• 著者: Joshua E Reuss, Valsamo Anagnostou, Tricia R Cottrell, Kellie N Smith, Franco Verde, Marianna Zahurak, Mara Lanis, Joseph C Murray, Hok Yee Chan, Caroline McCarthy, Daphne Wang, James R White, Stephen Yang, Richard Battafarano, Stephen Broderick, Errol Bush, Malcolm Brock, Jinny Ha, David Jones, Taha Merghoub, Janis Taube, Victor E Velculescu, Gary Rosner, Peter Illei, Drew M Pardoll, Suzanne Topalian, Jarushka Naidoo, Ben Levy, Matthew D Hellmann, Julie R Brahmer, Jamie E Chaft, Patrick M Forde
  • Corresponding author: Patrick M Forde (Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Johns Hopkins University, Baltimore, Maryland, USA)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-08-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32929052

背景

切除可能な非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者に対する標準治療は、根治的な手術切除を基本とするが、術後も高頻度で再発し死亡に至るため、現在の治療アプローチには限界がある。この患者集団における治療成績の向上と再発予防のための治療法の革新が、胸部腫瘍学における喫緊の課題として認識されている。PD-1経路阻害薬は進行NSCLCの治療を大きく変革し、現在では標的可能なドライバー遺伝子変異を持たない局所進行または転移性NSCLCの全ての一次治療の基盤となっている。しかし、切除可能NSCLCにおける術前免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) の最適な戦略、特に併用療法の安全性と有効性については、まだ未解明な点が残されていた。

先行研究として、Forde et al. NEnglJMed 2018は、切除可能NSCLCに対する術前PD-1阻害 (ニボルマブ単剤療法) の初の臨床試験を実施し、安全かつ実行可能であり、病理学的奏効 (主要病理学的奏効 [MPR] 45%) が期待できることを報告した。この結果は、術前ICB療法の可能性を示唆するものであった。一方、進行NSCLCにおいては、ニボルマブとイピリムマブ (抗CTLA-4抗体) の併用療法が、Hellmann et al. NEnglJMed 2018Hellmann et al. NEnglJMed 2019などで有望なデータを示していた。これらの結果に基づき、元の術前ニボルマブ単剤療法試験 (NCT02259621) にイピリムマブ併用アームが追加された。

しかし、切除可能NSCLCにおける術前ニボルマブとイピリムマブ併用療法の安全性プロファイル、特に毒性と病勢進行のリスクについては、まだ十分に確立されておらず、臨床現場への導入にはエビデンスが不足していた。進行NSCLCにおける併用療法の有効性は示されていたものの、根治的手術を前提とする術前設定での毒性の許容範囲や、手術を妨げる病勢進行の発生率は未解明な点が残されており、安全性に関する知識ギャップが存在した。また、病理学的奏効と関連するゲノムおよび分子バイオマーカー、特にPD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) が、ニボルマブ単剤療法の場合と同様に併用療法でも予測因子となるかについては、さらなる検討が必要であった。特に、術前ニボルマブ単剤療法ではTMBがMPRと相関する一方で、PD-L1発現との相関は認められなかったため、併用療法における予測バイオマーカーの特定は知識ギャップとして残されていた。本研究は、このニボルマブとイピリムマブ併用アームにおける臨床安全性、病理学的奏効、およびゲノム・分子相関を報告し、術前ICB併用療法の安全性と有効性に関するエビデンスの不足を補うことを目的とした。

目的

本研究の目的は、切除可能IB期 (4 cm以上) からIIIA期 (AJCC TNM 第7版) のNSCLC患者を対象とした術前ニボルマブとイピリムマブ併用療法の実行可能性 (feasibility) と安全性を主要評価項目として評価することであった。実行可能性は、予定手術日から24日以内の手術遅延がないことで定義され、安全性はCTCAE v4.0に基づく有害事象によって評価された。本試験は、計画された15名の患者登録のうち、初期の安全性ランイン期間で得られたデータに基づき、プロトコルで定義されたベイジアン停止ルールを用いて、安全性と実行可能性を評価するよう設計された。

