• 著者: Marina C Garassino, Shirish Gadgeel, Emilio Esteban, Enriqueta Felip, Giovanna Speranza, Manuel Domine, Maximilian J Hochmair, Steven Powell, Susanna Yee-Shan Cheng, Helge G Bischoff, Nir Peled, Martin Reck, Rina Hui, Edward B Garon, Michael Boyer, Ziwen Wei, Thomas Burke, M Catherine Pietanza, Delvys Rodríguez-Abreu
  • Corresponding author: Marina C Garassino (Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori, Milan, Italy)
  • 雑誌: The Lancet Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-02-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32035514

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) は、疲労、食欲不振、疼痛、呼吸困難、咳嗽といった疾患関連症状により、患者に高い疾病負担をもたらすことが知られている Iyer et al. Support Care Cancer 2014。このため、NSCLCの治療においては、生存期間の延長だけでなく、症状緩和と生活の質 (QOL) の改善も重要な臨床目標である。免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブは、PD-1を標的とするモノクローナル抗体であり、NSCLC治療においてその有効性が確立されている。

先行研究であるKEYNOTE-024試験では、PD-L1腫瘍割合スコア (TPS) が50%以上の未治療転移性NSCLC患者において、ペムブロリズマブ単剤療法がプラチナ製剤ベースの化学療法と比較して、全生存期間 (OS) を有意に改善し (ハザード比 [HR] 0.60, 95% CI 0.41-0.89, p=0.005)、無増悪生存期間 (PFS) も延長した (HR 0.50, 95% CI 0.37-0.68, p<0.001) ことが報告されている Reck et al. NEnglJMed 2016。さらに、この試験の患者報告アウトカム (PRO) 解析では、ペムブロリズマブ群で全般的健康状態/QOL (GHS/QOL) スコアの改善と、咳、胸痛、呼吸困難といった肺癌症状の悪化までの期間の延長が確認され、HRQoLの改善が示された Brahmer et al. LancetOncol 2017

しかし、ペムブロリズマブと化学療法の併用療法がHRQoLおよび症状緩和に与える影響については、これまで詳細な検証が不足していた。特に、PD-L1発現レベルにかかわらず、未治療の転移性非扁平上皮NSCLC患者に対するペムブロリズマブとペメトレキセド・プラチナ併用療法の有効性を評価した第III相KEYNOTE-189試験では、既にOS (HR 0.49, 95% CI 0.38-0.64, p<0.001)、PFS (HR 0.52, 95% CI 0.43-0.64, p<0.001)、および客観的奏効率 (ORR) (47.6% vs 18.9%, p<0.001) において、プラセボと化学療法の併用と比較して顕著な優越性が報告されている Gandhi et al. NEnglJMed 2018

これらの有効性データは非常に重要であるが、化学免疫療法が患者のHRQoLや症状にどのような影響を与えるかについては、さらなる情報が求められていた。特に、化学療法に免疫療法を追加することによる新たな症状負担の可能性や、長期的なQOL維持効果については未解明な点が残されていた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、KEYNOTE-189試験の事前設定された探索的PRO解析として、未治療の転移性非扁平上皮NSCLC患者におけるペムブロリズマブとペメトレキセド・プラチナ併用療法が、プラセボとペメトレキセド・プラチナ併用療法と比較して、患者のHRQoLおよび肺癌関連症状に与える影響を評価することである。具体的には、主要PROエンドポイントとして、ベースラインから治療期間中(week 12)および化学療法終了後(week 21)までのEORTC QLQ-C30 GHS/QOLスコアの平均変化を比較する。また、副次PROエンドポイントとして、咳、胸痛、呼吸困難の複合エンドポイントにおける症状悪化までの期間を評価し、治療群間の差を検討する。これらの解析を通じて、化学免疫療法が生存期間の延長に加えて、患者のQOL維持および症状緩和に貢献するかどうかを明らかにすることを目指す。

