• 著者: Albain KS, Swann RS, Rusch VW, Turrisi AT 3rd, Shepherd FA, Smith C, Chen Y, Livingston RB, Feins RH, Gandara DR, Fry WA, Darling G, Johnson DH, Green MR, Miller RC, Ley J, Sause WT, Cox JD
  • Corresponding author: Kathy S. Albain, MD (Loyola University Chicago Stritch School of Medicine, Cardinal Bernardin Cancer Center, Maywood, IL, USA)
  • 雑誌: The Lancet
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-07-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19632716

背景

Stage IIIA-N2 (同側縦隔リンパ節転移) 非小細胞肺癌 (NSCLC) は局所進行であり、多くが切除不能または切除困難と判断されることから、根治的化学放射線療法 (concurrent chemoradiotherapy: CRT) が標準治療として定着していた。しかし、一部の第II相試験 (例えば、SWOG 8805試験など、Albain et al. 1995) で誘導CRT後に外科的切除が実施され、良好な縦隔ダウンステージング率、奏効率、および生存期間が報告された。このため、「根治的CRTに手術を追加することが全生存期間 (OS) 改善につながるか」という臨床的疑問が生じた。当時の観察研究では誘導化学療法後の手術適応例で良好な生存が報告されていたが、それが手術そのものの効果か、あるいは患者選択バイアスによるものかを明確にする第III相試験は存在しなかった。

先行研究では、化学療法と放射線療法の併用が、放射線単独療法と比較してStage III NSCLC患者の生存期間を有意に改善することが示されていた (Dillman et al. 1990, Sause et al. 1995, LeChevalier et al. 1991)。また、同時併用化学放射線療法が逐次化学放射線療法よりも優れていることも複数の第III相試験で報告されていた (Furuse et al. 1999, Curran et al. 2003)。しかし、これらの研究は手術の役割について明確な指針を与えていなかった。特に、誘導化学放射線療法後の手術追加による全生存期間の改善効果については、その役割が未解明であり、最適な治療戦略の確立に向けた知識の不足が指摘されていた。

本研究であるINT0139 (RTOG 9309) は、この問いに答えるべく米国・カナダの複数施設で設計された。縦隔病理陰性化 (downstaging) が達成された症例での生存利益が仮説の根拠とされ、手術のOSへの上乗せ効果の検証が主要な問いとして設定された。この領域におけるもう一つの主要な第III相試験である vanMeerbeeck et al. JNatlCancerInst 2007 (EORTC 08941) と並び、本試験は局所進行NSCLCの治療戦略において重要な位置を占めている。当時の知見では、誘導治療後の手術の役割に関して依然としてcontroversialな点が残されており、特に手術による局所制御の改善がOSにどの程度寄与するのか、またその安全性プロファイルが不明確であった。このため、手術追加によるOS改善の有無を前向き無作為化試験で検証する必要性が強く認識されていた。

目的

Stage T1〜3pN2M0 NSCLCにおいて、cisplatinとetoposideを併用した化学療法と放射線療法 (45 Gy) による誘導化学放射線療法 (CRT) 後の外科的切除 (手術群) と、同化学療法に放射線療法61 Gyを継続する根治的化学放射線療法 (非手術群) のOS (主要エンドポイント)、無増悪生存期間 (PFS)、局所再発率、および安全性を比較し、手術追加によるOS改善の有無を前向き無作為化試験で検証すること。本研究は、特に誘導CRT後の手術の役割を明確にすることを目的とし、手術に関連する毒性プロファイルと、それが生存アウトカムに与える影響についても詳細に評価する。また、手術群における術後病理学的Nステージ別の生存期間を分析し、縦隔ダウンステージングの予後予測因子としての意義を評価することも目的とした。さらに、術式(肺葉切除と全肺切除)がOSに与える影響を探索的に解析し、最適な手術適応の基準を確立するための知見を得ることも重要な目的であった。

