- 著者: Manser R, Wright G, Hart D, Byrnes G, Campbell D, Wainer Z, Tort S
- Corresponding author: Renée Manser (Peter MacCallum Cancer Institute / St Vincent’s Hospital, Melbourne, Australia)
- 雑誌: Cochrane Database of Systematic Reviews
- 発行年: 2005
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 15674959
背景
外科切除(通常は葉切除)は早期非小細胞肺癌(NSCLC)の標準治療とされているが、その多くは観察研究に基づいており、ランダム化比較試験(RCT)による根拠は限られていた。NSCLCの外科治療に関しては、(1) 外科切除と非外科的療法(放射線療法・化学療法)の有効性比較、(2) 縦隔リンパ節完全郭清(CMLND: Complete Mediastinal Lymph Node Dissection)と系統的サンプリング(SS: Systematic Sampling)の比較、(3) 縮小切除(区域切除・楔状切除)と葉切除の比較、(4) stage IIIA NSCLCにおける化学療法後手術と化学放射線療法の比較、という複数の重要な臨床的疑問が存在した。非無作為化観察研究では局在化stage I NSCLCの5年生存率が55-72%であるのに対し、手術を受けない場合では4-14%と大きな差が報告されているが、選択バイアスの可能性を排除できなかった。例えば、Lederle 1994 は、過去の肺がんスクリーニング試験の否定的な結果が手術の利益に反する間接的な証拠を提供していると主張し、手術を支持するデータの多くが観察研究であると指摘した。また、Detterbeck 2001 は、stage IおよびII NSCLCに対する手術が治療選択肢として確立されていることを報告している。しかし、これらの先行研究では、外科治療の有効性に関するランダム化比較試験のデータが不足しており、特に異なる外科的アプローチ間の比較や、手術と非外科的治療の直接比較に関するエビデンスが未解明であり、大きなエビデンスのギャップが残されていた。本レビューは、2010年2月時点のアップデートデータを含み、これらの疑問に答えることを目指した。特に、縦隔リンパ節郭清の範囲や切除範囲の最適化、さらには局所進行NSCLCにおける集学的治療戦略の役割に関するエビデンスの蓄積が不足しているという課題を解決するため、本系統的レビューが計画された。
目的
早期〜局所進行NSCLC患者において、外科切除が疾患特異的死亡率および全死亡率を、(1) 無治療、放射線療法、または化学療法と比較して改善するか、(2) 縦隔リンパ節郭清法(完全郭清対サンプリング)によって差があるか、(3) 切除範囲(縮小切除対葉切除)によって差があるかを系統的に評価すること。また、stage IIIA NSCLCにおける化学療法後手術と化学療法後放射線療法の有効性を比較し、外科治療の各側面に関するエビデンスの質と量を明らかにすることを目的とした。
結果
本レビューには合計13試験2290例の患者が組み入れられた。一部の組み入れ研究はバイアスリスクが高いと評価された (Fig 1) (Fig 2)。外科単独と無治療対照群を比較した研究は特定されなかった。
縦隔リンパ節完全郭清(CMLND)対系統的サンプリング(SS)の比較: 3試験のプール解析において、切除可能stage I〜IIIAのNSCLC患者では、縦隔リンパ節完全郭清 (CMLND) が系統的サンプリング (SS) と比較して全生存期間(OS)を有意に改善した (HR 0.63, 95% CI 0.51-0.78, p ≤ 0.0001)。異質性は統計学的に有意でなかった (I² = 0%, chi² 1.30, p = 0.52)。この所見は、リンパ節郭清の徹底が病期決定の精度向上と再発リスク低減に貢献することを示唆する。また、全がん再発率もCMLND群で有意に低減した (RR 0.79, 95% CI 0.66-0.95, p = 0.01)。30日術後死亡率に有意差は認められなかった (RR 0.86, 95% CI 0.19-3.77, p = 0.84)。しかし、5日を超える空気漏れはCMLND群で有意に多かった (RR 2.94, 95% CI 1.01-8.54, p = 0.05) (Table 1)。これらの結果は、CMLNDがOSと再発率を改善する一方で、特定の術後合併症のリスクを増加させる可能性を示唆する。
縮小切除対葉切除(stage I)の比較: 1試験(Ginsberg et al. 1995)では、stage I NSCLCに対する縮小切除が葉切除と比較して局所再発率を約3倍増加させた (RR 2.84, 95% CI 1.32-6.1, p = 0.007)。5年OSは葉切除群で74%、縮小切除群で55%であり、葉切除群で改善傾向が認められた (HR 0.67, 95% CI 0.44-1.02, p = 0.062)。この研究では、術後12-18ヶ月時点でのFEV1の低下が葉切除群で有意に大きかった (平均差 5.91%, 95% CI 0.29-11.53, p = 0.04) が、その臨床的意義は不明である。この結果は、葉切除がstage I NSCLCの標準術式として推奨される根拠を提供するが、機能温存の観点からは縮小切除の可能性も検討されるべきである。
