• 著者: Paz-Ares L, Socinski MA, Shahidi J, Hozak RR, Soldatenkova V, Kurek R, Varella-Garcia M, Thatcher N, Hirsch FR
  • Corresponding author: Paz-Ares L (lpazaresr@seom.org)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27207107

背景

進行扁平上皮NSCLCは腺癌とは異なり、EGFR変異やALK転座の頻度が低く、ペメトレキセドやベバシズマブも適応外であるため、長年にわたりプラチナ系化学療法が一次治療の標準として確立していた。EGFRは扁平上皮NSCLCにおいて多くの腫瘍標本で高頻度に蛋白発現が検出される受容体チロシンキナーゼであり、腫瘍増殖・浸潤・血管新生・アポトーシス抑制に関与することが知られている (Mendelsohn 2002; Baselga 2002; Salomon et al. 1995)。ネシツムマブは、EGFRへの高い親和性と特異性を持つ第2世代の完全ヒト化 IgG1 EGFR モノクローナル抗体であり、EGFRのリガンド競合阻害および抗体依存性細胞傷害 (ADCC) 活性を発揮する。SQUIRE試験 (Thatcher et al. LancetOncol 2015) (ランダム化比較第III相) では、ステージIV扁平上皮NSCLCの一次治療としてネシツムマブ+ゲムシタビン/シスプラチンがゲムシタビン/シスプラチン単独と比較してOSを有意に延長することが示され (HR 0.84; p=0.01)、米国FDAおよび欧州EMAでの承認につながった。欧州承認にはEGFR発現陽性が条件として付されており、EGFR蛋白発現状態と治療効果・安全性の相関を体系的に評価することが臨床的に重要な課題として残されている。特に、EGFR発現の有無がネシツムマブの有効性予測因子となりうるかについては、SQUIRE試験のITT集団における結果がEGFR発現陽性患者に限定されるのか、あるいはEGFR非発現患者にも及ぶのかが未解明であった。この点において、EGFR発現の有無によるネシツムマブの有効性予測に関する知識が不足していた。

目的

SQUIRE試験において、免疫組織化学 (IHC) で評価したEGFR蛋白発現の有無別 (EGFR>0 vs EGFR=0) にネシツムマブ追加のOS・PFS・安全性アウトカムを解析し、EGFR発現状態がネシツムマブの有効性予測因子となりうるかを検討すること。

結果

EGFR発現陽性 (EGFR>0) サブ集団でのOS有意延長—ITT集団の結果を再現・補強: SQUIRE試験にはn=1093例が登録された。そのうちIHC評価可能なn=982例 (ITT集団の90%) のうちn=935例 (95%) がEGFR>0であり、両治療群でベースライン特性は均衡していた (中央年齢62歳、男性82〜85%、喫煙者91〜92%、ECOG PS 0–1が90〜92%、欧州/北米/オーストラリア 86〜87%) (Table 1)。ネシツムマブ維持単独を受けた患者は実験群のEGFR>0集団 (n=456) のうちn=242例 (52%) であった。EGFR>0サブ集団 (ネシツムマブ+GC群 n=462 vs GC単独群 n=473) において、ネシツムマブ追加によりOSが有意に延長された (層別HR 0.79; 95% CI 0.69–0.92; p=0.002)。中央OS はネシツムマブ+GC群 11.7か月 (95% CI 10.7–12.9) vs GC単独群 10.0か月 (95% CI 8.9–11.4) であり、Kaplan-Meier曲線では早期からネシツムマブ+GC群が優位な分離を示した (Figure 1A)。PFSもネシツムマブ追加で有意に延長された (層別HR 0.84; 95% CI 0.72–0.97; p=0.018) (Figure 1B)。TtTFも有意な延長を示した (p=0.006)。ORRはネシツムマブ+GC群で数値的に高い傾向にあったが統計的有意差は示さなかった。EGFR>0サブ集団でのサブグループ解析 (年齢・性別・喫煙歴・民族・PS・転移臓器数を含む) では、ECOG PS 2サブグループ (OS HR 0.74、PFS HR 0.84) を含むほぼ全ての部分集団でネシツムマブによるOS・PFS改善が一致して確認された (Figure 2)。後試験docetaxel投与で感度解析を行ってもOS結果は変わらなかった (両群でのdocetaxel使用率はネシツムマブ+GC群 32%・GC単独群 24% であったが、docetaxel開始時点センサリングでの感度解析でOSベネフィットは維持された)。

EGFR非発現 (EGFR=0) サブ集団での無効—ただし解釈には慎重さが必要: EGFR=0はn=47例 (982例中5%) のみであった。EGFR=0サブ集団ではネシツムマブ追加によるOS HR は1.52 (95% CI 0.89–2.59; p=0.126)、PFS HR は1.33 (95% CI 0.78–2.26; p=0.297) と、ネシツムマブ追加が逆方向の傾向を示した。治療群・EGFRサブグループの相互作用 (interaction) を評価したところ、OSにおけるinteraction p値は0.015と有意であった (PFSでの interaction p値は0.252で有意ではなかった)。STEPP解析では、EGFR IHC値の連続的範囲全体にわたって、低発現を含む EGFR>0 のいずれのサブグループでもネシツムマブによる生存ベネフィットが観察され、明確な閾値カットポイントの同定には至らなかった。事前報告でもEGFR Hスコアの高低 (≥200 vs <200) による効果の差は認められなかった。FISHによるEGFRコピー数増加を持つサブグループ (OS HR 0.70; 95% CI 0.57–0.86) の方がコピー数増加なしのサブグループ (HR 1.02; 95% CI 0.81–1.28) より良好な傾向を示したが、相互作用検定のp値は0.066と有意水準未満であった。

