- 著者: Wakelee HA, Lee JW, Hanna NH, Traynor AM, Carbone DP, Schiller JH
- Corresponding author: Heather A. Wakelee, MD (Division of Oncology, Stanford University, Stanford, CA, USA)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2012
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase II randomized discontinuation trial)
- PMID: 22982658
背景
NSCLC (非小細胞肺がん) は米国における癌死亡率が最も高い悪性腫瘍であり、2次・3次治療以降の有効な治療選択肢が手薄な状況にあった。erlotinibが既治療NSCLCにおいてプラセボを上回る生存延長を示したものの (Shepherd et al. NEnglJMed 2005)、奏効率は低く腫瘍縮小よりも疾患安定 (SD; stable disease) が主な臨床的恩恵であった。また、bevacizumabによるVEGFR (vascular endothelial growth factor receptor) 阻害がNSCLCの生存を改善したことが示され (Sandler et al. NEnglJMed 2006)、血管新生経路を標的とする治療戦略がNSCLCで有効であるとの仮説が強化されていた。ソラフェニブ [化合物コード BAY (Bayer compound) 43-9006] はRaf-1 (rapidly accelerated fibrosarcoma kinase-1)・B-Raf (v-raf murine sarcoma viral oncogene homolog B)・VEGFR-1/2/3・PDGFR-β (platelet-derived growth factor receptor beta)・KIT・Flt-3 (FMS-like tyrosine kinase 3)・RETなど多数のキナーゼを同時に阻害するマルチキナーゼ阻害薬であり、RCC (renal cell carcinoma、腎細胞癌) および肝細胞癌では単剤活性が確立されていた。NSCLCでは特にadenocarcinomaにKRAS変異が高頻度で認められ、Raf/MEK/ERK経路の活性化が腫瘍増殖に寄与していることが示唆されており (Riely 2008, Adjei 2001)、ソラフェニブによるRaf阻害と抗血管新生の二重効果が期待された。しかし、NSCLCにおけるソラフェニブ単剤の有効性を無作為化比較試験で正式に評価したデータは存在せず、gap in knowledgeとして残されていた。また、奏効率が低く主な効果がSDとして現れる分子標的薬を評価するうえで、進行の速い患者を除外したうえで富化集団のみを無作為化する「RD (randomized discontinuation、無作為化中止)」デザインが腎細胞癌での試験で確立されており (Ratain 2006)、本試験においてもその手法を用いることで有効性シグナルの検出感度を高めることが企図された。
目的
2次以上の前化学療法歴を有する進行NSCLC患者に対するソラフェニブ単剤 (400mg 1日2回) の有効性を、無作為化中止試験デザインにより評価すること。具体的には、2ヶ月間のオープンラベルrun-in後にSDを達成した患者を無作為化し、ソラフェニブ継続とプラセボとで2ヶ月後のDCR (disease control rate、疾患制御率) を比較することを主目的とした (ECOG E2501)。
結果
Step 1 run-in の患者背景と治療経過: 2004年5月から2007年5月の間に342例が登録・開始され、うち299例が適格・治療開始例として解析に用いられた (Table 1)。患者背景:年齢中央値64歳 (範囲33-86歳)、男性56.4%・女性43.6%、ECOG PS 0が34.1%・PS 1が65.9%。組織型はadenocarcinoma 46.2%・扁平上皮癌15.4%・NSCLC NOS (not otherwise specified) 25.4%・大細胞癌4.3%・bronchioloalveolar carcinoma 3.3%・mixed 3.0%。前化学療法レジメン数は2レジメン57.9%・3レジメン24.1%・≥4レジメン18.1%。前EGFR-TKI使用歴は45.5%に認められた。Step 1では299例中89例 (30%) が2サイクルのrun-inを完了。116例 (39%) は疾患進行で、51例 (17%) は毒性で離脱した。解析時点で1例が51サイクル継続中であった。
