- 著者: Carlo Genova, Fred R. Hirsch, Marileila Varella-Garcia, Erika Rijavec, Federica Biello, Maria Giovanna Dal Bello, Giulia Barletta, Anna Truini, Giulio Rossi, Marco Tagliamento, Simona Coco, Angela Alama, Francesco Boccardo, Francesco Grossi
- Corresponding author: Fred R. Hirsch (University of Colorado, Aurora, CO)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29158193
背景
扁平上皮非小細胞肺がん (squamous NSCLC) は、非扁平上皮NSCLCと比較して分子標的治療の選択肢が限定的であり、長らく白金併用化学療法のみが標準治療として位置付けられてきた。近年、上皮成長因子受容体 (EGFR) を標的とする治療薬の開発が進められているが、扁平上皮NSCLCにおけるEGFRの役割と治療効果予測バイオマーカーの特定は未解明な点が多かった。
Necitumumabは、完全ヒト型抗EGFR IgG1モノクローナル抗体であり、第III相SQUIRE試験において、化学療法未治療の進行扁平上皮NSCLC患者に対し、gemcitabine+cisplatin (GC) 療法にnecitumumabを追加することで、全生存期間 (OS) を有意に延長することが示された (ハザード比 [HR] 0.84, 95% CI 0.74-0.96, p=0.01) Thatcher et al. LancetOncol 2015。この結果に基づき、necitumumabはFDAの承認を得た。しかし、全体としての効果は中等度であり (OS中央値11.5ヶ月 vs 9.9ヶ月)、治療の恩恵を最も享受する患者サブグループを特定するための予測バイオマーカーが強く求められていた。
EGFRタンパク発現 (免疫組織化学 [IHC] H-score) は、SQUIRE試験の事後解析で検討されたが、その予測力は限定的であった Paz-Ares et al. AnnOncol 2016。具体的には、高H-score群 (H-score ≥ 200) でOSの数値的な改善傾向 (HR 0.75, 95% CI 0.60-0.94) が見られたものの、低H-score群との間で統計学的な交互作用は認められなかった (交互作用p=0.235)。また、EGFRタンパク質が検出されない患者群 (全ITT集団の5%) では、necitumumabの追加によるベネフィットは認められない可能性が示唆された。
一方、EGFR遺伝子コピー数 (GCN) を蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) で評価する手法は、他の抗EGFR抗体治療 (例: cetuximab) において、その治療効果の予測マーカーとして検討されてきた経緯がある。例えば、SWOG S0342試験では、cetuximabと化学療法を受けた進行NSCLC患者において、EGFR GCNが増加しているFISH陽性患者群で、疾患制御率 (81% vs 55%, p=0.02)、無増悪生存期間 (PFS) (6ヶ月 vs 3ヶ月, p=0.008)、OS (15ヶ月 vs 7ヶ月, p=0.04) の有意な改善が報告されている (Hirsch et al. 2008)。また、SWOG 0819試験の扁平上皮NSCLCサブグループ解析では、FISH陽性患者においてcetuximabの追加によりOSが有意に改善した (11.8ヶ月 vs 6.4ヶ月, HR 0.56, p=0.01) (Hirsch et al. 2016)。これらの先行研究は、EGFR FISHが抗EGFR抗体治療の予測バイオマーカーとして機能する可能性を示唆している。
SQUIRE試験の探索的post-hoc解析においても、EGFR FISH陽性患者群でnecitumumabの治療効果に有利な傾向が示唆されたが、統計学的な有意差は認められなかった。この初期解析では、FISH陽性/陰性の二値分類のみが用いられ、high polysomyとgene amplificationといったより詳細なFISH分類の予測的役割については未開拓であった。これらの背景から、扁平上皮NSCLCにおけるnecitumumabの治療効果を予測する、より精緻なバイオマーカーの特定が不足しており、特にEGFR FISHの詳細な分類がその役割を果たす可能性が考えられた。
目的
