目指した。特に、PD-L1発現レベルにかかわらずデュルバルマブの効果が一貫しているかどうかも評価の対象とした。この研究は、従来の治療法では不十分であったPFSの延長と、それに伴うOSの改善を目指すものであった。
結果
PFS(主要エンドポイント): 2017年2月13日のデータカットオフ時点(371PFSイベント発生時)において、デュルバルマブ群のPFS中央値は16.8ヶ月(95%CI 13.0〜18.1)であったのに対し、プラセボ群では5.6ヶ月(95%CI 4.6〜7.8)であった。ハザード比(HR)は0.52(95%CI 0.42〜0.65、P<0.001)であり、デュルバルマブ群で疾患進行または死亡のリスクが48%有意に減少したことを示した。これはPFSが11ヶ月延長されたことを意味する。12ヶ月PFS率はデュルバルマブ群で55.9%(95%CI 51.0〜60.4)、プラセボ群で35.3%(95%CI 29.0〜41.7)であった。また、18ヶ月PFS率はそれぞれ44.2%(95%CI 37.7〜50.5)と27.0%(95%CI 19.9〜34.5)であった。探索的感度分析(治験責任医師評価HR 0.61)でも結果は一貫しており、デュルバルマブのPFS延長効果が堅牢であることが示された (Figure 1)。
サブグループ解析: デュルバルマブのPFSベネフィットは、年齢、性別、喫煙歴、病期、組織型、PD-L1発現レベルなど、事前に設定された35の全てのサブグループで一貫して観察された (Figure 2)。特に、PD-L1発現レベルが25%以上の患者群ではHR 0.41(95%CI 0.26〜0.65)、25%未満の患者群ではHR 0.59(95%CI 0.43〜0.82)であり、PD-L1発現レベルにかかわらずデュルバルマブの有効性が示された。EGFR変異陰性患者ではHR 0.47(95%CI 0.36〜0.60)であった一方、EGFR変異陽性患者ではHR 0.76(95%CI 0.35〜1.64)と信頼区間が広く、少数例であったため明確な結論は得られなかった。扁平上皮癌患者ではHR 0.68(95%CI 0.50〜0.92)、非扁平上皮癌患者ではHR 0.45(95%CI 0.33〜0.59)であった。
遠隔転移および脳転移: 死亡または遠隔転移までの時間中央値は、デュルバルマブ群で23.2ヶ月(95%CI 23.2〜NR)、プラセボ群で14.6ヶ月(95%CI 10.6〜18.6)であり、ハザード比は0.52(95%CI 0.39〜0.69、P<0.001)であった。新規病変の出現率はデュルバルマブ群で20.4%、プラセボ群で32.1%と有意に低かった。特に、新規脳転移の発生率はデュルバルマブ群で5.5%、プラセボ群で11.0%と、デュルバルマブ群で約半減したことが示された。
客観的奏効率(ORR)と奏効持続期間: 盲検下独立中央判定によるORRは、デュルバルマブ群で28.4%(n=126/443例)、プラセボ群で16.0%(n=34/213例)であり、デュルバルマブ群で有意に高かった(P<0.001)。完全奏効はデュルバルマブ群で1.4%、プラセボ群で0.5%であった。病勢進行はデュルバルマブ群で16.5%、プラセボ群で27.7%であった。奏効持続期間中央値はデュルバルマブ群で未到達(NR)であったのに対し、プラセボ群では13.8ヶ月(95%CI 6.0〜NR)であった(HR 0.43、95%CI 0.22〜0.84)。12ヶ月時点での奏効維持率はデュルバルマブ群で72.8%、プラセボ群で56.1%、18ヶ月時点ではそれぞれ72.8%と46.8%であり、デュルバルマブ群で奏効の著明な持続性が示された (Table 2)。
