• 著者: Reck M, Rodriguez-Abreu D, Robinson AG, Hui R, Csoszi T, Fulop A, Gottfried M, Peled N, Tafreshi A, Cuffe S, O’Brien M, Rao S, Hotta K, Vandormael K, Yang J, Pietanza MC, Brahmer JR
  • Corresponding author: Martin Reck, MD, PhD (Lung Clinic Grosshansdorf, Airway Research Center North, German Center of Lung Research, Wöhrendamm 80, 22927 Grosshansdorf, Germany)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-07-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30620668

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) は、世界的に罹患率および死亡率の高い疾患であり、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題である。特に、PD-L1 (programmed death ligand 1) 腫瘍比例スコア (TPS) が50%以上の患者群は、免疫チェックポイント阻害薬に対する奏効が期待されるサブグループとして注目されてきた。これまで、プラチナ製剤ベースの化学療法が進行NSCLCの一次治療の標準であったが、その効果は限定的であり、長期生存の改善は十分ではなかった。

KEYNOTE-024試験の主要解析 (Reck et al. NEnglJMed 2016) は、PD-L1 TPS 50%以上の未治療進行NSCLC患者において、PD-1 (programmed death 1) 阻害薬であるペムブロリズマブ単剤がプラチナ製剤ベース化学療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善することを示した (ハザード比 [HR] 0.50, p<0.001)。これは、一次治療における免疫療法が化学療法を上回る最初の第III相試験の成功であり、PD-L1高発現NSCLCの治療パラダイムを大きく変える画期的な結果であった。

しかし、主要解析時点 (追跡期間中央値11.2ヶ月) では、全生存期間 (OS) のデータはまだ成熟度が低く、また化学療法群の多くの患者が病勢進行後にペムブロリズマブにクロスオーバー (後治療としてペムブロリズマブを投与) したため、OSの真の利益を正確に評価することが困難であった。この高いクロスオーバー率は、治療効果の希釈 (attenuation) を引き起こす可能性があり、ペムブロリズマブの一次治療としてのOSベネフィットの解釈に課題を残した。

本更新解析は、より長期の追跡期間 (中央値25.2ヶ月) におけるOSデータを報告し、化学療法群からのペムブロリズマブへのクロスオーバーを統計学的に補正したOS解析を実施することで、一次治療におけるペムブロリズマブ単剤の長期的な生存利益をより明確にすることを目的とした。これにより、PD-L1高発現NSCLCに対するペムブロリズマブ単剤療法の臨床的価値を再評価し、その標準治療としての位置付けを強化する上で重要な情報を提供することが期待された。従来の化学療法では得られなかった長期生存の可能性を、クロスオーバーの影響を考慮した上で評価することは、臨床現場における治療選択の指針として極めて重要である。

目的

本研究の目的は、KEYNOTE-024試験 (n=305) において、PD-L1 TPS 50%以上の未治療進行NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤療法とプラチナ製剤ベース化学療法の比較について、中央値追跡期間25.2ヶ月時点での更新された全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、および奏効データ (客観的奏効割合 [ORR]、奏効期間 [DOR]) を報告することである。さらに、化学療法群からペムブロリズマブへのクロスオーバーがOS評価に与える潜在的なバイアスを統計学的に補正した解析を実施し、一次治療におけるペムブロリズマブの真のOS利益を評価することも重要な目的とした。この更新解析を通じて、PD-L1高発現NSCLCに対するペムブロリズマブ単剤の長期的な有効性と安全性プロファイルをより詳細に明らかにすることを目指した。

結果

患者背景と治療状況: 合計305名の患者が無作為に割り付けられ、ペムブロリズマブ群に154名、化学療法群に151名が登録された。データカットオフ時点 (2017年7月10日、追跡期間中央値25.2ヶ月) で、ペムブロリズマブ群で73名、化学療法群で96名の死亡が確認された。ペムブロリズマブ群の治療期間中央値は7.9ヶ月 (範囲1日〜28.8ヶ月) であったのに対し、化学療法群は3.5ヶ月 (範囲1日〜30.5ヶ月) であった。化学療法群の患者のうち82名 (54%) がプロトコルに従ってペムブロリズマブにクロスオーバーし、さらに15名が試験外で抗PD-1治療を受けたため、合計97名 (64.2%) が抗PD-1治療を受けた。クロスオーバー後のペムブロリズマブ治療期間中央値は3.9ヶ月 (範囲1日〜23.7ヶ月) であった。

全生存期間 (OS) の更新解析: ITT (intent-to-treat) 集団におけるOSの更新解析では、ペムブロリズマブ群のOS中央値は30.0ヶ月 (95% CI, 18.3ヶ月-未到達) であったのに対し、化学療法群では14.2ヶ月 (95% CI, 9.8-19.0ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は0.63 (95% CI, 0.47-0.86; 名目上のP値=0.002) であり、ペムブロリズマブ群で統計学的に有意なOSの延長が認められた。12ヶ月OS率はペムブロリズマブ群で70.3% (95% CI, 62.3%-76.9%)、化学療法群で54.8% (95% CI, 46.4%-62.4%) であった。24ヶ月OS率はそれぞれ51.5% (95% CI, 43.0%-59.3%) と34.5% (95% CI, 26.7%-42.4%) であり、25ヶ月の追跡期間においてもペムブロリズマブのOS利益が確実に維持されていることが示された (Figure 2A)。サブグループ解析では、評価された全てのサブグループにおいてOSのHRが1を下回り、ペムブロリズマブの一貫したOS利益が確認された (Figure 2B)。

