- 著者: Zenke Y, Tsuboi M, Chiba Y, Tsujino K, Satouchi M, Sawa K, Shimizu J, Daga H, Fujimoto D, Mori M, Aoki T, Sawa T, Omori S, Saka H, Iwamoto Y, Okuno M, Hirashima T, Kashiwabara K, Tachihara M, Yamamoto N, Nakagawa K
- Corresponding author: Yoshitaka Zenke, MD, PhD (Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan)
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-03-18
- Article種別: Original Article (Brief Report; 10-year follow-up of phase 3 RCT)
- PMID: 33734289
背景
切除不能 Stage III NSCLC (non-small-cell lung cancer) に対する根治治療は、プラチナベース化学療法と胸部放射線療法 (thoracic radiotherapy, TRT) 60 Gy を併用する同時化学放射線療法 (concurrent chemoradiotherapy, cCRT) が長らく標準であり、Aupérin らのメタ解析 (2010) は逐次併用に対する同時併用の OS 優位性を示した (Antonia et al. NEnglJMed 2018 が後年 cCRT 後 durvalumab 維持で 36 か月 OS を 43.5% から 83.1% に押し上げる以前)。Radiation Therapy Oncology Group (RTOG) 9410 試験も同時併用 cCRT の有効性を支持し、これらが現代の Stage III NSCLC 治療の礎となった。日本の WJTOG0105 試験 (2001-2005 年登録) の初期報告である Yamamoto et al. JClinOncol 2010 は、第 2 世代化学療法 mitomycin/vindesine/cisplatin (MVP) と第 3 世代化学療法 (irinotecan/carboplatin および paclitaxel/carboplatin) を直接比較し、第 3 世代レジメンが MVP と同等の有効性かつ良好な毒性プロファイルを示すことを報告した。しかし当時の解析は 5 年フォローまでであり、cCRT 後 10 年以上の長期生存・遅発毒性に関する前向きデータは極めて限られていた。先行する Japan Clinical Oncology Group (JCOG) 0003A (Ohe 2003)・Horinouchi 2013・Atagi et al. ClinLungCancer 2018 (JCOG0301) などは観察期間が短く、第 3 世代レジメンによる 10 年 OS や cumulative 晩期毒性のシグナルを定量化したエビデンスは手薄であった。とくに「真の治癒可能集団 (cured fraction) の比率」と「10 年以上にわたる遅発心毒性・肺毒性の累積率」は未解明で controversial であり、cCRT 後の long-term outcome に対する確固たる base value が不足していた。現代の cCRT + durvalumab 維持時代に過去の cCRT 単独データを「歴史的対照」として用いるためには、(1) どのレジメンを基準値とするか、(2) 何 % の患者が「治癒可能」な長期生存者に到達するか、(3) 10 年以上の遅発毒性が新規に観察されるか、という三つの未解決事項を埋める必要があり、これらは PACIFIC 試験以前には何が足りなかったかを明示する gap であり、本論文はこのギャップを直接埋める目的を担う。
目的
WJTOG0105 Phase 3 試験に登録された 440 例について、(1) 3 つの cCRT レジメン (MVP/TRT vs weekly irinotecan/carboplatin + TRT + consolidation vs weekly paclitaxel/carboplatin + TRT + consolidation) の 10 年 OS・PFS を比較し、(2) initial report 以降に新規発生した Grade 3-4 晩期放射線毒性を体系的に評価することで、PACIFIC 時代以降の cCRT 治療の歴史的比較対照値を確立すること。
結果
フォローアップ期間と試験コホート: 解析対象 440 例、Arm A n=146 (年齢中央値 63 歳、女性 18 例 [12.3%])、Arm B n=147 (年齢中央値 63 歳、女性 22 例 [15.0%])、Arm C n=147 (年齢中央値 63 歳、女性 19 例 [12.9%]) でベースラインは均衡 (Table 1)。生存例の追跡期間中央値は 11.9 年 (範囲 7.6-13.3)。Stage IIIA 30.8-33.3%、Stage IIIB 66.7-69.2% で各アーム同等。組織型は腺癌 39.7-47.2%、扁平上皮癌 53.1-60.3% で配分。喫煙歴を持つ患者は 88.4-93.9% を占めた。
