- 著者: Sun H, Chen G, Xue J, Zhang Y, Ma Y, Yang Y, Fang W, Zhao Y, Huang Y, Hong S, Zhou T, Zhao S, Zhou H, Chen X, Li J, Zhang L, Zhao H
- Corresponding author: Hongyun Zhao, MD (Department of Clinical Research, Sun Yat-sen University Cancer Center, Guangzhou, China; zhaohy@sysucc.org.cn) / Li Zhang, MD (Department of Medical Oncology, Sun Yat-sen University Cancer Center; zhangli@sysucc.org.cn)
- 雑誌: Oncologist
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-11
- Article種別: Original Article (多施設共同非盲検 Phase I 用量漸増・拡大試験)
- PMID: 42104927
背景
PD-1/PD-L1チェックポイント阻害免疫療法は、悪性黒色腫、非小細胞肺癌 (NSCLC; non-small cell lung cancer)、腎細胞癌など多くの進行固形腫瘍で標準治療として確立されている。しかし一次耐性または獲得耐性を示す患者が依然として多数存在し、これらの患者に対する新規治療戦略の開発が喫緊の課題となっている。腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) における免疫抑制は、チェックポイント阻害薬への抵抗性の主要機構の一つである。トランスフォーミング増殖因子-β (TGF-β; transforming growth factor beta) は、進行癌のTMEにおいて中心的な免疫抑制性サイトカインとして機能し、エフェクターT細胞の浸潤を抑制し、制御性T細胞 (Treg; regulatory T cell) の誘導とM2型マクロファージへの分極化を促進して免疫回避に寄与すると報告されている (Colak and Ten Dijke 2017)。特に前臨床研究では、TGF-βシグナルがエフェクターT細胞を腫瘍辺縁に排除してPD-L1阻害への抵抗性を惹起することが示され、TGF-β中和とPD-L1遮断の併用が免疫排除を解除することが報告された (Mariathasan et al. Nature 2018)。したがってPD-L1とTGF-βの同時阻害は、相補的な免疫抑制経路を同時に遮断する合理的戦略として前臨床研究で強く支持されてきた (Ravi et al. 2018; Tauriello et al. 2018)。
先行するPD-L1/TGF-β二重特異性抗体としてbintrafusp alfa (M7824) とSHR-1701が開発された。M7824はPhase I試験で客観的奏効率 (ORR; objective response rate) 21.3%を達成し、特にPD-L1高発現例では85.7%という高い奏効率を示した (Strauss et al. ClinCancerRes 2018)。しかしPD-L1高発現NSCLCを対象としたPhase III試験では、標準治療であるペムブロリズマブに対する優越性を示せなかった (Cho et al. 2023)。さらにM7824ではTGF-β関連皮膚毒性 (扁平上皮癌、角化棘細胞腫など) が問題となり、受容体トラップ設計や大分子量に起因する限界が指摘されてきた (Gulley et al. 2021)。一方、受容体融合型のSHR-1701は胃癌コホートでORR 20.0%、12ヵ月全生存率54.5%を示したが (Liu et al. 2022)、これら先行分子の経験からは、TGF-β阻害に伴う毒性の最小化と抗腫瘍効果の最大化を両立させる分子設計が課題として残されていた。