結果

OS (主要エンドポイント) — 有意差なし: 手術群のOS中央値は23.6ヶ月 (95% CI 9.0ヶ月-未到達) であったのに対し、非手術群では22.2ヶ月 (95% CI 9.4-52.7ヶ月) であった (ハザード比 [HR] 0.87、95% CI 0.70-1.10、p=0.24)。主要エンドポイントであるOSにおいて、統計学的に有意な差は認められなかった。5年OS率は手術群で27% (37/202例) と非手術群の20% (24/194例) と比較して数値的には良好であったが、統計的有意差はなかった (オッズ比 0.63、p=0.10)。この結果は、試験の検出力不足ではなく、手術群内の全肺切除による早期過剰死亡がOSの利益を消失させた可能性が強いことを示唆する。ITT解析では、両群間に実質的なOSの差異は認められなかった (Figure 2B)。

PFS — 手術群で有意改善: 無増悪生存期間 (PFS) は手術群で有意に改善し、PFS中央値は12.8ヶ月 (95% CI 5.3-42.2ヶ月) であったのに対し、非手術群では10.5ヶ月 (95% CI 4.8-20.6ヶ月) であった (HR 0.77、95% CI 0.62-0.96、p=0.017)。5年PFS率は手術群で22% (32/202例) と非手術群の11% (13/194例) と比較して、絶対差で11%の改善が認められた。局所のみの再発は手術群で10% (21/202例) であったのに対し、非手術群では22% (43/194例) であり、手術による局所制御の改善は明確であった。しかし、PFSの改善がOSに反映されなかった一因として、遠隔転移が手術群で37% (75/202例)、非手術群で42% (81/194例) と両群で高率に発生し、局所制御の改善効果を相殺したことが挙げられる。

縦隔ダウンステージングと生存 (手術群のみ): 手術群における開胸時の縦隔リンパ節病理評価では、病理学的完全奏効 (ypT0N0) を達成した症例が29例 (18%) であり、これらの患者のOS中央値は39.8ヶ月 (95% CI 16.4ヶ月-未到達)、5年OS率は42% (6/29例) と最良の生存を示した。ypN0〜N1 (N2陰性化) を達成した全症例 (76例) では、OS中央値34.4ヶ月 (95% CI 15.7ヶ月-未到達)、5年OS率41% (19/76例) と良好な生存が確認された (Figure 3)。一方、縦隔N2が持続していた症例 (85例、52%) のOS中央値は24.0ヶ月にとどまり、ダウンステージングの達成が手術群のOSを規定する最も強力な因子であることが示された (p<0.0001)。この知見は、誘導治療後の縦隔restaging結果を手術適応の基準に組み込む現代の治療アルゴリズムの直接的な根拠となった。

肺葉切除 vs 全肺切除 (探索的解析): 術式別のマッチング解析では対照的な結果が得られた (Figure 4)。肺葉切除を受けた患者 (90例) のOS中央値は33.6ヶ月 (95% CI 15.6ヶ月-未到達) であったのに対し、マッチした非手術群のOS中央値は21.7ヶ月 (95% CI 10.1-46.0ヶ月) であり、肺葉切除例ではOSが有意に改善した (p=0.002)。5年OS率は肺葉切除群で36% (21/90例) と非手術群の18% (10/90例) であった。これに対し、全肺切除を受けた患者 (51例) のOS中央値は18.9ヶ月 (95% CI 6.0-46.6ヶ月) であり、マッチした非手術群の29.4ヶ月 (95% CI 12.0-53.7ヶ月) と比較して、むしろ生存が劣化した。全肺切除が施行された症例 (手術群の約27%、54/202例) の治療関連死亡率が高く、肺葉切除の恩恵が全肺切除による過剰死亡で全体として打ち消された構造であった。

