• 著者: Yoshimasa Shiraishi, Junji Kishimoto, Shunichi Sugawara, Hideaki Mizutani, Haruko Daga, Koichi Azuma, et al.; Isamu Okamoto (corresponding)
  • Corresponding author: Isamu Okamoto (okamoto.isamu.290@m.kyushu-u.ac.jp); 九州大学大学院医学研究院呼吸器内科学
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-08
  • Article種別: Original Article (Phase III trial final OS analysis)
  • PMID: 42127535

背景

PD-1/PD-L1阻害剤 (ICI) と白金製剤ベースの化学療法の併用は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準治療として確立されており、KEYNOTE-189 (Gandhi et al. N Engl J Med 2018; Garassino et al. J Clin Oncol 2023)、IMpower150 (Socinski et al. N Engl J Med 2018)、IMpower130 (West et al. Lancet Oncol 2019)、IMpower132 (Nishio et al. J Thorac Oncol 2021) などの国際第III相試験がその根拠をなす。これらの試験では、白金製剤+ICI投与患者の中央OS (mOS) が17.5〜21.8か月と報告されている。一方、VEGF (vascular endothelial growth factor) を標的とするベバシズマブは、腫瘍血管の正常化、T細胞浸潤促進、樹状細胞成熟促進、免疫抑制性細胞活性抑制などの免疫調節効果が腫瘍モデルで示されており (Buckanovich et al. Nat Med 2008; Huang et al. Cancer Res 2013; Motz et al. Nat Med 2014)、白金製剤+ICIへの上乗せによる相乗効果が期待されてきた。

また、EGFR変異陽性NSCLC患者においては、IMpower150試験のサブグループ解析でアテゾリズマブ (ATEZ) +ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセルがPFS・OS双方を改善することが示唆されており (Nogami et al. J Thorac Oncol 2022)、ORIENT-31 (Lu et al. Lancet Oncol 2022)・ATTLAS (Park et al. J Clin Oncol 2024)・HARMONi (Goldman et al. J Thorac Oncol 2025) 試験も白金製剤+抗VEGF+抗PD-1/PD-L1の組み合わせがEGFR-TKI (tyrosine kinase inhibitor) 後に優れたPFSをもたらすことを実証した。これらの知見は、EGFR変異陽性患者において特に抗血管新生療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用が有効である可能性を示唆している。

しかし、ベバシズマブをATEZ+カルボプラチン+ペメトレキセド (APP) に追加する4剤併用療法 (APPB) が、非扁平上皮非小細胞肺癌 (nonsquamous NSCLC) — ドライバー遺伝子陰性および陽性の両集団—において実際にOS・PFS双方に有益かを日本人集団で検証した長期データは不足していた。特に、ドライバー遺伝子陽性患者におけるTKI治療後の最適な治療戦略は未確立であり、この領域には大きな知識ギャップが存在する。APPLE試験の一次報告では、全体集団でのPFSにおける有意差は示されなかったが (Shiraishi et al. JAMA Oncol 2024)、ドライバー遺伝子陽性 (特にEGFR感受性変異陽性) 亜群でPFS延長傾向が観察されており、長期OSデータが必要とされていた。本論文はAPPLE試験の最終OS解析として3.5年追跡データを報告し、この問いに答えることを目的とする。

目的

APPLE第III相試験の最終OS解析において、ベバシズマブのAPP (atezolizumab + carboplatin + pemetrexed) への上乗せ効果を全体集団 (ITT)、ドライバー遺伝子陰性集団、ドライバー遺伝子陽性集団、およびEGFR感受性変異陽性集団で評価し、長期安全性プロファイルも更新する。本研究は、進行非扁平上皮NSCLC患者に対する最適な治療戦略を確立するための重要な情報を提供することを目的とする。特に、ドライバー遺伝子陽性患者におけるTKI治療後の治療選択肢の不足を補完する可能性のある、ベバシズマブ上乗せ療法の長期的な有効性と安全性を明らかにすることを目指す。試験登録番号: jRCT2080224500。

結果

ITT集団における最終OS解析—ベバシズマブ上乗せ効果なし: データカットオフ時点 (2024年3月31日) において、APP群では155例 (75%)、APPB群では145例 (71%) が死亡していた。ITT集団の最終OS解析では、mOSがAPPB群28.0か月 vs APP群25.7か月であり、HR 0.88 (95% CI 0.70–1.10) と両群間に統計的に有意な差は認められなかった (Fig. 1A)。ITT集団のPFSについても最終解析においてAPPB群9.6か月 vs APP群7.7か月 (HR 0.90, 95% CI 0.72–1.10) で差を示さなかった (Fig. 2A)。治療中断率はAPP群88%、APPB群86%で、主な中断理由は疾患進行 (APP群67%、APPB群63%) であった。一次後治療はAPP群80%、APPB群81%が受け、二次後治療はいずれの群も48%が受けた。日本人集団における白金製剤+ICIのmOS 27.6〜27.8か月は、KEYNOTE-189等の国際試験で報告された17.5〜21.8か月を大きく上回っており、ベバシズマブ適格患者 (良好な全身状態) の選択性と後続治療の充実が寄与していると考えられる。

