• 著者: Chelsea M. Karacz, Jingsheng Yan, Hong Zhu, David E. Gerber
  • Corresponding author: David E. Gerber (Division of Hematology-Oncology, Harold C. Simmons Comprehensive Cancer Center, University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, TX, USA)
  • 雑誌: Clinical Lung Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-12-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31932216

背景

肺癌は米国における癌関連死亡の約4分の1を占め、乳癌・前立腺癌・大腸癌の合計を超える最大の癌死因であり、新規診断の70%以上が転移を伴う進行期として発見される (Walters et al. Thorax 2013)。一方、肺癌スクリーニングの普及と外科・放射線・薬物療法の進歩により、Stage I-IIIとして根治的治療を受ける患者数は今後さらに増加すると予測される。この集団に対して最適な術後監視サーベイランス戦略を構築するには、再発のタイミング・種類・解剖学的部位に関する詳細なエビデンスが不可欠である。

しかし、SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results)、NCDB (National Cancer Database)、VA (Veterans Affairs) データベースをはじめとする主要な国家規模データセットは、再発の部位・タイミングを収録しておらず、臨床試験でもこれらのデータは系統的に報告されてこなかった。既存の後向き研究はStage I NSCLCを対象とした限定的なものが大多数であり (Maeda et al. JThoracOncol 2010; Martini et al. JThoracCardiovascSurg 1995; Al-Kattan et al. EurJCardiothoracSurg 1997)、全肺癌症例の20%未満しか代表していなかった。SCLCでは脳転移リスクの高さから予防的頭蓋照射が確立されているが (Slotman et al. NEnglJMed 2007)、NSCLCにおける組織型・病期別のCNS再発リスクは不明であり (Patil et al. JThoracOncol 2018)、免疫療法導入後の切除可能NSCLCにおける再発パターンの変化も解明されていなかった (Eichhorn et al. LungCancer 2021)。多様な病期・組織型・人種背景を含む実臨床集団における包括的な再発パターンデータは手薄であり、具体的にどの患者がいつ・どの部位に再発するかが不明であったため、CNS再発を含む術後サーベイランス戦略の科学的根拠が欠如していた。

目的

University of Texas (UT) Southwestern Medical Center腫瘍登録データを用いて、Stage I-IIIの多様な肺癌患者群において再発の発生率・種類・部位・タイミングと関連臨床因子を包括的に解析し、術後監視サーベイランス戦略の改善に資するエビデンスを提供する。

結果

患者背景と全体的再発率: 解析対象は1,619例 (1次癌1,481例・2次132例・3次6例) で、n=1,549の患者から収集された (Figure 1, Table 1)。女性51% (n=821)・男性49% (n=798)、65歳以下48%・65歳超52%、白人75% (n=1,213)・アフリカ系アメリカ人15% (n=250)・その他10% (n=156)。TNM病期はStage I 53% (n=856)・Stage II 16% (n=255)・Stage III 23% (n=367)・不明8%。組織型は腺癌52% (n=838)・扁平上皮癌22% (n=361)・SCLC (小細胞肺癌) 5% (n=88)・NSCLCその他21% (n=332)。治療は局所療法のみ61% (n=980)・全身療法含む39% (n=639)。ゲノム解析実施は130例で、ドライバー変異陽性は11例にとどまった。全体として1,619例中487例 (30%) に再発が認められ、再発形式の内訳は局所108例 (7%)・領域103例 (6%)・遠隔273例 (17%)・不明49例 (3%)・再発なし1,086例 (67%) であった。

再発の独立予測因子 (多変量ロジスティック回帰): 単変量解析では年齢≤65歳 (35% vs >65歳の26%、p<0.001)、人種 (p=0.02)、TNM病期 (Stage I 22%・Stage II 33%・Stage III 40%、p<0.001)、SCLC組織型 (53% vs NSCLC 30%、p<0.001)、全身療法含む治療 (45% vs 局所のみ22%、p<0.001) が再発率と有意に関連した。多変量ロジスティック回帰 (Table 2) では人種 (アフリカ系アメリカ人 OR=0.68、95% CI 0.49-0.94、p=0.020、白人を基準) と治療法 (局所療法のみ OR=0.35、95% CI 0.28-0.44、p<0.001、全身療法含む群を基準) のみが独立した関連因子として残存した。TNM病期・組織型・年齢はモデル選択により最終モデルから除外された。アフリカ系アメリカ人での再発率が低い所見は興味深く、再発を来していない患者の死亡率もアフリカ系アメリカ人 (29%) が白人 (39%) より低かったことから、競合する死亡リスクによる選択バイアスでは説明できないと考えられた。