Y101Dは、Check-BODY (proprietary bispecific antibody platform) を基盤とする対称四価 (2:2) (Fab-Fv)₂-Fc設計の新規二重特異性抗体 (BsAb; bispecific antibody) である。第一世代の融合タンパク質である先行分子YM101は、大分子量・非選択的なTGF-β封鎖・製造均一性の問題を抱え臨床応用に限界があった (Yi et al. 2021)。Y101Dは抗TGF-βアームを受容体トラップではなく抗体由来のFvとし、Fc修飾により抗体依存性細胞傷害 (ADCC; antibody-dependent cellular cytotoxicity) と補体依存性細胞傷害 (CDC; complement-dependent cytotoxicity) を除去することで、半減期延長とオフターゲット毒性低減を意図して設計された。しかし、こうした次世代設計BsAbのヒトにおける安全性・薬物動態・薬力学・単剤有効性は依然として未解明であり、それらを示す臨床データは不足していた。すなわち、Check-BODY型対称四価設計が先行融合タンパク質で問題となった毒性を最小化しつつ確実な二重標的薬力学活性をヒトで両立できるかは明らかでなく、PD-L1/TGF-β同時阻害戦略の臨床的位置づけを裏づける first-in-human エビデンスが欠けていた。この知識の空白 (gap in knowledge) を埋める初のヒト初回投与評価が求められており、本Phase I試験はこの未解明の課題に直接取り組むものである。
目的
本Phase I試験の主目的は、標準治療不応の転移性または局所進行固形腫瘍患者を対象に、Y101D単剤療法の安全性・忍容性・薬物動態 (PK; pharmacokinetics)・薬力学 (PD; pharmacodynamics)・免疫原性を評価することであった。具体的には、用量漸増期で用量制限毒性 (DLT; dose-limiting toxicity) と最大耐用量 (MTD; maximum tolerated dose) を決定し、用量拡大期でY101Dの安全性とORRを評価することを主要目的とした。副次目的にはPK/PDパラメータ、免疫原性、無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival)、全生存期間 (OS; overall survival)、疾患制御率 (DCR; disease control rate) の評価を含めた。さらに薬力学的バイオマーカーとして、PD-L1標的占有率 (target occupancy) と循環TGF-βアイソフォーム濃度を経時的に測定し、Y101Dが意図された二重標的阻害活性をin vivoで発揮するかを検証することを企図した。これらを通じてQ2WまたはQ3W投与の妥当性を裏づけ、今後の開発戦略策定に資する基礎的臨床データを得ることを目指した。
結果
安全性プロファイルと忍容性: 安全性解析対象の全50例において、49例 (98.0%) に何らかの有害事象 (AE) が、35例 (70.0%) に治療関連有害事象 (TRAE; treatment-related adverse event) が発生した。Grade ≥3のTRAEは5例 (10.0%) にとどまり、Grade 4または5のTRAEは認められなかった。用量漸増期を通じてDLTは発生せず、MTDには到達しなかった。最も頻度の高いTRAE (全患者の≥5%) は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) 上昇 (20.0%)、歯肉出血 (18.0%)、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 上昇 (14.0%)、発疹 (14.0%)、蛋白尿 (14.0%)、喀血 (12.0%)、貧血 (12.0%)、発熱 (10.0%) であった (Table 2)。Grade ≥3の個別TRAEは喀血 (4.0%)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ (GGT; gamma-glutamyl transpeptidase) 上昇 (4.0%)、鼻出血 (2.0%)、肝機能異常 (2.0%)、1型糖尿病 (2.0%) であった。出血関連TRAEは主にGrade 1〜2の粘膜・尿路系イベントで、進行癌患者の背景因子 (気道・粘膜への腫瘍浸潤、先行局所療法、凝固異常など) の関与が示唆された。
免疫関連有害事象 (irAE) と用量依存性: 免疫関連有害事象 (irAE; immune-related adverse event) は全患者の22.0% (11例) で発生し、その大半はGrade 1〜2であった。irAE発生頻度には用量依存的傾向がみられ、10 mg/kg Q2W未満のコホートではirAEは観察されなかった。発生頻度は20 mg/kg Q2Wコホートで最も高く55.6% (5/9例)、次いで1200 mg Q3Wコホートで27.3% (3/11例、主に肝酵素上昇)、30 mg/kg Q2Wコホートで22.2% (2/9例)、20 mg/kg Q3Wコホートで8.3% (1/12例) であった。事象内容は20 mg/kg Q2W群で甲状腺機能低下・掻痒・発疹、30 mg/kg Q2W群で発熱・筋炎・心筋炎であった。重篤有害事象 (SAE) は5例 (10.0%) で発生し、感染性肺炎による死亡が1例報告されたが試験薬との関連はないと判断された。TRAEによる永続的投与中止・死亡・試験離脱はなかった (Table 2)。