安全性: 全原因によるGrade 3または4の有害事象(AE)の発生率は、デュルバルマブ群で29.9%、プラセボ群で26.1%と、両群間で大きな差はなかった (Table 3)。最も頻度の高かったGrade 3または4のAEは肺炎であり、デュルバルマブ群で4.4%、プラセボ群で3.8%であった。肺臓炎または放射線肺臓炎(あらゆるグレード)の発生率は、デュルバルマブ群で33.9%、プラセボ群で24.8%であり、Grade 3または4の肺臓炎/放射線肺臓炎はそれぞれ3.4%と2.6%であった。免疫関連AE(あらゆるグレード、原因不問)はデュルバルマブ群で24.2%、プラセボ群で8.1%に報告され、Grade 3または4の免疫関連AEはそれぞれ3.4%と2.6%であった。甲状腺機能低下症(あらゆるグレード)はデュルバルマブ群で11.6%、プラセボ群で1.7%に認められた。AEによる治療中止率はデュルバルマブ群で15.4%、プラセボ群で9.8%であった。AEによる死亡はデュルバルマブ群で4.4%、プラセボ群で5.6%であり、デュルバルマブ群で数値上は低かった。免疫関連AEの管理にはステロイドが使用され、デュルバルマブ群の15.2%の患者で、高用量ステロイドは8.8%の患者で使用された。
考察/結論
PACIFIC試験のPFS中間解析は、切除不能Stage III NSCLC患者において、根治的CRT後にデュルバルマブ維持療法を12ヶ月間追加することで、PFS中央値を16.8ヶ月 vs 5.6ヶ月(HR 0.52、95%CI 0.42〜0.65、P<0.001)と大幅に延長することを示した。このPFSの延長は、従来のCRT後のPFS中央値約8ヶ月と比較して2倍以上であり、画期的な成果である。デュルバルマブの効果は、PD-L1発現レベルにかかわらず全てのサブグループで一貫して観察され、放射線照射がPD-L1発現を上昇させ、デュルバルマブに対する感受性を増強するという「免疫プライミング」の仮説を支持するものであった。
先行研究との違い: 過去のStage III NSCLC維持療法試験(Kelly et alのゲフィチニブやButts et alのテセモタイド)がいずれもOS改善を示せなかったのに対し、本研究はCRT後のICIで初めて明確なPFSおよびOS改善を示した点で、これまでの治療戦略と対照的な結果である。
新規性: 本研究で初めて、CRT後の早期にPD-L1阻害薬を導入することで、PD-L1発現レベルにかかわらずPFSを大幅に延長できることを実証した。これは、放射線と化学療法による「免疫プライミング」効果を臨床的に活用する新規の治療戦略である。特に注目すべき副次所見は、新規脳転移の発生率がデュルバルマブ群で5.5%、プラセボ群で11.0%と半減したことである。これは、CRT後に残存する微小転移巣に対する免疫系の活性化が、全身的な疾患制御をもたらす可能性を示唆している。この知見は、Stage III NSCLCにおける脳転移の予防的介入の概念と一致し、後のOS解析での全生存期間改善の重要な伏線となった。
臨床応用: 本知見は、切除不能Stage III NSCLCの治療パラダイムを根本的に変えるものであり、FDAは2018年2月にデュルバルマブをこの疾患のCRT後強化療法として承認した。その後のPACIFIC OS解析(Antonia et al. NEJM 2018)では、OS中央値が28.3ヶ月 vs 16.2ヶ月(HR 0.68、P=0.00251)と有意な改善が確認され、PFS改善がOSにも反映されることが証明された。本知見は、切除不能Stage III NSCLC患者に対する新たな標準治療を確立し、患者の予後を大きく改善する臨床的意義を持つ。デュルバルマブ維持療法は、CRT後の患者にとって重要な治療選択肢となる。
残された課題: 安全性プロファイルについては、肺臓炎(あらゆるグレードで33.9%、Grade 3〜4で3.4%)が主要な懸念事項であった。しかし、CRT後のベースラインでもプラセボ群で24.8%の肺臓炎が認められることから、デュルバルマブによる付加的なリスクは限定的であると判断された。AEによる死亡率はデュルバルマブ群で4.4%、プラセボ群で5.6%と、むしろデュルバルマブ群で低い傾向にあり、全体として許容可能な安全性プロファイルであった。今後の検討課題としては、CRT後のデュルバルマブ投与開始の最適タイミング(CRT後何日以内が最も効果的か)、最長投与期間(12ヶ月を超える投与の価値)、EGFR変異陽性サブグループにおけるデュルバルマブの位置付け(LAURA試験でEGFR阻害薬との比較が進行中)、およびPD-L1発現レベルによる効果の差(PD-L1≥25%でより強い効果が示唆された)を予測するバイオマーカーの開発が残されている。
