- 著者: Santana-Davila R, Devisetty K, Szabo A, Sparapani R, Arce-Lara C, Gore EM, Moran A, Williams CD, Kelley MJ, Whittle J
- Corresponding author: Rafael Santana-Davila, MD (University of Washington / Fred Hutchinson Cancer Center, Seattle, WA, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2014-11-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 25422491
背景
切除不能Stage III非小細胞肺がん (NSCLC) に対する同時化学放射線療法 (concurrent chemoradiotherapy; CRT) は、治癒的治療を目指す標準治療の一つとして確立されている。しかし、この治療における最適な化学療法レジメンについては、長年にわたり議論が続いており、特定のレジメンが他のレジメンよりも優れているという明確なエビデンスは未だに確立されていない点が課題である。
歴史的に、同時CRTの化学療法レジメンとして、cisplatinとetoposide (EP) の組み合わせと、carboplatinとpaclitaxel (CP) の組み合わせの2種類が実臨床で広く使用されてきた。EPレジメンは、全身化学療法としてフルドーズで投与され、微小転移病変を標的とすることで、より強力な抗腫瘍効果が期待されてきた。これに対し、CPレジメンは、通常、週1回投与の減量レジメンとして用いられ、放射線増感作用と良好な忍容性を重視したアプローチである。
これら2つの主要なレジメンを直接比較した大規模なランダム化比較試験 (RCT) はこれまで実施されておらず、実臨床における治療選択は、個々の施設や医師の経験、患者の全身状態、および地域的な慣習に大きく依存してきた。このため、どちらのレジメンがより優れた全生存期間 (OS) をもたらし、またどちらがより許容可能な毒性プロファイルを持つのかという疑問は、長らく未解明のままであった。
先行研究では、同時CRTにおけるプラチナ製剤ベースの化学療法の有効性が示されているが、具体的なレジメン間の比較は不足していた。例えば、Albain et al. Lancet 2009 の研究では、同時CRTの有効性が示されたものの、EPとCPの直接比較は行われていない。また、Belani et al. JClinOncol 2005 の研究では、CPレジメンの有効性と忍容性が評価されたが、EPとの比較は限定的であった。
米国退役軍人保健局 (Veterans Health Administration; VA) の全米規模のデータは、実臨床における大規模な患者コホートを用いて、EPとCPの治療成績を比較する貴重な機会を提供した。VA Central Cancer Registryは、多様な患者背景を持つ大規模な集団における治療パターンとアウトカムを詳細に分析することを可能にする。本研究は、このVA Central Cancer Registryを用いた大規模な後方視的実臨床比較研究であり、EPとCPのOSおよび毒性プロファイルを多角的な統計手法を用いて評価することを目的とした。これにより、実臨床における最適な化学療法レジメン選択に関する重要な知見を提供することが期待された。
目的
本研究の目的は、米国Veterans Health Administration (VA) Central Cancer Registryのデータを用いて、2001年から2010年までにStage III NSCLCに対して同時化学放射線療法 (concurrent chemoradiotherapy; CRT) を受けた患者コホートにおける、cisplatin+etoposide (EP) レジメンとcarboplatin+paclitaxel (CP) レジメンの治療成績を比較することである。具体的には、両レジメンの全生存期間 (OS) および治療関連毒性を主要評価項目とし、多変量解析、傾向スコアマッチング、傾向スコア調整、および操作変数法といった複数の統計手法を適用して、観察研究における交絡因子によるバイアスを可能な限り調整した上で、両レジメンの相対的な有効性と安全性を評価することを目的とした。これにより、実臨床における最適な化学療法レジメン選択に関するエビデンスを提供することを目指した。
