• 著者: K. Kubota, H. Sakai, N. Katakami, M. Nishio, A. Inoue, H. Okamoto, H. Isobe, H. Kunitoh, Y. Takiguchi, K. Kobayashi, Y. Nakamura, H. Ohmatsu, S. Sugawara, K. Minato, M. Fukuda, A. Yokoyama, M. Takeuchi, H. Michimae, A. Gemma, S. Kudoh
  • Corresponding author: A. Gemma (Department of Pulmonary Medicine and Oncology, Graduate School of Medicine, Nippon Medical School, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-04-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25908605

背景

肺がんは世界および日本においてがん死亡の主要な原因であり、非小細胞肺がん (NSCLC; non-small-cell lung cancer) はその約85%を占めている Jemal et al. CACancerJClin 2011。進行期または再発のNSCLC患者に対する標準治療として、プラチナ製剤をベースとした2剤併用化学療法が長年にわたり臨床現場で広く用いられてきた。近年では、特定のドライバー遺伝子変異を有する患者に対して分子標的治療薬が劇的な治療効果を示し、患者の予後や生活の質である QoL (quality of life) を著しく改善しているが Mok et al. NEnglJMed 2009、多くの患者は治療開始後9-10ヶ月で耐性を獲得し病勢進行に至るため Maemondo et al. NEnglJMed 2010、依然として細胞障害性抗がん剤による化学療法の最適化は極めて重要な課題である。

日本における第3世代化学療法レジメンとして、ドセタキセル+シスプラチンである DP (docetaxel plus cisplatin) 療法は、第II相および第III相試験において生存期間およびQoLの有意な改善を示した確立された標準治療の一つであった。一方で、経口フルオロピリミジン系抗がん剤であるS-1は、テガフール、ギメラシル、オテラシルカリウムを配合し、単剤でもNSCLCに対して高い活性を示す。S-1+シスプラチンである SP (S-1 plus cisplatin) 療法の初期の臨床試験では、優れた奏効率と良好な生存期間中央値が報告されていた。

しかし、東アジア人と欧米人における薬物動態や毒性プロファイルの相違から、日本人患者における最適なプラチナ併用療法の位置づけは十分に確立されておらず、特にDP療法に対するSP療法の非劣性や安全性、QoLへの影響については大規模な検証が不足していた。このように、日本人患者に最適化された治療選択肢の確立に向けたエビデンスが不足している点が、臨床における大きな課題として残されていた。また、どのような患者群にどちらのレジメンが適しているかという詳細な比較は未解明であり、治療開発のgapが残されている状況であった。

目的

本研究の主な目的は、化学療法未治療の日本人進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者を対象に、経口S-1+シスプラチンである SP (S-1 plus cisplatin) 療法のドセタキセル+シスプラチンである DP (docetaxel plus cisplatin) 療法に対する全生存期間 (OS; overall survival) における非劣性を検証することである。また、副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival)、治療成功期間である TTF (time-to-treatment failure)、客観的奏効率である ORR (objective response rate)、安全性プロファイル、および患者報告アウトカムに基づく生活の質である QoL (quality of life) を多角的に評価し、SP療法がDP療法に代わる新たな標準治療の選択肢となり得るかを総合的に判断することを目的とした。

結果

患者背景および治療実施状況: 2007年4月から2008年12月までに、日本国内の66施設から計608名の患者が登録され、SP群に303名、DP群に305名がランダム化された。このうち、実際に治療を受けたSP群301名、DP群297名を安全性解析対象とした (Table 1)。患者背景は両群間で均等であり、年齢中央値はSP群62歳、DP群64歳、男性が約70%を占めた。組織型は腺癌が最も多く、SP群で75.8% (n=228)、DP群で75.3% (n=222) であった。扁平上皮癌はSP群16.6% (n=50)、DP群16.3% (n=48) であった。EGFR遺伝子変異陽性例はSP群14.3% (n=43)、DP群15.6% (n=46) に認められた。投与サイクル数の中央値は両群ともに3.0サイクルであった。シスプラチンの実際の投与強度は、SP群で11.47 mg/m²/週、DP群で15.13 mg/m²/週であり、SP群において約24%低かったが、後述の通り有効性への悪影響はみられなかった。

