• 著者: Abe T, Takeda K, Ohe Y, Kudoh S, Ichinose Y, Okamoto H, Yamamoto N, Yoshioka H, Minato K, Sawa T, Iwamoto Y, Saka H, Mizusawa J, Shibata T, Nakamura S, Ando M, Yokoyama A, Nakagawa K, Saijo N, Tamura T
  • Corresponding author: Tetsuya Abe, MD, PhD (Niigata Cancer Center Hospital, Niigata, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-01-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25584004

背景

高齢者(70歳以上)における進行非小細胞肺がん(NSCLC)は、全肺がん患者の半数以上を占める重要な集団である。しかし、加齢に伴う臓器機能の変化、特に腎機能の低下により、プラチナ製剤を含む併用化学療法は毒性リスクが高く、その適用には慎重な検討が必要とされてきた。過去の臨床試験では、高齢者NSCLCに対する単剤化学療法が標準治療として確立されており、例えば、The Elderly Lung Cancer Vinorelbine Italian Study Groupによる研究では、単剤のビノレルビンが最良支持療法と比較して生存期間の改善を示した (The Elderly Lung Cancer Vinorelbine Italian Study Group. J Natl Cancer Inst 1999)。また、Multicenter Italian Lung Cancer in the Elderly Study (MILES) では、ビノレルビンとゲムシタビンの併用療法が単剤療法と比較して生存期間の優位性を示さず、毒性のみが増加することが報告された (Gridelli et al. J Natl Cancer Inst 2003)。これらの結果から、高齢者NSCLCの標準治療としては、ビノレルビンやゲムシタビン、あるいはドセタキセルなどの単剤化学療法が広く採用されてきた。特に、西日本胸部腫瘍研究グループ(WJTOG)9904試験では、ドセタキセルがビノレルビンと比較して有意に高い奏効率と良好な生存期間を示すことが明らかになった (Kudoh et al. J Clin Oncol 2006)。

一方で、若年患者においてはプラチナ併用化学療法が標準治療であり (Azzoli et al. J Clin Oncol 2009)、一部の後ろ向きサブグループ解析では、選択された高齢患者においてもプラチナ併用化学療法の有効性が若年患者と同等であることが示唆されていた (Belani & Fossella. Cancer 2005; Langer et al. JNatlCancerInst 2002)。しかし、これらの解析は厳選された高齢者集団を対象としており、一般的な高齢患者への外挿性には課題が残されていた。特に、シスプラチンは腎毒性が懸念されるため、高齢者への投与には用量や投与スケジュールの調整が推奨される (Lichtman et al. Eur J Cancer 2007)。高齢者におけるプラチナ併用療法の有効性と安全性を前向きに評価することは、依然として重要な臨床的課題であり、この領域における知識のギャップを埋めることが期待されたが、そのエビデンスは未解明な点が多かった。

このような背景のもと、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は、高齢者NSCLC患者におけるweekly docetaxel (20mg/m²) とcisplatin (25mg/m²) の併用療法(DP療法)の可能性を探索した。JCOG0207試験の第I/II相試験では、このweekly DP療法が奏効率52%、中央生存期間(mOS)15.8ヶ月という有望な成績を示し、Grade 4の毒性は認められなかった (Ohe et al. Ann Oncol 2004)。このレジメンは、シスプラチンをweeklyで分割投与することで腎毒性を軽減し、高齢患者に適している可能性が期待された。JCOG0207試験の第III相パートでは、DP療法とweekly docetaxel単剤療法が比較されたが、中間解析で75歳未満のサブグループにおいて単剤療法が不利な傾向を示したため、試験は早期に中止され、新たな第III相試験の必要性が認識された (Tsukada et al. Jpn J Clin Oncol 2014)。高齢者NSCLCにおけるプラチナ併用療法の安全性と有効性に関する前向きな大規模臨床試験のデータが不足しており、特にweeklyシスプラチン併用療法の位置づけは確立されていなかった。

目的

本第III相試験(JCOG0803/WJOG4307L)の目的は、70歳以上の未治療進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status [ECOG PS] 0-1)を対象として、weekly docetaxelとcisplatinの併用療法(DP療法)が、3週毎のdocetaxel単剤療法(DTX療法)と比較して、全生存期間(OS)において優位性を示すことを検証することであった。主要評価項目はOSと設定された。副次評価項目には、奏効率(RR)、無増悪生存期間(PFS)、症状スコア、および有害事象が含まれた。本研究は、高齢者NSCLCにおけるweeklyプラチナ併用化学療法の有効性と安全性を前向きに評価し、標準治療の確立に寄与することを目指した。