薬物動態 (PK) プロファイル: 用量漸増期の単回投与後、Cmaxは用量にほぼ比例して増加した一方、AUC0–tおよびAUC0–∞は用量超比例的な増加傾向 (greater-than-dose-proportional increase) を示した (Figure 1A, B)。ただし各用量コホートの検体数が限られ変動が大きい点に留意が必要である。反復投与時のPK解析でも20 mg/kg Q3Wおよび1200 mg Q3WのPKプロファイルがQ3W投与スケジュールを支持した。対称四価Check-BODY構造とFc修飾による半減期延長が、2週ごと (Q2W) から3週ごと (Q3W) への投与間隔延長を可能にし、分子安定性・製造均一性の改善に寄与すると考えられた。20 mg/kg Q3Wと1200 mg Q3Wの曝露量は実質的に同等で、固定用量レジメンの実用性が裏づけられた。
薬力学 (PD) — 二重標的阻害の確認: 薬力学的解析では、Y101Dの意図された二重標的阻害活性が明確に確認された。全コホートで投与2時間後にPD-L1標的占有率が95%を超え、投与直前 (pre-dose) でも持続的な高占有率が維持された (Figure 2D)。また循環TGF-βサイトカイン (TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3の3アイソフォームすべて) は、10 mg/kg以上の用量で投与2時間以内に定量下限以下に達する迅速かつ持続的な抑制を示した (Figure 2A, B, C)。この二重標的の同時かつ完全な薬理的遮断は、Y101DがヒトにおいてPD-L1とTGF-βの双方をin vivoで効果的に標的化していることを強く支持し、Q3W投与でも薬理活性が維持されることを示した。
抗腫瘍活性 (有効性): データカットオフ時点 (2024年1月15日) で47例が有効性評価可能であった。全体の確認ORRは2.1% (1/47例、95% CI 0.1-11.3%) で、唯一の確認部分奏効 (PR) は20 mg/kg Q2WコホートのES-SCLC患者1例で得られた (Figure 3)。安定 (SD) は3例で、全体の確認DCRは8.5% (4/47例、95% CI 2.4-20.4%) であった。確認DCRは1 mg/kg Q2W (33.3%)、3 mg/kg Q2W (33.3%)、20 mg/kg Q2W (22.2%) のコホートで観察されたが、他用量では認められず明確な用量反応関係はなかった。全体の中央値PFSは1.3ヵ月 (95% CI 0.9-1.3)、中央値OSは10.5ヵ月 (95% CI 6.6-12.7) であった。腫瘍種別では、ES-SCLC拡大コホート (n=14) でORR 7.1% (1/14例、95% CI 0.2-33.9%)、DCR 14.3% (2/14例)、中央値PFS 1.3ヵ月、中央値OS 11.5ヵ月 (95% CI 6.6-未到達) を示し、ES-SCLC群のORR 7.1% は全体集団のORR 2.1% (95% CI 0.1-11.3%) を上回った (ES-SCLC vs 全体集団)。大腸癌・胆管癌・肺腺癌を含む他腫瘍種コホートでは確認PRは得られず、Y101D単剤の抗腫瘍活性は限定的であった。
考察/結論
本Phase I試験は、Y101D単剤療法の初のヒト評価として、管理可能な安全性プロファイルと確実な薬力学的標的活性を確認した。DLTは発生せずMTDにも到達せず、Grade ≥3のTRAEは10.0%にとどまった。一方で単剤の抗腫瘍活性は限定的で、確認PRはES-SCLC 1例のみであった。これらの所見は、Y101Dの安全性とon-target薬理活性を裏づけると同時に、単剤での有効性には限界があることを明確に示している。
先行研究との違い:本研究で得られたGrade ≥3 TRAE 10.0%は、先行するPD-L1/TGF-β阻害薬であるM7824の21% (Strauss et al. 2018) およびSHR-1701の22% (Liu et al. 2022) と比較して数値的に低く、これまでの研究とは対照的な毒性プロファイルであった。特にM7824で問題となったTGF-β関連皮膚毒性 (扁平上皮癌、角化棘細胞腫) が本試験では観察されなかった点は、Fc修飾によるADCC/CDC除去がオフターゲット免疫活性化を低減した可能性を示唆し、既報の融合タンパク質型分子と異なる安全性挙動を示した。ただし単剤ORR 2.1%はM7824やSHR-1701の20%台より低く、不均一・多治療歴・バイオマーカー非富化のPhase I集団であることから、試験間の直接比較は記述的文脈に限定すべきである。
