• 著者: Socinski MA, Nishio M, Jotte RM, Cappuzzo F, Orlandi F, Stroyakovskiy D, Nogami N, Rodriguez-Abreu D, Moro-Sibilot D, Thomas CA, Barlesi F, Finley G, Kong S, Lee A, Coleman S, Zou W, McCleland M, Shankar G, Reck M
  • Corresponding author: Mark A. Socinski, MD (AdventHealth Cancer Institute, 2501 North Orange Avenue, Suite 289, Orlando, FL 32803, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-07-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34311108

背景

肺がんは世界的に癌死亡の主要な原因であり、非小細胞肺癌 (NSCLC) はその80%以上を占め、その多くが非扁平上皮組織型である。現在の転移性非扁平上皮NSCLCの一次治療選択肢としては、高PD-L1発現患者におけるチェックポイント阻害薬単剤療法、およびプラチナ製剤併用化学療法にベバシズマブを併用または非併用したチェックポイント阻害薬療法がある Planchard et al. AnnOncol 2018。しかし、これらの標準治療にもかかわらず、臨床成績は依然として最適とは言えず、追加の治療選択肢が不足しているのが現状である。

アテゾリズマブは、PD-L1とPD-1およびB7.1受容体との結合を阻害することで、腫瘍特異的免疫を回復させる抗PD-L1抗体である Chen et al. Immunity 2013Herbst et al. Nature 2014。一方、ベバシズマブによる血管内皮増殖因子 (VEGF) の阻害は、免疫調節効果をもたらす。化学療法と組み合わせることで、VEGFを介した免疫抑制の解除および化学療法誘発性の細胞死を通じて、アテゾリズマブによるT細胞介在性癌細胞殺傷をさらに増強する可能性があると考えられている。

IMpower150試験の主要解析 (Socinski et al. NEJM 2018) では、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル (ABCP) 併用療法が、ベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル (BCP) 併用療法と比較して、無増悪生存期間 (PFS) を8.3ヶ月 vs 6.8ヶ月 (ハザード比 [HR] 0.62) と有意に改善し、中間全生存期間 (OS) のHRは0.78 (p=0.02) であった。この結果に基づき、ABCPは2018年に米国FDAの承認を受けたが、より成熟した最終OS解析と長期安全性データが求められていた。特に、EGFR変異例やベースライン肝転移例といった重要なサブグループにおける有効性についても、最終解析での確認が未解明な点として残されていた。従来の治療法では、転移性非扁平上皮NSCLC患者、特に特定の遺伝子変異や転移部位を持つ患者に対する長期的な生存利益が不足しており、新たな治療戦略の確立が切望されている。本報告は、IMpower150試験の最終OS解析(最小追跡期間32.4ヶ月、中央値追跡期間39.8〜40.0ヶ月)の結果を提示し、これらの課題を解決することを目的とする。

目的

本研究の目的は、IMpower150試験 (NCT02366143) の最終OS解析として、アテゾリズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル (ACP) 群およびアテゾリズマブ、ベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル (ABCP) 群それぞれのベバシズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル (BCP) 群に対するOS最終データを報告することである。本解析では、中間解析で示されたABCP群のOS利益が長期追跡期間においても持続するかを検証し、ACP群のOS利益の統計的有意性を評価する。また、PD-L1発現状況、EGFR変異、ベースライン肝転移の有無など、各サブグループにおける治療の有効性を確認し、長期安全性プロファイルを評価することも目的とした。これにより、転移性非扁平上皮NSCLCの一次治療におけるABCPおよびACPの臨床的意義をより明確に確立し、治療選択肢の最適化に貢献することを目指した。

結果

最終OS (ABCP vs BCP、ITT-WT集団): 最終OS解析 (データカットオフ: 2019年9月13日、最小追跡期間32.4ヶ月、中央値追跡期間39.8ヶ月) において、ITT-WT集団におけるABCP群のmOSは19.5ヶ月 (95% CI: 17.0-23.8ヶ月) であったのに対し、BCP群では14.7ヶ月 (95% CI: 13.3-16.9ヶ月) であった。ABCP群はBCP群と比較して有意なOS改善を示し、HRは0.80 (95% CI: 0.67-0.95) であった (Fig. 1A)。1年OS率はABCP群で67%、BCP群で60%であり、2年OS率はABCP群で42%、BCP群で32%であった。この結果は、当初の中間解析 (HR 0.78) からHRがわずかに大きくなったものの、ABCPの優越性が最終解析でも維持されたことを示している。

