• 著者: Okamoto I, Yoshioka H, Morita S, Ando M, Takeda K, Seto T, Yamamoto N, Saka H, Asami K, Hirashima T, Kudoh S, Satouchi M, Ikeda N, Iwamoto Y, Sawa T, Miyazaki M, Tamura K, Kurata T, Fukuoka M, Nakagawa K
  • Corresponding author: Isamu Okamoto, MD, PhD (Kinki University Faculty of Medicine, Osaka-Sayama, Osaka, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-11-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21079147

背景

肺がんは世界的にがん関連死の主要な原因であり、非小細胞肺癌 (NSCLC: Non-Small-Cell Lung Cancer) が全肺癌症例の約85%を占める。進行・転移性NSCLC患者の一次治療において、プラチナ製剤ベースの化学療法は最良の支持療法単独と比較して生存期間とQOL (Quality of Life、生活の質) の適度な改善をもたらすことが複数の無作為化試験で示されており、一次治療の標準として広く認識されてきた。

カルボプラチン+パクリタキセル (CP) 併用療法は Sandler et al. NEnglJMed 2006 によるECOG 4599試験においてbevacizumabとの組み合わせで有効性が示され、日本を含むアジアおよび北米で進行NSCLCの一次治療標準レジメンとして確立された。また Ohe et al. AnnOncol 2007 の四アーム試験でも日本人患者においてCPはシスプラチン併用療法と比較した際の有効性と許容できる毒性プロファイルが確認された。さらに Scagliotti et al. JClinOncol 2008 のJMDB試験では、シスプラチン+ペメトレキセドが非扁平上皮NSCLCでシスプラチン+ゲムシタビンに優ることが示され、一次治療の選択肢が多様化した。

しかしながら、パクリタキセルは日本人患者においてGrade 3/4の好中球減少が76~89%と高頻度に発現し、末梢神経障害や著明な脱毛が生じることが既報で指摘されており、患者のQOLや日常生活機能に深刻な影響を与えてきた。また、パクリタキセル投与には過敏症予防のための前投薬 (デキサメタゾン、抗ヒスタミン薬) と3時間の点滴が必要であり、外来通院管理上の負担も大きい。こうした毒性プロファイルと投与利便性の問題は手薄なまま残されており、「同等の生存成績を維持しつつ毒性を軽減できる経口薬との組み合わせが進行NSCLCで有効か」という gap in knowledge があった。

S-1 (テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤; TS-1: tegafur/gimeracil/oteracil potassium) は、テガフール、5-chloro-2,4-dihydroxypyridine (ギメラシル)、オテラシルカリウムをモル比1:0.4:1で配合した経口フッ化ピリミジン (oral fluoropyrimidine) 製剤である。ギメラシルはDPD (Dihydropyrimidine Dehydrogenase、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ) を阻害することで5-FUの分解を抑制し、安定した血中濃度を維持する。S-1単剤の進行NSCLC第II相試験では化学療法未治療59例において奏効率22%、中央生存時間10.2ヶ月という有望な結果が示されていた。Tamura et al. の第I/II相試験では、カルボプラチン (AUC 5、Day 1) +S-1 (40 mg/m² 1日2回、Day 1-14) を3週間サイクルで投与する推奨レジメンの有効性と許容できる毒性プロファイルが確立され、好中球減少・神経障害・脱毛がCPより軽減される可能性が示唆されていた。しかし、カルボプラチン+S-1 (CS) が標準治療CPに対してOSで非劣性かどうかを大規模第III相試験で検証したデータは存在せず、これが本研究実施の根拠となった。

目的

化学療法未治療の進行NSCLC患者を対象として、カルボプラチン+経口S-1 (CS群) がカルボプラチン+パクリタキセル (CP群) に対して全生存期間 (OS: Overall Survival) において非劣性であることを検証することを主要目的とした。本試験はWJOG (West Japan Oncology Group、西日本腫瘍研究グループ) が主導した多施設共同オープンラベル無作為化第III相非劣性試験 (LETS試験: Lung cancer Evaluation of TS-1、登録番号: UMIN000000503) であり、日本全国30施設にて実施された。副次目的として、腫瘍奏効率 (ORR: Overall Response Rate)、PFS (Progression-Free Survival、無増悪生存期間)、治療安全性 (有害事象プロファイル)、およびQOLの評価が設定された。