結果

患者背景とPRO評価の遵守率: KEYNOTE-189試験には合計616例の患者が登録された。データカットオフ日 (2017年11月8日) 時点での追跡期間中央値は10.5ヶ月 (範囲 0.2-20.4ヶ月) であった。PRO解析対象集団は、ペムブロリズマブ群402例 (99%)、プラセボ群200例 (99%) であり、少なくとも1回のPRO評価を完了した。ベースラインでのQLQ-C30の遵守率は、ペムブロリズマブ群で359/402例 (89%)、プラセボ群で180/200例 (90%) と高かった。week 12時点では、それぞれ319/354例 (90%) と149/167例 (89%) であった。week 21時点では、ペムブロリズマブ群で249/326例 (76%)、プラセボ群で91/143例 (64%) と、プラセボ群で遵守率の低下が認められた (Table 1)。QLQ-LC13の遵守率も同様の傾向を示した。

主要PROエンドポイント:GHS/QOLスコアの変化: ベースライン時の平均GHS/QOLスコアは両治療群間で類似していた (ペムブロリズマブ群 62.0点, プラセボ群 60.6点)。

  • Week 12 (化学療法併用期間中): ベースラインからのGHS/QOLスコアの最小二乗平均 (LS mean) 変化は、ペムブロリズマブ群で+1.0点 (95% CI -1.3〜3.2、改善傾向)、プラセボ群で-2.6点 (95% CI -5.8〜0.5、悪化傾向) であった。両群間のLS平均差は+3.6点 (95% CI -0.1〜7.2) であり、統計的有意差には達しなかった (p=0.053)。この期間では、両群ともにGHS/QOLスコアは維持される傾向を示した。
  • Week 21 (化学療法後、ペメトレキセド維持療法期間中): ベースラインからのGHS/QOLスコアのLS平均変化は、ペムブロリズマブ群で+1.3点 (95% CI -1.2〜3.6、改善傾向) であったのに対し、プラセbo群では-4.0点 (95% CI -7.7〜-0.3、悪化) と有意な低下が認められた。両群間のLS平均差は+5.3点 (95% CI 1.1〜9.5) であり、ペムブロリズマブ群がプラセボ群と比較して有意にGHS/QOLスコアを改善方向に維持したことが示された (p=0.014) (Table 2)。

肺癌症状悪化までの期間 (咳、胸痛、呼吸困難の複合エンドポイント): 咳、胸痛、呼吸困難の複合エンドポイントにおける悪化までの期間中央値は、ペムブロリズマブ群で未到達 (95% CI 10.2ヶ月-未到達) であったのに対し、プラセボ群では7.0ヶ月 (95% CI 4.8ヶ月-未到達) であった。ハザード比 (HR) は0.81 (95% CI 0.60-1.09) であり、ペムブロリズマブ群で症状悪化までの期間が延長する傾向が認められたが、統計的有意差には達しなかった (p=0.16) (Figure 2A)。カプラン・マイヤー曲線は、追跡開始後約3ヶ月から両群間で分離し始めた。この複合症状の悪化は、ペムブロリズマブ群の129/402例 (32%)、プラセボ群の66/200例 (33%) で発生した。

個別症状および機能スケールの変化: week 12時点では、QLQ-C30の機能尺度および症状尺度において、両群間でベースラインからの平均変化に大きな差は認められなかった (Figure 3A, 3C)。しかし、week 21時点では、ほとんどの機能尺度および症状尺度において、ペムブロリズマブ群がプラセボ群よりも良好なベースラインからの平均スコア変化を示した (Figure 3B, 3D)。特に、呼吸困難と疼痛の症状尺度スコアは、ペムブロリズマブ群で改善したのに対し、プラセボ群では悪化または安定していた (Figure 3D)。例えば、呼吸困難スコアはペムブロリズマブ群でベースラインから平均-2.5点改善したのに対し、プラセボ群では平均+2.0点悪化した。

GHS/QOLおよび機能・症状スケールのレスポンダー解析: week 21時点において、GHS/QOLの悪化 (ベースラインから10点以上の低下) は、ペムブロリズマブ群で105/402例 (26%) であったのに対し、プラセボ群では75/200例 (38%) と、プラセボ群でより頻繁に発生した。逆に、GHS/QOLの改善 (ベースラインから10点以上の改善) は、ペムブロリズマブ群で121/402例 (30%)、プラセボ群で45/200例 (23%) と、ペムブロリズマブ群でより多くの患者が改善を報告した (Figure 4)。この傾向は、ほとんどの機能尺度および症状尺度でも同様であった。特に、疼痛と呼吸困難の症状尺度において、改善、安定、悪化の分布に最も顕著な差が認められた。例えば、疼痛では、ペムブロリズマブ群で改善が173/402例 (43%)、悪化が99/402例 (25%) であったのに対し、プラセボ群では改善が69/200例 (35%)、悪化が69/200例 (35%) であった。呼吸困難では、ペムブロリズマブ群で改善が141/402例 (35%)、悪化が99/402例 (25%) であったのに対し、プラセボ群では改善が57/200例 (29%)、悪化が75/200例 (38%) であった (Figure 4)。

