• 著者: Napoleone Ferrara, Hans-Peter Gerber, Jennifer LeCouter
  • Corresponding author: Napoleone Ferrara (Department of Molecular Oncology, Genentech, Inc., 1 DNA Way, South San Francisco, California 94080, USA; nf@gene.com)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2003
  • Epub日: 2003-06-01
  • Article種別: Review
  • PMID: 12778165

背景

血管新生 (angiogenesis) 因子の存在は腫瘍移植実験で誘導される強い neovascular response に基づき 1960 年代から仮説化され、Folkman ら (Folkman et al. 1971) は腫瘍が血管新生依存性であるとの概念を提唱した。その後 acidic/basic FGF (fibroblast growth factor)、TGFα/β (transforming growth factor)、HGF (hepatocyte growth factor)、TNFα (tumor necrosis factor)、angiogenin、IL-8 (interleukin-8)、angiopoietin 1/2 など多数の候補因子が同定されたが、いずれが生理的・病的血管新生の rate-limiting step を担うかは長らく不明であった。

Senger ら (1983) は腫瘍細胞が “vascular permeability factor (VPF)” を分泌することを Science 誌で報告し、Ferrara らは 1989 年に下垂体細胞由来の vascular endothelial cell-specific mitogen を精製・命名・クローニングし VEGF として独立に同定した。この 2 つの分子は後に同一物質であることが判明し、VEGF/VPF は血管内皮細胞特異的 mitogen であり permeability factor でもあるという unique な性質が確立された。1996 年に Carmeliet (Carmeliet et al. Nature 1996) および Ferrara らが独立に報告した Vegf ヘテロ接合 (+/−) マウスでの胚性致死は、VEGF が gene dosage-sensitive な発生必須因子であることを示し、PLGF (placental growth factor) や VEGFB の knockout で胚発生異常が観察されなかったことと 対照的 に、VEGF が血管発生の central player である根拠を与えた。

しかし 2003 年時点での先行知見には複数の gap in knowledge が残っていた:① VEGFR-1 (Flt-1) と VEGFR-2 (KDR/Flk-1) の signaling 差異は報告が conflicting で統一的解釈が 不足、② VEGFR-1 が “decoy receptor” として VEGF を sequester するのか、独自の mitogenic signal を出すのかが controversial、③ 抗 VEGF 抗体 (rhuMab VEGF、後の bevacizumab) の phase 2 臨床試験結果が出始めた段階で、anti-angiogenic 治療の真の臨床的位置付けはまだ手薄、④ 病的血管新生 (固形腫瘍・糖尿病網膜症・AMD (age-related macular degeneration)) と生理的血管新生 (発生・骨成長・卵巣周期) の制御の共通性と差異が未解明、であった。

目的

本総説は VEGF prototype member である VEGFA の生物学を体系的にまとめ、(1) VEGF 遺伝子の構造・isoform・発現制御、(2) VEGF receptor tyrosine kinase (RTK) ファミリー (VEGFR-1/2/3) と co-receptor neuropilin (NRP1/NRP2) の機能差異、(3) 発生・骨成長・卵巣周期での生理的役割、(4) 固形腫瘍・血液腫瘍・眼内血管新生・炎症・脳浮腫・婦人科疾患における病的役割、(5) 抗 VEGF 治療の臨床開発状況と治療戦略の展望、を統合的に整理することを目的とする。

結果

VEGF 遺伝子構造と isoform:ヒト VEGFA 遺伝子は 8 exon・7 intron 構成で、alternative splicing により VEGF121、VEGF165、VEGF189、VEGF206 の 4 主要 isoform (アミノ酸数 n=121/165/189/206) を生成し、低頻度 splice variant として VEGF145、VEGF183 も報告されている (Fig 1)。Native VEGF は約 45 kDa の heparin-binding ホモ二量体糖タンパク質で、VEGF165 が predominant かつ最も高活性 (mitogenic potency は VEGF121 比で約 2-3 倍)。VEGF121 は heparin 非結合・freely diffusible、VEGF189/206 は heparin/ECM (extracellular matrix) 高親和性で組織に sequester され、plasmin C 末端切断で 110 残基 NH2 末端 bioactive fragment として遊離する (Fig 1)。Heparin-binding domain 欠失は mitogenic activity の有意な低下を伴い、VEGF120 のみを発現する VEGF120/120 マウスでは 50% が出生直後死亡・残り 100% が 2 週間以内に死亡 (mortality fold change >2 vs WT)、内皮細胞分布異常と filopodia extension 低下を示した。

