• 著者: Shinya Sakata, Sho Saeki, Isamu Okamoto, Kohei Otsubo, Kazutoshi Komiya, Ryotaro Morinaga, Yasuto Yoneshima, Yuichiro Koga, Aimi Enokizu, Hiroto Kishi, Susumu Hirosako, Emi Yamaguchi, Naoko Aragane, Shinji Fujii, Taishi Harada, Eiji Iwama, Hiroshi Semba, Yoichi Nakanishi, Hirotsugu Kohrogi
  • Corresponding author: Isamu Okamoto (Kyushu University, Fukuoka, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27565912

背景

肺がんは世界で最も頻度の高いがん種であり、NSCLCはその約85%を占め、診断時に70%が切除不能・局所進行または転移性である。EGFR変異やALK (anaplastic lymphoma kinase) 再構成を有する患者ではTKI (tyrosine kinase inhibitor) が生存期間を著明に延長してきた一方、これらのドライバー変異を持たない患者では予後不良が続いており、プラチナ製剤ベースの一次化学療法後に増悪した場合の有効な選択肢が手薄であった。docetaxelが二次治療の標準薬として長年使用されてきたが、日本人患者を対象とした第III相試験でGrade 3/4の好中球減少が73.6-80.0%、FN (febrile neutropenia) が7.1-15.3%に達するという高頻度の血液毒性が問題であった。このため、既治療NSCLC患者に対してより優れた有効性と忍容性を持つ新たな細胞障害性薬剤の開発が急務とされていた。

Nab-paclitaxelはアルブミン結合型の溶剤フリーパクリタキセル (130 nm粒子) 製剤であり、前臨床xenograftモデルにおいて溶剤ベースパクリタキセルと比較して遊離paclitaxelの最大循環濃度が10倍高く、腫瘍内薬物濃度が33%高いことが示されている。胃がんを対象とした単アーム第II相試験では260 mg/m² q3w投与でORR 27.8% (95% CI 16.5-41.6%) が報告され、転移性乳がんを対象とした第III相試験では溶剤ベースパクリタキセルと比較してORR 33.0% vs 19.0% (p=0.001) と有意な優越性が示された。NSCLCにおいては未治療進行患者を対象とした第I/II相試験 (weekly 125 mg/m², day 1, 8, 15/28日サイクル) でORR 30% (95% CI 16-44%)、TTP (time to progression) 中央値5ヶ月 (95% CI 3-8ヶ月) という有望な成績が報告された。さらに中国人患者を対象とした既治療NSCLCへの第II相試験 (100 mg/m², day 1, 8, 15/28日サイクル) でもORR 16.1%、PFS中央値3.5ヶ月が示されていた。一方、ニボルマブ vs docetaxelの第III相試験 (Brahmer et al. NEnglJMed 2015 / Borghaei et al. NEnglJMed 2015) および pembrolizumab vs docetaxelのKEYNOTE-010試験 (Herbst et al. Lancet 2016) が免疫療法時代への転換をもたらしつつあったが、細胞障害性薬剤の役割は継続して重要であった。しかし既治療NSCLC患者に対するweekly nab-paclitaxel単剤の至適投与レジメン (サイクル長・用量) は確立されておらず、gap in knowledge として残存していた。

目的

プラチナ製剤含有化学療法後に増悪した既治療進行NSCLC患者を対象として、weekly nab-paclitaxel 100 mg/m² (day 1, 8, 15/21日サイクル) 単剤療法の有効性 (主要評価項目: ORR) および安全性を前向き多施設共同単アーム第II相試験 (KTOSG (Kumamoto Thoracic Oncology Study Group) Trial 1301、UMIN000010532) で評価すること。