Stage IIIA N2 NSCLCにおける化学療法後手術対化学療法後放射線療法の比較: 3試験がこのカテゴリーに含まれたが、臨床的および統計学的に異質性が高かったため(chi² for homogeneity 5.18, p = 0.08)、プール解析は実施されなかった。
- 1試験(Stathopoulos et al. 1996)では、化学療法後手術が化学療法後放射線療法と比較して5年OSを有意に改善した (HR 0.39, 95% CI 0.19-0.81, p = 0.010)。しかし、この試験は小規模であり、バイアスリスクが高いと評価された。
- 大規模な vanMeerbeeck et al. JNatlCancerInst 2007 の試験では、導入化学療法後の手術と放射線療法の間で5年OSに統計学的な有意差は認められなかった (HR 0.94, 95% CI 0.74-1.19, p = 0.596)。手術群では30日以内死亡率が4%であった。
- 他の試験(Johnstone et al. 2002)でも、手術と非手術的療法の間でOSの有意な差は示されなかった (HR 0.8, 95% CI 0.45-1.42, p = 0.456)。
同時化学放射線療法対導入化学放射線療法後手術(stage IIIA N2 NSCLC)の比較: Albain et al. Lancet 2009 の試験(RTOG 93-09)では、同時化学放射線療法と導入化学放射線療法後手術の間で全生存期間に有意差はなかった (HR 0.87, 95% CI 0.69-1.10, p = 0.24)。しかし、無増悪生存期間(PFS)は導入化学放射線療法後手術群で改善した (HR 0.77, 95% CI 0.62-0.96, p = 0.017)。治療関連死は手術群で多く、特に肺全摘術後に集中しており、手術群で8%に対し、化学放射線療法群では2%であった。Grade 3または4の食道炎は化学放射線療法群で有意に多かった (23% vs 10%, p = 0.0006)。
外科切除対無治療対照群の欠如: いずれの試験も外科切除と無治療の対照群を含まなかったため、外科切除が化学療法や放射線療法などの他の積極的治療と比較してOSを改善するかという根本的疑問には直接回答が得られなかった。Morrison et al. (1963) の1試験のみが外科切除と放射線療法を比較したが、小規模であり、結果は決定的なものではなかった。4年追跡で手術群30例中7例が生存したのに対し、放射線療法群28例中2例が生存した (RR 3.27, 95% CI 0.74-14.42, p = 0.12)。
VATS (Video-assisted thoracoscopic surgery) 葉切除対開胸葉切除(stage I NSCLC)の比較: 1試験(Sugi et al. 2000)では、VATS葉切除と開胸葉切除の間で3年および5年OSに有意差は認められなかった(3年OS: 開胸群93% vs VATS群90%, RR 0.97, 95% CI 0.86-1.10, p = 0.64; 5年OS: 開胸群85% vs VATS群90%, RR 1.09, 95% CI 0.91-1.23, p = 0.46)。術後合併症やQOLに関する詳細な報告はなかった。この試験では、VATS群で11%の患者が術中にstage Iよりも進行した疾患を有していたが、解析から除外されなかった。
化学療法+手術対放射線療法単独(stage IIIA NSCLC)の比較: 2つの小規模試験(Shepherd et al. 1998; Stephens et al. 2005)がこの比較に含まれたが、早期終了のため結論は限定的であった。Shepherd et al. (1998) の試験では、化学療法+手術群16例中10例が完全切除を受け、2年生存率は手術群で44%、放射線療法群で40%であった (RR 1.09, 95% CI 0.48-2.51)。Stephens et al. (2005) の試験では、化学療法+手術群24例中4例のみが手術を受け、OSは両群で類似していた (HR 0.91, 95% CI 0.49-1.72, p = 0.78)。放射線療法群では24例中20例が放射線療法を受け、中央生存期間は放射線療法群で11.2ヶ月、化学療法+手術群で13.8ヶ月であった。両試験とも参加者数が少なく、結論を出すには不十分であった。
放射線療法後の手術対非手術(初期に切除不能な局所進行がん)の比較: 1つの早期共同試験(NCI 1975)では、放射線療法後に切除可能と判断された初期に切除不能な肺癌患者において、手術群と非手術群の間で5年生存率に差は認められなかった (手術群8% vs 非手術群6%, RR 1.42, 95% CI 0.42-4.84, p = 0.57)。疾患無増悪生存期間も同様に差がなかった (RR 1.58, 95% CI 0.39-6.38, p = 0.52)。しかし、手術群では呼吸器合併症(呼吸器感染症、放射線肺炎、呼吸不全)が有意に多かった (RR 3.0, 95% CI 1.27-7.11, p = 0.01)。
考察/結論
本コクランレビューは13試験2290例のRCTデータを統合し、NSCLCに対する外科治療の最も強い根拠として縦隔リンパ節完全郭清 (CMLND) の生存改善効果(HR 0.63, 95% CI 0.51-0.78, p ≤ 0.0001)を示した。この知見はその後多くの外科ガイドラインで縦隔リンパ節完全郭清の推奨根拠として引用された。
