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  • 著者: Florian Eichhorn, Laura V. Klotz, Mark Kriegsmann, Helge Bischoff, Marc A. Schneider, Thomas Muley, Katharina Kriegsmann, Uwe Haberkorn, Claus Peter Heussel, Rajkumar Savai, Inka Zoernig, Dirk Jaeger, Michael Thomas, Hans Hoffmann, Hauke Winter, Martin E. Eichhorn
  • Corresponding author: Martin E. Eichhorn (Department of Thoracic Surgery, Thoraxklinik, Heidelberg University Hospital, Heidelberg, Germany)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33529989

背景

肺がんは世界の癌関連死の最大原因であり、GLOBOCAN 2018データによると年間180万人以上が死亡している (Bray et al. CA Cancer J Clin 2018)。早期・局所進行NSCLC (non-small cell lung cancer、非小細胞肺癌) においては手術が根治療法の中心であるが、リンパ節転移陽性Stage II/IIIでは術後再発リスクが依然として高い。IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer) の病期分類プロジェクトによれば、N1陽性NSCLCの5年生存率は49%、N2陽性では36%にとどまる (Asamura et al. J Thorac Oncol 2015)。術後補助化学療法 (cisplatinダブレット) は5年生存率を約5%改善するに過ぎず、より有効な集学的治療戦略が切望されてきた (Arriagada et al. J Clin Oncol 2010)。この限定的な予後改善こそが gap in knowledge であり、「何が足りなかったか」を示す出発点となった。

PD-1 (programmed cell death protein 1)/PD-L1 (programmed cell death ligand 1) 経路を標的とするICI (immune checkpoint inhibitor、免疫チェックポイント阻害薬) はStage IV NSCLCで承認を受け、KEYNOTE-010試験ではペムブロリズマブがdocetaxelに対してPD-L1陽性患者での生存改善を示した (Herbst et al. Lancet 2016)。またStage III NSCLCでは化学放射線療法後のdurvalumab維持療法による長期生存改善も報告されている (Gray et al. JThoracOncol 2020)。

術前 (neoadjuvant) ICI療法は「腫瘍抗原が現存する状態で免疫応答を増強するin situ cancer vaccine効果」に加え、micrometastasisへの全身免疫応答も惹起できるという理論的優位性がある。ニボルマブを用いた術前ICI療法を最初に報告したForde et al. の21例パイロット試験では、切除施行20例中9例 (45%) でMPR (major pathologic response、主要病理学的奏効) が達成され大きな注目を集めた (Forde et al. NEnglJMed 2018)。しかし、ニボルマブ以外のPD-1阻害薬—特にペムブロリズマブ—を用いた切除可能NSCLCへの術前療法の前向きデータは手薄であり、安全性・MPR率・PD-L1バイオマーカー関連に関する情報が不足していた。

目的

切除可能Stage II/IIIA (リンパ節転移陽性) NSCLCを対象として、術前ペムブロリズマブ200 mg×2サイクル投与の安全性・実施可能性 (R0切除率・手術タイミング)・病理学的奏効率 (MPR、CPR [complete pathologic response]) を前向きに評価する。本報告はNEOMUN (neoadjuvant immunotherapy in nodal-positive NSCLC) 試験の15例中間安全性解析の初回臨床報告である。

結果

患者背景と試験実施状況:2018年5月から2020年3月の間にn=15例 (女性8例、男性7例、平均年齢59.8歳、範囲40-83歳) が登録され、2020年5月15日を中間解析カットオフ日とした (Table 1)。臨床病期はStage II 6例、Stage IIIA 9例 (60%) で、過半数が局所進行例を占めた。組織型は腺癌 (adenocarcinoma、ADC) 13例 (87%)、扁平上皮癌 (squamous cell carcinoma、SqCC) 2例 (13%) であった。プロトコール遵守率は80% (n=12/15例) で、残りn=3例 (20%) はプロトコール逸脱を来した: Grade 3 TRAEにより2例が1サイクル後に2サイクル目投与を中断 (甲状腺炎1例、皮膚発疹1例)、1例が2サイクル目後に治療関連事象でステロイド治療を要し手術が13日遅延した。それにもかかわらず全n=15例が最終的に手術施行に至り、プロトコール逸脱が手術機会を失わせることはなかった。