結果

患者背景と登録状況:ドライバー変異混在のリアルワールドに近い集団:2013年9月から2015年4月にかけてn=41例が登録され、データカットオフ日は2016年2月4日 (Table 1)。年齢中央値68歳 (範囲43-77歳)、男性23例 (56.1%)。ECOG PS 0が15例 (36.6%)、PS 1が25例 (61.0%)、PS 2が1例 (2.4%)。組織型は腺癌29例 (70.7%)、扁平上皮癌8例 (19.5%)、未分類4例 (9.8%)。Stage IV 87.8% (36例)、Stage IIIB 2.4%、術後再発9.8%。腺癌29例では全例EGFR変異評価が実施され、exon 19欠失5例、L858R変異4例、G719S変異1例のEGFR変異陽性計10例が確認され、全員がEGFR-TKI前治療歴を有していた。前治療プラチナダブレットへのbest responseはPR 34.1%、SD 46.4%、PD 19.5%であり、前治療で一定の効果が得られた集団と得られなかった集団の双方が含まれていた。

主要評価項目達成:ORR 31.7%で事前閾値を大幅に上回る:全41例が有効性解析の対象となった。担当医評価によりPR 13例、CR 0例でORR 31.7% (90% CI 19.3%-44.1%) を達成し、事前に設定した主要評価項目 (下限閾値ORR 5%超え) を明確に上回った (Table 2)。SD 14例を加えたDCR (disease control rate) は65.9% (95% CI 51.3%-80.4%)、PD 13例 (31.7%)、評価不能1例 (2.4%) であった。Waterfall plot (Fig. 1) では41例のうち多くの症例で腫瘍縮小が確認され、-30%の閾値を下回る症例がPR 13例に相当した。docetaxel ORR 10-17% (historical) vs nab-paclitaxel ORR 31.7% という比較で、既治療NSCLCに対する日本人対象第III相試験の報告値を大幅に上回る成績であった。なお、設計上の期待ORR 17%に対しても実績値が大きく超過しており、試験は主要評価項目を十分に達成したと判断される。

無増悪生存期間:非扁平上皮癌でも5.0ヶ月の中央値:フォローアップ中央値9.3ヶ月 (範囲2.4-23.5ヶ月) の時点で、全患者のPFS中央値は4.9ヶ月 (95% CI 2.4-7.4ヶ月) であった (Fig. 2a)。組織型別サブグループ解析では、非扁平上皮癌 (n=33) のPFS中央値は5.0ヶ月 (95% CI 2.8-7.1ヶ月)、扁平上皮癌 (n=8) では2.8ヶ月 (95% CI 0-4.8ヶ月) と数値上の差が認められた (Fig. 2b)。非扁平上皮癌でのORRは30.3% (95% CI 14.6-46.0%)、PR 10/33例であり、nab-paclitaxelが扁平上皮癌のみならず非扁平上皮癌においても有望な活性を持つことが示された。なお、先行する中国人患者対象の既治療NSCLC第II相試験 (100 mg/m², day 1, 8, 15/28日サイクル) でのORR 16.1% (95% CI 8.9-24.7%)、PFS 3.5ヶ月 (95% CI 1.9-5.8ヶ月) と比較すると、本試験のより短いサイクル間隔 (21日 vs 28日) による高い用量密度が有効性の改善に寄与した可能性が示唆される。

全生存期間:OS中央値13.0ヶ月:OS中央値は13.0ヶ月 (95% CI 8.0-18.0ヶ月) であった (Fig. 3)。docetaxel OS 8-9ヶ月 (historical) vs nab-paclitaxel OS 13.0ヶ月 [DELTA試験 (docetaxel vs erlotinib Japanese phase III trial) およびV-15-32 (Japanese second-line NSCLC phase III study)試験 でのdocetaxel群報告値との比較] という数値的関係が観察されたが、単アーム試験であり試験間の直接比較は困難であること、後続治療の影響が含まれる可能性があることに留意が必要である。試験期間 (2013-2015年) はニボルマブ・ペムブロリズマブが承認される直前の時期であり、登録患者のほぼ全員がICI未治療の状態で後続治療を受けた点も背景として重要である。