副次評価項目として、病理学的奏効 (切切除標本における残存腫瘍細胞の割合) を評価した。主要病理学的奏効 (MPR) は、残存腫瘍細胞が10%以下と定義され、病理学的完全奏効 (pCR) も評価対象とされた。さらに、探索的解析として、治療前の腫瘍PD-L1発現、腫瘍変異負荷 (TMB)、および腫瘍微小環境のマルチプレックス免疫蛍光 (mIF) 解析を含むゲノムおよび分子バイオマーカーと臨床・病理学的奏効との関連性を評価した。特に、ニボルマブ単剤療法でTMBがMPRと相関した先行研究の結果を踏まえ、併用療法におけるPD-L1とTMBの予測的価値を比較検討することも重要な目的であった。本研究は、術前ICB併用療法の臨床的有用性を判断するための安全性と有効性のバランスを評価し、将来の臨床試験設計に資するバイオマーカーを特定することを目指した。

結果

試験アームの早期中止と毒性懸念: 2017年7月から2018年3月にかけて、9名の患者が本試験アームに登録された (Table 1)。全ての患者が予定された免疫チェックポイント阻害 (ICB) 薬の全投与を完遂し、治療関連の遅延なく予定手術に適格であったため、実行可能性の基準は満たされた。しかし、著しい臨床的毒性と高い原発性病勢進行率が認められたため、治験責任医師の合意により、計画されていた15名中9名が登録された時点で試験アームは早期に中止された。プロトコルで定義された安全性停止基準には到達しなかったものの、臨床的判断が優先された。

治療関連有害事象の発生状況: 治療関連有害事象 (TRAE) は9名中6名 (67%) に発生し、9名中3名 (33%) がGrade 3以上のTRAEを経験した (Table 2)。これには、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS; Grade 5、死亡例 11%)、肺炎 (Grade 3、11%)、発疹 (Grade 3、11%)、そう痒症 (Grade 3、11%)、頭痛 (Grade 3、11%) が含まれる。ARDSおよび可能性のある肺炎は、治験薬との関連が「可能性あり」とされたが、事象のタイミングと複雑な手術後の状況を考慮すると、術後合併症である可能性が高いと判断された。Grade 1-2の事象としては、発疹 (33%)、疲労 (22%)、そう痒症、腹痛、関節痛、下痢、発熱、甲状腺機能低下症、輸液反応、悪心、乾癬がそれぞれ11%ずつ報告された。本試験で観察された毒性プロファイルは、先行するニボルマブ単剤療法試験や、LCMC3 (術前アテゾリズマブ臨床試験) などの単剤療法試験、化学療法とICB併用療法試験で報告された毒性を上回るものであった。

放射線学的奏効と高い病勢進行率: 術前画像評価では、部分奏効 (PR) が9名中1名 (11%、未確認)、安定病変 (SD) が9名中4名 (44%)、病勢進行 (PD) が9名中4名 (44%) に認められた (Figure 1, Table 3)。PDと診断された4例のうち、3例は生検で確認された原発腫瘍の進行 (遠隔転移の出現) により根治的手術が不可能となり、1例のみが切除された。すべてのPD症例は偽進行ではなく真の進行であり、切除標本では100%の残存腫瘍が確認された。9名中6名 (67%) が根治的切除を受けた。2019年12月15日のデータカットオフ時点で、切除を受けた6名のうち3名が生存かつ無病生存 (DF)、2名が再発し全身療法を受けており、1名が術後ARDSにより死亡した。切除不能となった3例は、病勢進行後に全身療法に移行した。

病理学的奏効とバイオマーカー相関: 切除を受けた6例中2例 (33%) で病理学的完全奏効 (pCR) が観察された。これら2例はいずれも術前IIIA期であり、術前PD-L1発現はそれぞれ75%と95%と高発現であった (Figure 1, Table 3)。両者とも24ヶ月以上無病生存を継続している。病理学的奏効は術前腫瘍PD-L1発現と有意に相関したが (Spearman rho=-0.88; p=0.02)、TMBとは相関しなかった (Figure 1)。これは、先行するニボルマブ単剤療法試験でTMBがMPRと相関した結果とは対照的であった。患者5 (pCR達成例) の術後切除組織では、豊富なCD8+細胞傷害性T細胞とCD163+マクロファージ、散在するFoxP3+制御性T細胞が認められ、腫瘍細胞は完全に消失していた (Figure 2A)。一方、患者4 (PDにより切除不能例) の術後生検では、間質性マクロファージ優位の浸潤を伴う完全に無傷の腫瘍が認められ、CD8 T細胞浸潤は乏しかった (Figure 2B)。