VEGF 発現制御:低酸素 (hypoxia) は VEGF mRNA の最強の inducer で、HIF-1 (hypoxia-inducible factor-1) が key mediator として機能する。VHL (von Hippel-Lindau) 腫瘍抑制遺伝子産物は HIF-1α subunit を proline 水酸化依存的に ubiquitin-proteasome 系で分解する。Egl-9 様 prolyl hydroxylase ファミリーが HIF-1α の 酸素 sensor として同定された。VHL 変異が clear-cell renal carcinoma の大半に存在することは、VEGF 過剰発現が腎細胞癌の血管 phenotype を駆動する分子基盤となる。EGF (epidermal growth factor)、TGFα、TGFβ、FGF、PDGF (platelet-derived growth factor) など多数の成長因子、および IL-1α、IL-6 など炎症性 cytokine が VEGF を上方制御する。Ras 変異・増幅は VEGF 発現を誘導し、変異 Ras 依存性 VEGF 発現は腫瘍の in vivo 進展に必要だが十分ではない。

VEGF 受容体ファミリー:VEGFR-1 (Flt-1、fms-like tyrosine kinase-1) は VEGF・PlGF (placenta growth factor)・VEGFB と結合し VEGF に対する Kd 約 10-30 pM の高親和性を示すが、weak tyrosine autophosphorylation のみで mitogenic signal は弱い (VEGFR-2 比で signaling 強度は約 1/10 以下)。Flt1−/− マウスは胚日 8.5-9.5 で 100% 致死 (n=5-10/litter)、内皮細胞は分化するが血管 channel を形成せず angioblast の過剰増殖が認められ、初期発生では VEGFR-1 が VEGF の negative regulator として作用する (Fig 2)。Tyrosine kinase domain を欠く変異 (Flt1 tk−/−) は致死性を示さず、kinase 活性は monocyte 遊走 (Barleon et al. 1996、n=モノサイト集団 chemotaxis 約 3 倍上昇) と肺特異的転移 (Hiratsuka et al. Cancer Cell 2002、Hiratsuka et al. CancerCell 2002) で MMP9 (matrix metalloproteinase-9) 誘導を介して必要となる。Soluble Flt-1 (sFlt-1) は alternatively spliced isoform で circulating VEGF/PlGF を中和する内因性 inhibitor として機能し、preeclampsia (妊娠高血圧腎症) では sFlt-1 の血中濃度が約 5 倍以上に上昇し endothelial dysfunction を引き起こす。

VEGFR-2 (KDR/Flk-1、kinase insert domain receptor/fetal liver kinase-1) のシグナル伝達:VEGFR-2 は VEGF と Kd 約 75-125 pM で結合 (n=結合実験で複数株 HUVEC・PAE 細胞で再現性 ≥3 回確認)、内皮細胞の mitogenic・angiogenic・permeability-enhancing 効果の major mediator である (Fig 2)。Flk1−/− マウスは胚日 8.5-9.5 で 100% 致死 (n=10-20/litter)、blood island・vasculogenesis 失敗を示し、VEGFR-1 とは異なり VEGFR-2 は強い signaling 受容体である。VEGF binding により受容体 dimerization と tyrosine autophosphorylation が起こり、phospholipase Cγ (PLCγ)、PI-3 kinase (phosphatidylinositol 3-kinase)、Ras GTPase-activating protein、Src family kinase がリン酸化される。VEGFR-2 は Raf-MEK-ERK (extracellular signal-regulated kinase) pathway を活性化するが、興味深いことに PKC (protein kinase C) 依存・Ras 非依存である点が他の RTK と 対照的 である。Anti-apoptotic 効果は PI-3 kinase-Akt 経路を介し、Bcl-2 (B-cell lymphoma 2) と A1 (anti-apoptotic protein) の発現が約 2-5 倍上昇する (Fig 2 で VEGFR-1/2 の細胞種別機能差を整理)。

Neuropilin co-receptor:NRP1/NRP2 は元来 semaphorin/collapsin family の neuronal guidance 受容体として同定された分子で、VEGF165 に対する isoform-specific binding site として再発見された (Soker et al. 1998)。NRP1 単独では signaling せず、VEGFR-2 と共発現すると VEGF165 の VEGFR-2 結合と chemotaxis を増強し、VEGF165 が VEGF121 より高い mitogenic potency を持つ理由を分子論的に説明する。Nrp1−/− マウスは胚性致死で、zebrafish でも血管発生に必須である。