結果

中間解析と早期終了決定: 2010年9月に実施された第1回中間解析において、221名の患者データが評価された。情報時刻は0.24(計画イベント数304のうち73イベント)であった。この時点で、DP群のOSはDTX群と比較して劣る傾向が示された(HR 1.56; 95% CI, 0.98-2.49)。さらに、最終解析でDP群がDTX群に対して統計的に優位となる予測確率は0.996%(1%未満)と極めて低いことが判明した。この結果に基づき、データ安全性モニタリング委員会(DSMC)はプロトコールに規定された中止基準に従い、試験の早期終了を勧告し、実施委員会がこれを受諾した。

患者特性と治療実施状況: 2008年10月から2010年9月までに、JCOGから215例、WJOGから61例の計276例が登録された。DTX群に137例、DP群に139例が割り付けられた。全患者が試験治療を受け、安全性解析セットに含まれた。DTX群の3例とDP群の1例は不適格であったため、生存解析からは除外された。患者のベースライン特性は両群間で概ねバランスが取れていた(Table 1)。中央年齢は76歳(範囲70〜87歳)であった。中央治療サイクル数は、DTX群で4サイクル(範囲1〜18サイクル)、DP群で3サイクル(範囲1〜6サイクル)であった。5サイクル以上治療を継続できた患者の割合は、DTX群で31%に対し、DP群では8%とDTX群で高かった。治療中止の主な理由は、DTX群では疾患進行(51%)と有害事象(35%)、DP群では疾患進行(42%)と有害事象(28%)、および毒性による患者の治療継続拒否(DTX群12% vs DP群21%)であった。

全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS): 最終解析(データカットオフ2010年11月22日)では、適格患者272例中124例(45.6%)が死亡した(DTX群59例、DP群65例)。全適格患者の追跡期間中央値は9.6ヶ月であった。OS中央値は、DTX群で14.8ヶ月、DP群で13.3ヶ月であった。ハザード比(HR)は1.18(95% CI, 0.83-1.69)であり、統計的有意差は認められなかった(Fig 2A)。1年生存率はDTX群で58.2% vs DP群で54.5%であった。PFSのHRは0.92(95% CI, 0.71-1.20)であり、統計的有意差は認められなかった(Fig 2B)。奏効率(RR)は、DTX群で24.6%(95% CI, 17.4-33.1%)に対し、DP群で34.4%(95% CI, 26.3-43.2%)であり、統計的な有意差は認められなかった(p=0.10)。

安全性(毒性)プロファイル: Grade 3以上の血液毒性および非血液毒性の発現頻度はTable 2に示されている。Grade 3以上の白血球減少(DTX群62.7% vs DP群5.4%)および好中球減少(DTX群88.8% vs DP群10.1%)はDTX群でより高頻度に発生した。特にGrade 4の好中球減少はDTX群で67.9%に認められたが、DP群では0.8%に留まった。発熱性好中球減少症はDTX群で15.2%に発生したが、DP群では認められなかった。一方、Grade 3以上の貧血(DTX群3.7% vs DP群16.3%)、低ナトリウム血症(DTX群5.2% vs DP群14.7%)、食欲不振(DTX群1.5% vs DP群10.7%)はDP群でより高頻度に発生した。治療関連死はDP群で4例(2.9%)発生した。内訳は、肺臓炎による死亡が3例、原因不明の突然死が1例であった。DTX群では治療関連死は認められなかった。

QOL評価: QOL評価は、ベースラインで271例(98.2%)、第2サイクル終了後で258例(93.5%)、第3サイクル終了後で247例(89.5%)から回答が得られた。DTX群ではQOLスコアはベースライン値付近で安定していたが、DP群ではベースラインから第3サイクルにかけてQOLスコアが有意に低下した(p<0.01)(Fig 3)。

