• 著者: Forde PM, Chaft JE, Smith KN, Anagnostou V, Cottrell TR, Hellmann MD, Zahurak M, Yang SC, Jones DR, Broderick S, Battafarano RJ, Velez MJ, Rekhtman N, Olah Z, Naidoo J, Marrone KA, Verde F, Guo H, Zhang J, Caushi JX, Chan HY, Sidhom JW, Scharpf RB, White J, Gabrielson E, Wang H, Rosner GL, Rusch V, Wolchok JD, Merghoub T, Taube JM, Velculescu VE, Topalian SL, Brahmer JR, Pardoll DM
  • Corresponding author: Drew M. Pardoll, MD, PhD (Bloomberg-Kimmel Institute for Cancer Immunotherapy and the Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29658848

背景

PD-1 (programmed death 1) 経路を阻害する抗体製剤は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) において生存期間を改善することが示されている。Topalian et al. NEnglJMed 2012Garon et al. NEnglJMed 2015Reck et al. NEnglJMed 2016Rittmeyer et al. Lancet 2017 などの先行研究において、免疫チェックポイント阻害薬の有効性が実証されてきた。さらに、化学放射線療法後の局所進行NSCLCに対する維持療法としての有用性も Antonia et al. NEnglJMed 2017 で報告されている。

しかし、切除可能な早期NSCLCに対する術前補助療法 (neoadjuvant) としての免疫チェックポイント阻害薬の安全性や有効性、および手術への影響については未解明であり、臨床的なエビデンスが不足していた。早期NSCLCは進行期と比較して宿主の免疫機能がより保たれており、腫瘍のクローン多様性も低いため、抗原特異的なT細胞応答が誘導されやすいと考えられた。術前免疫療法には、一次腫瘍を抗原源として活用することで腫瘍特異的T細胞の増幅と活性化を促し、全身の微小転移に対する早期の免疫監視を確立できるという理論的利点がある。また、切除標本を用いることで、in vivoにおけるPD-1遮断の直接的な免疫学的効果を詳細に観察できる。

一方で、術前投与によって有害事象が発生し、予定された手術が遅延または中止されるリスクや、術後合併症が増加する懸念があり、その安全性と実施可能性の検証が不可欠な課題であった。従来の術前化学療法は、グレード3以上の毒性率が60%以上に達し、主要病理学的完全奏効 (pCR) 率も約4%と低く、術前免疫療法がこれらの課題を克服できるかは不明であった。特に、術前投与の期間中に手術が遅延する可能性や、免疫関連有害事象 (irAE) が術後の創傷治癒を阻害するかどうかについて、臨床的な懸念が存在していた。

目的

本研究の目的は、未治療の切除可能な早期 (Stage I、II、またはIIIA) 非小細胞肺癌患者を対象に、手術前の術前補助療法としてPD-1阻害薬であるnivolumabを2回投与した際の安全性および手術の実施可能性 (feasibility) を検証することである。主要エンドポイントは、治療関連有害事象の発生率と、プロトコルで事前に定義された手術遅延基準 (手術遅延37日以内) の達成率に設定された。

さらに、探索的・二次的エンドポイントとして、切除された腫瘍における病理学的奏効率 (pathological response) の評価、腫瘍細胞におけるPD-L1 (programmed death ligand 1) 発現状況の解析、TMB (tumor mutational burden: 腫瘍遺伝子変異量) と病理学的奏効との相関関係の解明、および腫瘍内および末梢血におけるMANA (mutation-associated neoantigen: 変異関連ネオアンチゲン) 特異的T細胞クローンの動態などの免疫学的メカニズムを詳細に探索することを目指した。術後の長期予後として、無再発生存期間 (RFS: recurrence-free survival) も追跡調査の対象とした。本研究は、術前免疫療法が従来の術前化学療法を上回る病理学的奏効率を達成できるか、また手術遅延を招くことなく安全に施行可能であるかを検証する初の臨床試験として設計された。