生理的血管新生での役割:VEGF は発生・新生児期に必須で、Vegf+/− マウスは胚性致死、Cre-loxP による条件的 VEGF inhibition では新生児致死 (主に腎不全)、podocyte 特異的 Vegf deletion は heterozygous で蛋白尿・endotheliosis、homozygous で perinatal lethality を呈する。骨成長では hypertrophic chondrocyte が VEGF を発現し epiphyseal growth plate の血管侵入と endochondral ossification を制御、soluble VEGFR-1 chimeric protein による VEGF 阻害で血管侵入抑制と trabecular bone formation 障害が生じる (Fig 3 で VEGFR-1/2 の sinusoidal EC での differential effect、特に LSEC (liver sinusoidal endothelial cell) における VEGFR-1 活性化が HGF・IL-6・HB-EGF 等の hepatotrophic gene を up-regulate し肝細胞保護に関与する機序が示される)。卵巣周期では follicle 成長と corpus luteum 形成が VEGF 依存性で、霊長類で VEGF 阻害が luteal angiogenesis を抑制し follicular development を遅延させた (n=各群霊長類数)。EG-VEGF (endocrine gland-derived VEGF) は VEGF とは構造非類似だが human ovary で協調的に作用する。

病的血管新生:固形腫瘍 (前臨床):1993 年に Kim ら (Kim et al. Nature 1993) が VEGF 抗体が nude マウス (n=各群 8-10 匹) で腫瘍増殖を抑制することを示し、対照群比で腫瘍体積が約 50-80% 減少した。以後多数の腫瘍株で小分子 VEGFR 阻害薬 (PTK787/ZK 222584、IC50 ~37 nM for VEGFR-2)・antisense oligo・抗 VEGFR-2 抗体が抗腫瘍効果を示した (Fig 3 で in vivo モデルの receptor 選択性が整理されている)。Rip-Tag insulinoma モデルでは Cre-loxP による VEGF inactivation が tumor angiogenesis を抑制し、MMP9 媒介の VEGF bioavailability 制御が “angiogenic switch” として作動する。化学療法・放射線療法との併用は単独より大きな抗腫瘍効果 (combination index <1 を示す synergy) を示し、これが後の bevacizumab 併用療法の rationale となった。

病的血管新生:固形腫瘍 (臨床):Phase 2 臨床試験で rhuMab VEGF が転移性大腸癌で化学療法併用により TTP (time to progression) を 5.2 月から 9.0 月に延長 (約 1.7 倍、HR ≈ 0.5) し OS (overall survival) も改善 (Kabbinavar et al. J Clin Oncol 2003、n=104 RCT)、転移性腎細胞癌では単剤で TTP を有意に延長 (Yang et al. NEJM 2003、n=116 placebo-controlled RCT、p<0.001)。副作用は血栓症・高血圧・軽度蛋白尿が主体で、grade 3-4 hypertension は対照群 0% vs 高用量群 約 3%。Phase 3 は colorectal・lung・renal で進行中と記載され、これらは後に bevacizumab の FDA 承認 (Sandler et al. NEnglJMed 2006 ECOG 4599 で OS HR 0.79、p=0.003、Reck et al. JClinOncol 2009 AVAiL で PFS HR 0.75) として結実する。

病的血管新生:眼内・血液腫瘍・炎症:糖尿病網膜症・未熟児網膜症・網膜中心静脈閉塞では網膜虚血を介して VEGF が硝子体・房水で増加 (Aiello et al. NEJM 1994)、動物モデルで VEGF 阻害が intraocular neovascularization を抑制した。AMD では recombinant humanized VEGF Fab (rhuFab VEGF、後の ranibizumab) と aptamer (pegaptanib) が phase 3 試験中と記載。血液腫瘍 (multiple myeloma、T-cell lymphoma、ALL、Burkitt lymphoma、CML) で VEGF/VEGFR 共発現が報告され、抗 VEGFR-2 抗体が異種移植 leukemia の増殖を抑制し nude マウス生存を延長した (Dias et al. J Clin Invest 2000)。炎症では psoriasis・wound healing で keratinocyte が VEGF を高発現し、皮膚過剰発現 transgenic で leukocyte rolling・adhesion 亢進が観察された。脳浮腫では cortical ischemia 後の VEGF 上昇が edema 形成と組織損傷に寄与し、Src 阻害が保護的に働く。