主要エンドポイント: 10 年 OS の最終結果: Arm A の 10 年 OS は 13.6% (n=146)、Arm B は 7.5% (n=147)、Arm C は 15.2% (n=147) であり、Arm A vs Arm C で絶対値差 1.6%、Arm B vs Arm C で絶対値差 7.7% であった (Figure A)。アーム間比較 (Cox HR) は Arm A vs B: HR 1.18 (95% CI 0.92-1.51, p=.19)、Arm A vs C: HR 1.01 (95% CI 0.79-1.30, p=.94)、Arm B vs C: HR 0.85 (95% CI 0.67-1.90, p=.21) で、いずれも統計的有意差を示さなかった (Table 2)。中央 OS は Arm A 20.5 か月 (95% CI 17.5-26.0)、Arm B 19.8 か月 (95% CI 16.7-23.5)、Arm C 22.0 か月 (95% CI 18.7-26.2) で、Arm C がわずかに長いものの統計的有意差には到達せず、Arm A 対 Arm C 中央値差は 1.5 か月、Arm B 対 Arm C 中央値差は 2.2 か月であった。5 年・7 年 OS でも同様の傾向で、Arm A 20.8%/14.8%、Arm B 16.0%/13.9%、Arm C 18.3%/16.3% (Fig 1A の Kaplan-Meier 曲線で示される)。
PFS と 10 年無増悪生存: 中央 PFS は Arm A 8.3 か月 (95% CI 7.4-9.7)、Arm B 7.9 か月 (95% CI 6.9-8.5)、Arm C 9.5 か月 (95% CI 7.8-10.5) で、Arm C が約 1.2-1.6 か月延長 (Figure B)。10 年 PFS は Arm A 8.5%、Arm B 5.9% (本文記述では 5.9% と 6.5% の両表記あり、最終解析値は 5.9%)、Arm C 11.1% と、PFS でも Arm C が最も長い。5 年 PFS は Arm A 10.2%、Arm B 10.8%、Arm C 12.3%、7 年 PFS は Arm A 10.2%、Arm B 7.9%、Arm C 12.3%。すなわち 5 年から 10 年の間に PFS 曲線がほぼプラトーに到達し、約 6-11% に「長期治癒可能集団 (potential cured fraction)」が存在することが示された (Fig 1B)。
晩期 Grade 3-4 毒性 (Late toxic effects): 初期報告以降に新規発生した Grade 3-4 晩期毒性は Arm A 3.5% (肺 2.8%、心臓 0.7%)、Arm B 3.4% (肺のみ)、Arm C 4.7% (肺のみ) で、3 アーム間で大きな差はなく、新規の食道・脊髄・心毒性シグナルは観察されなかった (Table 2、本文 Safety 章)。Grade 2 以上の肺毒性は Arm A 10 例 (6.9%)、Arm B 12 例 (8.2%)、Arm C 11 例 (7.4%) と同等。Grade 5 (致死) 肺毒性は Arm C で 1 例 (0.7%) のみ発生。心毒性は Arm A の Grade 3 1 例のみで、他アームではゼロ。これは試験デザインで心疾患既往例を厳格に除外し、また全心臓平均線量 45 Gy 未満・半心臓体積 50 Gy 未満を遵守したことに起因する可能性が議論された。
後治療と EGFR-TKI 投与: EGFR 変異状況は試験開始当時には体系的に測定されていなかったが、追跡期間中に 65 例 (14.7%) が EGFR チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) を投与され、これが長期 OS の解釈に影響した可能性が考察された。再発部位・後治療内容・死因の cumulative データは eFigure 3 および eTable 2-3 に詳細記載 (Supplement 2、本文中では網羅されず) (Fig 2 補助資料)。
考察/結論
① 先行研究との違い: 本 10 年フォローは、cCRT 後に第 3 世代化学療法 (irinotecan/carboplatin または paclitaxel/carboplatin) を用いた患者について 10 年以上の long-term OS を多施設前向き Phase 3 試験で報告した世界初の研究であり、これまでの cCRT 長期 OS データは 5-7 年フォローの JCOG0003A や Atagi et al. ClinLungCancer 2018 (JCOG0301、高齢者対象) に限定されていた点と対照的に、第 3 世代レジメン全体の long-term efficacy を直接定量化した点で相違する。さらに Yamamoto et al. JClinOncol 2010 の初期報告は OS 中央値約 20-26 か月と 5 年 OS 16-25% を示したが、これまで 10 年以上の長期データは前向き Phase 3 で報告されておらず、本論文はこの空白を埋めた。
② 新規性: 本研究で初めて、cCRT 単独 (durvalumab 維持なし時代) の 10 年 OS 率を Arm A 13.6%・Arm B 7.5%・Arm C 15.2% という具体的な数値で定量化した。これまで報告されていない 10 年時点での生存曲線のフラット化 (cured fraction の存在) を明確に示し、第 3 世代レジメン (特に Arm C: paclitaxel/carboplatin + consolidation) を PACIFIC 時代以降の歴史的対照として位置付けた点が新規である。さらに、initial report 以降の長期フォローアップで新規 Grade 3-4 晩期毒性 (とくに心毒性) がほとんど発生しないことを示した点も novelty。