結果

OS非劣性の達成 (主要エンドポイント): 計画された中間解析時点 (2006年8月2008年5月の563例全登録後) で合計268件の死亡イベントが確認された。ITT集団 (n=563: CS群n=282、CP群n=281) におけるCS vs CP群のOS HR (ハザード比) は0.928 (99.2% CI 0.671-1.283, p=0.002) であり、O’Brien-Fleming境界値0.0080を超えたp値が得られた (Fig 2A)。プロトコルで規定した非劣性マージンHR 1.333の上限を、99.2% CIの上限1.283が下回ったため、CS群のCP群に対するOS非劣性が確認され、試験は中間解析での早期終了となった。調整なしの粗95% CIは0.7301.179 (ITT集団) であった。PP (Per-Protocol) 集団でのHRは0.931 (95% CI 0.732-1.186) と、ITT集団の結果と高い一致を示した。OS中央値は15.2 vs 13.3ヶ月 (CS vs CP; 95% CI 各 12.4-17.1 vs 11.7-15.1)、CS群で+1.9ヶ月の優位が認められた。1年生存率は57.3 vs 55.5% (CS vs CP; Fig 1、Table 1)。

サブグループ解析における治療効果の一貫性: PS・性別・病期・組織型・喫煙状況の各サブグループにおいてOS HRは一貫してCS群と同等またはCS群優位であり、治療群とサブグループの有意な交互作用は認められなかった (Fig 3)。PS 0サブグループ (n=176) ではHR 0.951 (95% CI 0.586-1.543)、PS 1サブグループ (n=387) ではHR 0.919 (95% CI 0.697-1.212) と、全95% CIが1.0を含んでいた。男性 (n=432) ではHR 0.854 (95% CI 0.657-1.111)、Stage IV (n=427) ではHR 0.977 (95% CI 0.742-1.286)、非腺癌 (n=173) ではHR 0.817 (95% CI 0.540-1.238) と全サブグループでCS群に数値的優位またはほぼ同等の結果が示された。これらのサブグループ解析結果は主要解析の頑健性を強く支持する。

PFSおよび奏効率の評価: ITT集団における中央PFS (Progression-Free Survival) は4.1 vs 4.8ヶ月 (CS vs CP; HR 0.998, 95% CI 0.837-1.190) であり、両群間に統計的有意差はなかった (Fig 2B)。PP集団でも同様に4.2 vs 4.8ヶ月 (HR 0.992, 95% CI 0.832-1.184) と一致した。腫瘍奏効率 (CR + PR) は20.4 vs 29.0% (CS vs CP) であり、CP群が有意に高率であった (p=0.019、χ²検定)。一方、病勢コントロール率 (DCR: Disease Control Rate = CR + PR + SD 6週以上) はCP群73.5% vs CS群71.7%と両群間で差はなかった (p=0.635)。この「奏効率でCP群優位にもかかわらずPFS・OS非劣性が成立した」という乖離は、奏効率とOSの代替性に関して重要な示唆を与える。最も多い治療中止理由は両群とも疾患進行であり、有害事象による中止はCP群13.6% vs CS群10.7%であった。

血液毒性プロファイルの対照的差異: 安全性解析対象558例 (CS群n=279、CP群n=279) において、血液毒性プロファイルは両群で際立って異なった (Table 2)。Grade 3/4の好中球減少はCS群21% vs CP群77% (p<0.001)、白血球減少はCS群5% vs CP群33% (p<0.001) と、CS群で著明に低率であった。発熱性好中球減少もCS群1% vs CP群7% (p<0.001) とCS群で有意に低率であり、CP群では治療関連死1例 (発熱性好中球減少+肺炎) が生じた。一方、Grade 3/4の血小板減少はCS群33% vs CP群9% (p<0.001) とCS群で著明に高率であり、血小板輸血を要した患者もCS群8% vs CP群2% (p=0.002) と差が認められた。ただし出血Grade 3は1例のみに留まり、血小板減少は管理可能な毒性とみなされた。投与遅延はCS群68.5% vs CP群47.9%とCS群で有意に多く、遅延の主因はCS群での血液毒性 (51.6%) であったのに対し、CP群は9.6%に留まった。投与量削減はCP群8.7% vs CS群5.0%とCP群でより多く、CP群での削減理由は主に神経障害であった。

