• 著者: Shun Lu, Baogang Liu, Yongzhong Luo, Longhua Sun, Lin Wu, et al.
  • Corresponding author: Shun Lu (Shanghai Chest Hospital, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)
  • 雑誌: The Lancet
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-31
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42218899

背景

進行扁平上皮 NSCLC (non-small-cell lung cancer) は全 NSCLC の約25〜30%を占め、非扁平上皮型と比較して治療抵抗性が高く予後不良である。免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) と化学療法の組み合わせが標準1次治療として確立されているが、多くの第3相試験は化学療法単独との比較であり、確立された ICI+化学療法レジメン同士での頭対頭比較における OS 優越性の実証は未解明であった。

KEYNOTE-407試験では、ペムブロリズマブ+パクリタキセル/カルボプラチンが化学療法単独と比較して OS を有意に延長し、OS 中央値 17.2ヶ月を示した (Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018)。ASTRUM-004 試験ではserplulimab+化学療法がOS中央値 22.7 vs 18.2ヶ月で化学療法単独に対する優越性を示し (Zhou ら CancerCell 2024)、RATIONALE-307 試験 (tislelizumab+化学療法) もOS中央値 22.8 vs 20.2ヶ月を示した (Wang ら ESMO Open 2024)。しかしこれらの多くは化学療法単独対比の設計であり、ICI+化学療法の OS 中央値は依然として長期生存を十分に確保できていなかった。

ivonescimab は PD-1 と VEGF (vascular endothelial growth factor) を同一四価分子で同時阻害する中国初承認の PD-1/VEGF 二重特異性抗体である。ベバシズマブを代表とする従来の抗 VEGF 抗体は、扁平上皮 NSCLC では大出血リスクから禁忌とされており、扁平上皮型への安全な抗 VEGF 療法導入手段が確立されていなかった。HARMONi-6 PFS 解析 (Chen ら Lancet 2025;406:2078-88) では ivonescimab+化学療法が tislelizumab+化学療法比で PFS をほぼ2倍に延長することが示されたが、PD-1/VEGF 二重特異性抗体が確立された ICI+化学療法標準療法に対して OS でも優越性を示せるかは確認されておらず、その実証データが不足していたことが本研究の立脚点であった。

目的

HARMONi-6 試験 (NCT05840016) のプレスペシファイド中間 OS 解析として、進行扁平上皮 NSCLC 患者を対象に ivonescimab+化学療法と tislelizumab+化学療法の全生存期間 (OS) を比較評価すること、および安全性を確認すること。

結果

全生存期間の主要解析:有意な改善を確認:761例の適格性評価後、229例除外し532例を無作為割付 (各群266例)。データカットオフ (2026年2月27日) 時の追跡期間中央値は 21.4ヶ月 (95% CI 20.27-21.91)。204例が死亡しており、ivonescimab群 84例 (32%) vs tislelizumab群 120例 (45%)。OS 中央値は ivonescimab群 27.9ヶ月 (95% CI 27.89-NE [not evaluable]) vs tislelizumab群 23.7ヶ月 (95% CI 20.11-NE)、HR 0.66 (95% CI 0.50-0.87)、片側 p=0.0017 であり、プレスペシファイド有意境界 (p<0.0049) を満たした (Fig 2A)。OS 率は ivonescimab vs tislelizumab でそれぞれ、12ヶ月時点 78.9% (95% CI 73.4-83.3) vs 72.2% (66.3-77.1)、18ヶ月時点 70.5% (64.3-75.8) vs 61.3% (54.8-67.0)、24ヶ月時点 64.7% (57.7-70.8) vs 48.6% (41.1-55.7) であった。Kaplan-Meier 曲線は第6ヶ月以降に明確に分離し、追跡期間全体を通じて分離を維持した。感度分析および補完分析でもOS主解析と一致する結果が得られた。ivonescimab・tislelizumab の投与回数中央値はそれぞれ 14.5回 (IQR 7.0-24.0) vs 12.0回 (IQR 6.0-21.0) で、データカットオフ時点で治療継続中はivonescimab群 60例・tislelizumab群 51例であった (Fig 1)。後続全身療法は ivonescimab群 95例 (36%) vs tislelizumab群 97例 (37%) に投与された。

PD-L1発現によらない全サブグループでのOS一貫性:プレスペシファイドサブグループ解析では、PD-L1 TPS の発現状況によらず ivonescimab+化学療法が一貫してOS優越性を示した (Fig 2B, Fig 3)。PD-L1 TPS <1%:HR 0.64 (95% CI 0.43-0.96)、TPS ≥1%:HR 0.68 (95% CI 0.46-0.99)、TPS 1〜49%:HR 0.67 (0.42-1.05)、TPS ≥50%:HR 0.64 (0.32-1.31)。肝転移あり・なし患者でもそれぞれ HR 0.69 (0.34-1.41) vs 0.68 (0.50-0.92) と一貫した方向性を示した。ベースライン特性は両群で均衡しており、男性 256/238例 (96%/89%)、中央値年齢 64歳 (IQR 59-69)、Stage IV 92%、PD-L1 TPS <1% が各39%、中枢型扁平上皮 67%/59%、出血既往 32%/30% (Table 1)。なお PD-L1 TPS <1% サブグループで統計的有意差が示された点は、免疫療法抵抗性患者における VEGF 阻害の付加価値を示唆する重要な知見であり、PD-L1 低発現例に対する治療戦略の再考を促す。