③ 臨床応用: 本データは臨床応用において重要な意味を持つ。現代の Stage III NSCLC 標準治療である「cCRT + durvalumab 維持 (PACIFIC レジメン)」の長期成績を解釈する上で、cCRT 単独 (durvalumab なし) の歴史的 10 年 OS 7-15% という基準値を提供する。例えば PACIFIC 試験の更新解析 (Gray et al. JThoracOncol 2020) では durvalumab 維持群の 36 か月 OS は 83.1%、プラセボ群でも 43.5% と報告されており、これらは本試験の各群 36 か月 OS 推定値 (約 25-35%) と比べると顕著に高い。この差は PACIFIC 試験の組み入れ基準が cCRT 完了 42 日以内・disease progression なし・良好な PS に限定されていることが影響していると考えられ、real-world での実際的な比較対照として本試験データが臨床現場で意義を持つ。また、Arm C (paclitaxel/carboplatin 同時併用 + 2 サイクル consolidation) は遅発毒性が許容範囲内かつ 10 年 OS 15.2% を達成しており、臨床応用上は第 3 世代レジメンの中で benchmark となるべき。
④ 残された課題: 今後の課題は複数ある。(a) 本試験は IMRT・PET-CT 病期診断が未確立な時期 (2001-2005 年) の登録であり、現代の IMRT/3D-CRT + PET 病期診断時代の cCRT (RTOG 0617 の 5 年 OS 32.1%) と直接比較できない限界がある。(b) 全例の 23.9% が long-term follow-up で記録不足となり、selection bias の可能性が残る。(c) PACIFIC レジメン (cCRT + durvalumab 維持) の承認により試験デザイン上の standard of care が変わったため、本データは厳密には現代治療の比較対照とはならず歴史的参照値として扱う必要がある。(d) EGFR 変異検査が当時系統的でなく、driver 陽性患者の long-term OS への寄与を正確に分離できない。今後の検討としては、PACIFIC レジメン後の 10 年 OS データ収集、第 4 世代レジメン (immune checkpoint inhibitor + cCRT 同時併用) の long-term follow-up、driver 別 subgroup の 10 年データ整備が待たれる。
方法
試験デザインは多施設・非劣性 Phase 3 ランダム化比較試験 (WJTOG0105、UMIN 試験 ID: UMIN000030811)。登録期間 2001-2005 年、日本国内多施設。組み入れ基準は組織学的または細胞学的に確定診断された切除不能 Stage III NSCLC。性別・臨床病期・施設で層別化し 3 アームに 1:1:1 で割付け (n=146/147/147、合計 440 例解析対象)。
3 治療アームの内容: Arm A (control): mitomycin + vindesine + cisplatin (MVP) を 4 サイクル + TRT 60 Gy 同時併用。Arm B: weekly irinotecan + carboplatin (AUC ベース投与) を 6 週間 + TRT 60 Gy 同時併用 → 終了後に irinotecan/carboplatin 2 コースを consolidation。Arm C: weekly paclitaxel + carboplatin を 6 週間 + TRT 60 Gy 同時併用 → 終了後に paclitaxel/carboplatin 2 コースを consolidation。TRT は 60 Gy 通常分割 (当時の標準)、IMRT (intensity-modulated radiation therapy) は試験開始時に全施設で標準化されておらず、3D-CRT (3-dimensional conformal radiation therapy) が主体。PET-CT 病期診断も当時全施設で利用可能ではなく、CT および MRI による病期診断が中心。
主要エンドポイント: 10 年 OS。副次エンドポイント: cCRT 開始 90 日以降に発生した晩期毒性 (Late toxic effects)。10 年フォローアップ用の追加データ収集は 2018 年 1 月から 2019 年 12 月にかけて後ろ向きに実施。Lost to follow-up は 456/440 例中 109 例 (23.9%、主に診療記録の不在による)。生存曲線は Kaplan-Meier 法で推定し、5/7/10 年生存率と中央値 (95% CI) を算出。アーム間比較は log-rank 検定および Cox 比例ハザードモデルで HR (95% CI) を導出。晩期放射線毒性は RTOG/EORTC Late Radiation Morbidity Scoring System + NCI CTCAE v2.0 で評価。統計解析は SAS v9.4。両側 p < .05 で有意。