結果

患者背景と登録状況: 本試験に登録された22例のうち、1例が小細胞肺癌と判明して除外され、21例が適格例として解析対象となった。患者の中央値年齢は67歳 (範囲55-84歳) であり、女性が11例 (52%)、男性が10例 (48%) であった。組織型は腺癌が13例 (62%)、扁平上皮癌が6例 (29%)、その他が2例 (10%) であった。臨床病期はStage I が4例 (19%)、Stage II が10例 (48%)、Stage IIIA が7例 (33%) であり、喫煙歴 (現在喫煙または既喫煙) を有する患者は18例 (86%) であった。

優れた安全性と高い手術実施可能性: 術前nivolumab投与による治療関連有害事象 (any grade) は5/22例 (23%, 95% CI 7.8-45.4) に認められ、グレード3以上の重篤な有害事象はグレード3の肺炎を発症した1例 (4.5%) のみであった。この肺炎を発症した1例も、術前投与を1回で中断したものの、その後合併症なく予定通り手術が施行された。プロトコルで事前に定義された手術遅延基準 (手術遅延率25%以上) に抵触する症例は0例 (0%) であり、全例で予定通りの手術が実施可能であった。nivolumab第2回投与から手術施行までの中央値は18日 (range 11-29日) であった。適格患者21例中20例 (95%) において完全切除 (R0切除) が達成され、残る1例は術中に気管浸潤が判明したため完全切除不能であった。術後の合併症増加や手術自体の難易度上昇は観察されず、術前PD-1阻害薬投与の安全性が実証された。

主要病理学的奏効の高い達成率: 完全切除が施行された20例の病理学的評価において、MPR (残存生存腫瘍細胞10%以下) は9/20例 (45%, 95% CI 23-68) で達成された (Fig. 2A)。このうち3例 (15%) では一次腫瘍において残存腫瘍細胞が完全に消失するpCR (pathological complete response: 完全病理学的奏効) が確認された。ただし、pCRを達成した3例のうち1例 (Patient 1) は、一次腫瘍はpCRであったものの、切除された肺門リンパ節に微小な残存腫瘍が認められた。一次腫瘍における病理学的退縮率の中央値は-65% (range -100%から0%) であった。病理学的に奏効した腫瘍では、多数の浸潤リンパ球やマクロファージ、および線維化を伴う壊死組織が観察され、免疫介在性の抗腫瘍効果が示唆された。また、MPRはPD-L1発現陽性例だけでなく、PD-L1陰性例 (腫瘍細胞での発現0%) においても同様に観察され、PD-L1発現状況に依存しない奏効メカニズムの存在が示された (Fig. 2A)。

画像学的奏効と病理学的奏効の乖離: 術前に実施された胸部CTによる画像評価 (RECIST 1.1) では、評価可能であった21例のうち、部分奏効 (PR) は2例 (10%)、安定 (SD) は18例 (86%)、進行 (PD) は1例 (5%) であった。画像上の客観的奏効率 (ORR: objective response rate) は10%にとどまり、病理学的な奏効率 (MPR率 45%) との間に顕著な乖離が認められた (Fig. 1)。例えば、Patient 5においては、術前CT画像上で腫瘍径の増大が観察されたが、切除標本の病理組織学的評価では90%の腫瘍退縮 (MPR) が確認された。これは、治療による真の腫瘍増大ではなく、腫瘍組織内への大量の免疫細胞浸潤やそれに伴う炎症反応、浮腫を反映した「偽進行 (pseudoprogression)」に類似した現象と考えられ、術前免疫療法の効果判定において画像評価のみでは不十分であることが示された。

腫瘍遺伝子変異量 (TMB) と病理学的奏効の有意な相関: 治療前の生検組織を用いてWESを施行し、ゲノム解析が可能であった11例の解析において、TMBと術後病理学的奏効との間に極めて有意な相関が認められた (p=0.01)。MPRを達成した症例における体細胞遺伝子変異数の中央値は311変異 (mean ± SD: 311 ± 55) であったのに対し、MPR非達成例では74変異 (mean ± SD: 74 ± 60) であり、奏効群で有意に高い変異量が確認された (311 vs 74, p=0.01) (Fig. 3A)。また、遺伝子変異数と切除標本中の残存生存腫瘍細胞の割合との間には、強い負の相関が認められた (Spearman r=-0.75, p=0.008) (Fig. 3B)。予測された変異関連ネオアンチゲン量についても同様に病理学的奏効と相関しており、高TMB症例におけるネオアンチゲン提示がPD-1遮断による抗腫瘍免疫活性化の主要な駆動因子であることがゲノム解析から裏付けられた。