Step 1 の有効性:奏効率と疾患制御: Step 1 (n=299) の全体ORR (objective response rate) は3% (90% CI 1.6-5.2%)、PRが9例であった。SDは117例 (39%) に認められた。奏効した9例は全て非扁平上皮組織型であり、扁平上皮と非扁平上皮組織型間で安定率・進行率に有意差は認められなかった。Step 1全体のPFS中央値は2.3ヶ月、OS中央値は7.3ヶ月であり、解析時点で6例が生存していた。
Step 2 の主要エンドポイント (2ヶ月後DCR): Step 1でSDを達成した107例が無作為化対象となり、81例が適格・治療開始例として解析された (sorafenib群n=50、placebo群n=31)。なお、Step 2の実施中にV1/V2ファイルの混同による調剤エラーが発生し、55例への割付投与が乱れたが、2ヶ月分の薬剤が一括配送されていたため主要エンドポイント (2ヶ月後DCR) への影響はなかった (Figure 2)。実際に受け取った治療薬に基づく解析において、無作為化後2ヶ月時点のDCRはsorafenib群27/50例 (54%、90% CI 41.5-66.2%) vs placebo群7/31例 (23%、90% CI 11.1-38.3%) であり、p=0.005と主要エンドポイントを達成した。Step 2でのPRはsorafenib群に1例、placebo群に1例の計2例に認められた。
Step 2 のPFSおよびOS: PFS中央値はsorafenib群3.3ヶ月 vs placebo群2.0ヶ月 (HR=0.51、95% CI 0.30-0.87)、層別log-rank p=0.014と統計的に有意な改善を示した (Figure 3)。OS中央値はsorafenib群13.7ヶ月 vs placebo群9.0ヶ月 (HR=0.67、95% CI 0.40-1.11)、p=0.117であり、OS改善の傾向は観察されたが統計的有意差には至らなかった (Figure 4)。プラセボ群からソラフェニブへのクロスオーバーを実施したStep 3 (n=28適格治療例) がOS差を希釈した可能性がある。Step 2での有効性パラメータ (2ヶ月後DCR・PFS・OS) はいずれも、前EGFR-TKIまたは前bevacizumab使用歴の有無による有意差を認めなかった。ただし前bevacizumab使用例はsorafenib群n=7・placebo群n=3と極めて少なく、探索的解釈にとどまる。
毒性プロファイルと治療関連死: Step 1 (n=333、不適格例を含む全治療例) での治療関連grade 1/2毒性として、疲労感43%・食欲不振/体重減少33%・皮疹/落屑32%・下痢25%・ヘモグロビン低下29%・悪心/嘔吐22%・粘膜炎16%・HFSR (hand-foot skin reaction、手足皮膚反応) 11%などが認められた (Table 2)。Grade 3毒性は34%、grade 4毒性は4%で発現。最頻のgrade 3毒性は疲労感10%・手足皮膚反応10%・皮疹/落屑6%であり、最頻のgrade 4毒性は血栓症/塞栓症2%であった。重篤な安全性の問題として、Step 1での治療関連死が8例に認められた——肺臓炎2例、気管支肺出血2例、発熱性好中球減少症・肺炎・腎不全・血栓症各1例。Step 2ではsorafenib群のgrade 3毒性がplacebo群の約2倍であり (少数例ゆえ統計検定未実施)、grade 4毒性はsorafenib群1例 (ヘモグロビン低下) とplacebo外れ群1例 (CNS虚血) に認められた。Step 3 (n=35) ではgrade 3毒性が14例 (40%) に発現したが、grade 4毒性は認められなかった。治療関連死はStep 3で1例 (肺出血) があった。組織型 (扁平上皮 vs 非扁平上皮) 間での毒性に有意差は認められなかった。
考察/結論
本試験ECOG E2501は、無作為化中止デザインによりソラフェニブ単剤のNSCLCに対する活性を探索した試験として主要エンドポイントを達成した。2次無作為化後の2ヶ月DCRはsorafenib群54% vs placebo群23% (p=0.005)、PFSもHR=0.51 (p=0.014) と統計的有意な改善を示し、ソラフェニブが腫瘍増殖を一定期間制御する能力を持つことを初めて無作為化比較によって実証した点は本研究の新規な知見である。これまでの研究では、非無作為化の単群試験においてソラフェニブ単剤のORR 8%・OS 11.6ヶ月 (Kelly 2011) や、SD率59%・奏効なし・PFS中央値2.7ヶ月 (Blumenschein 2009) といった結果が報告されていたが、プラセボ対照での比較は実施されておらず、SD維持効果がソラフェニブ固有の活性によるものか疾患の自然経過によるものかは不明確であった。本試験はRD法により急速進行例を除外したうえで比較を行い、SOBRが薬剤固有の効果であることを明確に示した点で、既報と異なる価値を有する。