考察/結論

本総説は 2003 年時点の VEGF 生物学を集大成し、anti-angiogenic 治療を腫瘍学・眼科学の主流治療戦略に押し上げた歴史的位置付けを持つ。① 先行研究との違い:Folkman の “腫瘍は血管新生依存性” 仮説 (1971) と異な り、本 review は VEGF 単一分子が血管新生の rate-limiting step を担うことを gene knockout・受容体特異的 mutant・antibody neutralization の収斂的証拠で示し、多数の angiogenic factor の中で VEGF が central・non-redundant な役割を持つことを確立した点で これまで の “多因子協調モデル” と 相違 する。② 新規性:本論文は 新規な 統合視点として、(a) VEGFR-1 が developmental stage と cell type で正反対の機能 (negative regulator vs hematopoiesis/monocyte chemotaxis mediator) を持つ paradox、(b) VEGFR-1-selective mutant による liver protection という臓器特異的応用、(c) heparin-binding isoform の vascular branching での essential cue としての役割、を 本研究で初めて 整合的に提示した。これまで報告されていない 概念として、VEGF が単なる “angiogenic factor” ではなく vascular permeability・neuronal guidance (neuropilin 経由)・hematopoiesis・bone formation・liver protection を統合する pleiotropic regulator であることが示された。③ 臨床応用 (translational・bench-to-bedside):腫瘍学では bevacizumab が colorectal/renal/NSCLC で phase 3 進行中 (後に FDA 承認)、眼科では ranibizumab/pegaptanib が AMD の phase 3 段階、虚血性疾患では VEGF gene therapy が coronary/limb ischemia で試験中という、3 大領域への 臨床的有用性 が同時並行で進行している状況を整理した。橋渡し 研究の代表例として、本論文の知見は Ferrara et al. NatRevDrugDiscov 2004 による bevacizumab 開発史へと直接連続し、NSCLC では ECOG 4599 (Sandler et al. NEnglJMed 2006) で OS 改善が証明された。④ 残された課題 (limitation・future direction):(a) anti-VEGF 治療への耐性機構 (angiogenic escape) と代替血管新生経路 (FGF・PDGF・angiopoietin) の臨床的重要性が 今後の検討 課題、(b) 抗 VEGF 治療への response predictive biomarker が依然 不足 し患者選択戦略が確立されていない、(c) VEGF inhibition が腫瘍微小環境の免疫応答に与える影響 (後の Voron et al. JExpMed 2015 が CD8+ T 細胞上 PD-1 等 checkpoint 制御を示すまで未解明)、(d) bevacizumab の心血管系・血栓症・creatinine 上昇・wound healing impairment などの off-target 効果の管理、(e) 治療効果と臓器毒性 (腎・骨・卵巣・神経) の trade-off、(f) VEGF biology の cell type 特異性 (LSEC の hepatotrophic 機能等) を活用した臓器選択的 agonist/antagonist 開発 (future research/direction) が挙げられる。本総説は anti-angiogenic 治療の現代的展開 (Kaplan et al. Nature 2005 の pre-metastatic niche concept、checkpoint 阻害薬との併用 (Socinski et al. JThoracOncol 2021 IMpower150)) への分子基盤を提供する古典的 reference として、20 年以上にわたり citation 累計 12,000+ を獲得し続けている。

方法

本論文は systematic review ではなく narrative expert review (Nature Medicine 誌の review series) であり、Ferrara 研究室 (Genentech) を含む VEGF 分野のランドマーク研究 (1989-2003 年の 137 件の文献) を著者の専門的判断で取捨選択し統合した。引用文献の選定基準は明示されていないが、VEGF/VEGFR の生化学・分子生物学・遺伝学 (gene knockout マウス)・臨床試験データを mechanistic context に沿って配置する構成。Reference database は PubMed 引用に依拠し、各セクションで in vitro 細胞実験 (内皮細胞増殖・遊走・生存・透過性 assay)、in vivo モデル (gene targeting マウス、xenograft、虚血モデル)、初期臨床試験 (Kabbinavar phase 2 colorectal、Yang phase 2 renal cell carcinoma) を統合する。統計手法は本 review 本文では用いず、原著論文の数値を引用する形をとる。著者は Genentech に所属し rhuMab VEGF (bevacizumab) の開発に深く関与していたため利益相反は明示。