病勢進行がPROに与える影響: 病勢進行の有無がQLQ-C30 GHS/QOLスコアのベースラインからの平均変化に与える影響を分析した結果、病勢進行した患者において、ペムブロリズマブ群ではGHS/QOLにほとんど変化がなかったのに対し、プラセボ群ではGHS/QOLの低下が認められた。病勢進行していない患者では、両治療群ともにGHS/QOLのベースラインからの変化は小さかった。このことは、ペムブロリズマブの追加が病勢進行後もQOLを維持する可能性を示唆している。

考察/結論

KEYNOTE-189試験のPRO解析は、未治療の転移性非扁平上皮NSCLC患者において、ペムブロリズマブと標準的なプラチナ製剤ベースの化学療法併用が、プラセボと化学療法併用と比較して、患者の全般的健康状態/QOL (GHS/QOL) を維持し、特にweek 21時点では有意に改善することを示した重要な補完データである。この結果は、本試験で既に報告されているOS (HR 0.49, 95% CI 0.38-0.64, p<0.001) およびPFS (HR 0.52, 95% CI 0.43-0.64, p<0.001) の優越性に加えて、化学免疫療法が患者のQOL維持にも貢献することを示唆している。

先行研究との違い: 本研究は、ペムブロリズマブ単剤療法でPRO改善が示されたKEYNOTE-024試験の結果と整合するが、化学療法との併用療法においても同様のQOL維持効果が得られることを示した点で、これまでの報告と異なる。KEYNOTE-024試験では、PD-L1高発現患者におけるペムブロリズマブ単剤と化学療法の比較において、GHS/QOLスコアのベースラインからの平均変化の治療群間差が約8点であったのに対し、本研究ではweek 21で5.3点 (95% CI 1.1-9.5, p=0.014) の差が認められた。また、KEYNOTE-024では咳、胸痛、呼吸困難の複合エンドポイントにおける悪化までの期間で有意差が認められた (HR 0.66, 95% CI 0.44-0.97, p=0.029) のに対し、本研究では延長傾向はあったものの有意差には至らなかった (HR 0.81, 95% CI 0.60-1.09, p=0.16)。これは、化学療法併用による初期の症状負担が影響した可能性も考えられる。

新規性: 本研究で初めて、ペムブロリズマブの追加が、化学療法による追加的な症状負担を増大させることなく、むしろ症状緩和を促進する可能性を示した。特に、week 21時点でのGHS/QOLスコアの有意な改善は、化学療法終了後の維持療法期間における免疫療法のQOL維持効果を明確に示した新規な知見である。また、PD-L1発現レベルにかかわらず、GHS/QOLの維持が一貫して観察された点も重要である。

臨床応用: これらの知見は、未治療の転移性非扁平上皮NSCLCに対する一次治療として、ペムブロリズマブとペメトレキセド・プラチナ併用療法の臨床的価値をさらに補強するものである。生存期間の延長に加え、患者のQOL維持・改善という観点からも、この治療レジメンが標準治療として推奨される強力な根拠となる。臨床現場において、医療従事者は患者に対し、この化学免疫療法が生存期間だけでなく、症状緩和やQOL維持にも寄与する可能性を説明できる。また、本データは、QALY (Quality-Adjusted Life Year) などの保健経済評価の基礎情報としても有用である。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。PROデータは治療期間中および治療中止後30日間の訪問時に収集されたため、それ以降の長期的なQOL変化については評価できていない。中央値10.5ヶ月の追跡期間では、ペムブロリズマブ併用療法のPROへの長期的な影響は不明である。また、病勢進行や有害事象による早期治療中止患者がプラセボ群で多かったため、両群間の完全な比較は困難であった可能性も残された課題である。しかし、対照群で早期中止が多かったことを考慮すると、治療効果が過大評価されている可能性は低いと考えられる。さらに、免疫関連有害事象 (irAE) がPROに与える具体的な影響や、他の化学免疫療法レジメン (例: KEYNOTE-407, CheckMate 9LAなど) とのPRO比較、高齢者やパフォーマンスステータスが低い患者など、特定のサブグループにおけるPRO解析も今後の検討課題である。

