• 著者: Gettinger SN, Redman MW, Bazhenova L, Hirsch FR, Mack PC, Schwartz LH, Bradley JD, Stinchcombe TE, Leighl NB, Ramalingam SS, Tavernier SS, Yu H, Unger JM, Minichiello K, Highleyman L, Papadimitrakopoulou VA, Kelly K, Gandara DR, Herbst RS
  • Corresponding author: Scott N. Gettinger, MD (Yale Cancer Center, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-07-15
  • Article種別: Original Investigation (Phase 3 randomized clinical trial)
  • PMID: 34264316

背景

PD-1軸阻害薬単剤はプラチナ化学療法既治療の進行NSCLC (non-small cell lung cancer) 患者の標準サルベージ治療として確立されており、nivolumabは進行扁平上皮NSCLCを対象としたCheckMate 017試験においてdocetaxelと比較してOS (overall survival) 改善を達成し (Brahmer et al. NEnglJMed 2015)、非扁平上皮NSCLCでも同様の有益性が示された (Borghaei et al. NEnglJMed 2015)。pembrolizumabもPD-L1陽性の前治療後NSCLCを対象としたKEYNOTE-010試験でdocetaxelに対するOS改善を実証し (Herbst et al. Lancet 2016)、PD-1軸阻害薬は2次治療の基盤となった。一方、CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) 阻害薬ipilimumabとnivolumabの組み合わせは未治療進行メラノーマで単剤を上回り (CheckMate 067)、未治療進行NSCLCにおいても第III相CheckMate 227試験で化学療法単独比較のOS改善 (HR 0.79) が示されていた。Phase 1/2の初期試験でも未治療NSCLCでの組み合わせICIの有望な早期結果が報告されていたが、これらはすべて免疫療法naive患者における1次治療設定のデータであった。化学療法前治療後・ICI (immune checkpoint inhibitor) naive の扁平上皮NSCLC患者を対象とした2次治療以降での組み合わせICIの有効性については無作為化比較試験データが不足しており、2次治療設定での組み合わせCTLA-4+PD-1遮断の有効性は未解明であり、ICI naive集団でのこの戦略を検証した無作為化比較試験が不足していた。このような重要な知識のギャップを埋めることが求められていた。Lung Cancer Master Protocol (Lung-MAP) はSWOG Cancer Research Networkが主導するバイオマーカー駆動型マスタープロトコル型プラットフォーム試験であり、S1400Iはバイオマーカー適格サブスタディに参加できなかった患者を対象とした非マッチサブプロトコルとして設計された。

目的

化学療法前治療後・ICI naive のStage IV扁平上皮NSCLCにおいて、nivolumab+ipilimumab組み合わせICIがnivolumab単剤と比較してOSを改善するかどうかを検証すること (Lung-MAP S1400I Phase 3試験)。

結果

OS (主要エンドポイント):無益性により早期終了

登録患者252例のうちnivolumab+ipilimumab群125例・nivolumab群127例が適格と判定され (Table 1)、年齢・性別・PS・喫煙歴・転移部位を含む患者背景は両群で良好にバランスされていた。データカット時点 (2019年12月19日) の追跡期間中央値29.5か月 (95% CI 26.0-32.8か月) において197例が死亡 (nivolumab+ipilimumab群92例 [47%]、nivolumab群105例 [53%])。主要エンドポイントのOSは両群間で有意差なく、HR 0.87 (95% CI 0.66-1.16、p=0.34) であった (Fig 2A)。OS中央値10か月 vs 11か月 (nivolumab+ipilimumab群 vs nivolumab群) と組み合わせによる上乗せを認めなかった (95% CI: 8.0-14.4か月 vs 8.6-13.7か月)。1年OS率45% vs 44%、2年OS率28% vs 22%であった (各95% CI: 37-55% vs 36-54%、21-37% vs 15-30%)。第1回中間解析で独立データ安全モニタリング委員会が無益性基準達成を確認し、2018年4月23日に登録中止となった。投与回数の中央値は両群ともに7回 (nivolumab+ipilimumab群1-84回、nivolumab群1-83回) であった。進行後も治療継続はnivolumab群38/116例 (33%)、nivolumab+ipilimumab群37/104例 (36%) に行われた。