OSのクロスオーバー調整解析: 化学療法群からペムブロリズマブへのクロスオーバーは82/151例 (54%) であった。この高いクロスオーバー率がOS評価に与える影響を補正するため、3つの統計手法が用いられた。簡易2段階法によるクロスオーバー調整後のOSのHRは0.49 (95% CI, 0.34-0.69) であった。RPSFT法による調整後のHRは0.52 (95% CI, 0.33-0.75)、IPCW法による調整後のHRも0.52 (95% CI, 0.33-0.80) と、いずれの補正法でも同様の結果が得られた。これらの調整済みHRは、未調整のHR 0.63よりもさらに小さく、クロスオーバーがなければペムブロリズマブのOS利益はさらに大きかった可能性を示唆している。簡易2段階法による調整後の化学療法群のOS中央値は8.7ヶ月 (95% CI, 7.3-11.5ヶ月) と推定された (Figure 4)。

クロスオーバー患者における奏効データ: 化学療法群からペムブロリズマブにクロスオーバーした82名の患者における客観的奏効割合 (ORR) は20.7% (17/82例) であった (95% CI, 12.6%-31.1%)。19名 (23.2%) が病勢安定 (SD) を示した。奏効までの期間中央値は2.0ヶ月 (範囲1.1-8.4ヶ月) であり、奏効期間 (DOR) 中央値は未到達 (範囲2.1ヶ月-22.9ヶ月+) であった (Figure 3)。これは、二次治療としてのペムブロリズマブも一定の有効性を示すことを示唆している。

無増悪生存期間 (PFS) および客観的奏効割合 (ORR) の更新: PFS中央値は、ペムブロリズマブ群で7.7ヶ月 (95% CI, 6.1-10.2ヶ月)、化学療法群で5.5ヶ月 (95% CI, 4.2-6.2ヶ月) であり、HRは0.50 (95% CI, 0.39-0.65) であった。ORRはペムブロリズマブ群で46.1%、化学療法群で31.1%であった。完全奏効 (CR) はペムブロリズマブ群で4.5%、化学療法群で0%であった。奏効期間 (DOR) 中央値は、ペムブロリズマブ群で29.1ヶ月、化学療法群で6.3ヶ月と、ペムブロリズマブ群で著明な奏効の長期化が認められた。

安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (AE) の発生率は、ペムブロリズマブ群で76.6% (グレード3〜5は31.2%)、化学療法群で90.0% (グレード3〜5は53.3%) であった (Table 2)。グレード3〜5の治療関連AEの発生率はペムブロリズマブ群で有意に低かった。重篤な治療関連AEの発生率 (ペムブロリズマブ群22.7% vs 化学療法群20.7%) および治療中止に至った治療関連AEの発生率 (ペムブロリズマブ群13.6% vs 化学療法群10.7%) は両群間で同程度であった。治療関連死はペムブロリズマブ群で2例 (1.3%)、化学療法群で3例 (2.0%) であった。免疫関連AE (任意のグレード) はペムブロリズマブ群で33.8% (グレード3〜5は13.6%)、化学療法群で5.3% (グレード3〜5は0.7%) であった。ペムブロリズマブ群で最も頻度の高かったグレード3〜5の治療関連AEは下痢 (3.9%) と肺炎 (3.2%) であった。クロスオーバー期間中の治療関連AEの発生率は61.0% (グレード3〜5は9.8%) であり、グレード5の治療関連AEは認められなかった。

考察/結論

KEYNOTE-024試験の更新解析 (追跡期間中央値25.2ヶ月) は、PD-L1 TPS 50%以上の未治療進行NSCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤がプラチナ製剤ベース化学療法と比較して、強力かつ持続的な全生存期間 (OS) の改善をもたらすことを明確に示した。ペムブロリズマブ群のOS中央値30.0ヶ月に対し、化学療法群は14.2ヶ月であり、ハザード比 (HR) は0.63 (95% CI, 0.47-0.86; P=.002) であった。このOS利益は、化学療法群からペムブロリズマブへの高いクロスオーバー率 (54%) があったにもかかわらず維持された。

先行研究との違い: 本研究のOS中央値30.0ヶ月という結果は、従来のプラチナ製剤ベース化学療法単独の試験で報告された生存期間と比較して著しく良好であり、PD-L1高発現NSCLCに対する一次治療のパラダイムを根本的に変えるものである。主要解析時点ではOSが未到達であったが、今回の更新解析で具体的なOS中央値が示されたことは、臨床的意義が極めて大きい。また、Carbone et al. NEnglJMed 2017 のCheckMate 026試験では、PD-L1発現5%以上の患者においてニボルマブ単剤がPFSやOSを改善しなかったことと対照的に、本試験はPD-L1 TPS 50%以上の患者群におけるPD-1阻害薬単剤の優位性を確立した。