ネオアンチゲン特異的T細胞クローンの全身性拡大: TCRseq (T-cell receptor sequencing: T細胞受容体シーケンシング) を用いたT細胞受容体レパトア解析により、nivolumab投与後に腫瘍内と末梢血の双方で共有されるT細胞クローンの割合が、解析した9例中8例 (89%) で有意に増加していることが確認された。特に、一次腫瘍でpCRを達成したPatient 1の縦断的解析において、アルゴリズム予測された47種の候補ネオアンチゲンペプチドを用いた体外刺激試験を実施したところ、治療前の末梢血では検出されなかった、あるいは極めて低頻度であったMANA特異的T細胞クローンが、nivolumab投与開始後2から4週間以内に末梢血中で急速に増殖・拡大していることが同定された (Fig. 4)。これらのクローンは、切除された一次腫瘍組織だけでなく、腫瘍浸潤の有無にかかわらず切除されたリンパ節内にも高頻度で存在しており、術前PD-1遮断が局所のみならず全身性の抗腫瘍免疫記憶を強力に誘導していることが実証された。治療前の末梢血では19/47個のネオアンチゲンに対する特異的T細胞応答が検出されたが、術後44日時点では7個の既存応答が持続し、新規に7個の応答が出現していた。

良好な術後長期予後: 術後の中央値12ヶ月 (range 0.8-19.7ヶ月) の追跡調査において、完全切除を施行された20例のうち16例 (80%) が生存かつ無再発を維持していた。術後18ヶ月時点における無再発生存 (RFS) 率は73% (95% CI 53-100) であり、無再発生存期間の中央値は未到達であった。病理学的奏効を達成した9例では、追跡期間中に再発を認めた症例は1例のみであり、MPRが長期予後の強力な予測因子であることが示唆された。本試験における良好な長期予後は、術前免疫療法の臨床的有用性を強く支持するものであった。

病理学的下ステージング: 20例の完全切除症例のうち、8例 (40%) で術前臨床病期から病理学的病期への下ステージングが認められた。これは、nivolumab投与による腫瘍および所属リンパ節への奏効を反映しており、術前免疫療法が局所制御の改善に寄与することを示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来の術前化学療法が示してきた低い病理学的完全奏効 (pCR) 率 (約4%) や高いグレード3以上の毒性率 (60%以上) と異なり、術前nivolumab単剤療法がわずか2回の投与で45%という極めて高い主要病理学的奏効 (MPR) 率を達成し、かつグレード3以上の有害事象を4.5%に抑えた点で決定的に異なる。また、進行期NSCLCを対象とした多くの先行研究では、画像上の腫瘍縮小 (RECIST) が治療効果の主たる指標であったが、本試験では画像上の安定 (SD) や見かけ上の増大 (偽進行) を示した症例であっても、病理学的には著明な腫瘍退縮が誘導されていることを示し、画像評価と病理評価の乖離を浮き彫りにした。

新規性: 本研究は、切除可能な早期NSCLCに対する術前補助療法としてのPD-1阻害薬の安全性と有効性を、世界で初めて実証した先駆的な報告である。さらに、術前免疫療法の効果予測バイオマーカーとして、腫瘍遺伝子変異量 (TMB) が病理学的奏効の深さと有意に相関する (p=0.01) ことを本研究で初めて明らかにした。これは、進行期NSCLCにおけるTMBの予測能を示した既報 Rizvi et al. Science 2015 の知見を早期肺癌の術前療法へと拡張したものである。また、術前PD-1遮断が、腫瘍内のみならず末梢血中において変異関連ネオアンチゲン (MANA) 特異的なT細胞クローンの急速な全身性拡大を誘導することを新規に同定し、術前免疫療法が全身の微小転移を標的とする強力な全身性抗腫瘍免疫を惹起するという免疫学的メカニズムを視覚化した。PD-L1発現に依存しない奏効メカニズムの存在も新知見であり、これは Le et al. NEnglJMed 2015 が報告したミスマッチ修復欠損腫瘍での知見と類似している。