本研究の目的は、第III相SQUIRE試験の組織検体を用いて、EGFR遺伝子コピー数 (GCN) を蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) により詳細に評価し、特にhigh polysomyおよびgene amplificationといったFISHのより詳細な分類が、necitumumabの治療効果を予測するバイオマーカーとなり得るかを検証することである。具体的には、FISH陽性患者群をhigh polysomy群とgene amplification群に細分化し、それぞれのサブグループにおけるnecitumumab追加による無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の改善効果を評価することを目的とした。これにより、necitumumabの恩恵を最大化できる患者集団を特定するための仮説を生成し、将来の前向き検証試験の基礎データとすることを目指す。
結果
FISH解析対象集団の特性: SQUIRE試験に登録された患者1093例のうち、557例 (ITT集団の51%) の組織検体がFISH解析に適しており、有効な結果が得られた。FISH解析対象集団 (n=557) におけるnecitumumab追加群 (Arm A, n=282) とGC単独群 (Arm B, n=275) のOS中央値はそれぞれ11.73ヶ月 vs 9.99ヶ月 (HR 0.892, p=0.2309) であり、PFS中央値は5.75ヶ月 vs 5.49ヶ月 (HR 0.901, p=0.2768) であった。これらの結果は、SQUIRE試験のITT集団全体で観察された効果 (OS中央値11.5ヶ月 vs 9.9ヶ月, HR 0.850, 95% CI 0.744-0.972, p=0.0176; PFS中央値5.68ヶ月 vs 5.45ヶ月, HR 0.852, 95% CI 0.745-0.976, p=0.0196) と数値的に類似していたが、FISH解析集団では統計的有意差には達しなかった。これは、ITT集団と比較してサンプルサイズが小さいことに起因する可能性がある (Table 2)。
EGFR FISH分類の内訳: FISH解析対象集団557例中、EGFR FISH陽性 (high polysomyまたはgene amplification) は208例 (37.3%) であった。このうち、high polysomy (Coloradoスコア5) は167例 (30.0%)、gene amplification (Coloradoスコア6) は41例 (7.4%) であった。FISH陰性 (disomy, low trisomy, high trisomy, low polysomy) は349例 (62.7%) であった (Table 1)。
EGFR FISH陽性集団における治療効果: EGFR FISH陽性集団 (n=208) において、necitumumab追加群 (Arm A) はGC単独群 (Arm B) と比較して、OS中央値12.6ヶ月 vs 9.2ヶ月 (HR 0.70, 95% CI 0.52-0.96, p=0.025) と、全体集団よりも明確な生存改善を示した。PFS中央値は6.08ヶ月 vs 5.13ヶ月 (HR 0.71, 95% CI 0.53-0.95, p=0.022) と有意な延長が認められた。この結果は、FISH陽性患者がnecitumumabの恩恵をより大きく受ける可能性を示唆する。
High polysomy群における治療効果: high polysomy単独群 (Coloradoスコア5, n=167) では、necitumumab追加群 (Arm A, n=89) とGC単独群 (Arm B, n=78) の間で、PFS中央値が6.08ヶ月 vs 5.13ヶ月 (HR 0.70, 95% CI 0.50-0.99, p=0.044) と統計学的に有意な延長が認められた (Figure 2A)。しかし、OS中央値は12.58ヶ月 vs 9.53ヶ月 (HR 0.77, 95% CI 0.55-1.08, p=0.133) であり、統計学的有意差には達しなかった (Figure 1A)。
Gene amplification群における顕著な治療効果: gene amplification群 (Coloradoスコア6, n=41) は、necitumumab追加によるOS改善が最も顕著であった。necitumumab追加群 (Arm A, n=22) のOS中央値は14.78ヶ月であったのに対し、GC単独群 (Arm B, n=19) では7.62ヶ月であり、HR 0.45 (95% CI 0.21-0.93, p=0.033) と約2倍の生存延長が認められた (Figure 1B)。この群ではPFS中央値も7.36ヶ月 vs 5.55ヶ月 (HR 0.69, 95% CI 0.33-1.45, p=0.334) と改善傾向を示したが、統計学的有意差には至らなかった (Figure 2B)。