治療投与強度と用量維持:89.1 mg/m²/週の安定した用量密度:治療サイクル数の中央値は4サイクル (範囲1-17)、15例 (36.6%) が6サイクル以上を完了した。用量強度の中央値は89.1 mg/m²/週であり、計画用量100 mg/m²/週の約89%が維持された。用量減量を要した患者は5例 (12.2%) のみであり、原因は全例が好中球減少であった。投与遅延や投与中止の最多原因も好中球減少であったが、全体的に忍容可能な投与強度が維持されたことを示している。

安全性プロファイル:FN 0%の優れた血液毒性忍容性:全41例が安全性解析の対象となった (Table 3)。血液毒性では白血球減少がany grade 26例 (63.4%)、Grade ≥3 7例 (17.1%; Grade 3: 12.2%、Grade 4: 4.9%)、好中球減少がany grade 23例 (56.1%)、Grade ≥3 8例 (19.5%; Grade 3: 7.3%、Grade 4: 12.2%) であった。貧血はany grade 24例 (58.5%) であったがGrade 3以上は0例、血小板減少はany grade 2例 (4.9%) でGrade 3以上0例であった。最も特筆すべき所見はFN (febrile neutropenia) が0例 (0%) であったことであり、既治療NSCLCに対するdocetaxel 60 mg/m² q3wを使用した日本人対象第III相試験でのFN発生率7.1-15.3%と対照的に顕著に低率であった。非血液毒性ではany grade脱毛症が32例 (78.0%) と最頻であったが、Grade 3以上の非血液毒性の発生頻度は末梢感覚性ニューロパチーが4.9% (Grade 3: 4.9%、Grade 4: 0%)、タンパク尿が2.4% (Grade 3: 2.4%) であり、個別非血液毒性のGrade 3以上は全て5%未満であった。間質性肺疾患は2例 (4.9%) に認められたがいずれもGrade 1-2、治療関連死亡は0例であった。食欲不振 (26.8%)、疲労感 (34.1%)、便秘 (7.3%) はいずれもGrade 3以上なしであった。

考察/結論

本試験は既治療進行NSCLC患者を対象としたweekly nab-paclitaxel 100 mg/m² (day 1, 8, 15/21日サイクル) 単剤療法の前向き多施設共同第II相試験であり、主要評価項目のORR 31.7% (90% CI 19.3-44.1%) を達成するとともに、FN 0%という卓越した安全性プロファイルを示した。これまでの研究で既治療NSCLCに対するdocetaxelのORRは10-17%、FN発生率は7.1-15.3%と報告されており、本試験結果と対照的に大きな差異を示した。特に血液毒性の管理において、docetaxelで問題となってきたFNリスクが本レジメンでは完全に回避されており、既報と相違して外来管理の観点から大きな優位性がある。非血液毒性についても個別Grade 3以上の頻度が全て5%未満であり、維持用量強度 (89.1 mg/m²/週、計画の89%) も良好であった。

新規性として、本研究で初めてweekly nab-paclitaxel 100 mg/m² (21日サイクル) スケジュールが既治療進行NSCLC患者において有効かつ安全であることが前向き多施設試験で実証された。先行する28日サイクルの既治療NSCLC対象試験 (ORR 16.1%、PFS 3.5ヶ月) と比較して、21日サイクルへの変更による用量密度向上がORR改善 (31.7%) につながった可能性を新規に提示した。また非扁平上皮癌でのORR 30.3%という結果は、これまで報告されていないweekly nab-paclitaxelの非扁平上皮型における有効性を明示した点でも新規な知見である。SPARC (secreted protein acidic and rich in cysteine) / gp60経路を介した腫瘍内薬物移行の機序が関与する可能性があるが、本試験では生体マーカー解析は実施されておらず、奏効予測因子の同定は今後の課題である。