安全性:VEGF関連毒性は管理可能な範囲:全治療関連有害事象 (TRAE) は ivonescimab群 264例 (99%) vs tislelizumab群 263例 (99%) に発現。Grade ≥3 TRAE は ivonescimab群 184例 (69%) vs tislelizumab群 156例 (59%)。主な Grade ≥3 TRAE(ivonescimab/tislelizumab):好中球数減少 86例 (32%) vs 69例 (26%)、白血球数減少 29例 (11%) vs 25例 (9%)、貧血 19例 (7%) vs 13例 (5%) (Table 2)。TRAE による治療中止は 14例 (5%) vs 12例 (5%)、TRAE 関連死亡 10例 (4%) vs 11例 (4%) と両群同等であった。Grade ≥3 免疫関連有害事象も 37例 (14%) vs 36例 (14%) と同等であった。抗 VEGF 関連有害事象は ivonescimab群でより多く発現したが (159例 [60%] vs 70例 [26%])、大部分は Grade 1〜2 (79%)。Grade ≥3 の抗 VEGF 関連事象:高血圧 10例 (4%) vs 5例 (2%)、蛋白尿・腎障害 18例 (7%) vs 0例、出血 7例 (3%) vs 2例 (1%)。腫瘍空洞を有する患者 (ivonescimab群24例) での呼吸器出血は 4例 (17%) であったが、全例 Grade 1〜2 にとどまった。

考察/結論

① 先行研究との違い:KEYNOTE-407試験 (Paz-Ares et al. NEnglJMed 2018) をはじめこれまでの扁平上皮 NSCLC 第3相試験が化学療法単独を対照としていたことと異なり、本 HARMONi-6 OS 解析は確立された ICI+化学療法レジメン(tislelizumab+化学療法)を対照として ivonescimab の OS 優越性を示した初めての第3相試験という点で先行研究と対照的である。また、従来の抗 VEGF 抗体(ベバシズマブ)が扁平上皮 NSCLC では出血リスクから禁忌とされていた実情とも相違しており、ivonescimab の cooperative binding 設計により Grade ≥3 出血を 3% に抑制しながら VEGF 阻害の OS 寄与を実証した。LEAP-007 試験でレンバチニブ+ペムブロリズマブが扁平上皮 NSCLC での VEGF 加算効果を示せなかった過去とも対照的な結果である。

② 新規性:本研究で初めて、PD-1/VEGF 二重特異性抗体 ivonescimab が ICI+化学療法の標準治療に対して OS 優越性を示した (HR 0.66)。PD-L1 TPS <1% のサブグループでも統計的有意差 (HR 0.64) が示された点は、免疫療法抵抗性の患者層における VEGF 阻害付加の新規な治療意義を示す知見である。HARMONi-2 試験 (Xiong ら Lancet 2025;405:839-49) での ivonescimab vs ペムブロリズマブ比較での PFS 優越性と合わせ、PD-1/VEGF 二重特異性抗体戦略の優越性が臨床データとして蓄積された。二重特異性抗体アプローチは PD-L1/TGF-β 標的など異なる免疫抑制軸でも探索が進んでおり (Sun et al. Oncologist 2026)、本知見はその方向性を支持する。

③ 臨床応用:PD-L1 発現を問わず全主要サブグループで一貫した OS 改善が確認されたことから、biomarker 選択なしに ivonescimab+化学療法を進行扁平上皮 NSCLC の1次治療として適用できる可能性がある。Grade ≥3 出血 3% というデータは、扁平上皮型への抗 VEGF 療法導入の臨床的実現可能性を示す初めての大規模根拠となる。一方で試験対象は中国単一国であり、実臨床での免疫化学療法の有効性・安全性は国・地域により異なりうることに留意が必要であり (Shimizu et al. CancerSci 2026)、高齢者や女性がunderrepresented である本試験結果の外挿には慎重を要する。

④ 残された課題:本 OS 解析は計画より早期(204 vs 225 死亡事象)に実施されており、OS 中央値は最終イベント後の KM 曲線の急落に影響を受ている可能性がある。長期フォローアップによる生存曲線尾部の確認と最終 OS 解析(322 死亡事象後)が今後の方向性として必須である。また、中国以外の多様な人種・地域集団での一般化可能性の検証のため、グローバル第3相試験 HARMONi-3 (ivonescimab+化学療法 vs ペムブロリズマブ+化学療法、NCT05899608) の結果が待たれる。VEGF 関連 AE(蛋白尿、高血圧)の長期管理戦略の確立と、PD-L1 低発現例での VEGF 阻害最適化も今後の検討課題である。

方法

試験デザイン・対象: 無作為化二重盲検第3相試験 (NCT05840016、中国50施設)。組み入れ:18〜75歳、病理確診の切除不能 Stage IIIB/IIIC/IV 扁平上皮 NSCLC、未治療、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 0〜1、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours) v1.1 で測定可能病変あり。組み入れ期間:2023年8月17日〜2025年1月21日。スクリーニング時 EGFR・ALK 変異検査を全例義務化。

介入: ivonescimab (20 mg/kg) + パクリタキセル (175 mg/m²) + カルボプラチン (AUC 5) Q3W × 4サイクル → ivonescimab 維持療法 (同量 Q3W) vs tislelizumab (200 mg) + 同化学療法 → tislelizumab 維持療法。層別因子:disease stage (IIIB/IIIC vs IV)、PD-L1 TPS (tumour proportion score) (≥1% vs <1%)。PD-L1 発現は IHC 22C3 pharmDx で評価。

エンドポイントと統計: 主要エンドポイントは IRRC (independent radiology review committee) 評価 PFS (既報)。キーセカンダリエンドポイントはOS。本 OS 中間解析は PFS 有意確認後に発動する階層的検定手順に基づく (O’Brien-Fleming 境界 Lan-DeMets消費関数、片側α=0.025)。計画 225 死亡事象時解析の予定が規制審査対応のため 204 事象で前倒し実施、この時点の有意境界は p<0.0049。層別 Cox 比例ハザードモデルで HR を算出。SAS version 9.4 使用。