臨床応用: 本研究の知見は、早期NSCLCの治療開発における臨床応用に直結する極めて重要な臨床的意義を持つ。術前免疫療法が手術の遅延を招くことなく安全に施行可能であり、かつ高率にMPRを誘導できるという事実は、従来の「手術先行」の治療パラダイムを「術前免疫療法+手術」へとシフトさせる契機となった。特に、本試験の成功は、その後の相3試験であるCheckMate 816試験の設計に直接的な影響を与え、術前nivolumab+化学療法併用療法が化学療法単独と比較して無イベント生存期間 (EFS: event-free survival) を有意に改善し、pCR率を24%に向上させるという画期的な成果をもたらし、標準治療としての臨床応用を確立する道を開いた。本知見により、切除可能なStage II-IIIA NSCLCの治療戦略が大きく変わり、術前免疫療法が新たな標準治療オプションとして位置付けられることになった。

残された課題: 一方で、本試験にはいくつかの残された課題および limitation が存在する。第一に、登録症例数が21例と極めて少数であり、単群のパイロット試験であるため、得られた病理学的奏効率や生存データの一般化には慎重を要する。第二に、術後の中央値12ヶ月という追跡期間は、術前免疫療法が長期的な全生存期間 (OS) や無再発生存期間 (RFS) の延長に寄与するかを結論付けるには不十分である。第三に、TMBは有望なバイオマーカーであるが、日常の臨床現場で迅速かつ簡便に測定するための検査体制の確立や、PD-L1発現との最適な組み合わせアルゴリズムの構築が今後の検討課題である。さらに、術前免疫療法の最適な投与回数や、術後の補助療法の必要性についても、今後の研究による検証が必要である。本研究では、Stage I 症例が4例 (19%) と少なく、より早期の患者群での有効性・安全性の検証も課題として残されている。

方法

本試験は、米国Johns Hopkins University (JHU) およびMemorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) の2施設で実施された単群パイロット試験である (臨床試験登録番号: NCT02259621)。対象は、18歳以上で、術前に切除可能と判断された未治療のStage I、II、またはIIIAのNSCLC患者であり、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) が0または1、かつ十分な臓器機能および肺機能を有する症例とした。免疫不全、進行中の全身性免疫抑制療法、活動性の自己免疫疾患または感染症、臨床的に有意な併存がんを有する患者は除外された。

治療プロトコルとして、nivolumab (3 mg/kg) を2週間間隔で計2回、静脈内投与した。初回投与から約4週間後に手術を行う計画とした。主要エンドポイントは安全性および実施可能性に設定された。実施可能性は、予定された手術の遅延が37日以内 (予定手術日より30日以内の遅延、およびスケジューリングのための7日間の猶予) であることと prospectively に定義された。安全性評価は、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.0 に基づいて有害事象を継続的にモニタリングした。初期の6例の安全性走行段階では、最後のnivolumab投与後90日間 (または手術後30日) のグレード3以上の周術期有害事象を追跡した。

副次および探索的エンドポイントとして、画像学的奏効および病理学的奏効を評価した。画像学的評価は、術前7日以内に胸部CTを再検し、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づくRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1 を用いて判定した。病理学的評価では、切除標本における残存生存腫瘍細胞 (viable tumor cells) の割合を算出し、残存腫瘍細胞が10%以下の場合をMPR (major pathological response: 主要病理学的奏効) と定義した。

さらに、治療前の生検組織およびマッチさせた正常組織を用いてWES (whole-exome sequencing: 全外顕現ゲノムシーケンス) を実施し、体細胞遺伝子変異およびTMBを同定した。また、MHC (major histocompatibility complex: 主要組織適合遺伝子複合体) クラスIハプロタイプ情報と組み合わせて、ネオアンチゲン予測プラットフォームにより変異関連ネオアンチゲンを予測した。TCRseq (T-cell receptor sequencing: T細胞受容体シーケンシング) を行い、腫瘍内および末梢血におけるT細胞クローンの動態を解析した。統計解析には、Kaplan-Meier法を用いてRFS (recurrence-free survival: 無再発生存期間) を算出し、TMBと病理学的奏効の相関にはexact Wilcoxon検定を用いた。