• 著者: Satouchi M, Nosaki K, Takahashi T, Nakagawa K, Aoe K, Kurata T, Sekine A, Horiike A, Fukuhara T, Sugawara S, Umemura S, Saka H, Okamoto I, Yamamoto N, Sakai H, Kishi K, Katakami N, Horinouchi H, Hida T, Okamoto H, Atagi S, Ohira T, Han SR, Noguchi K, Ebiana V, Hotta K
  • Corresponding author: Katsuyuki Hotta (Center for Innovative Clinical Medicine, Okayama University Hospital)
  • 雑誌: Cancer Science
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34543477

背景

肺がんは世界におけるがん関連死亡の主要な原因であり、日本国内においてもがん関連死亡の約20%を占める極めて予後不良な疾患である (Bray et al. CACancerJClin 2018)。EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子変異陰性の進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対しては、長年にわたりプラチナ系抗がん剤併用化学療法が一次治療の標準として用いられてきた。しかし、免疫チェックポイント阻害薬の登場により治療体系は劇的に変化した。特に、PD-L1 (programmed death ligand 1) 高発現 (TPS [tumor proportion score] ≥50%) の未治療転移性NSCLC患者を対象としたグローバル第III相試験であるKEYNOTE-024試験において、抗PD-1抗体ペムブロリズマブはプラチナ系化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を有意に延長し、良好な安全性プロファイルを示した (Reck et al. NEnglJMed 2016)。さらに、長期追跡データにおいてもペムブロリズマブの持続的な生存ベネフィットが確認されている (Reck et al. JClinOncol 2019)。

一方で、アジア人患者と非アジア人患者の間では、遺伝的背景や治療に対する反応性、さらには後治療のパターンが異なるため、生存アウトカムに差異が生じる可能性が指摘されていた。したがって、グローバル試験全体の知見をそのまま日本人集団に適用できるかについては検証が不十分であり、日本人患者における有効性と安全性の詳細な評価が求められていた。しかしながら、これまでの臨床試験では日本人集団に特化した長期的な有効性や安全性のデータが不足しており、日本人患者における長期的な有効性や安全性の推移については依然として未解明な点が多く、エビデンスが不足しているという課題が残されていた。一次治療としてのペムブロリズマブの日本人における位置づけを強固にするためのエビデンスには依然としてgapが残されていた。本研究は、この課題を解決するために、KEYNOTE-024試験における日本人サブセットの長期追跡結果を解析したものである。

目的

本研究の目的は、PD-L1高発現 (TPS [tumor proportion score] ≥50%) でEGFR遺伝子変異およびALK融合遺伝子陰性の未治療転移性NSCLC日本人患者において、一次治療としてのペムブロリズマブ単剤療法が、標準的なプラチナ系化学療法と比較して、長期的な有効性 (無増悪生存期間、全生存期間、客観的奏効率、奏効期間) および安全性 (治療関連有害事象、免疫関連有害事象) を改善するかどうかを、KEYNOTE-024試験の事前規定された日本人サブセット解析を通じて検証することである。これにより、日本人患者における一次治療としてのペムブロリズマブの臨床的有用性を確立し、日常臨床における最適な治療選択に寄与することを目指す。

結果

患者背景および治療曝露状況のバランス: 対象となった日本人患者40例 (ペムブロリズマブ群 n=21、化学療法群 n=19) の背景因子は両群間で概ねバランスが保たれていた (Table 1)。年齢中央値はペムブロリズマブ群で66歳(範囲 40-80歳)、化学療法群で67歳(範囲 53-77歳)であり、男性の割合はそれぞれ76% (16/21例) および95% (18/19例) であった。組織型は非扁平上皮癌がペムブロリズマブ群で86% (18/21例)、化学療法群で95% (18/19例) を占め、喫煙歴 (元喫煙者または現喫煙者) はそれぞれ95% (20/21例) および100% (19/19例) であった。データカットオフ時点における治療期間の中央値は、ペムブロリズマブ群で13.1ヶ月 (範囲 0.03-47.6ヶ月) であったのに対し、化学療法群では3.5ヶ月 (範囲 0.03-11.8ヶ月) であった。化学療法群からペムブロリズマブへの試験内クロスオーバーは10例 (53%) で実施され、試験外での抗PD-1抗体治療を受けた3例を加えると、実効クロスオーバー率は68% (13/19例) に達した。一方、ペムブロリズマブ群で治療後にプラチナ系化学療法を受けた患者は38% (8/21例) であった (Figure 1)。