追加解析(EGFR変異および後続治療): EGFR活性化変異(exon 19欠失またはL858R点変異)の検査は、DTX群で79例(58%)、DP群で74例(53%)に実施された。結果、DTX群で22例(全体の16%)、DP群で16例(全体の12%)にEGFR変異が認められた。EGFR変異陽性患者のmOSは24.1ヶ月であったのに対し、野生型患者では12.8ヶ月であった。プロトコール治療完了後、DTX群の74例(54%)、DP群の70例(50%)が後続薬物治療を受けた。このうち、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)はDTX群の35例(26%)、DP群の23例(17%)に投与された。サブグループ解析では、いずれのサブグループにおいても両治療群間でOSに有意な差は認められなかった(Fig 4)。例えば、75歳未満の患者におけるOSのHRは1.47(95% CI, 0.62-3.50)であり、75歳以上の患者におけるHRは1.13(95% CI, 0.77-1.67)であった。

考察/結論

JCOG0803/WJOG4307L試験は、70歳以上の進行NSCLC患者において、weekly docetaxelとcisplatinの併用療法(DP療法)が、3週毎のdocetaxel単剤療法(DTX療法)と比較して、全生存期間(OS)の優位性を示さないことを明らかにした。本試験は、第1回中間解析において、DP群のOSがDTX群より劣る傾向が示され(HR 1.56; 95% CI, 0.98-2.49)、最終解析でDP群が統計的に優位となる予測確率が0.996%と極めて低いことから、データ安全性モニタリング委員会(DSMC)の勧告により早期に終了された。最終解析においても、mOSはDTX群14.8ヶ月に対しDP群13.3ヶ月であり、HR 1.18(95% CI, 0.83-1.69)と統計的有意差は認められず、むしろDTX群が優位な方向性を示した。

先行研究との違い: これまでの高齢者NSCLCに対するプラチナ併用療法の有効性を示唆する一部の後ろ向き解析や、weekly DP療法の第II相試験での有望な結果 (Ohe et al. Ann Oncol 2004) とは対照的に、本試験は前向きランダム化比較試験として、weeklyシスプラチンを加えることの生存期間における優位性を否定した。特に、Quoix et al. Lancet 2011によるIFCT-0501試験では、カルボプラチンとweeklyパクリタキセルの併用療法が単剤療法に対してOSの優位性を示したが、本研究のweeklyシスプラチン併用療法では同様の結果は得られなかった。これは、シスプラチンとカルボプラチンの毒性プロファイルの違いや、weekly投与スケジュールにおける各薬剤の至適用量設定の難しさを示唆している可能性がある。

新規性: 本研究で初めて、weekly docetaxelとcisplatinの併用療法が高齢者NSCLC患者のOSを改善しないだけでなく、治療関連死の増加(DP群で4例、2.9%)やQOLの有意な低下(DP群でベースラインから第3サイクルにかけてQOLスコアが有意に低下、p<0.01)を伴うことを明らかにした。特に、DP群で発生した治療関連死の多くが肺臓炎によるものであったことは、weeklyドセタキセル投与における肺臓炎リスクの増加というこれまで報告されてきた知見 (Chen et al. Chest 2006; Esteban et al. Ann Oncol 2003) とも一致し、そのリスクがシスプラチン併用によってさらに増強される可能性を示唆する新規の知見である。

臨床応用: 本試験の主要な臨床的含意は、70歳以上の進行NSCLC患者に対する一次治療として、3週毎のdocetaxel単剤療法(60mg/m²)が、weekly docetaxelとcisplatinの併用療法と比較して、生存期間において劣らず、かつ安全性が高い標準治療として維持されることを確認した点である。DP群で認められた治療関連死の増加やQOLの低下は、実臨床において高齢患者にweeklyシスプラチン併用療法を適用する際の重大な懸念事項となる。したがって、高齢者NSCLC患者の治療選択においては、毒性プロファイルとQOLへの影響を考慮し、ドセタキセル単剤療法が引き続き標準的な選択肢となる。

残された課題: 本研究の対象患者は、PS 0-1という比較的良好な全身状態の高齢者であったため、超高齢者(80歳以上)やより機能的脆弱性を持つ患者への結果の外挿には注意が必要である。今後の検討課題として、高齢者NSCLC患者における包括的 geriatric assessment (CGA) の予後予測因子としての有用性を前向きに評価する必要がある。また、本試験ではEGFR変異陽性患者の割合がDTX群でわずかに高かったが、この差がOSに与える影響は限定的であったと考えられる。しかし、EGFR変異陽性患者のmOSが24.1ヶ月と野生型患者の12.8ヶ月と比較して著しく長かったことから、高齢者においてもEGFR変異のスクリーニングとTKI治療の適用は重要である。さらに、カルボプラチンとペメトレキセドの併用療法など、より忍容性の高いプラチナ併用療法の可能性を探索する研究が今後の方向性として推奨される (Tamiya et al. Ann Oncol 2013)。