新規性: 本研究で初めて、化学療法群からのペムブロリズマブへのクロスオーバーの影響を統計学的に補正したOS解析が実施された。簡易2段階法、RPSFT法、IPCW法という複数の手法を用いた多角的な補正解析により、クロスオーバー調整後のHRは0.49〜0.52と、未調整のHR 0.63よりもさらに改善されたOS利益が示された。これは、クロスオーバーがなければ一次治療におけるペムブロリズマブの真のOSベネフィットはさらに大きかったことを示唆する新規の知見である。

臨床応用: 本更新解析は、PD-L1 TPS 50%以上の進行NSCLC患者に対する一次治療として、ペムブロリズマブ単剤療法が長期的なOS利益をもたらすことを確立し、その標準治療としての位置付けを強化するものである。2年OS率がペムブロリズマブ群で51.5%であったことは、この患者群において長期生存が現実的な目標となり得ることを示唆しており、臨床現場での治療選択に大きな影響を与える。安全性プロファイルも、化学療法と比較してグレード3〜5の治療関連AEが少なく、長期投与における累積毒性の懸念も認められなかった。

残された課題: 今後の検討課題として、PD-L1 TPS 50%未満の患者群における免疫チェックポイント阻害薬の最適な治療戦略 (単剤か併用か) の確立が挙げられる。また、免疫チェックポイント阻害薬の奏効予測バイオマーカーのさらなる探索や、治療抵抗性メカニズムの解明も重要な研究方向性である。本試験のlimitationとしては、オープンラベルデザインであること、およびクロスオーバーが許容されたことによるOS評価の複雑性が挙げられるが、複数の統計手法による補正解析により、その影響は最小限に抑えられたと考えられる。

方法

本研究は、国際多施設共同オープンラベル無作為化第III相試験であるKEYNOTE-024 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT02142738) の更新解析である。

患者選択: 対象患者は、未治療のStage IV NSCLCで、PD-L1 TPSが50%以上 (PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイを使用)、ECOG Performance Status (PS) が0または1、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1に基づき測定可能な病変を有し、EGFR遺伝子変異またはALK転座陰性であった。活動性の自己免疫疾患や全身性ステロイド治療を受けている患者は除外された。合計305名の患者が登録された。

試験デザインと治療: 患者はペムブロリズマブ群 (200mgを3週間ごとに最大35サイクル、n=154) または医師選択のプラチナ製剤ベース化学療法群 (4〜6サイクル、n=151) に1:1で無作為に割り付けられた。化学療法レジメンは、カルボプラチン+ペメトレキセド、シスプラチン+ペメトレキセド、カルボプラチン+ゲムシタビン、シスプラチン+ゲムシタビン、またはカルボプラチン+パクリタキセルから選択された。非扁平上皮癌患者にはペメトレキセド含有レジメンが許可された。化学療法群の患者は、安全性基準を満たし、病勢進行が確認された場合 (盲検独立中央画像診断評価により確認)、プロトコルに従ってペムブロリズマブへのクロスオーバーが許可された。

評価項目: 主要評価項目はPFSであった。重要な副次評価項目はOSであり、その他にORR、DOR、安全性などが評価された。画像評価は9週間ごとにRECIST version 1.1に基づき、盲検独立中央画像診断レビュー (第2回中間解析後に中止) および治験責任医師評価によって行われた。有害事象 (AE) は、National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (NCI CTCAE) version 4.0に基づきグレード分類された。

統計解析: データカットオフは2017年7月10日であり、追跡期間中央値は25.2ヶ月であった。OSの評価にはKaplan-Meier法が用いられ、群間比較には層別ログランク検定が使用された。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は、層別Cox比例ハザードモデルを用いて算出された。

クロスオーバー調整解析: 化学療法群からペムブロリズマブへのクロスオーバーがOS評価に与える影響を補正するため、以下の3つの統計手法が適用された。

  1. 簡易2段階法 (Simplified two-stage method): 化学療法群でクロスオーバーした患者の生存期間を、クロスオーバーがなかった場合の生存期間に調整する。ステージ1で共変量を考慮した対数正規パラメトリック生存モデルを用いてクロスオーバー効果 (加速因子) を推定し、ステージ2でペムブロリズマブ群の観察された生存期間と化学療法群の調整された生存期間を比較した。
  2. 順位保存型構造的失敗時間 (Rank-Preserving Structural Failure Time; RPSFT) モデル: G推定法により加速因子を決定し、クロスオーバーした患者の生存時間を乗法的に調整した。
  3. 逆確率打ち切り重み付け (Inverse Probability of Censoring Weighting; IPCW) 法: クロスオーバー時に人工的な打ち切りを導入し、ベースラインおよび時間依存性の患者特性に基づいて重み付けを行うことで、交絡因子を調整した。

これらの補正解析により、クロスオーバーの影響を除いたペムブロリズマブの真のOS利益を推定した。