主要評価項目である全生存期間の非劣性検証: 主要評価項目であるOSの解析において、生存期間中央値である MST (median survival time) はSP群で16.1ヶ月、DP群で17.1ヶ月であった。OS中央値は 16.1 vs 17.1 months であり、ハザード比は 1.013 (96.4% CI 0.837-1.227, p=0.018) であった。信頼区間の上限である1.227は、事前に規定された非劣性マージンである1.322を十分に下回った。これにより、SP療法のDP療法に対するOSの非劣性が統計学的に証明された (Figure 1A)。1年生存率はSP群で62% (95% CI 0.56-0.67)、DP群で61% (95% CI 0.55-0.66) と同等であり、2年生存率 (SP群33% vs DP群34%) および3年生存率 (両群ともに20%) も同様に推移した。サブグループ解析においても、例えば男性患者におけるOSのハザード比は 1.021 (95% CI 0.812-1.284, p=0.85) と、一貫した非劣性が示された。

副次評価項目における有効性の比較: 無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、SP群で4.9ヶ月、DP群で5.2ヶ月であり、PFS中央値は 4.9 vs 5.2 months で、ハザード比は 1.113 (95% CI 0.945-1.311, p=0.20) と両群間に有意な差は認められなかった (Figure 1B)。また、治療成功期間である TTF (time-to-treatment failure) の中央値は 4.2 vs 4.4 months で、ハザード比は 1.088 (95% CI 0.925-1.280, p=0.30) と同様の結果であった。客観的奏効率である ORR (objective response rate) は、SP群で26.9% (完全奏効である CR [complete response] 1名、部分奏効である PR [partial response] 77名)、DP群で31.3% (CR 2名、PR 87名) であった。病勢コントロール率である DCR (disease control rate) についても、SP群74.1% vs DP群76.4%と極めて類似しており、腫瘍縮小効果および病勢制御能において両群間に臨床的な差異はないことが確認された。

安全性および毒性プロファイルの比較: 有害事象 of 評価において、SP群はDP群と比較して血液毒性が著しく軽度であった (Table 2)。グレード3以上の白血球減少症はSP群8.0% vs DP群55.2% (p<0.001)、好中球減少症はSP群22.9% vs DP群73.4% (p<0.001) であり、発熱性好中球減少症である FN (febrile neutropenia) の発現率はSP群1.0% vs DP群7.4% (p<0.001) と、SP群で極めて有意に低かった。さらに、グレード3以上の感染症もSP群5.3% vs DP群14.5%と有意に抑制されていた。非血液毒性においても、全グレードの食欲不振 (76.1% vs 86.5%, p=0.001)、悪心 (66.8% vs 78.1%, p<0.001)、嘔吐 (27.9% vs 52.2%, p<0.001)、および脱毛 (12.3% vs 59.3%, p<0.001) のすべてにおいてSP群が有意に低率であった。一方で、グレード3以上の血小板減少症はSP群で有意に高頻度であった (5.6% vs 1.3%, p=0.006)。治療関連死はSP群で1名 (嘔吐による窒息) 認められた。

患者報告アウトカムに基づくQOL評価: EORTC QLQ-C30を用いたQOL解析において、Global Health Status/QoLスコアの推移はDP群と比較してSP群で有意に良好な維持を示した (p<0.0001) (Figure 2A)。身体機能 (Physical functioning, p=0.0058) や、疲労、悪心・嘔吐、痛み、不眠、食欲不振、下痢などの各症状スケールにおいてもSP群が優れていた。特に、シスプラチン初回投与1週間後におけるQOLの低下幅はSP群で著しく小さかった。また、肺がん特異的モジュールであるQLQ-LC13による評価でも、治療中および治療終了時においてSP群が有意に優れたQOLスコアを維持していた (p<0.01) (Figure 2B)。アンケートの回答率はSP群76%、DP群80%と非常に高く、信頼性の高いQOL評価が得られた。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、日本の標準治療であったドセタキセル+シスプラチン (DP) 療法を対照群として、経口薬を含むS-1+シスプラチン (SP) 療法の非劣性を検証した初の第III相試験である。先行の第III相試験であるLETS試験 Okamoto et al. JClinOncol 2010 では、S-1+カルボプラチン療法がパクリタキセル+カルボプラチン療法に対して非劣性を示したが、本試験はシスプラチン併用療法においても同様にS-1ベースのレジメンが極めて有用であることを示した。この結果は、これまでの知見と異なり、より強力なプラチナダブレットにおける選択肢を広げる結果となった。