一方、OS改善は中央値の差 (13.7 vs 9.0ヶ月) が認められたものの統計的有意差に至らなかった (HR=0.67, p=0.117)。複数の要因がこの結果に影響したと考えられる。第一に、Step 2の少ない症例数 (sorafenib群n=50、placebo群n=31) による検出力不足。第二に、プラセボ群から28例がStep 3でソラフェニブにクロスオーバーしたことによるOS差の希釈。第三に、既治療患者における後続治療の影響。調剤エラーについては、8週間分の一括配送によって主要エンドポイントへの影響は最小化されたものの、試験運営上の問題として重要な limitation である。
臨床的意義の観点では、本試験の結果はソラフェニブが heavily pretreated (高度前治療歴) NSCLC患者の一部において疾患安定化をもたらすことを示し、大規模無作為化試験による更なる検証の根拠となった。実際、試験完了後にソラフェニブ単剤 vs プラセボの大規模Phase III試験 (NCT00863746) が計画・実施された。しかし、ソラフェニブを化学療法と組み合わせた複数の同時代試験——carboplatin/paclitaxelとの第III相試験 (Scagliotti et al. JClinOncol 2010) やcisplatin/gemcitabineとの第III相NEXUS試験——はいずれもOS改善を示せず、特に扁平上皮癌での毒性増大が問題となった。これはソラフェニブを化学療法と組み合わせることの難しさを示しており、本試験の単剤活性とは対照的な結果である。
残された課題として、まずKRAS変異などの分子プロファイルに基づく患者選択の問題がある。本試験ではKRAS変異検査を行わなかったが、ソラフェニブはKRAS変異NSCLC患者に活性を示すという報告 (Smit 2010) もあり、バイオマーカー選択による富化戦略が試みられるべきであった。次に、RD法の選択バイアスの問題がある——Step 2に進んだのはStep 1でSDを達成した患者のみであり、この選択が全体のOS解釈を複雑にしている。今後の検討として、EGFR/ALK等のドライバー変異陰性かつKRAS変異陽性NSCLCにおけるsorafenib単剤またはERK/MEK阻害薬との組み合わせの探索、また抗VEGFR治療の至適適応集団の同定が課題として挙げられる。本試験が示した無作為化中止デザインの有用性と限界は、将来の分子標的薬評価試験の設計に重要な示唆を与えるものである。
方法
ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) 主導の二重盲検無作為化中止Phase II試験 (E2501)。登録期間は2004年5月から2007年5月。対象:進行NSCLC・前化学療法≥2レジメン (EGFR-TKI [tyrosine kinase inhibitor] は化学療法としてカウントしない)・ECOG PS 0-1・年齢≥18歳・主要臓器機能正常 (好中球数>1500/mm3、血小板数>100,000/mm3、ビリルビン<1.5×正常上限、AST/ALT<3×正常上限、クレアチニン<1.5×正常上限)。治療中枢神経系転移は治療後安定例のみ適格。試験は3ステップ構成:Step 1 (オープンラベル run-in) では全例にソラフェニブ400mg 1日2回を連日経口投与し、28日1サイクルとして2サイクル (約2ヶ月) 投与。CR/PR例は引き続きソラフェニブを継続、PD例または毒性例は試験離脱、SD例のみStep 2へ進む。Step 2 (二重盲検無作為化) ではSD例をソラフェニブ継続またはプラセボに1:1で無作為化 (層別因子:前化学療法数「2」対「>2」、前EGFR-TKI使用の有無)。PD時には盲検解除後にStep 3としてプラセボからソラフェニブへのクロスオーバーを許容した。主要エンドポイントはStep 2無作為化後2ヶ月時点のDCR (CR+PR+SD率)。副次エンドポイントはPFS (progression-free survival)、OS (overall survival)、奏効率。腫瘍評価はRECIST 1.0 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) に基づき2ヶ月ごとに実施。統計:主要エンドポイントは片側Fisher検定 (α=0.05)、ORRおよびDCRは正確二項90% CIで算出。PFSおよびOSはKaplan-Meier法で推定し、層別log-rank検定で群間比較、ハザード比 (HR; hazard ratio) は層別Cox比例ハザードモデルで算出。Wilcoxon rank-sum検定で年齢差を評価。計画サンプルサイズ:各群49例を無作為化 (総計98例)、プラセボSDR 25%・ソラフェニブSDR 56%を仮定した片側α=0.05でpower 91%。毒性評価はNCI CTCAE version 3.0に準拠。統計解析はSAS 9.2を使用。