安全性と周術期アウトカム:TRAE (treatment-related adverse events、治療関連有害事象) はGrade 2-3がn=5/15例 (33%) に発現した。最頻TRAEは甲状腺炎 (thyroiditis) でn=4例 (26%) に認め、Grade 3が2例・Grade 2が2例 (患者12・13) であった。最も重篤な事例 (患者3) では、2サイクル目投与後2週間で甲状腺炎・下垂体炎に続く重症出血性大腸炎 (血性下痢) が発現し、高用量ステロイド療法で回復した (Fig. 1A)。皮膚発疹Grade 3の1例 (患者7) は組織学的に扁平苔癬 (lichen ruber planus) と診断され、経口・外用ステロイドおよび紫外線療法で治療された (Fig. 1B)。ステロイド治療を要したn=3例では手術遅延は最長13日にとどまった。Grade ≥4の有害事象および治療関連死亡は0例であった。

手術成績として、全n=15例 (100%) が手術を完遂し全例でR0切除 (margin-negative完全切除) を達成した。術式は全例が肺葉切除 (lobectomy) であった。術後ICU (intensive care unit) 滞在日数の中央値は1日 (範囲1-6日)。術後合併症は7% (n=1/15例): 市中肺炎1例のみで治療非関連とみなされ、抗菌薬治療で完全回復した。術後30日死亡率は0%であった。術前ICI投与が手術操作や術後経過に悪影響を及ぼすエビデンスは認められなかった。

放射線学的・代謝反応:18F-FDG-PET/CTデータはn=14例で前後評価可能であった (n=1例は1サイクル後に安全上の理由から手術のためPET再評価なし)。CT腫瘍径変化率の平均は-16.9% (範囲-45.4%から+15.0%)。RECIST 1.1基準での評価: 部分奏効 (PR) n=4例、病態安定 (SD) n=10例、完全奏効・進行は0例 (Fig. 2)。PET代謝反応: FDG腫瘍標的病変のSUVmaxが ≥25%低下した代謝部分奏効はn=6例に認めた。2例では標的リンパ節数の同時減少も確認された。一方、n=5例 (33%) で標的リンパ節SUVmaxが逆に増加し、n=4例では腫瘍とリンパ節のSUVmaxが逆方向に変化した (bidirectional response) (Fig. 2)。注目すべき症例として、患者11では免疫療法後に同側・対側縦隔リンパ節でSUVmaxが+83%上昇し、画像上は縦隔リンパ節広範転移 (cN3相当) を疑わせる所見を呈した (Fig. 3)。しかし術後病理では非乾酪性肉芽腫 (noncaseating granuloma) によるサルコイド様反応と診断され、「nodal immune flare」の典型例として記録された。この現象は全体の約13%に観察され、術前ICI後のPET所見が腫瘍量と乖離するリスクが明確化された。甲状腺でのFDG集積亢進がn=3例、重症自己免疫性大腸炎に伴う結腸FDG集積がn=1例に認められ、TRAEがPET解釈を複雑化することも示された。