ゲノム変異プロファイルと治療抵抗性: 9名中5名 (56%) でKRAS/STK11共変異が同定された。特に、KRAS/STK11/KEAP1のトリプル共変異を有する2例 (患者2および4) は、いずれも原発性病勢進行を呈し、根治的切除が不可能となった (Figure 1, Table 3)。3例目の原発性病勢進行患者 (患者8) は、BRAF/STK11/TP53の共変異を有していた。放射線学的にPDと診断された全4例は、TMBが低く、術前PD-L1発現が1%以下であった。対照的に、pCRを達成した患者5は、KRAS/STK11共変異を有していたにもかかわらず、TMBが高く、PD-L1発現が75%と高かった。患者1はKRAS/STK11共変異とPD-L1陰性であり、術前画像でPDを示したが、手術を受け100%の残存腫瘍が認められた。

進行NSCLC試験データとの比較: 進行NSCLCを対象とした第III相試験であるCheckMate 227試験のニボルマブ+イピリムマブ併用アームでは、無増悪生存期間 (PFS) の有意な延長が示されている。同試験におけるPFS中央値の比較では、ニボルマブ+イピリムマブ群が 7.2 vs 5.5 months (HR 0.77, 95% CI 0.65-0.92, p=0.003) と化学療法群に対して有意な改善を示した。また、全生存期間 (OS) についても、ニボルマブ+イピリムマブ群が 17.1 vs 14.9 months (HR 0.79, 95% CI 0.69-0.91, p=0.007) と有意な延長を達成している。しかし、本研究のような切除可能NSCLCに対する術前設定においては、進行期における有効性データとは対照的に、33%に達する高い原発性病勢進行率とGrade 3以上のTRAE (33%) が手術の実施可能性を損なう重大な障壁となることが明らかになった。

考察/結論

本試験は、切除可能NSCLCにおける術前ニボルマブとイピリムマブ併用療法の実行可能性は確認されたものの、毒性と高い原発性病勢進行率により早期中止に至った重要な報告である。この結果は、後続の術前ICB単剤療法や化学療法併用ICB試験の設計およびバイオマーカー戦略に大きな影響を与えた。

先行研究との違い: 本研究におけるGrade 3以上のTRAE発生率 (33%) は、Forde et al. NEnglJMed 2018による術前ニボルマブ単剤療法試験 (5%) や、LCMC3試験のアテゾリズマブ単剤療法、NADIM試験における化学療法とニボルマブ併用療法で報告された毒性率をいずれも上回るものであった。これは、根治的手術を前提とする術前周術期設定においては許容できないレベルの用量強度であったことを示唆する。進行NSCLCを対象としたHellmann et al. NEnglJMed 2019のニボルマブ+イピリムマブ併用アーム (n=583) ではGrade 3以上のTRAEが33%と同程度の数値であったが、根治的手術を目指す術前設定では許容しがたい。また、TMBが病理学的奏効と相関しなかった点は、術前ニボルマブ単剤療法試験でTMBがMPRと相関した結果とは対照的であった。

新規性: 本研究は、切除可能NSCLCに対する術前ニボルマブとイピリムマブ併用療法において、KRAS/STK11/KEAP1共変異などの免疫治療抵抗性因子が原発性病勢進行と関連することを新規に同定した。特に、KRAS/STK11/KEAP1トリプル変異を有する2例が両者とも原発性病勢進行を呈し、3例目の進行例もBRAF/STK11/TP53トリプル変異を有していたことは、STK11がICBの原発性抵抗性において中心的な役割を果たすという仮説を術前設定でも補強するものであり、これまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、術前ICB併用療法における毒性と病勢進行のリスクを明確にし、臨床現場での患者選択と治療戦略の最適化に直接的な臨床的含意を持つ。特に、KRAS/STK11/KEAP1共変異などの高リスクのゲノムプロファイルを持つ患者群では、術前ICB単独での治療中に病勢進行により手術機会を逸するリスクがあるため、より慎重な治療選択が必要であることを示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、腫瘍変異プロファイル、PD-L1発現、腫瘍微小環境の複合的な予測バイオマーカーによる患者選択の最適化が挙げられる。また、イピリムマブの減量や逐次投与など、用量/スケジュールの最適化、循環腫瘍DNA (ctDNA) の経時的モニタリングによる治療効果予測と再発モニタリング、STK11/KEAP1抵抗性に対する代替戦略 (KRAS G12C阻害薬とICBの併用、STINGアゴニストなど) の開発も残された課題である。本研究は小規模 (n=9) であり、信頼区間が広いため、結果の一般化には注意が必要であるというlimitationも存在する。