PFS・ORR (副次エンドポイント):組み合わせによる改善なし

IA-PFSもOSと同様に両群間で有意差を認めなかった (HR 0.80、95% CI 0.61-1.03、p=0.09) (Fig 2B)。PFS中央値はnivolumab+ipilimumab群3.8か月 (95% CI 2.7-4.4か月) vs nivolumab群2.9か月 (95% CI 1.8-4.0か月) であった。1年PFS率はnivolumab+ipilimumab群17% (95% CI 12%-25%) 対nivolumab群10% (95% CI 6%-17%)、2年PFS率は12% (95% CI 7%-19%) 対5% (95% CI 2%-10%) と両群間に差はあるが統計的有意差に達しなかった。客観的奏効率 (ORR) はnivolumab+ipilimumab群18% (95% CI 12%-25%) 対nivolumab群17% (95% CI 10%-23%) と同等であった。確認奏効はnivolumab+ipilimumab群22例 (完全奏効2例・部分奏効20例) および未確認部分奏効1例、nivolumab群15例 (完全奏効1例・部分奏効14例) および未確認部分奏効6例であった。奏効期間中央値はnivolumab+ipilimumab群28.4か月 (95% CI 4.9か月-未到達) 対nivolumab群9.7か月 (95% CI 4.2-23.1か月) と組み合わせ群で奏効持続傾向を示したが、奏効例数が少なく解釈は限定的である。なお、nivolumab群の未確認奏効6例を除外すると奏効期間中央値は13.2か月 (95% CI 9.7-20.2か月) となった。

バイオマーカー解析 (TMB・PD-L1):標準閾値では予測能なし、PD-L1陰性高TMBに探索的シグナル

TMBは231例 (92%) で解析可能であり、TMB中央値は10.9 mt/Mb (範囲 2.2-67.1 mt/Mb)、128例 (55%) がTMB ≥10 mt/Mbを示した。PD-L1は161例 (64%) で判明し、63例 (39%) がPD-L1 <1%、70例 (44%) が≥5%、38例 (24%) が≥50%であった。TMBとPD-L1に相関は認めず (相関係数0.09、p=0.29)。事前規定のサブグループ解析でTMB ≥10 mt/MbおよびPD-L1 ≥5%いずれでも組み合わせICIの有益性は示されなかった (p>0.05、いずれも) (Fig 3)。一方、探索的解析においてPD-L1 <1%かつ高TMB (≥10 mt/Mb) のサブグループ (各群n=15) では組み合わせICIが単剤を上回る可能性が示唆され (HR 0.37、95% CI 0.15-0.89、p=0.02)、逆にPD-L1 <1%かつ低TMB (<10 mt/Mb) ではnivolumab+ipilimumab群が生存劣化傾向を示した (nivolumab単剤群n=17、nivolumab+ipilimumab群n=9;HR 2.46、95% CI 0.95-6.34、p=0.06)。探索的解析であること・各サブセットの例数が少ないことから結論の一般化には限界がある。

安全性:ipilimumab追加による毒性増加

Grade 3以上の治療関連有害事象はnivolumab+ipilimumab群49/124例 (39.5%) vs nivolumab群41/123例 (33.3%) であった (Table 2)。Grade 3以上で最も多かったイベントは両群ともにfatigue (8.9% 対5.7%) と肺臓炎 (7.3% 対4.9%) であった。治療関連死はnivolumab+ipilimumab群3/124例 (2.4%;呼吸困難・呼吸不全・死因不特定各1例) 対nivolumab群1/123例 (0.8%;肺臓炎) に発生した。免疫関連有害事象 (irAE) はnivolumab+ipilimumab群82/124例 (66%) 対nivolumab群73/123例 (59%) に認め、組み合わせ群で多かった。nivolumab+ipilimumab群の頻度の高いirAEはrash 30例 (24%)・呼吸困難23例 (19%)・下痢および甲状腺機能低下症各22例 (18%) であった。毒性による治療中止はnivolumab+ipilimumab群31/124例 (25%) 対nivolumab群19/123例 (15%) とipilimumab追加群で高頻度であった。毒性による中止までの期間中央値はnivolumab+ipilimumab群5.6か月 (95% CI 3.3-10.4か月) 対nivolumab群4.0か月 (95% CI 2.0-6.4か月) であった。PRO-CTCAEによる患者報告アウトカム (下痢頻度・掻痒感・倦怠感・日常生活支障) では両群間に差を認めなかった。

考察/結論

Lung-MAP S1400I試験は、化学療法前治療後・ICI naive の扁平上皮NSCLCにおけるnivolumab+ipilimumab対nivolumab単剤を比較した初の第III相無作為化試験として新規な知見をもたらした。主要エンドポイントのOSはHR 0.87 (95% CI 0.66-1.16) と有意差なく、第1回中間解析にて無益性基準を達成し早期終了に至った。この結果は、これまでの研究 (1次治療設定でのCheckMate 227をはじめとする組み合わせICI有益性試験) とは対照的であり、組み合わせCTLA-4+PD-1遮断の有益性が「治療ライン」により根本的に異なることを示す重要な知見である。1次治療では腫瘍免疫微小環境が比較的保存されているのに対し、化学療法後の2次治療設定では骨髄抑制・免疫疲弊・抑制性サイトカイン環境変化によりCTLA-4遮断追加効果が減弱する可能性がある。