先行研究との違い: 縮小切除対葉切除の比較において、本レビュー時点での唯一のRCT(Ginsberg et al. 1995)は縮小切除における局所再発増加を示した。これは、特定の条件下における解剖学的区域切除がstage IA小型NSCLCに対して葉切除と同等のOSを示すというこれまでの報告と異なる可能性があり、エビデンスの進展が著しい領域である。また、stage IIIA N2 NSCLCにおける化学療法後手術と根治的同時化学放射線療法に関する複数のRCTの結果は異質性が高く、一貫した結論が得られていない点が先行研究の解釈を複雑にしている。
新規性: 本研究は、早期NSCLCに対する外科治療の有効性を系統的に評価した初のコクランレビューであり、特に縦隔リンパ節完全郭清が全生存期間を改善するというエビデンスを統合した点で新規性がある。本研究で初めて、異なる外科的アプローチ(縮小切除対葉切除、VATS対開胸術)の比較を網羅的に評価し、当時の臨床的疑問に対する重要な貢献を果たした。これにより、外科治療の各側面に関するエビデンスのギャップを埋め、今後の研究方向性を示唆した。
臨床応用: 縦隔リンパ節完全郭清の生存改善効果は、NSCLC外科治療における標準術式確立に臨床応用され、ガイドライン改訂に貢献した。また、stage IIIA N2 NSCLCにおける化学療法後手術と根治的同時化学放射線療法が同等であるという結論は、現在の標準的な局所進行NSCLCへの化学放射線療法優先戦略の正当性を間接的に支持する臨床的意義を持つ。患者選択と術式の決定において、合併症リスクと生存利益のバランスを考慮することが重要である。特に、肺全摘術後の治療関連死が高いことが示されており、術式選択における慎重な検討が求められる。
残された課題: 本レビューの主なlimitationは、対象試験の少なさ、一部試験のバイアスリスク、および外科切除の絶対的有益性を評価するための無治療対照群の欠如である。これらの残された課題は、外科切除の絶対的有効性の定量化には引き続き課題が残ることを示唆する。また、VATSと開胸術の比較に関するエビデンスも限定的であり、長期生存およびQOLに関するさらなる研究が必要である。今後の研究では、特定の患者サブグループにおける導入化学放射線療法後の手術の役割や、VATSと開胸術による長期生存およびQOLの比較を明確にする必要があり、さらなる質の高いRCTが求められる。
方法
本レビューはCochrane Lung Cancer Groupの系統的レビューとして実施された。Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)、MEDLINE (PubMed)、およびEMBASE (Ovid) を2009年10月まで検索した(2005年発表、2010年更新)。検索戦略はAppendix 1に示されている。選択基準は、(1) 外科切除単独(または他の治療との組み合わせ)と非外科的療法を比較するRCT、(2) 異なる外科的アプローチを比較するRCTであった。参加者は病理学的に確認されたNSCLC患者で、試験登録時にstage IからIIIAの肺癌と診断された者であった。介入には、葉切除、袖状切除、肺全摘術、区域切除、楔状切除などの外科的切除が含まれ、縦隔リンパ節郭清の有無は問われなかった。比較群としては、無治療、シャム手術、放射線療法単独、化学療法単独、またはそれらの組み合わせが設定された。主要評価項目は全生存期間、2年・3年・4年・5年生存率、肺癌特異的生存率であった。副次評価項目には、30日死亡率、治療関連死、無増悪生存期間、5年無病生存期間、局所再発率、呼吸機能(FEV1, FVC, MVV: Maximum Voluntary Ventilation)などが含まれた。
データ統合では、可能な限りプールハザード比(HR)を計算し、異質性の検定を実施した。時間-イベントデータからのハザード比の抽出には、Parmar 1998 の方法を用いた。バイアスリスクの評価はCochrane Handbook (Higgins 2008) に基づき、ランダム化配列の生成、割り付けの隠蔽化、盲検化の程度、および脱落者のリスクを評価した。具体的には、ランダム化配列生成がコンピュータまたは乱数表による場合は「適切」、割り付けの隠蔽化が中央独立ユニット、施錠されたコンピュータ、または密封された封筒による場合は「適切」と判断された。盲検化はアウトカム評価者について評価され、不完全アウトカムデータは脱落者の数と理由が適切に記述され、群間で比較可能である場合に「適切」とされた。治療効果は時間-イベント変数に対してハザード比(HR)、二値変数に対してリスク比(RR)、連続変数に対して平均差で測定された。欠測データは、可能な限りintention-to-treat原則に従って処理された。異質性はI²統計量で評価され、I² < 60%の場合にメタアナリシスが実施された。時間-イベントアウトカム(全生存期間および無増悪生存期間)については、固定効果モデルの下で逆分散法を用いてプールハザード比が算出された。二値および連続アウトカムは、ランダム効果モデルの下でMantel-Haenzsel法を用いてプールされた。計13試験(n=2290)が組み込まれた。エビデンスの質の評価には、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) アプローチに準じた基準を採用した。