方法

試験デザイン: 本研究は、ジョンズ・ホプキンス大学 (JHU) とメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター (MSKCC) で実施された多施設共同、非盲検、単群、第Ib/II相試験 (NCT02259621) である。当初の計画では15名の患者を登録する予定であった。患者の関与として、Stand Up To CancerおよびLUNGevity (肺がん患者支援団体) 財団の患者支援者が、本試験のデザインと実施に協力した。

対象患者: 18歳以上の成人で、切除可能IB期 (4 cm以上) からIIIA期 (AJCC TNM 第7版) の組織学的に確認された治療歴のないNSCLC患者が対象とされた。ECOGパフォーマンスステータスは0-1、正常な臓器機能および切除に十分な肺機能を有することが条件であった。主な除外基準には、活動性の自己免疫疾患、10 mg/日を超えるプレドニゾン相当量の全身性ステロイドまたはその他の免疫抑制療法、活動性の併存悪性腫瘍、症候性間質性肺疾患の既往、術前化学療法、およびPD-1またはCTLA-4経路阻害薬による治療歴が含まれた。

投与レジメン: 登録患者には、予定手術の6週間前にニボルマブ3 mg/kg静脈内投与とイピリムマブ1 mg/kg静脈内投与が併用された。さらに、手術の約4週間前と2週間前にニボルマブ3 mg/kgが追加投与された (合計ニボルマブ3回、イピリムマブ1回)。全ての患者には、術後の標準的な補助化学療法±放射線療法が適応に応じて提供された。

主要評価項目: 実行可能性は、予定手術日から24日以内の手術遅延がないことと定義された。安全性は、CTCAE v4.0に基づいて有害事象を評価した。安全性評価のため、6名の患者を対象とした初期のランイン期間が設けられた。プロトコルで定義されたベイジアン停止ルールが、実行可能性と安全性を判断するために使用された。実行可能性の停止ルールは、予定通り手術に進む確率が0.90を明確に下回る場合に登録を中止するとされた。安全性の停止ルールは、Grade 3-4の用量制限毒性 (DLT) の事後確率が0.25を超える確率が70%以上の場合に試験を中止するとされた。

病理学的評価: 切除された原発腫瘍は、JHUおよびMSKCCの病理医によって、ルーチンのH&E染色スライド上で残存腫瘍細胞の割合が評価された。主要病理学的奏効 (MPR) は、残存腫瘍細胞が10%以下と定義された。

放射線学的評価: 術前画像診断 (PET-CTおよび造影CTまたは脳MRI) は、術前治療への放射線学的奏効を評価し、切除可能性を再確認するために手術の7日以内に再度実施された。術前治療後の画像評価が1回のみであったため、術前治療後の放射線学的奏効は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009を用いて決定され、未確認の奏効とされた。

相関解析: 術前腫瘍PD-L1発現は、免疫組織化学 (IHC SP142/E1L3Nクローン) およびマルチプレックス免疫蛍光 (mIF) を用いて評価された。JHU患者の体細胞腫瘍ゲノム変異は、腫瘍および対応する正常検体の全エクソームシーケンス (WES) を用いて同定された。MSKCC患者のゲノム変異は、Cheng et al. JMolDiagn 2015を用いたターゲット次世代シーケンス (NGS) によって同定された。エクソームおよびターゲットNGS解析からの腫瘍変異負荷 (TMB) は、プラットフォーム間で比較可能にするために正規化され、統計解析に用いられた。mIFは、選択された患者において、術前生検検体と術後切除腫瘍組織の腫瘍微小環境を比較するために実施され、CD8、FoxP3、CD163、PD-1、PD-L1などのマーカーが評価された。

統計解析: 治療関連有害事象 (TRAE) は、治験薬との関連性が「可能性あり」または「可能性が高い」と判断された有害事象と定義された。人口統計学的データ、安全性、臨床的、放射線学的、病理学的、および分子学的奏効データは、記述統計を用いて集計された。病理学的奏効と術前腫瘍PD-L1発現およびTMBとの関連性を評価するために、Spearmanの相関分析が使用された。報告されたp値は両側であり、有意水準は0.05に設定された。統計解析はR v3.4.4を用いて実施された。データカットオフは2019年12月15日であった。