非血液毒性プロファイルと患者報告QOL: 非血液毒性では、全Gradeの感覚神経障害はCS群15.8% vs CP群81.0% (p<0.001)、全Gradeの関節痛はCS群7.9% vs CP群67.4% (p<0.001)、全Gradeの脱毛はCS群9.3% vs CP群76.7% (p<0.001) と、CS群で極めて低率であった (Table 2)。一方、全Gradeの悪心はCS群62.4% vs CP群49.1% (p=0.002)、嘔吐はCS群34.1% vs CP群23.7% (p=0.007)、下痢はCS群32.6% vs CP群20.8% (p=0.002) とCS群で有意に高率であったが、Grade 3/4はいずれも両群とも4%未満であった。QOL評価において、FACT-L肺癌サブスケールスコアには両群間で有意差はなかった (Fig 4)。しかしFACT/GOG-Ntx神経毒性サブスケールはCP群で化学療法2サイクル後から有意に低下し、6週時点ではCS群41.2 vs CP群38.2 (p<0.001)、9週時点ではCS群41.0 vs CP群37.1 (p<0.001) と持続した差が認められた。脱毛スコアもCP群で著明に悪化し、6週時点CS群3.8 vs CP群1.7 (p<0.001)、9週時点CS群3.7 vs CP群1.9 (p<0.001) であった。QOLアンケートの完遂率は登録時99.6%、6週時93.4%、9週時90.1%と高く、両群間で有意差はなかった。後治療ではCS群75.5% vs CP群69.4%が追加ラインの治療を受け (p=0.103)、ドセタキセルはCS群52.0% vs CP群43.4%、EGFR-TKI (Epidermal Growth Factor Receptor tyrosine kinase inhibitor) はCS群27.2% vs CP群24.0%で使用された (Fig 1)。

考察/結論

LETS試験 (n=563) は、化学療法未治療の進行NSCLC患者において、カルボプラチン+S-1 (CS) がカルボプラチン+パクリタキセル (CP) に対しOS非劣性 (HR 0.928, 99.2% CI 0.671-1.283) を達成した初の第III相試験であり、中間解析での早期終了という結果によりCSレジメンの有効性の頑健性が示された。OS中央値15.2ヶ月は当時の日本人進行NSCLC一次治療として高い水準であった。ITT・PP両集団での一致した結果と全サブグループでの一貫したベネフィットは、主要解析の信頼性をさらに高める。

既報との相違: 本研究において最も注目すべき知見は、CP群と比較してCS群で毒性プロファイルが大きく異なる点である。CP群ではGrade 3/4の好中球減少が77%に達したが、CS群では21%に低減された。これは、これまでの研究でOhe et al. らが日本人患者で報告した既報の知見 (Ohe et al. AnnOncol 2007) と一致して高頻度であったCP群の骨髄抑制が、S-1置換により著明に軽減されたことを示す。発熱性好中球減少、神経障害、脱毛もCS群で著明に減少し、FACT/GOG-NtxおよびFACT-L脱毛スコアによるQOL評価でも、CP群では2サイクル後から客観的な悪化が確認された。対照的にCS群ではQOLの維持が示されており、神経毒性・脱毛がパクリタキセル使用患者にとって真に問題となることを客観的エビデンスで裏付けた。

新規性: 本研究で初めて、経口フッ化ピリミジンS-1とカルボプラチンの組み合わせが標準治療CPに対してOSで非劣性であることを大規模第III相試験において新規に検証し証明した。これは進行NSCLCの一次治療においてパクリタキセルの毒性を回避しつつ同等の生存を達成できる経口ベースの novel なレジメンを提示したものである。また、奏効率ではCP群が有意に優れた (29.0% vs 20.4%, p=0.019) にもかかわらずPFSおよびOSで差がなかったことは、奏効率がOSの代替エンドポイントとして必ずしも機能しないことを示す臨床試験設計上の重要な示唆であり、これまで報告されていない視点を加えるものである。