新規性: 本研究は、SP療法がDP療法に対して全生存期間 (OS) において統計学的な非劣性を示すと同時に、患者のQOL維持において圧倒的な優位性を有することを本研究で初めて実証した。特に、シスプラチンの投与強度がSP群でDP群より約24%低かったにもかかわらず、OSやPFSなどの有効性に差が生じなかった事実は新規の知見であり、シスプラチンの最適な投与量およびスケジュール設計に新たな示唆を与えるものである。

臨床応用: 本試験の結果から、SP療法は進行NSCLC患者に対する一次治療として、臨床現場における極めて有力な選択肢として位置づけられる。特に、発熱性好中球減少症 (FN) や重篤な感染症、脱毛、消化器毒性の発現率が著しく低く、外来通院での治療継続が容易である点は、患者の日常生活動作である ADL (activities of daily living) やQOLの維持に直結する。したがって、忍容性を重視する高齢者や、脱毛を避けたい患者、あるいは入院期間を短縮したい患者に対する臨床的有用性は極めて高い。

残された課題: 今後の検討課題および本研究の限界 (limitation) として、第一に、非劣性マージンとして設定されたハザード比 1.322 が臨床的にやや大きいと捉えられる可能性がある点である。第二に、本試験の開始が2007年であったため、EGFR変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子変異の全例評価が実施されておらず、その後の分子標的薬治療の進歩を完全には反映していない。第三に、S-1の代謝酵素の遺伝子多型による薬物動態の相違から、本知見をそのまま欧米の白人患者へ臨床応用することは困難である。さらに、非扁平上皮癌においてはペメトレキセド+シスプラチン療法 Scagliotti et al. JClinOncol 2008 が標準治療として定着したため、組織型に応じたSP療法の最適な使い分けが今後の残された課題として挙げられる。

結論として、S-1+シスプラチン併用療法は、日本人進行NSCLC患者においてドセタキセル+シスプラチン療法に対して全生存期間の非劣性を示し、かつ優れた安全性とQOL維持効果を提供する、極めて忍容性の高い一次治療の選択肢である。

方法

本研究は、日本の66施設が共同で実施したオープンラベル、ランダム化、第III相非劣性試験である CATS (Cisplatin and S-1) 試験 (TCOG0701) である。対象患者は、細胞診または組織診により確認された未治療のステージIIIB/IVのNSCLC、または術後再発患者であり、米国東海岸がん臨床試験グループである ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) の全身状態指標である PS (performance status) が0-1、年齢が20-74歳、かつ十分な臓器機能を有し、12週間以上の生存が期待される症例とした。

適格基準を満たした患者は、東京協同腫瘍グループである TCOG (Tokyo Cooperative Oncology Group) 登録センターにおいて、病期 (ステージIIIB vs ステージIV vs 術後再発)、性別 (男性 vs 女性)、および組織型 (腺癌 vs 非腺癌) を層別因子として、SP群またはDP群に1:1の割合で動的にランダム化割り付けされた。

SP群の投与スケジュールは、S-1を体表面積である BSA (body surface area) に応じて80-120 mg/日を1日2回、21日間連続経口投与し、シスプラチン 60 mg/m²を第8日に静脈内投与し、これを4-5週間ごとに繰り返した。DP群は、ドセタキセル 60 mg/m²およびシスプラチン 80 mg/m²を第1日に静脈内投与し、3-4週間ごとに繰り返した。両群ともに最小3サイクル、最大6サイクルまで治療を継続した。

主要評価項目であるOSの解析には、すべてのランダム化患者を含むフル分析セットである FAS (full analysis set) を用い、コックス比例ハザードモデルである Cox regression を用いてハザード比 (HR; hazard ratio) および信頼区間 (CI; confidence interval) を算出した。生存曲線はカプラン・マイヤー法である Kaplan-Meier を用いて推定した。DP群の1年生存率を60%と仮定し、非劣性マージンはHRの上限を1.322に設定した。片側有意水準は中間解析による多重度調整を行い、最終解析では0.018とした。QoL評価には欧州がん研究治療機構である EORTC (European Organization for Research and Treatment of Cancer) の生活の質質問票である QLQ-C30 (Quality of Life Questionnaire-Core 30) および肺がん特異的モジュールである QLQ-LC13 (lung cancer-specific questionnaire module) を使用し、治療開始前、1サイクル目のシスプラチン投与1週間後、および2サイクル終了時に測定した。本試験は臨床試験登録システムに UMIN000000608 として登録された。