無増悪生存期間(PFS)の大幅な延長効果: 主要エンドポイントであるBICR判定によるPFSにおいて、ペムブロリズマブ群は化学療法群と比較して極めて顕著な改善を示した (Figure 2A)。PFSの中央値は、ペムブロリズマブ群と化学療法群の比較において 41.4 vs 4.1 months (HR 0.27, 95% CI 0.11-0.65, p=0.001) であり、ペムブロリズマブ群で病勢進行または死亡のリスクが73%減少した。また、1年PFS率はペムブロリズマブ群で64% (95% CI 39%-81%) であったのに対し、化学療法群では25% (95% CI 9%-46%) であった。この日本人サブセットにおけるPFSの改善度 (HR 0.27) は、グローバル試験全体で報告されたPFSのハザード比である HR 0.50 (95% CI 0.37-0.68, p<0.001) と比較しても、極めて良好な傾向を示していた。

高いクロスオーバー率を克服した全生存期間(OS)の改善: 副次エンドポイントであるOSにおいても、ペムブロリズマブ群は化学療法群に対して有意な生存ベネフィットを示した (Figure 2B)。OSの中央値は、ペムブロリズマブ群と化学療法群の比較において NR vs 21.5 months (HR 0.39, 95% CI 0.17-0.91, p=0.012) であった。化学療法群における高い実効クロスオーバー率 (68%) にもかかわらず、一次治療におけるペムブロリズマブの明確な生存期間延長効果が証明された。生存率の推移を見ると、1年生存率はペムブロリズマブ群 86% (95% CI 62%-95%) vs 化学療法群 63% (95% CI 38%-80%)、2年生存率は 71% (95% CI 47%-86%) vs 37% (95% CI 17%-58%)、3年生存率は 67% (95% CI 43%-83%) vs 26% (95% CI 10%-47%) であり、長期にわたりペムブロリズマブ群の優位性が維持されていた。

客観的奏効率(ORR)および奏効持続期間(DOR)の優越性: BICR判定によるORRは、ペムブロリズマブ群で62% (13/21例、95% CI 38%-82%) であり、化学療法群の26% (5/19例、95% CI 9%-51%) と比較して有意に高かった (p=0.019)。ペムブロリズマブ群で奏効 (完全奏効 [CR] または部分奏効 [PR]) が得られた13例のうち、7例が2年間 (35サイクル) の治療を完了した (Figure 3)。奏効持続期間 (DOR [duration of response]) の中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達 (範囲 6.2+〜20.6+ヶ月) であったのに対し、化学療法群では9.8ヶ月 (範囲 4.8+〜10.4ヶ月) であった。ペムブロリズマブ群で治療を完了した後に病勢進行を認めた3例に対しては、ペムブロリズマブの2回目の投与 (セカンドコース) が行われ、1例が17サイクルを完了し、2例が病勢進行により中止したものの、3例全員がデータカットオフ時点で生存していた。

管理可能な安全性プロファイルと有害事象の特性: 安全性解析において、治療関連有害事象 (TRAE [treatment-related adverse event]) はペムブロリズマブ群の100% (21/21例)、化学療法群の95% (18/19例) に認められた (Table 2)。Grade 3-5のTRAEは、ペムブロリズマブ群で38% (8/21例)、化学療法群で47% (9/19例) に発生した。ペムブロリズマブ群で頻度の高かったTRAEは発熱 (24%)、下痢 (19%)、発疹 (19%) であり、化学療法群では食欲減退 (63%)、悪心 (58%)、貧血 (47%) であった。TRAEによる治療中止はペムブロリズマブ群で19% (4/21例)、化学療法群で5% (1/19例) であった。また、免疫関連有害事象 (irAE [immune-related adverse event]) および注入反応は、ペムブロリズマブ群の52% (11/21例)、化学療法群の21% (4/19例) で報告され、Grade 3-5のirAEはそれぞれ19% (4/21例:肝炎、重症皮膚障害、ブドウ膜炎、肺臓炎が各1例) および5% (1/19例:肺臓炎1例) であった。