EGFR/CEP7比に基づく解析: EGFR/CEP7比が2以上である患者群 (n=34) では、necitumumab追加群のOS中央値は12.1ヶ月、GC単独群は7.6ヶ月であり、HR 0.63 (95% CI 0.29-1.37, p=0.245) であった。PFS中央値は7.4ヶ月 vs 5.6ヶ月 (HR 0.80, 95% CI 0.36-1.78, p=0.581) であった (Table 3)。このサブグループはサンプルサイズが小さいため、統計的有意差は認められなかったが、OSにおいてnecitumumabの有利な傾向が示唆された。
FISH陰性集団における治療効果: FISH陰性集団 (n=349) では、necitumumab追加群 (Arm A) のOS中央値は11.3ヶ月、GC単独群 (Arm B) は10.7ヶ月であり、HR 0.91 (95% CI 0.72-1.15, p=0.428) と治療効果は小さかった。この結果は、necitumumabの恩恵が主にFISH陽性、特にgene amplification群に集中することを示唆する。
交互作用検定: 治療とFISH状態の交互作用p値は、high polysomy群のOSでp=0.189、PFSでp=0.980、gene amplification群のOSでp=0.189、PFSでp=0.980であった (Table 4)。これらの交互作用p値は統計学的有意水準には達しなかったが、バイオマーカー仮説を支持する方向性を示した。これは、サブグループのサンプルサイズが限定的であったことに起因する可能性が考えられる。
考察/結論
本研究は、第III相SQUIRE試験のpost-hoc解析として、EGFR FISH陽性、特にgene amplificationが扁平上皮NSCLCにおけるnecitumumab治療効果の予測バイオマーカー候補となり得ることを示した点で臨床的意義が大きい。全体集団におけるnecitumumabのOS延長効果 (HR 0.84) は中等度であったが、gene amplification群ではHR 0.45 (95% CI 0.21-0.93, p=0.033) と大幅な生存改善が認められた。この結果は、EGFR FISHによる患者選択を行うことで、necitumumabがより臨床的に意義深い治療となる可能性を強く示唆する。
先行研究との違い: これまでのSQUIRE試験の解析では、EGFR IHC発現やFISH陽性/陰性の二値分類では、necitumumabの予測バイオマーカーとしての明確な役割は確立されていなかった Paz-Ares et al. AnnOncol 2016。本研究は、EGFR FISHのより詳細な分類 (high polysomyとgene amplification) に着目し、特にgene amplificationがnecitumumabの治療効果と強く相関することを示した点で、これまでの報告と異なる新たな知見を提供する。
新規性: 本研究で初めて、扁平上皮NSCLCにおけるnecitumumabの治療効果予測において、EGFR FISHによるgene amplificationが極めて強力なバイオマーカーとなり得ることを示した。特に、gene amplification群でOSが約2倍に延長されたという結果は、これまでの抗EGFR抗体治療のバイオマーカー探索において報告されていない新規性を持つ。この知見は、抗EGFR抗体治療の個別化医療を推進する上で重要な一歩となる。
臨床応用: 本知見は、扁平上皮NSCLC患者に対するnecitumumabの臨床応用において、EGFR FISH検査を治療選択のスクリーニングツールとして導入する可能性を示唆する。特にgene amplificationを有する患者は、necitumumabの追加によって大きな生存利益を得られる可能性があり、臨床現場での治療戦略に影響を与える可能性がある。しかし、本解析はpost-hocであるため、直ちに臨床ガイドラインを変更するものではなく、前向き検証試験による確認が不可欠である。
残された課題: 本研究にはいくつかの残された課題とlimitationがある。第一に、本研究はpost-hoc解析であり、仮説生成段階の結果であるため、前向き検証試験による確認が必要である。第二に、gene amplification群のサンプルサイズはn=41と小規模であり、95% CIが比較的広いことから、結果のロバスト性には限界がある。第三に、免疫チェックポイント阻害薬が扁平上皮NSCLCの第一選択治療として確立された現時点 (2018年以降) で、necitumumabの臨床的位置付けが変容している。今後の研究では、化学免疫療法時代におけるFISH陽性サブグループへのnecitumumab併用の意義を再検討する前向き試験の計画が望まれる。第四に、FISH検査の標準化と普及、およびその結果解釈の均一性も課題として挙げられる。最後に、high polysomy群ではPFSの有意な改善が見られたものの、OSの有意な改善には至らなかった点も、今後の詳細な検討が必要な課題である。