EGFR>0サブ集団での安全性—ネシツムマブ特有有害事象はITT集団と一致: EGFR>0サブ集団におけるグレード3以上の治療緊急性有害事象はネシツムマブ+GC群 71%・GC単独群 60%で認められた。ネシツムマブ追加群で2%超の頻度で多く見られたグレード3以上の有害事象は低マグネシウム血症 (laboratory: 21% vs 6%; 臨床的: 10% vs <1%) および皮疹 (6% vs <1%) であった (Table 2)。これに加えて静脈血栓塞栓症 (5% vs 3%; fatal VTE: 0.2% vs 0.2%) と動脈血栓塞栓症 (4% vs 2%; fatal ATE: 0.7% vs 0.2%) もネシツムマブ追加群でやや高頻度であった。過敏症/注入反応は両群で2%以下と類似していた。治療中断に至った有害事象 (ネシツムマブ+GC群 30%・GC単独群 25%) の最多原因は好中球減少と血小板減少であった。ネシツムマブ追加による死亡転帰を伴う有害事象はネシツムマブ+GC群 11%・GC単独群 10%と均衡していた。EGFR>0集団での安全性プロファイルは、SQUIRE ITT集団の報告と全体として一致しており、EGFR発現陽性患者においてネシツムマブ追加の安全性が確認された。

考察/結論

本解析の最重要知見は、SQUIRE ITT集団の主要結果がEGFR発現陽性の扁平上皮NSCLC (全体の95%) において実質的に再現・強化されたことである。これは欧州EMAがEGFR発現陽性を適応条件とした科学的根拠を直接支持するものである。ITT集団とEGFR>0サブ集団でのHRが類似している (ITT HR 0.84 vs EGFR>0 HR 0.79) ことは、EGFR>0が集団全体でのベネフィットを概ね説明することを示す。EGFR=0集団での逆方向の傾向 (OS HR 1.52) は、EGFRを標的とする抗体治療においてターゲットが発現していない場合に効果が見込めないという生物学的な合理性と一致する。しかし、EGFR=0は全体のわずか5%と極めて少なく、個々の患者数も少ないため確定的な結論を導くことは困難であり、confidence intervalが非常に広い点に注意が必要である。

先行研究との違い: 本研究は、SQUIRE試験のITT集団の主要結果がEGFR発現陽性患者集団で再現されることを明確に示した点で、これまでのEGFR阻害剤の臨床試験とは異なる。FLEX試験 (Pirker et al. Lancet 2009) ではEGFR発現陽性患者のみが対象であったが、SQUIRE試験ではEGFR非発現患者も含まれており、ネシツムマブの有効性がEGFR発現に依存することを示唆する結果が得られた点で、より詳細なバイオマーカーの役割を検討できた。

新規性: 本研究で初めて、ネシツムマブの有効性がEGFR発現陽性患者に限定される可能性を、EGFR非発現患者における逆方向の傾向という形で提示した。これは、EGFRを標的とする治療において、ターゲットの存在が不可欠であるという生物学的合理性を裏付ける新規の知見である。

臨床応用: 本知見は、進行扁平上皮NSCLC患者に対するネシツムマブの臨床応用において、EGFR蛋白発現の評価がバイオマーカー選択として重要であることを示唆する。特に、欧州EMAがEGFR発現陽性を適応条件とした科学的根拠を直接的に支持するものであり、臨床現場での治療選択に影響を与える。

残された課題: STEPP解析でEGFRの低発現を含む全EGFR>0例でベネフィットが見られ、高発現カットポイントによるさらなる絞り込みができなかったことは、EGFRが「発現の有無」という二値的なバイオマーカーとして機能する一方、「発現量」による精密医療的なアプローチには限界があることを示唆する。この点はFLEX試験での cetuximab との比較においても類似の状況が認められていた (Pirker et al. Lancet Oncol 2012)。EGFR FISH陽性例での良好な傾向 (HR 0.70) は探索的かつ事後解析であり、今後の検証課題として残された。本解析の強みは、ITT集団の90%でEGFR IHC評価が実施されるという高い組織収集率にある。

方法

SQUIRE試験 (NCT00981058) はステージIV扁平上皮NSCLCを対象に、ネシツムマブ800mg (day 1,8、絶対用量) + ゲムシタビン1250mg/m² (day 1,8) + シスプラチン75mg/m² (day 1) vs ゲムシタビン/シスプラチン単独で3週毎・最大6サイクル施行し、実験群では病勢進行まで単独ネシツムマブ維持を行ったランダム化比較第III相試験である (Thatcher et al. LancetOncol 2015)。本論文は事前規定の探索的サブグループ解析として報告された。主要評価項目はOSであった。EGFR蛋白発現は、中央施設 (CLIA認定ラボ) でEGFR PharmDxキット (Dako) を用いたIHCにより2名の病理医が独立して判定し、少なくとも1個の陽性細胞が確認された場合をEGFR>0 (発現陽性)、全く検出されない場合をEGFR=0 (発現陰性) と分類した。事前規定の探索的解析としてEGFR>0・EGFR=0それぞれのOS・PFS・TtTF (time to treatment failure) をKaplan-Meier法で推定し、層別Cox比例ハザードモデルでHRと95% CIを算出した。層別化因子は ECOG PS (0–1 vs 2) および地理的地域 (北米/欧州/オーストラリア vs 南米/南アフリカ/インド vs 東アジア)。STEPP解析でEGFR IHC値の連続的範囲にわたる効果推定も実施した。後付け探索的解析としてFISHによるEGFRコピー数増加 (n=557例、51%) の解析も行った。安全性は、少なくとも1回治験薬を投与された患者を対象に、治療中に発現した有害事象 (TEAE) をMedDRA v16.0およびNCI-CTCAE v3.0に従って評価した。