結果
本研究には合計1,842名の患者が組み入れられ、EPレジメンを受けた患者は499名 (27%)、CPレジメンを受けた患者は1,343名 (73%) であった。
患者背景の差異: 非調整コホートにおいて、EP群とCP群の間にはベースライン特性に有意な差が認められた (Table 1)。EP群の患者はCP群と比較して、平均年齢が若く (61.3歳 vs 65.5歳; P < .001)、NCI合併症指数が低い (NCI合併症指数 > 2 の割合: 9.3% vs 17.2%; P < .001)、ヘモグロビン値が高い (平均 12.9 g/dL vs 12.7 g/dL; P = .0378)、アルブミン値が高い (平均 3.6 g/dL vs 3.5 g/dL; P = .0586)、体重減少が少ない (平均 2.6% vs 4%; P < .001) など、予後良好因子を持つ傾向があった。多重ロジスティック回帰分析では、治療時期が新しいこと、若年であること、体重減少が少ないこと、NCI合併症指数が低いことがEPレジメンの選択と関連していることが示された (Figure 2)。
全生存期間 (OS) の比較:
- 非調整解析: 非調整の単変量解析では、EP群のOS中央値は17.3ヶ月であり、CP群の14.6ヶ月と比較して有意に良好であった (ハザード比 [HR] 0.88; 95%信頼区間 [CI] 0.79-0.99; P = .0209) (Figure 3A)。しかし、この差は患者背景の選択バイアスによるものである可能性が示唆された。
- 多変量Cox比例ハザードモデル: 年齢 (HR 1.08; 95% CI 1.01-1.15; P = .0258)、体重減少率 (HR 1.04; 95% CI 1.03-1.05; P < .001)、ベースライン貧血 (HR 1.19; 95% CI 1.05-1.36; P < .001)、低アルブミン血症 (HR 1.29; 95% CI 1.14-1.46; P < .001)、および治療時期は、独立して生存期間の短縮と関連していた (Table 2)。しかし、化学療法レジメン自体は、調整後のOSに有意な影響を与えなかった (EP vs CP: HR 0.97; 95% CI 0.85-1.10; P = .6327)。
- 傾向スコア解析: 傾向スコアマッチング解析では、EP群381名とCP群381名がマッチングされ、ベースライン特性の差が解消された (Table 1)。このマッチングコホートにおいて、EP群とCP群の間にOSの有意差は認められなかった (HR 1.07; 95% CI 0.91-1.24; P = .4264) (Figure 3B)。同様に、傾向スコア調整モデルでも、EP群に生存期間の優位性は認められなかった (HR 0.97; 95% CI 0.85-1.10; P = .6212)。
- 操作変数法: 操作変数法を用いた解析では、EP奨励施設で治療を受けた患者とEP非奨励施設で治療を受けた患者の間で、単変量解析においてOSに有意差は認められなかった (HR 1.07; 95% CI 0.90-1.26; P = .4653) (Figure 3C)。さらに、予後因子を均等化したnear/farマッチング解析でも、EP奨励施設で治療を受けたマッチング患者に生存期間の優位性は示されなかった (HR 1.03; 95% CI 0.75-1.40; P = .8736) (Figure 3D)。これらの結果は、複数の統計手法を用いて一貫して、EPとCPのOSが同等であることを示唆している。
治療関連毒性: 非調整コホートにおいて、EP群はCP群と比較して、治療開始後4ヶ月間の有害事象の発生率が有意に高かった (Table 3)。
- 入院回数: EP群では平均2.4回、CP群では平均1.7回であり、EP群で有意に多かった (P < .001)。
- 外来受診回数: EP群では平均17.6回、CP群では平均12.6回であり、EP群で有意に多かった (P < .001)。
- 感染症合併症: EP群で47.3%、CP群で39.4%と、EP群で有意に高率であった (P = .0022)。
- 急性腎障害/脱水: EP群で30.5%、CP群で21.2%と、EP群で有意に高率であった (P < .001)。