病理学的奏効とPD-L1発現:MPR (残存腫瘍 ≤10%) はn=4/15例 (27%; 95% CI 8-55%) で達成された (Table 2)。内訳はCPR n=2例・残存腫瘍1-2%のMPR n=2例であった。CPR例の病理像: 患者4 (SqCC、PD-L1 TPS 60%) では腫瘍細胞が完全消失し腫瘍床が壊死・ストロマ (99%) に置換された (Fig. 4); 患者13 (ADC、PD-L1 TPS 1%) も腫瘍0%・ストロマ95%・壊死5%であった。MPR例: 患者8 (ADC、PD-L1 TPS 95%) は腫瘍2%・ストロマ98%; 患者12 (ADC、PD-L1 TPS 10%) は腫瘍1%・ストロマ89%・壊死10%。1例ではMPR原発巣に対して縦隔リンパ節に病理学的奏効が得られず、原発巣とリンパ節の応答乖離が示された。PD-L1陰性 (TPS 0%) のn=5例中2例で部分奏効 (PR) が観察された。

PD-L1発現とMPRの関連解析では、PD-L1 TPS ≥10%群 (n=4) では3例 (75%) がMPR/CPRを達成した一方、TPS <10%群 (n=11) では1例 (9%) にとどまり (75% vs 9%)、有意差が確認された (Fisher exact検定、p=0.033; 95% CI 8-92%)。MPR/CPR達成n=4例全例でPD-L1 TPS ≥1%であった。術前生検と手術検体間のPD-L1 TPS変動が多くの症例で認められ (代表例: 患者1では生検0%→手術検体1%、患者8では生検95%→手術検体80%)、腫瘍内PD-L1発現の不均一性・動的変化が示唆された。

PET代謝反応と病理学的奏効の一致性:CPR/MPRを達成したn=4例全例においてEORTC基準による有意なFDG代謝部分奏効 (SUVmax ≥25%低下) が確認された。MPR達成群と非達成群間でPET腫瘍標的病変における代謝応答率に有意な正相関が認められた (r=0.73, n=14, Fisher exact p=0.015; Fig. 2)。しかし、MPR/CPR達成例でも所属リンパ節の代謝低下が腫瘍部と一致したのはn=4例中わずか1例にとどまり、一次腫瘍とリンパ節のPET応答解離が術前ICI療法の特徴的所見として明確化された。RECIST 1.1画像奏効 (PR vs SD)、リンパ節の代謝反応、TRAEの発現はいずれもMPR達成との有意な関連を示さなかった。

考察/結論

本NEOMUN試験中間解析は、切除可能Stage II/IIIa NSCLCに対するペムブロリズマブ術前ICI単剤療法の安全性と実施可能性を前向きに評価した。MPR率27% (n=4/15例)、CPR率13% (n=2/15例) という結果を示し、全例R0切除・術後30日死亡0%・Grade ≥4 TRAE 0件という安全性プロファイルが確認された。

既存研究と異なる点:先行研究であるForde et al. の術前ニボルマブ試験 (MPR 45%、9/20例) とは異なりMPR率が低かったが、本試験はより進行例 (Stage IIIA 60%) を対象とし、Stage I症例を除外するという設計上の相違がある。症例数の差も直接比較を困難にしており、Stage IV患者の後ろ向き比較でペムブロリズマブとニボルマブの有効性は既報で概ね同等とされている (Cui et al. Sci Rep 2020; Peng et al. Int Immunopharmacol 2017)。また、これまでの報告とは対照的に、本試験ではGrade 3 TRAEと良好な病理学的奏効の間に正の相関は認められなかった点も注目すべき相違点である。

新規な知見:ペムブロリズマブを用いた術前単剤ICI療法がStage II/IIIa NSCLCで安全かつ実施可能であることが新規の前向きデータで確認された。術後合併症率7%はICI非使用の歴史的コントロールと同等であり、術前ペムブロリズマブが手術難易度・術後経過に悪影響を及ぼさないことが新規の文脈で実証された。また、nodal immune flare (免疫誘導性リンパ節炎症) をNEOMUN試験で病理組織学的に確認し、術前ICI後のPET-CT所見と腫瘍量の乖離リスクを系統的に記録した点も新規に示された知見である。この現象はNEOSTAR (Neoadjuvant Nivolumab or Nivolumab plus Ipilimumab in Resectable NSCLC) 試験の11%と同程度 (本試験13%) であり、術前ICI後の画像解釈における重要な注意点として確立された。