方法
試験デザインと対象患者: 本試験は、二重盲検プラセボ対照無作為化第3相試験(PACIFIC試験、NCT02125461)として、235施設、26カ国で実施された。登録期間は2014年5月から2016年4月までであった。対象患者は、IASLC第7版に基づき組織学的または細胞学的に確認された切除不能Stage III局所進行NSCLC患者で、白金製剤ベースの同時化学放射線療法(少なくとも2サイクルの化学療法と54〜66Gyの放射線照射、肺平均線量<20GyまたはV20<35%)を完了し、病勢進行が認められなかった者であった。年齢は18歳以上、WHOパフォーマンスステータスは0または1、最終放射線治療後1〜42日以内に登録された。PD-L1発現レベルによる患者選択は行われず、バイオマーカー非選択の集団を対象とした。EGFR変異は6.0%の患者で確認されたが、約27%は不明であった。組織型は扁平上皮癌が45.7%、非扁平上皮癌が54.3%であった。主要な除外基準には、抗PD-1またはPD-L1抗体への過去の曝露、活動性または過去2年以内の自己免疫疾患、未解決のGrade 2以上の有害事象(CTCAE v4.03による)などが含まれた。
割り付けと治療: 患者はデュルバルマブ群(n=476)とプラセボ群(n=237)に2:1の比率で無作為に割り付けられた。デュルバルマブは10mg/kgを2週間ごとに静脈内投与され、最長12ヶ月間継続された。層別因子は、年齢(<65歳 vs ≥65歳)、性別、喫煙歴(現在/元喫煙者 vs 非喫煙者)であった。実際に治療を受けた患者はデュルバルマブ群で473例、プラセボ群で236例であった。試験薬は病勢進行、許容できない有害事象、または同意撤回があった場合に中止された。
エンドポイント: 共同主要エンドポイントは、盲検下独立中央判定による無増悪生存期間(PFS、RECIST v1.1)と全生存期間(OS)であった。本中間解析ではOSはデータ未成熟のため評価されなかった。副次エンドポイントには、12ヶ月および18ヶ月PFS率、客観的奏効率(ORR)、奏効持続期間、遠隔転移または死亡までの時間、および安全性(CTCAE v4.03)が含まれた。有効性評価は最初の12ヶ月間は8週間ごと、その後は12週間ごとに行われた。PD-L1発現はオプションでアーカイブされた腫瘍組織サンプルを用いて検査されたが、登録の制限には用いられなかった。
統計解析: 試験は、PFSまたはOSのいずれかがデュルバルマブ群でプラセボ群より有意に長い場合に陽性と判断されることになっていた。PFSの主要解析には約458イベント、OSの主要解析には約491イベントが必要と推定され、ハザード比(HR)0.67のPFSを検出するために95%以上の検出力、HR 0.73のOSを検出するために85%以上の検出力が設定された(両側2.5%の片側有意水準)。本中間解析は、約367イベント発生時に計画されており、実際には371PFSイベント発生時点で実施された。PFSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間比較には層別ログランク検定が使用された。感度分析として、評価バイアス、評価時間バイアス、脱落バイアスが評価され、様々な共変量でHRが調整された。35の事前設定サブグループにおけるPFSの探索的解析も行われたが、多重比較の調整は行われなかった。奏効率はClopper-Pearson法で推定され、Fisherの正確検定で比較された。有効性はintention-to-treat集団で、安全性はas-treated集団で評価された。