最終OS (ACP vs BCP、ITT-WT集団): ITT-WT集団におけるACP群のmOSは19.0ヶ月 (95% CI: 16.7-21.6ヶ月) であったのに対し、BCP群では14.7ヶ月であった。ACP群はBCP群と比較してOSの数値的な改善を示したが、統計的有意性には達しなかった (HR 0.84, 95% CI: 0.71-1.00, p=0.05) (Fig. 1A)。1年OS率はACP群で64%、BCP群で60%であり、2年OS率はACP群で41%、BCP群で32%であった。この結果は、化学療法にアテゾリズマブ単剤 (ベバシズマブなし) を加えた場合でも一定のOS利益が示唆されるものの、p値が境界域にとどまることを示している。

PFS (最終解析): 最終解析におけるPFSデータでは、ITT-WT集団において、ACP群のmPFSは6.3ヶ月、ABCP群のmPFSは8.4ヶ月、BCP群のmPFSは6.8ヶ月であった。ACP群対BCP群のHRは0.82 (95% CI: 0.70-0.97) であり、ACP群でも有意なPFS改善が認められた。ABCP群対BCP群のHRは0.57 (95% CI: 0.48-0.67) であり、ABCP群が最大のPFS利益を示した (Supplementary Fig. 1)。1年PFS率はACP群で26%、ABCP群で38%、BCP群で20%であった。

サブグループ別OS解析: 探索的解析として、PD-L1発現状況 (SP142アッセイによる)、EGFR/ALK変異状態、ベースライン肝転移の有無別にOSが評価された。Teff-high集団 (CD8A/CXCL9/PD-L1高発現) では、ABCP対BCPのOS HRは0.67と最大のOS利益が観察された。PD-L1 TC3/IC3高発現患者では、ABCP群のmOSは30.0ヶ月、BCP群のmOSは15.0ヶ月であり、HRは0.70 (95% CI: 0.46-1.08) であった (Fig. 2A, Fig. 3)。PD-L1 TC1/2/3またはIC1/2/3陽性患者では、ABCP群のmOSは22.5ヶ月、BCP群のmOSは16.0ヶ月であり、HRは0.73 (95% CI: 0.57-0.94) であった (Fig. 2B, Fig. 3)。PD-L1陰性 (TC0/IC0) 患者では、ABCP対BCPのOS HRは0.90 (95% CI: 0.71-1.14) であり、利益は限定的であった (Fig. 2C, Fig. 3)。

EGFR変異例およびベースライン肝転移例のOS: EGFR変異例 (探索的解析、n=108) において、ABCP対BCPのOS HRは0.61 (95% CI: 0.29-1.28) であり、改善傾向が認められたが、少数例のため信頼区間は広かった。ベースライン肝転移を有する患者では、ABCP対BCPのOS HRは0.54 (95% CI: 0.33-0.87) と、最終解析で有意なOS利益が確認された。これは、肝転移を有するNSCLC患者におけるABCPの有効性を示す重要な知見である。

PD-L1アッセイ間の一致性: SP142とSP263アッセイ間のPD-L1発現の一致性解析では、PD-L1陽性サブグループにおいて、SP142で陽性とされた患者の76% (317/416) がSP263でも陽性であった (Fig. 4A)。PD-L1高発現サブグループでは、SP142で高発現とされた患者の76% (114/150) がSP263でも高発現であった (Fig. 4B)。両アッセイはわずかに異なる患者集団を特定するものの、アテゾリズマブに対する同様のOSおよびPFSの臨床的感度を予測する傾向が示された。

長期安全性: 安全性評価可能集団 (n=1187) において、治療関連の有害事象 (AE) はACP群で94.3%、ABCP群で94.1%、BCP群で95.9%の患者で発生した (Table 2)。Grade 3/4の治療関連AEは、ACP群で43.0% (172/400)、ABCP群で57.3% (225/393)、BCP群で49.0% (193/394) であった。治療関連のGrade 5 (死亡) AEは、ACP群で1.0% (4例)、ABCP群で3.1% (12例)、BCP群で2.5% (10例) で発生した。AEによる治験治療中止率は、ACP群で14.5%、ABCP群で41.2%、BCP群で26.4%であった。ABCP群の治療中止率が他の群と比較して高いことが示されたが、長期追跡において新たな安全性シグナルは特定されなかった。

考察/結論

先行研究との違い: IMpower150試験の最終OS解析 (n=1202、中央値追跡期間約39.8ヶ月) は、転移性非扁平上皮NSCLCの一次治療において、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、化学療法 (ABCP) がベバシズマブ、化学療法 (BCP) に対して持続的なOS利益をもたらすことを確認した。ABCP群のmOSは19.5ヶ月 vs BCP群の14.7ヶ月 (HR 0.80, 95% CI: 0.67-0.95) であり、当初の中間解析 (HR 0.78, p=0.02) からハザード比がわずかに変化したものの、ABCP群の一貫したOS優越性は最終解析でも維持された。2年OS率がABCP群で42% vs BCP群で32%という長期生存への差は、3年以上の追跡期間においても、免疫療法、ベバシズマブ、化学療法の組み合わせによる持続的なベネフィットを示唆する。これは、これまで報告されてきた単剤療法や二剤併用療法と比較して、より長期的な生存利益を提供する点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて確認された重要な新規知見として、ベースライン肝転移を有する患者において、ABCP群がBCP群に対してOS HR 0.54 (95% CI: 0.33-0.87) という強い利益を示した点が挙げられる。これは、これまで治療が困難とされてきた肝転移を有するNSCLC患者の治療選択に大きな臨床的意義を持つ。また、PD-L1陰性患者におけるABCPの限定的な利益は、今後の治療戦略を検討する上で重要な示唆を与える。