臨床的意義と患者選択:術前ICI療法の臨床応用において、PD-L1 TPS ≥10%がMPRと有意に関連する (p=0.033) という知見は患者選択バイオマーカーの候補を示す。一方でPD-L1陰性例 (n=2例) での部分奏効観察は、PD-L1発現のみによる患者除外が適切でないことを示唆する。Ilie et al. が報告した術前小生検vs手術検体間のPD-L1 discordance率48%は本試験でも確認され、術前生検によるPD-L1評価の限界 (臨床的意義の限定性) が再確認された。MPRは術前化学療法後の長期生存予測指標として確立されており、術前ICI後のサロゲートエンドポイントとしての有用性が引き続き注目される。本試験は後続の大規模術前ICI試験 (CheckMate 816、KEYNOTE-671等) の先駆的エビデンスとして、bench-to-bedside の橋渡しを果たした。

残された課題:サンプルサイズn=15例の中間解析であることが最大のlimitation (制限事項) であり、統計学的検出力が限定的である。長期PFS (progression-free survival)・OS (overall survival) データはまだ成熟しておらず、MPRが実際の生存改善と相関するかの検証が今後の検討として必要である。TMB (tumor mutational burden)・TIL (tumor-infiltrating lymphocytes) 等の補完的バイオマーカーによる患者選択最適化も残された課題である。ICI単剤 (MPR約27%) vs ICI+化学療法併用 (CheckMate 816でMPR 36.9%) の直接比較、およびPEARLS (Pembrolizumab As Adjuvant Therapy for Resectable NSCLC)/KEYNOTE-091試験など術後アジュバントICI追加の必要性についても更なる検討が求められる。本試験の最終結果と長期フォローアップデータが切除可能NSCLC領域の術前ICI戦略確立に重要な貢献をすることが期待される。

方法

NEOMUN試験 (NCT03197467) は単施設・前向き・単アーム・非盲検の investigator-initiated 第II相試験として実施された。対象は生検確認済みのclinical Stage II/IIIA (TNM第7版、cT1-3N1-2M0) NSCLCで、治療歴なし・根治手術候補・ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 0-1を満たす症例を登録した。EGFR/ALK等のドライバー変異陽性例、および臨床Stage I症例 (手術単独で高い根治率が見込める群) は除外した。登録は2018年5月に開始し、中間解析カットオフは2020年5月15日とした。

介入プロトコールとして、ペムブロリズマブ200 mgを3週毎に2サイクル静脈内投与し、2サイクル目から21日以降に根治手術 (肺葉切除+系統的リンパ節郭清) を施行した。術前・術後のFDG-PET/CT (18F-fluorodeoxyglucose positron emission tomography/computed tomography) 再病期診断をBiograph mCT Flow PET/CTスキャナー (Siemens Medical Solutions使用) で実施した。

病理学的評価はIASLC基準 (Travis et al. J Thorac Oncol 2020) に従い実施した。MPRは残存腫瘍 ≤10%、CPR (complete pathologic response、完全病理学的奏効) は残存腫瘍0%と定義した。Junker分類 (退縮スコアI-III) での腫瘍退縮グレードも並行記録した。PD-L1評価はTPS (tumor proportion score、腫瘍割合スコア) をSP263クローン (Ventana Benchmark Ultra) で実施した。放射線学的奏効はRECIST 1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 基準で評価し、PET代謝反応はEORTC (European Organisation for Research and Treatment of Cancer) 推奨基準に従いSUVmax (standardized uptake value maximum、最大標準取り込み値) の ≥25%低下を代謝部分奏効と定義した。有害事象はNCI-CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.03で評価した。統計解析はFisher exact検定を用い、p<0.05を有意と判定した。生存期間の解析はKaplan-Meier法で推定し、群間比較にはlog-rank検定を適用する計画とした。