- 粘膜炎/食道炎: EP群で18.6%、CP群で14.4%と、EP群で有意に高率であった (P = .0246)。
- 悪心/嘔吐: EP群で13.0%、CP群で8.2%と、EP群で有意に高率であった (P = .002)。 これらの結果は、EPレジメンがCPレジメンと比較して、より高い罹患率と関連していることを明確に示している。
Consolidation化学療法施行率: CP群の患者は、EP群の患者と比較して、consolidation化学療法を受ける割合が有意に高かった (67.5% vs 46.1%; P = .0026)。2007年以降、CP群におけるconsolidation化学療法の割合は65.2%から71.7%に増加した一方、EP群では53.6%から32.4%に減少した。術後切除は稀であったが、EP群でより頻繁に実施された (EP群 7% [n=35] vs CP群 2.4% [n=32])。
考察/結論
本研究は、米国Veterans Health Administration (VA) の大規模実臨床コホート (n=1,842) を用いて、切除不能Stage III NSCLCに対する同時化学放射線療法におけるcisplatin+etoposide (EP) とcarboplatin+paclitaxel (CP) の治療成績を比較した。複数の統計手法(多変量Cox比例ハザードモデル、傾向スコアマッチング、傾向スコア調整、操作変数法)を用いた解析により、両レジメン間の全生存期間 (OS) に有意差がないことが一貫して示された (調整後HR 0.97-1.07)。非調整解析ではEP群がOSにおいて優位であるように見えたが、これはEP群の患者がより若く、合併症が少ないといった予後良好因子を持つ傾向があったためであり、患者背景の選択バイアスが影響していたことが明らかになった。
先行研究との違い: これまでの研究では、EPとCPの直接比較を行う大規模なランダム化比較試験が存在せず、実臨床における最適なレジメン選択は未解明であった。本研究は、大規模な実臨床データを用いて、複数のロバストな統計手法を適用することで、このギャップを埋める重要な知見を提供した。特に、傾向スコアや操作変数法を用いることで、観察研究における交絡因子によるバイアスを可能な限り調整し、より信頼性の高い比較を可能にした点で、これまでの報告と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、EPレジメンがCPレジメンと比較して、同等のOS成績であるにもかかわらず、著しく高い治療関連毒性と関連することを示した。具体的には、EP群では入院回数 (2.4回 vs 1.7回; P < .001)、外来受診回数 (17.6回 vs 12.6回; P < .001)、感染症合併症 (47.3% vs 39.4%; P = .0022)、急性腎障害/脱水 (30.5% vs 21.2%; P < .001)、粘膜炎/食道炎 (18.6% vs 14.4%; P = .0246) など、ほぼ全ての毒性指標で有意に高率であった。これは、EPがより高い罹患率と医療資源の利用を伴うことを新規に実証したものである。
臨床応用: 本知見は、Stage III NSCLCの同時CRTにおける化学療法レジメン選択において、重要な臨床的意義を持つ。OSが同等であるならば、毒性プロファイルがより良好なCPレジメンが、多くの患者にとってより適切な選択肢となる可能性が示唆される。特に、高齢患者や併存疾患を持つ患者においては、CPレジメンの忍容性の優位性が、治療完遂率の向上やQOLの維持に貢献する可能性がある。これにより、臨床現場での治療選択ガイドラインの改訂に影響を与える可能性がある。
残された課題: 本研究は後方視的観察研究であるため、いくつかのlimitationが存在する。例えば、EGFR変異やPD-L1発現などの分子生物学的情報が利用できなかったこと、放射線治療の線量や分割方法に関する詳細なデータが不足していたこと、および未測定の交絡因子による残存バイアスの可能性が挙げられる。また、本研究の対象患者は主に男性退役軍人であり、一般のNSCLC患者集団への外挿性には注意が必要である。今後の検討課題として、EPとCPの直接比較を目的とした前向きランダム化比較試験の実施が依然として望まれる。現在では、同時CRT後の地固め療法としてdurvalumab (PACIFIC試験) が標準治療となっているため、CRT期の化学療法選択(EP vs CP)の最適化という疑問は、durvalumab併用下での毒性プロファイルや有効性を考慮した上で、継続的な研究課題である。