方法

本研究は、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)と西日本がん研究機構(WJOG)が共同で実施した多施設共同ランダム化第III相試験(JCOG0803/WJOG4307L、UMIN臨床試験登録システムUMIN000001424)である。

患者選択: 2008年10月から2010年9月にかけて、56施設から合計276名の患者が登録された。適格基準は、組織学的または細胞学的に確認されたStage III(根治的放射線療法適応外)、Stage IV、または再発NSCLC、年齢70歳以上、ECOG PS 0または1、化学療法未治療、および臓器機能が適切であることとされた。特に、70〜74歳の患者については、ボーラスシスプラチン投与が不適当と判断される特定の条件(複数の軽度臓器機能障害の組み合わせ、併存疾患と軽度臓器機能障害の組み合わせなど)を満たす場合にのみ登録された。症候性脳転移、過去5年以内の活動性悪性腫瘍、重度の心疾患、活動性感染症などは除外基準とされた。全ての患者は書面による同意を得た。

治療計画: 適格患者は、以下の2群のいずれかに1:1でランダムに割り付けられた。

  1. DTX群: ドセタキセル 60 mg/m² をDay 1に60分かけて点滴静注、3週毎に投与。
  2. DP群: ドセタキセル 20 mg/m² をDay 1, 8, 15に60分かけて点滴静注、およびシスプラチン 25 mg/m² をDay 1, 8, 15に15〜20分かけて点滴静注、4週毎に投与。 両群ともに最大6サイクルまで治療を継続した。ランダム化は、施設、病期(III期 vs IV期/再発)、年齢(75歳未満 vs 75歳以上)で層別化された最小化法を用いて行われた。

用量調整と治療中止基準: DP群では、Day 8または15に白血球数2,000/μL未満、血小板数50,000/μL未満、クレアチニン値1.5 mg/dL以上、発熱、またはGrade 3以上の非血液毒性(便秘、体重減少、咳嗽、嗄声、低ナトリウム血症を除く)が認められた場合、治療をスキップした。両群ともに、次サイクル治療は、白血球数3,000/μL以上、好中球数1,500/μL以上、血小板数100,000/μL以上、血清クレアチニン値1.5 mg/dL未満、総ビリルビン値2.0 mg/dL未満、ALT/AST 100 IU/L以下、PS 0〜2の条件を満たした場合に投与された。Grade 4の好中球減少、発熱性好中球減少、またはGrade 3以上の非血液毒性(食欲不振、悪心、嘔吐、低ナトリウム血症、便秘、高血糖を除く)が認められた場合、用量減量が行われた。DP群で血清クレアチニン値が2.0 mg/dLを超えた場合、シスプラチン投与は中止された。

評価項目: 主要評価項目はOSであった。副次評価項目は、奏効率(RR)、無増悪生存期間(PFS)、症状スコア、および有害事象であった。腫瘍評価は、RECIST ver. 1.0に従い、少なくとも2サイクルごとに実施された (Therasse et al. J Natl Cancer Inst 2000)。有害事象は、NCI-CTCAE ver. 3.0に従って評価された。

QOL評価: QOLは、Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung (FACT-L) の肺がんサブスケール7項目を用いて評価された (Cella et al. Lung Cancer 1995)。ベースライン、第2サイクル終了後、第3サイクル終了後に患者自身がスコアを記入した。

統計解析: OSは、中央生存期間10ヶ月から13.3ヶ月への33%の改善を検出するために、片側α=0.05、検出力80%で設計された。合計364例の患者が必要とされ、5%の不適格患者または追跡不能患者を考慮し、目標症例数は380例と設定された。OSおよびPFSはKaplan-Meier法を用いて推定され、層別ログランク検定により比較された。ハザード比(HR)はCox比例ハザードモデルを用いて推定された。RRはFisherの正確確率検定を用いて比較された。2回の中間解析が計画され、Lan-DeMets法に基づくO’Brien-Fleming型のα消費関数を用いて多重比較調整が行われた (Lan & DeMets. Biometrika 70:659-663, 1983)。本試験はUMIN臨床試験登録システム(UMIN000001424)に登録されている。