臨床応用の観点では、本試験結果はweekly nab-paclitaxelが既治療進行NSCLC患者における臨床的意義のある選択肢であることを示している。特にFN 0%という安全性から、従来docetaxelでFN予防目的のG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) 投与が必要であった高齢者・骨髄機能低下例・累積骨髄毒性症例において、nab-paclitaxelへの代替が臨床現場での管理を簡便にする可能性がある。ICI (immune checkpoint inhibitor) が標準的な二次治療となった現在においても、ICI後の後続化学療法としてweekly nab-paclitaxelは実臨床で選択肢となっており、本試験の橋渡しとしての役割は大きい。本試験結果を踏まえて、既治療進行NSCLCを対象としたnab-paclitaxel vs docetaxelのランダム化第III相試験であるJ-AXEL (Japanese nab-paclitaxel vs docetaxel phase III trial) が計画・実施された (UMIN000017487、主要評価項目OS、n=500、ICI前治療歴あり例も適格)。

残された課題として、本試験は単アーム試験でdocetaxelとの無作為比較ができないこと、n=41という少数例で扁平上皮癌サブグループ (n=8) の解析に十分な統計的パワーがなかったこと、試験期間が免疫チェックポイント阻害薬の普及前であったためICI後サルベージとしての有効性は評価できていないこと、奏効予測バイオマーカー (PD-L1発現、SPARC等) の探索が実施されていないこと、が limitation として挙げられる。今後の研究として、J-AXEL試験によるdocetaxelとの直接OS比較の検証、ICI後・ICI難治例における化学療法の最適配置の確立、並びにnab-paclitaxelの奏効予測因子の同定が優先的な課題となる。

方法

日本国内10施設で実施したオープンラベル多施設共同単アーム第II相試験 (UMIN000010532)。適格基準: 20歳以上、組織学的・細胞学的に確認された進行NSCLC (Stage IIIB、IV、または術後再発)、根治的放射線療法の適応外病変を有する、プラチナ製剤含有化学療法1レジメン以上での増悪後、ECOG PS (performance status) 0-2。前治療での溶剤ベースpaclitaxel使用例は除外。EGFR変異例ではEGFR-TKI前治療を化学療法として許容、ALK再構成例ではALK-TKI前治療を許容。除外基準: 安定・無症候・治療済み以外の脳転移。ベースライン臓器機能要件: SpO2 ≥90% (室内気)、ヘモグロビン ≥9.0 g/dL、好中球 ≥1500/mm³、血小板 ≥100,000/mm³、AST・ALT ≤2.5×ULN、総ビリルビン ≤1.5 mg/dL、クレアチニン ≤1.5 mg/dL。生命予後 ≥12週。

投与レジメン: nab-paclitaxel 100 mg/m²を21日サイクルのday 1、8、15に30分間点滴静注で実施し、病勢増悪または忍容不能な毒性出現まで継続。各サイクル開始前の継続条件: 好中球 ≥1500/mm³、血小板 ≥75,000/mm³、ヘモグロビン ≥9.0 g/dL。day 8・15投与前条件: 好中球 ≥1000/mm³、血小板 ≥50,000/mm³。Grade 4好中球減少、Grade 3/4血小板減少、またはGrade 3/4の非血液毒性に対して20 mg/m²ずつ最低60 mg/m²まで減量可 (3回目の減量必要時は中止)。腫瘍評価はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1に従いCTを6週毎に実施。PR/CRは4週以上後に確認評価を実施、SDは試験治療開始から6週以上の持続が必要。毒性評価はNCI-CTC (National Cancer Institute Common Terminology Criteria) for Adverse Events version 4.0を使用。

統計設計: 先行試験の結果に基づき期待ORR 17%、閾値ORR 5%、検出力80%、片側α=0.05の前提でKaplan-Meier法を用いた設計により39例が必要と算出し、dropout率5%を考慮して計画登録数n=41。登録期間24ヶ月、追跡期間12ヶ月。time-to-event変数 (PFS・OS) はKaplan-Meier法で推定。ORRおよびDCRの信頼区間は正確法 (exact test) により算出。PFSはランダム化から疾患増悪確認日または全死因死亡日 (いずれか早い方)、OSはランダム化から全死因死亡日まで。主解析集団は少なくとも1回以上治療を受けた全患者。