治療関連死亡と毒性: 治療関連死亡は手術群で8% (16/202例) であったのに対し、非手術群では2% (4/194例) であった。手術群の死亡16例中14例は全肺切除後に発生し、そのうち10例は開胸後30日以内であった。主な死因は急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) が9例、その他の呼吸器合併症が4例であった。全肺切除後の30日手術関連死亡率は7%に達し、当時の一般的な外科水準 (3〜5%) を大幅に上回った。Grade 3〜4食道炎は手術群で10% (20/202例) であったのに対し、非手術群では23% (44/194例) と有意に多かった (p=0.0006)。これは非手術群の高放射線量 (61 Gy) による食道炎が原因と考えられる。Grade 4の血液毒性、神経毒性、腎毒性は両群で同等であった。手術群における過剰な治療関連死亡が、OSへの手術の利益を完全に打ち消したことを強く示唆する。

ベースライン特性と治療遂行度: 両群のベースライン特性は概ね均等であり、年齢中央値は手術群59歳、非手術群60歳であった。組織型は腺癌が約30〜40%、扁平上皮癌が約30〜40%、大細胞癌が約10〜15%、その他が約10〜15%で両群に分布していた (Table 1)。手術群202例のうち、実際に切除に至ったのは182例 (90%) であり、20例は切除断念 (縦隔持続N2、一般状態悪化など) となった。切除実施例での肺葉切除と全肺切除の割合は、試験全体のOS結果に大きな影響を与えた。誘導CRT後の奏効率は両群で同等であり、手術群では部分奏効 (pR) 55%、病理学的完全奏効 (pCR) 18%が確認された。また、consolidation化学療法は手術群で55% (111/202例) の患者が完了したのに対し、非手術群では74% (144/194例) の患者が完了した (p<0.0001)。放射線療法は手術群で96% (193/201例)、非手術群で79% (154/194例) の患者がプロトコール通りに実施された (p<0.0001)。

考察/結論

INT0139は、誘導化学放射線療法後の外科的切除がStage IIIA-N2 NSCLCのOSを有意に改善しないこと (HR 0.87、95% CI 0.70-1.10、p=0.24) を示した最大規模の第III相試験である。PFSが有意に改善 (HR 0.77、95% CI 0.62-0.96、p=0.017) したにもかかわらずOSへの反映がなかった最大の理由として、全肺切除後の高い治療関連死亡率 (7%、主にARDS) による早期死亡の相殺が挙げられる。

先行研究との違い: 本研究の結果は、誘導化学療法後の手術が生存利益をもたらす可能性を示唆した一部の第II相試験の楽観的な結果とは対照的であった。特に、vanMeerbeeck et al. JNatlCancerInst 2007 (EORTC 08941) 試験と同様に、本試験も誘導治療後の手術追加によるOSの有意な改善を認めなかった。しかし、本研究はEORTC試験とは異なり、無作為化が誘導治療前に実施され、ITT解析が可能であった点で、より強固なエビデンスを提供した。また、EORTC試験のOS中央値が本研究よりも不良であったのは、患者選択基準の違いに起因する可能性が指摘される。

新規性: 最も重要な探索的知見は、「肺葉切除可能例ではOS有意改善 (OS中央値 33.6ヶ月 vs 21.7ヶ月、p=0.002) が認められた一方で、全肺切除では逆に生存が劣化 (OS中央値 18.9ヶ月 vs 29.4ヶ月) した」という術式依存的な対照的パターンである。これは、誘導CRT後の手術適応を「肺葉切除が見込める症例」に厳格に限定することの重要性を本研究で初めて明確に示した。また、縦隔ダウンステージングの達成がOS中央値34.4ヶ月、5年OS率41% (ypN0〜N1) という良好な予後と強く相関した事実は、誘導治療後の再評価によるPETやEBUS/縦隔鏡を用いた縦隔restagingを、手術適応の基準に組み込む現在のガイドライン戦略の根拠となった新規な知見である。

臨床応用: 本知見は、Stage IIIA-N2 NSCLCの治療戦略において、外科的切除の役割を再定義する上で重要な臨床的意義を持つ。特に、全肺切除後の高い死亡率を考慮すると、肺葉切除が可能な患者に限定して手術を検討すべきである。また、誘導治療後の縦隔リンパ節の病理学的評価によるダウンステージングの確認は、手術の選択において極めて有用な指標となる。これにより、不必要な手術関連死亡を回避し、患者の生存利益を最大化する個別化された治療戦略の確立に貢献する。多学科チームによる慎重な患者選択が臨床現場で不可欠である。