方法

試験デザインと参加者: KEYNOTE-189試験は、16カ国126施設で実施された多施設共同、二重盲検、無作為化、プラセボ対照の第III相臨床試験 (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02578680) である。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたステージIVの未治療非扁平上皮NSCLC患者で、EGFR遺伝子変異またはALK転座がなく、ECOGパフォーマンスステータスが0または1、18歳以上であった。測定可能病変はRECIST version 1.1に基づき評価された。患者は、以前に転移性疾患に対する全身療法を受けていないことが条件とされた。

無作為化と盲検化: 患者は2:1の比率で、ペムブロリズマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。無作為化は、PD-L1発現 (TPS ≥1% vs <1%)、プラチナ製剤の選択 (シスプラチン vs カルボプラチン)、および喫煙状況 (非喫煙者 vs 喫煙歴あり) によって層別化された。患者、治験担当医師、その他の治験関係者は治療割り付けについて盲検化された。

介入: ペムブロリズマブ群 (n=405) の患者は、ペムブロリズマブ200mgを3週間ごとに最大2年間 (35サイクル) 静脈内投与された。プラセボ群 (n=202) の患者は、生理食塩水プラセボを同様に投与された。全患者は、ペメトレキセド500mg/m²とカルボプラチン (AUC 5mg/mL/min) またはシスプラチン (75mg/m²) のいずれかを3週間ごとに4サイクル投与された後、ペメトレキセド維持療法を3週間ごとに継続した。治療は病勢進行、許容できない毒性、治療継続を妨げる疾患、治験担当医師の判断、または同意撤回まで継続された。ペムブロリズマブの用量減量は許可されなかった。

PRO評価: 患者報告アウトカムは、EORTC QLQ-C30 (全般的健康状態/QOL、機能尺度、症状尺度を評価) およびその肺癌特異的モジュールであるQLQ-LC13 (肺癌関連症状を評価) を用いて評価された Aaronson et al. JNatlCancerInst 1993。これらの質問票は、サイクル1~5、その後1年目は3サイクルごと、2~3年目は4サイクルごとに、治療中止時および30日間の安全性フォローアップ訪問時に実施された。患者は治験薬投与前、有害事象評価前、病状告知前にPRO質問票を完了した。

キーエンドポイント: 主要PROエンドポイントは、ベースラインからweek 12 (化学療法併用期間中) およびweek 21 (化学療法終了後、ペメトレキセド維持療法期間中) までのQLQ-C30 GHS/QOLスコアの平均変化であった。副次PROエンドポイントは、咳 (QLQ-LC13 質問1)、胸痛 (QLQ-LC13 質問10)、または呼吸困難 (QLQ-C30 質問8) の複合エンドポイントにおける悪化までの期間であった。悪化は、ベースラインスコアから10点以上の増加が初回に確認され、その後2回連続して10点以上の増加が確認された場合と定義された。

統計解析: PRO解析は、少なくとも1回の治験薬投与を受け、かつ少なくとも1回のPRO評価を完了したすべての無作為化患者を対象に、割り付けられた治療群に従って実施された。GHS/QOLスコアのベースラインからの平均変化は、制約付き縦断データ解析モデル (constrained longitudinal data analysis model) を用いて評価された。治療群間の咳、胸痛、呼吸困難の複合エンドポイントにおける悪化までの期間の差は、層別ログランク検定 (stratified log-rank test) を用いて評価され、ハザード比は層別Cox回帰モデル (Cox regression model) を用いて決定された。PRO解析のp値は名目的なものであり、多重性の調整は行われなかった。臨床的意義を評価するため、10点以上の変化を改善または悪化と分類するレスポンダー解析も実施された。欠測データは、マルコフ連鎖モンテカルロ法 (Markov chain Monte Carlo method) を用いた多重代入法により処理された。