方法
本研究は、第III相SQUIRE試験 (ClinicalTrials.gov識別子 NCT00981058) のpost-hoc解析として実施された。SQUIRE試験は、進行扁平上皮NSCLC患者を対象に、gemcitabine+cisplatin (GC) 療法にnecitumumabを追加する群 (Arm A) とGC単独群 (Arm B) を比較するオープンラベル、無作為化、対照試験であった。
検体収集とFISH解析: SQUIRE試験に登録された患者のうち、FISH解析に適した組織検体が入手可能であった557例 (ITT集団の51%) を解析対象とした。これらの検体は、10%中性緩衝ホルマリンで6〜48時間固定され、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) ブロックとして保存されていた。腫瘍の存在が確認された後、3〜5 µm厚の組織切片が陽性荷電スライドにマウントされた。EGFR遺伝子コピー数評価のためのデュアルターゲットFISHアッセイは、既報の方法 (Varella-Garcia et al. 2006) に従って、中央検査室 (University of Colorado) で実施された。
FISH評価基準: 各検体の品質評価とアッセイの読み取りは、訓練された担当者によって行われた。腫瘍を代表する5つの領域が選択され、それぞれ平均10個の評価可能な核 (合計50個) が含まれるようにした。選択された核におけるEGFRおよび染色体7セントロメア (CEP7) シグナルの数が、公開されたガイドライン (Varella-Garcia et al. 2009) に従ってカウントされた。二重および三重のスポットで物理的に連結しているものは単一シグナルとしてカウントされ、クラスター内のシグナルは最大15個までカウントされた (15個を超える場合は16と報告された)。
EGFR FISHアッセイは、以下のいずれかの基準を満たす場合に「陽性」と報告された:
- スコアされた腫瘍細胞の40%以上が4個以上のEGFRシグナルを示す場合 (high polysomy)。
- 遺伝子増幅の存在。遺伝子増幅は以下のいずれかとして定義された: a. EGFR/CEP7比が全てのスコアされた核で2以上であり、かつ細胞あたりの平均CEP7シグナルが2コピー以上である場合。 b. 腫瘍細胞の10%以上で遺伝子クラスター (4個以上のスポット) が存在する。 c. 腫瘍細胞の10%以上で15個以上のEGFRシグナルが存在する。 上記以外の全てのシナリオでは、EGFR FISHアッセイの結果は「陰性」と見なされた。 Coloradoスコアリング基準 (Varella-Garcia et al. 2009) に基づき、以下の6つのカテゴリーが特定された: disomy (スコア1)、low trisomy (スコア2)、high trisomy (スコア3)、low polysomy (スコア4)、high polysomy (スコア5)、およびgene amplification (スコア6)。high polysomyとgene amplificationの両方の基準を満たす検体は、スコア6 (gene amplification) に分類された。
評価項目と統計解析: FISH解析結果と、患者の年齢、性別、喫煙歴、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) パフォーマンスステータス、民族性、および有効性アウトカム (PFSおよびOS) などの臨床データを比較し、相関関係を評価した。本研究では、FISH陽性集団内のhigh polysomy患者とgene amplification患者の比較、およびその他の詳細なFISHパラメーターに基づくサブグループ間の比較も行った。
統計解析には、ベースラインの人口統計学的および疾患特性の要約、PFSおよびOSの分位数表示、および時間-イベントエンドポイント (PFSまたはOS) のためのCox比例ハザードモデルが用いられた。治療、EGFR FISH分類、およびそれらの交互作用の関数として有効性エンドポイントをモデル化する交互作用モデルが使用された。Cox回帰モデルからハザード比 (HR) 推定値、95%信頼区間 (CI)、およびログランクp値が算出された。本研究は探索的post-hoc解析であり、比較的小規模なサンプルサイズであったため、全ての解析において多重比較調整なしの非層別化モデルのみが考慮された。