臨床的意義: 本研究の知見は進行NSCLCの臨床応用において重要な含意を持つ。好中球減少・末梢神経障害・脱毛を懸念する患者、外来での経口治療を希望する患者、パクリタキセルの前投薬と長時間点滴の負担を軽減したい患者にとって、CSレジメンは生存成績を損なわずQOLを維持できる有効な選択肢となる。臨床現場では患者の併存疾患・PS・治療目標に応じてCPとCSを使い分ける個別化治療の可能性が拡大した。また、チロシンキナーゼ阻害薬投与歴のない当時の患者集団において後治療のバランスが保たれていたことは、OS差が後治療に confound されていないことを支持し、CSレジメンそのものの臨床的有用性を強調する。

残された課題: CS群でのGrade 3/4血小板減少 (33%) は大きな課題であり、輸血を要した患者が8%に上った。血小板減少の管理戦略とCS群に適した患者の予測バイオマーカーの探索が今後の研究課題である。また、本試験は年齢74歳以下を対象としており、Tamura et al. の第I/II相試験での除外を踏まえて、高齢者 (75歳以上) への外挿については今後の検討が求められる。さらに本試験は日本人集団対象であり、S-1の有効性・安全性はDPD活性分布に依存するため欧米集団への直接外挿にはlimitationがある。実際に欧米での第III相試験では日本と同等の成績が示されなかった背景も存在する。免疫チェックポイント阻害薬が一次治療の標準となった現在においても、CS+免疫療法の組み合わせの有効性と安全性に関するfuture researchが必要であり、本試験が確立した「S-1+カルボプラチンの非劣性」は免疫療法時代の新規レジメン開発の基盤としての意義も持つ。

方法

日本全国30施設での多施設共同オープンラベル無作為化第III相非劣性試験 (UMIN000000503) として2006年8月から2008年5月にかけて実施された。

患者選択基準: 組織学的または細胞学的に確認されたNSCLC、治癒的治療が不可能なStage IIIBまたはStage IVの進行例、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準で測定可能な病変を有する患者を対象とした。化学療法歴なし、年齢20~74歳、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) 0または1、推定生存期間3ヶ月以上、クレアチニンクリアランス60 mL/min以上を含む適切な臓器機能が必須要件とされた。主な除外基準には、活動性の併存悪性腫瘍、症候性脳転移、間質性肺炎、水様性下痢、心不全、コントロール不良の糖尿病、活動性感染症、薬物アレルギーの既往などが含まれた。全患者から書面によるインフォームドコンセントを取得し、各施設の倫理委員会で承認を得た。

治療計画: 適格患者は1:1の割合で無作為に割り付けられた。CS群はカルボプラチン (AUC 5) をDay 1に静脈内投与し、S-1 (40 mg/m² 1日2回) をDay 1~14に経口投与した。CP群はカルボプラチン (AUC 6) とパクリタキセル (200 mg/m²) をDay 1に静脈内投与した。いずれも3週間を1サイクルとし最大6サイクルまで継続された。無作為化の層別因子は病期 (IIIB vs IV)、組織型 (腺癌 vs 非腺癌)、性別 (男 vs 女)、施設であった。中央割付はWJOGデータセンターにてminimization法で実施された。

エンドポイントと統計解析: 主要エンドポイントはOS (全生存期間) であり、CS群のCP群に対する非劣性をHR (Hazard Ratio) 1.333を上限マージンとして検証した (CS群のOS中央値はCP群より最大3.48ヶ月短いことを許容)。OS中央値を両群とも14ヶ月と仮定し、統計的検出力85%・両側α=0.05で各群263例・合計560例の症例数が必要とされた。計画された中間解析1回に対し、Lan-DeMets法によるO’Brien-Fleming型α消費関数を適用し、中間解析時の有意水準を0.008に設定した。主要解析はITT (Intent-to-Treat) 集団で実施し、生存期間はKaplan-Meier法で推定、Cox (コックス) 比例ハザード回帰モデルにて群間比較した。OS中央値の95% CIはBrookmeyerおよびCrowley法で算出した。サブグループ解析は、PS・性別・病期・組織型・喫煙状況について計画的に実施し、交互作用の検定を行った。QOLはFACT-L (Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung) 肺癌サブスケール、FACT/GOG-Ntx (Functional Assessment of Cancer Therapy/Gynecology Oncology Group-Neurotoxicity) 神経毒性サブスケール、および脱毛スコアで評価し、線形混合効果モデルで解析した。有害事象はNCI-CTC (National Cancer Institute Common Toxicity Criteria) version 3で評価した。腫瘍反応は全患者においてRECISTに準拠して評価した。