再発のタイミング (Kaplan-Meier / Cox回帰): Kaplan-Meier解析 (Figure 2) では、診断後5年以内に最終的な全再発の90%以上が発生した。病期別の累積再発パターンは異なり、Stage II・IIIでは2年以内に全再発の80%が発生した一方、Stage Iでは同時点で約60%にとどまり、高病期ほど早期に再発が集中することが示された。組織型別ではSCLCで2年以内に90%以上が再発したのに対しNSCLCでは約60%であった。全症例を対象とした多変量Cox回帰 (Supplemental Table 1) では、人種 (アフリカ系 HR=0.66、95% CI 0.49-0.90、p=0.01)、TNM病期 (Stage II HR=1.35、95% CI 1.003-1.82、p=0.05; Stage III HR=1.45、95% CI 1.091-1.93、p=0.01)、組織型 (SCLC HR=1.63、95% CI 1.092-2.44、p=0.02)、治療法 (局所のみ HR=0.62、95% CI 0.475-0.80、p<0.001) が再発時期と有意に関連した。再発症例のみを対象とした解析 (Supplemental Table 2) では、高年齢 (>65歳) と比較した若年者 (≤65歳) で再発が遅い傾向 (HR=0.82、95% CI 0.67-1.0、p=0.05) と、Stage II/III (vs Stage I: HR=1.39、95% CI 1.14-1.71、p=0.001) の有意な早期再発が確認された。

遠隔再発の種類・部位と組織型別パターン: 再発の最多形式は遠隔転移 (56%) であり、SCLC再発例の79%・NSCLC再発例の54%が遠隔再発の形式をとった。全身療法含む治療群では遠隔再発が60%・局所療法のみの群では51%であった。多変量解析 (Table 3) では組織型 (SCLC vs その他: 遠隔再発 OR=2.17、95% CI 1.31-3.58、p=0.003) と治療法 (局所のみ: OR=0.34、95% CI 0.25-0.45、p<0.001) が独立した関連因子であった。遠隔再発273例の部位内訳 (Table 1): CNS最多37% (n=102)、その他34% (n=93、遠隔リンパ節・皮膚・腹膜・胸膜等)、骨11% (n=31)、多発8% (n=21)、対側肺5% (n=14)、肝臓4% (n=12)。遠隔再発部位の多変量解析 (Table 4) では人種が全体的な部位分布と有意に関連し (p=0.024)、組織型別のCNS再発率は腺癌34%・扁平上皮癌16%で、NSCLCその他カテゴリがCNS再発と最も強く関連した (OR=2.955、95% CI 1.269-6.876、p=0.012)。Stage 3症例はStage 1/2比較で骨転移 (OR=0.08、95% CI 0.02-0.38、p=0.001) および対側肺転移 (OR=0.18、95% CI 0.04-0.87、p=0.033) が有意に少なかった。

CNS再発の特徴と現行サーベイランスの盲点: 遠隔転移の単一部位としてCNSが37%と最多であり (Table 1)、脳転移の約75%が診断後2年以内に発生した (Supplemental Figure 1)。Stage I・II症例においてもCNS再発が確認されており、全病期にわたるリスクが示された。現行の術後胸部CTサーベイランスでは肺・胸部リンパ節・副腎・肝臓・胸椎を含む多くの再発部位を評価できるが、脳は評価範囲外である。腺癌では34%・NSCLCその他カテゴリ (非扁平上皮NSCLCを中心に) では最高頻度でCNSへの再発が生じており、非扁平上皮NSCLCに対する定期的脳MRIモニタリングの追加が考慮されるべきことが示唆された。現行の標準的術後サーベイランス (初期6ヶ月ごと、その後年1回の胸部CTを5年まで) は本研究の所見に基づけば再発の90%超を捕捉できる期間設定であることが支持されるが、CNS再発部位の捕捉には追加的戦略が必要である。

考察/結論

本研究はSEER等の国家データベースでは収集されない再発のタイミング・種類・解剖学的部位に関する詳細データを、Stage I-IIIの多様な肺癌コホートで系統的に解析した。これまでの研究はStage I NSCLCのみを対象とした限定的なものが多く、多様な病期・組織型・人種背景を含む実臨床集団での包括的な解析を本研究で初めて実施したことは新規の寄与であり、術後サーベイランス指針の科学的根拠を強化するうえで臨床的意義が高い。