バイオマーカーの観点では、TMB ≥10 mt/Mb単独もPD-L1 ≥5%単独も組み合わせICIの予測バイオマーカーとして機能しなかったことは既報のCheckMate 568やCheckMate 227でのTMB予測能報告と相違し、2次治療設定ではbiomarkerの挙動が異なる可能性を示す。探索的解析においてPD-L1 <1%かつ高TMBのサブグループで組み合わせ優位 (HR 0.37) が示唆されたことは、「免疫チェックポイント阻害薬が機能するのに十分な腫瘍変異量がありながら、既存のPD-1/PD-L1シグナルだけでは活性化できない免疫細胞集団」に対してCTLA-4遮断が有益である可能性を示唆する。一方、PD-L1陰性低TMBでの生存劣化傾向 (HR 2.46) は特に注目すべきであり、更なる検討を要する。ただしこれらはいずれも探索的解析であり例数が少ないため、臨床的含意を確定するには独立した検証コホートが必要である。

臨床現場において、本試験が登録を実施した2015-2018年当時と現在では状況が大きく異なる。現在の進行NSCLC患者の多くは1次治療でICI (単独または化学療法との併用) を受けており、本試験の対照群 (2次治療nivolumab単剤) 設定に相当する患者は稀となっている。そのため、試験が提起した直接的な問いの現在における臨床的意義は限定的である。しかし、ICI治療後の腫瘍免疫環境変化の理解や、ICI抵抗性メカニズムの解明という観点からは依然として重要な知見を提供する。現時点でPD-1軸阻害薬治療後の進行に対して承認された免疫療法選択肢はなく、FRACTION (Fast Real-time Assessment of Combination Therapies in Immuno-Oncology)-Lung (NCT02750514) およびNCT03262779など既存ICI後のnivolumab+ipilimumab併用を評価する試験が進行中である。残された課題として、獲得耐性・一次耐性を含む1次治療ICI後に進行した患者に対する有効な後続免疫療法戦略の確立、TMB/PD-L1複合バイオマーカーの前向き検証、並びにICI後の腫瘍免疫微小環境変化の characterization が挙げられる。本試験の主なlimitationは、対照群のnivolumab単剤が現在の標準治療でなくなっている点、PD-L1評価が64%の患者でのみ成功した点、および探索的バイオマーカーサブグループの例数不足により結論が限定される点である。

方法

Lung-MAP S1400I試験 (NCT02785952) は、多施設オープンラベル第III相無作為化比較試験として2015年12月18日から2018年4月23日にかけてNational Clinical Trials Networkを通じSWOGが主導し実施された。対象は組織学的に確認されたStage IV扁平上皮NSCLC (SqNSCLC)、プラチナ製剤ダブレット化学療法による前治療歴あり、Zubrod performance status 0-1、ICI既治療例は除外した。自己免疫疾患・HIV・肝炎・間質性肺炎の活動例も除外した。275例が登録され252例が適格と判定された (平均年齢67.5歳、男性169例 [67%]、White 206例 [82%])。1:1無作為化 (性別・前治療歴数による層別、動的均衡アルゴリズム使用) によりnivolumab+ipilimumab群 (n=125) とnivolumab単剤群 (n=127) に割り付けた。投与はnivolumab 3 mg/kg 点滴静注を2週ごと (両群共通)、ipilimumab 1 mg/kg を6週ごと (nivolumab+ipilimumab群のみ、3サイクルごと) とし、疾患進行または忍容できない毒性まで継続した。疾患評価はRECIST version 1.1に基づき初年6週ごと、以降3か月ごとに実施した。主要エンドポイントはOS (全生存期間)、副次エンドポイントはIA-PFS (investigator-assessed progression-free survival)・RECIST 1.1に基づく奏効率・PRO-CTCAE (Patient-Reported Outcome Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.03による患者報告有害事象とした。統計解析は層別log-rank検定を主解析とし、ハザード比 (HR) と95% CIの推定には層別Cox比例ハザード回帰モデルを用いた。生存分布の推定にはKaplan-Meier法、中央値CIにはBrookmeyer-Crowley法を使用した。事前に計画された2回の中間解析 (想定死亡数の50%・75%時点) において片側0.0025水準の無益性基準 (HR=0.67の代替仮説検定) および有効性早期停止基準を設けた。バイオマーカー解析は事前規定でTMB (tumor mutational burden) ≥10変異/Mb (mt/Mb) およびPD-L1 ≥5%のサブグループを層別log-rank検定で評価し、探索的解析としてPD-L1とTMBの複合解析をCox比例ハザード回帰で実施した。バイオマーカー (TMB・PD-L1) の測定は登録後に実施し無作為化には用いなかった。