考察/結論

本研究は、PD-L1高発現の未治療転移性NSCLC日本人患者において、一次治療としてのペムブロリズマブ単剤療法がプラチナ系化学療法と比較して、長期にわたり極めて優れた有効性と管理可能な安全性を示すことを明らかにした。

先行研究との違い: 本解析の結果は、グローバルKEYNOTE-024試験の全体集団で示されたハザード比 (PFS HR 0.50、OS HR 0.63) と異なり、日本人集団においてさらに良好なハザード比 (PFS HR 0.27、OS HR 0.39) を示した。アジア人患者における良好な生存アウトカムは、ゲフィチニブの既報である IDEAL (Iressa Dose Evaluation in Advanced Lung Cancer) 1 試験などでも観察されているが (Fukuoka et al. JClinOncol 2003)、本サブセット解析においても日本人患者における免疫チェックポイント阻害薬の極めて高い治療効果が再確認された。また、化学療法群における実効クロスオーバー率が68%と高頻度であったにもかかわらず、OSにおいて統計学的に有意な差を維持したことは、一次治療において早期にペムブロリズマブを導入することの重要性を強く支持している。

新規性: 本研究は、日本人患者におけるペムブロリズマブ一次治療の長期追跡データを本研究で初めて詳細に提示したものである。特に、ペムブロリズマブ群におけるPFS中央値が41.4ヶ月に達したこと、および2年間の治療を完了した症例において持続的な奏効が得られ、病勢進行後のセカンドコース投与が一部の患者で長期生存に寄与したことを新規に示した。

臨床応用: 本知見の臨床的意義として、PD-L1 TPS ≥50%の転移性NSCLC日本人患者に対するファーストライン治療としてのペムブロリズマブ単剤療法の妥当性が強固に裏付けられた。グローバル試験の結果 (KEYNOTE-024およびKEYNOTE-042) に基づき、日本国内でもペムブロリズマブ単剤療法が承認され広く臨床応用されているが (Mok et al. Lancet 2019)、本解析は日本人固有のデータとして日常臨床における意思決定を強力にサポートするエビデンスとなる。

残された課題: 今後の検討課題として、本解析が40例という極めて小規模なサブセット解析であるため、治療効果の推定値における信頼区間が広く、統計学的検出力に限界がある点が挙げられる。また、ペムブロリズマブ群におけるirAEの発生頻度 (52%) は化学療法群 (21%) と比較して高く、Grade 3-5の重篤なirAE (19%) も認められた。臨床現場においては、間質性肺疾患 (肺臓炎) などの致死的なirAEに対する早期発見と適切な管理体制の構築が、依然として残された課題である。

方法

本研究は、国際共同ランダム化非盲検第III相試験であるKEYNOTE-024試験 (ClinicalTrials.gov識別子:NCT02142738) の事前規定された日本人サブセット解析である。日本国内の23施設から登録された、未治療のIV期NSCLC患者40例を対象とした。適格基準は、18歳以上、EGFR遺伝子変異およびALK融合遺伝子陰性、PD-L1 TPS (tumor proportion score) ≥50% (PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイにより中央測定で評価)、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.1に基づく測定可能病変を有し、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータスが0または1の患者とした。

対象患者は、ペムブロリズマブ群 (200 mgを3週間間隔で静脈内投与、最大35サイクルまたは2年間まで) または化学療法群 (治験医師が選択したプラチナ系2剤併用化学療法を4〜6サイクル投与:カルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセド、カルボプラチンまたはシスプラチン+ゲムシタビン、カルボプラチン+パクリタキセル) に1:1の割合でランダムに割り付けられた。化学療法群で病勢進行 (PD) が確認された患者は、安全基準を満たせばペムブロリズマブへのクロスオーバーが許容された。

主要エンドポイントは、独立した中央判定 (BICR [blinded, independent, central radiologic review]) による無増悪生存期間 (PFS) とした。副次エンドポイントは、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR [objective response rate])、および安全性とした。生存曲線 (PFSおよびOS) の推定にはKaplan-Meier法を用い、群間比較には層別ログランク (log-rank) 検定を適用した。ハザード比 (HR) およびその95%信頼区間 (CI) の算出には、Efron法を用いた層別コックス比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards model) を使用した。データカットオフ日は2019年2月15日であり、中央値追跡期間は43.3ヶ月であった。