方法
本研究は、米国Veterans Health Administration (VA) Central Cancer Registryのデータを用いた後方視的コホート研究として実施された。
患者選択: 2001年10月から2010年12月の期間にVA施設でStage III NSCLCと診断され、同時CRTを受けた患者が対象とされた。同時CRTは、化学療法開始から7日以内に放射線療法が開始された場合と定義された。化学療法レジメンは、cisplatin+etoposide (EP) またはcarboplatin+paclitaxel (CP) のいずれかを主要な化学療法骨格として受けた患者に限定された。初期治療として手術を受けた患者や、EPまたはCP以外の抗がん剤を併用した患者は除外された。最終的に1,842名の患者が解析対象となった (EP群 n=499、CP群 n=1,343)。
データ収集: VA Central Cancer Registryに加え、VA Decision Support System Pharmacyファイルから化学療法薬の処方情報を取得した。また、ICD-9コードを用いて、診断前1年間の併存疾患の負担をNational Cancer Institute (NCI) combined indexで算出した。治療後の有害事象は、化学療法開始後4ヶ月間の医療記録(ICD-9コード)から特定された。患者の人口統計学的データ、診断情報、およびベースラインの臨床検査データ(推定糸球体濾過量 [eGFR]、血清アルブミン、血小板数、ヘモグロビン、治療前の体重減少率など)は、複数のVAデータベースから補完された。
主要評価項目: 主要評価項目は全生存期間 (OS) と定義され、VACCR診断日から死亡日までの期間とされた。OSは診断後5年で打ち切られた。
統計解析:
- ベースライン特性の比較: EP群とCP群間のベースライン特性の差は、カテゴリ変数にはPearson χ²検定、連続変数にはt検定を用いて評価された。
- 生存解析: OSの比較には、以下の3つの補完的なアプローチが用いられた。
- 標準Cox比例ハザードモデル: 単変量解析でP値が0.10未満であった変数を含め、多変量Cox比例ハザードモデルが構築された。比例ハザード仮定は各共変量について検証され、適切であることが確認された。
- 傾向スコア解析: 傾向スコアは、EP治療を受ける確率を予測する多重ロジスティック回帰モデルを用いて算出された。モデルには、組織型、病期、体重減少、過去の入院回数、ヘモグロビン値、血小板数、血清アルブミン値、年齢、eGFR、NCI combined index、地理的地域などの変数が含まれた。傾向スコア解析は、以下の2つの方法で実施された。
- 傾向スコアマッチング: EP群の各患者を、治療年カテゴリと傾向スコアのロジットを用いて、CP群の患者と1対1でマッチングした (キャリパー幅は傾向スコアのロジットの標準偏差の0.2)。マッチングされたコホート (n=381ペア) に対して、ロバストなサンドイッチ共分散行列を用いた周辺Coxモデルが適用された。
- 傾向スコア調整: 傾向スコアの逆確率重み付けを用いて、各観測値を重み付けし、化学療法レジメンのみを予測変数とするCox比例ハザードモデルが適合された。
- 操作変数法 (Instrumental Variables Analysis): 観察された変数では説明できない未測定の交絡因子に対処するため、操作変数法が用いられた。VA医療施設間でのEP対CPの使用割合のばらつきが操作変数として利用された。具体的には、「EP奨励施設」(EP使用率50%超)と「EP非奨励施設」(EP使用率10%未満)を特定し、施設全体の症例数、腫瘍科の症例数、腫瘍医の数に基づいてマッチングを行った。その後、傾向スコアと治療年を用いて、EP奨励施設の患者とマッチングされたEP非奨励施設の患者を比較するnear/farマッチング解析が実施された。
- 毒性評価: 化学療法開始後4ヶ月間のICD-9コードに基づき、入院回数、外来受診回数、感染症合併症、急性腎障害/脱水、粘膜炎/食道炎、悪心/嘔吐などの有害事象の発生率がEP群とCP群で比較された。