CNS再発が遠隔転移の最多部位 (37%) であるという本所見は、SCLCにおける脳転移リスクの高さが予防的頭蓋照射推奨の根拠となっている既報の知見と一致する (Slotman et al. NEnglJMed 2007)。さらに本研究では非扁平上皮NSCLCにおいてもCNS再発が高頻度であり、Stage I/IIの早期例にも脳転移が発生することが示された。ROS1融合遺伝子陽性NSCLCでも脳転移頻度が高いことが知られており (Patil et al. JThoracOncol 2018)、ドライバー変異サブタイプ別のCNS再発パターンを考慮した監視プロトコールの精緻化が今後必要である。

アフリカ系アメリカ人患者での再発率が低い所見 (OR=0.68) は、これまでの研究がアフリカ系アメリカ人は病期未調整の予後不良を示すと報告してきた事実と対照的であり、興味深い相違点である。本研究コホートは保険加入患者対象の大学病院クリニックから収集されており、社会経済的格差が比較的均質化されている。これは、従来の人種別格差の少なくとも一部が疾患生物学の差異ではなく社会経済的要因を反映している可能性を示唆する。

臨床応用として、非扁平上皮NSCLCでは脳転移が約30-34%に生じ診断後2年以内に75%が発生することを踏まえ、Stage I/IIを含む非扁平上皮NSCLC患者への定期的な脳MRIモニタリング追加の臨床的含意は大きい。無症状段階での早期発見は介入可能な時期に治療へ繋げられる可能性がある。また、ネオアジュバント免疫療法が標準化されつつある切除可能NSCLCの治療環境において、治療モダリティの変化が将来の再発パターンや最適なサーベイランス戦略に与える影響についての知見が重要性を増している (Eichhorn et al. LungCancer 2021)。

本研究の限界 (limitation) としては、単一施設設計と比較的限られたサンプルサイズが挙げられる。ゲノム変異データが利用可能な症例が130例に限られ、分子サブタイプ別の再発パターン解析は困難であった。Stage IIIの多様な病態 (単リンパ節陽性切除例から切除不能進展例まで) を細分化した解析は症例数の制約により実施できていない。今後の検討として、多施設・大規模コホートでの再発パターン検証、ゲノム・分子情報を用いた再発リスク個別化予測モデルの開発、および非扁平上皮NSCLCへの定期脳MRIサーベイランスの有用性を評価する前向き試験が必要である。本研究は国家データセットや臨床試験が捕捉できない再発パターンに関する実世界のエビデンスを提供するものであり、将来の肺癌患者数増加を踏まえた個別化サーベイランス戦略構築の礎となる。

方法

UT Southwestern Medical Center腫瘍登録 (米国外科学会・米国臨床腫瘍学会認定) を用いた単一施設後向き観察研究 (IRB (Institutional Review Board) 承認番号: STU (Study protocol) 042018-102)。対象は2000年1月1日〜2017年12月31日にStage I-III肺癌として診断された1,619例 (1,549患者)。除外基準は情報が不完全な症例および根治治療後に一度もdisease-free stateを達成しなかった症例。2017年末の観察打ち切りにより最新診断例でも最低1年間の追跡が確保されている。

再発はNCI SEERガイドラインおよびNAACCR (North American Association of Central Cancer Registries)・American College of Surgeons (ACS) Commission on Cancer・STORE (Standards for Oncology Registry Entry) Manual基準に基づき、局所 (原発部位内)・領域 (隣接臓器・所属リンパ節)・遠隔 (領域を超えた部位) に分類した。遠隔再発部位は対側肺・骨・CNS・肝臓・多発・その他 (遠隔リンパ節・皮膚・腹膜・胸膜等) に分類した。治療は局所療法のみ (手術・放射線療法) または全身療法含む (化学療法単独または手術・放射線との併用) に二分した。

統計解析はSAS 9.4を使用。再発時間の推定はKaplan-Meier法で行い、中央値と95% CI (confidence interval) を報告した。再発と患者特性の関連は単変量・多変量ロジスティック回帰モデルで評価し、単変量p値<0.2の変数をバックワード選択法による多変量解析に投入してOR (odds ratio) と95% CIを算出した。再発時期と患者特性の関連はCox回帰モデルでHR (hazard ratio) と95% CIを算出した。2側p値<0.05を有意とした。