臨床応用: 本最終解析は、IMpower150試験の承認根拠を長期フォローアップで支持し、ABCP治療の継続実施を支える重要なデータとなった。この結果は、転移性非扁平上皮NSCLCの一次治療におけるABCPの有効性と安全性を確立し、臨床現場での治療選択肢を強化するものである。特に、肝転移を有する患者に対するABCPの有効性は、この困難なサブグループの予後改善に直接的に貢献する臨床的意義がある。

残された課題: アテゾリズマブ単剤と化学療法 (ACP) 群のOS HR 0.84 (95% CI: 0.71-1.00, p=0.05) は、ベバシズマブが非適応となる患者 (消化管出血リスクなど) におけるアテゾリズマブと化学療法の可能性を示唆するが、統計的有意性には達しておらず、確実なエビデンスとは言えない点が残された課題である。ABCP群における治療関連AEによる投薬中止率が41.2%と、BCP群の26.4%と比較して高かったことは、長期使用における課題であるが、中止後も免疫記憶効果による生存維持が示唆される可能性も考えられる。今後の検討課題として、ABCPレジメンにおけるアテゾリズマブとベバシズマブの特定の作用機序のさらなる解明が挙げられる。また、PD-L1陰性サブグループにおける限定的な利益についても、さらなる研究が必要である。

方法

IMpower150試験 (NCT02366143) は、国際多施設共同、非盲検、無作為化第3相試験であり、化学療法未治療の転移性非扁平上皮NSCLC患者1202例を対象とした。患者はACP群 (n=402)、ABCP群 (n=400)、またはBCP群 (n=400) に1:1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は性別、ベースライン肝転移の有無、PD-L1発現状況によって層別化された。

適格患者は、化学療法未治療のステージIV転移性非扁平上皮NSCLC、RECIST v1.1に基づく測定可能病変、ECOGパフォーマンスステータス0または1、およびバイオマーカー検査のための腫瘍組織を有していた。PD-L1発現状態はVENTANA SP142 IHCアッセイ (Ventana Medical Systems) によって評価され、EGFRまたはALK遺伝子変異を有する患者も、以前に1つ以上のチロシンキナーゼ阻害薬で病勢進行または許容できない副作用を経験している場合に組み入れられた。

治療は21日サイクルで4または6サイクルの導入化学療法が実施された。アテゾリズマブ1200mg、ベバシズマブ15mg/kg、カルボプラチン (AUC 6mg/mL/min)、パクリタキセル200mg/m² (アジア人患者は175mg/m²) が投与された。導入期後、患者は許容できない毒性または病勢進行までアテゾリズマブ、ベバシズマブ、または両方の治療を継続した。

主要評価項目は、ITT-WT (EGFRまたはALK遺伝子変異のないintention-to-treat) 集団における治験責任医師評価による無増悪生存期間 (PFS) およびOSであった。本解析では、ITT-WT集団におけるACP対BCPの最終OSおよびPFS、ならびにABCP対BCPの更新されたOSおよびPFSを報告する。探索的解析として、ITT-WT集団およびSP263バイオマーカー評価可能WT集団 (SP263 BEP-WT) におけるPD-L1サブグループ別のOSが含まれた。PD-L1発現は、VENTANA SP142またはSP263 IHCアッセイを用いて評価された。SP142アッセイでは、PD-L1陽性はTC ≥1%またはIC ≥1% (TC1/2/3またはIC1/2/3)、PD-L1高発現はTC ≥50%またはIC ≥10% (TC3またはIC3) と定義された。SP263アッセイでは、PD-L1陽性はTC ≥1%、PD-L1高発現はTC ≥50%と定義された。

安全性評価は、NCI-CTCAE v4.0に基づき、安全性評価可能ITT集団における有害事象 (AE) が報告された。統計解析は、事前に規定された階層的検定計画に従い、全体的なタイプIエラーを制御した。OSおよびPFSの中央値はカプラン・マイヤー解析から推定され、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は層別化および非層別化Cox回帰モデルを用いて計算された。サブグループ解析は、Cox比例ハザードモデルから推定された非層別化HRを用いて実施された。統計ソフトウェアとしてSAS v9.4、R v3.6.1、Spotfire v7.7が使用された。