残された課題: 今後の検討課題として、全肺切除後の死亡率を低減するための周術期管理の改善や、より安全な手術手技の開発が挙げられる。また、本研究の探索的解析で示された肺葉切除の優位性を前向きに検証する試験は、長期にわたる患者登録の困難さから実施が難しいと予想される。そのため、多学科チームによる慎重な患者選択と、手術適応の厳格化が引き続き重要となる。さらに、免疫療法がStage III NSCLCの標準治療として確立された現在 (例: PACIFICレジメンによるデュルバルマブ維持療法)、根治的CRT後の手術の役割はさらに複雑化しており、免疫療法との併用における最適な治療シーケンスや、手術の追加が免疫療法の効果に与える影響についても今後の研究で明らかにする必要がある。本研究は、誘導CRT後のconsolidation化学療法の完遂率が手術群で低かったというlimitationも有しており、これが全体的なOSに影響を与えた可能性も考慮する必要がある。

方法

本研究は、米国およびカナダの複数施設で実施された第III相無作為化比較試験 (INT0139/RTOG 9309、ClinicalTrials.gov登録番号 NCT00002550) である。対象患者は、Stage IIIA-N2 NSCLCと病理学的に確認された縦隔リンパ節転移を有し、ECOG Performance Status (PS) が0〜1の患者であった。合計429例が登録され、そのうち396例が解析対象として適格と判断された (手術群 n=202、非手術群 n=194)。

患者は1:1の割合で無作為に2群に割り付けられた。両群ともに、cisplatin 50 mg/m² (day 1, 8, 29, 36) とetoposide 50 mg/m² (day 1-5, 29-33) を併用した化学療法と、45 Gyの誘導放射線療法を施行された。誘導治療後、手術群の患者は外科的切除を受け、その後2サイクルのconsolidation化学療法が実施された。非手術群の患者は、放射線療法を総線量61 Gyまで継続し、その後2サイクルのconsolidation化学療法が実施された。切除術式は、担当外科医の術中判断に委ねられ、肺葉切除または全肺切除が選択された。肺機能評価として、術後の予測1秒量 (FEV1) が2000 cm³未満の場合、定量的灌流スキャンで800 cm²以上であることがプロトコールで義務付けられた。

主要エンドポイントはOSであり、無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次エンドポイントにはPFS (無作為化から病勢進行、二次原発腫瘍の検出、またはあらゆる原因による死亡までの期間)、再発パターン、および毒性が含まれた。手術群では、開胸時の縦隔リンパ節の病理学的評価により、縦隔ダウンステージング (ypN0〜N1) 率が評価された。Grade 3以上の毒性は、Common Terminology Criteria (CTC) に基づいて記録された。

統計解析はintention-to-treat (ITT) 原則に基づき、適格患者のみを対象として実施された。OSおよびPFSの解析にはログランク検定が用いられ、多変量解析にはCox比例ハザードモデルが適用された。Kaplan-Meier法により生存曲線が推定された。サンプルサイズは、非定常マルコフ過程を用いたLakatos法により算出され、片側ログランク検定でタイプIエラー率0.05、統計的検出力93%を仮定した。当初の目標サンプルサイズは612例 (適格556例) であったが、登録期間の延長と既存の第II相試験の生存率データ更新に基づき、510例 (適格484例) に修正された。最終解析における調整済みα値は0.0487であった。

探索的解析として、予期せぬ術後死亡率の高さを受けて、手術群の全肺切除を受けた患者と肺葉切除を受けた患者を、非手術群の患者と年齢、性別、Karnofsky PS、臨床T病期で1:1にマッチングさせ、OSを比較した。このマッチング解析は、術式選択におけるバイアスを最小限に抑えることを目的とした。