新規性:本研究で初めて、Check-BODYプラットフォームに基づく対称四価設計の二重特異性抗体Y101Dが、ヒトにおいて管理可能な安全性と95%超のPD-L1占有率・TGF-β3アイソフォームの完全抑制という確実な二重標的薬力学活性を発揮することが臨床で実証された。これはこれまで報告されていない次世代BsAb設計の臨床的プルーフ・オブ・コンセプトである。唯一の確認PRがTGF-β駆動免疫抑制が重要なES-SCLCで得られたことは、本疾患でのnovelな選択的有効性の可能性を示す仮説形成的所見である。
臨床応用:Y101D単剤での限定的有効性という知見は、今後の臨床応用として(1) ES-SCLCなど疾患特異的・バイオマーカー富化コホートへの絞り込み、(2) 化学療法や他免疫療法との合理的併用レジメンの構築、という2方向を支持する。近年、PD-1/VEGFを標的とする二重特異性抗体ivonescimabが進行扁平NSCLCの化学療法併用で臨床的有用性を示しており (Lu et al. Lancet 2026)、二重特異性抗体を化学療法・免疫療法基盤に組み込む開発戦略の有望性を裏づける。PD-L1発現やcombined positive score (CPS) などの患者選択指標とTGF-βシグナル関連バイオマーカーを併用した層別化が、本剤の臨床的有用性を最大化する鍵となり、確実な薬力学活性は併用パートナーとの橋渡しにおいて有利に働くと考えられる。
残された課題と限界:本試験の主要なlimitationは、小規模かつ不均一なサンプルサイズ (n=50) に基づく記述的エビデンスにとどまること、非無作為化拡大コホートの選択バイアス、後続治療の影響によるPFS–OSの乖離、バイオマーカー解析が探索的で事前定義された予測カットオフを欠くことである。今後の検討課題として、バイオマーカーに基づく患者選択を組み込んだ大規模試験と、Y101Dと化学療法・免疫療法との併用の有効性・安全性評価が不可欠であり、PD-L1/TGF-β二重阻害戦略の真価を確認するには更なる検討が求められる。
方法
試験デザインと患者登録:本試験は多施設共同・非盲検・Phase I用量漸増および用量拡大試験として実施された (ClinicalTrials.gov識別子: NCT05028556)。登録期間は2021年8月から2024年1月であった。主な適格基準は、標準治療不応の転移性または局所進行固形腫瘍、ECOG Performance Status (PS; performance status) 0〜1、十分な臓器機能とし、合計50例が登録された。
投与スケジュールとコホート:Y101Dは静脈内投与された。用量漸増期では1 mg/kg Q2W (n=3)、3 mg/kg Q2W (n=3)、10 mg/kg Q2W (n=3)、20 mg/kg Q2W (n=9)、30 mg/kg Q2W (n=9) の5用量レベルを評価した。用量拡大期では20 mg/kg Q3W (n=12) と固定用量1200 mg Q3W (n=11) を設定し、拡大コホートには進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC; extensive-stage small cell lung cancer) 患者を含めた。DLT評価期間は初回投与後のDay 1〜Day 28とした。
評価方法と統計解析:安全性は有害事象共通用語規準 (CTCAE; Common Terminology Criteria for Adverse Events) v5.0に基づき評価し、抗腫瘍効果は固形癌効果判定規準 (RECIST; Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1または免疫関連iRECISTで判定した。主要エンドポイントは用量漸増期のDLTおよびMTD、用量拡大期の安全性とORRとした。副次エンドポイントにはPK、PD、免疫原性、PFS、OS、DCRを含めた。PKパラメータ (Cmax、AUC0–t、AUC0–∞、半減期) は非コンパートメント解析 (non-compartmental analysis) により導出した。PDとしてPD-L1標的占有率と血清TGF-β1/2/3濃度を測定し、免疫原性は抗薬物抗体 (ADA; anti-drug antibody) の有無で評価した。生存解析にはKaplan–Meier法を用い、奏効率・有害事象などは記述統計で要約した。サンプルサイズが小規模かつ腫瘍種が不均一であるため、用量反応関係およびtime-to-eventエンドポイントは探索的・記述的解釈にとどめる方針とした。