ドライバー遺伝子陰性集団—ベバシズマブ上乗せの効果なし: ドライバー遺伝子陰性集団 (n=287) では、mOSがAPP群27.8か月 vs APPB群27.6か月 (HR 0.96, 95% CI 0.73–1.27) とほぼ同等であった (Fig. 1B)。PFSも同様に、APP群9.4か月 vs APPB群9.0か月 (HR 1.04, 95% CI 0.81–1.33) で差を認めなかった (Fig. 2B)。この所見は、ベバシズマブバイオシミラーHLX04をserplulimab+白金製剤に追加してもPFS・OSが改善しなかったASTRUM002試験 (Wang et al. Lancet Respir Med 2026) の結果と一致しており、ドライバー遺伝子陰性nonsquamous NSCLCに対して抗VEGF薬を抗PD-1/PD-L1+白金製剤に追加することに根拠はないと結論づけられた。これは、免疫チェックポイント療法への一次耐性の克服において、抗VEGF薬の追加が必ずしも有効ではないことを示唆する。

ドライバー遺伝子陽性亜群—EGFR変異を中心とした生存延長傾向: ドライバー遺伝子陽性集団 (n=124、全例がTKI既治療) では、mOSはAPP群20.8か月に対しAPPB群28.0か月 (HR 0.71, 95% CI 0.47–1.08) とAPPB群で7.2か月の延長傾向が認められた (Fig. 1C)。PFSはAPP群5.8か月 vs APPB群9.7か月 (HR 0.62, 95% CI 0.42–0.91) とAPPB群での延長が観察された (Fig. 2C)。EGFR感受性変異陽性亜群に限定した解析では、mOSがAPP群20.5か月 vs APPB群27.7か月 (HR 0.79, 95% CI 0.51–1.24)、mPFSがAPP群5.9か月 vs APPB群9.7か月 (HR 0.65, 95% CI 0.43–0.98) であった (Fig. 1D、2D)。これらの結果は、ORIENT-31 (Lu et al. Lancet Oncol 2022)、ATTLAS (Park et al. J Clin Oncol 2024)、HARMONi (Goldman et al. J Thorac Oncol 2025) 試験など、白金製剤+抗VEGF+抗PD-1/PD-L1の組み合わせがEGFR-TKI後の標準治療候補として支持されるデータと整合する。特にEGFR-TKI耐性後治療戦略において、この四剤併用療法が有望な選択肢となる可能性が示唆された。ただし、ドライバー遺伝子陽性集団内はEGFR・ALK・ROS1・BRAFの異なる遺伝子型と治療歴の多様性を含むため、サブグループ解析はいずれも探索的であり、P値は算出されていない。

安全性の長期データ: 安全性プロファイルは一次報告から変化はなかった。治療関連死はAPP群1例 (0.5%、肺臓炎)、APPB群5例 (2.4%、肺臓炎3例、喀血1例、消化管穿孔1例; 後二者はベバシズマブ関連) であった (Supplementary Table S4)。全グレード肺臓炎の発生率は、ドライバー遺伝子陰性群で11.9%と、ドライバー遺伝子陽性群 (APP群3.2%、APPB群6.5%) より高く、これは前喫煙歴の差による可能性が示唆された (Supplementary Table S6)。長期追跡でも治療関連死が増加しないことが確認され、日本人進行nonsquamous NSCLC患者に対する白金製剤+ICIの長期安全性が実証された。

考察/結論

APPLE試験の最終OS解析は、ITT集団における四剤併用 (APPB) の有意な上乗せ効果を否定し、一次報告のPFS結果を長期追跡で再確認した。

先行研究との違い: 日本で初めて実施された白金製剤+ICIの第III相試験として、APPLE試験は日本人NSCLC患者における長期予後データを初めて提供した点で独自の価値がある。ITT集団のmOS (27.6〜27.8か月) は国際試験 (17.5〜21.8か月) を上回っており、これはベバシズマブ適格患者の選択的な登録と後続治療の豊富さを反映していると考えられる。ドライバー遺伝子陰性NSCLCへの抗VEGF上乗せ効果なしという結論は、ASTRUM002試験の知見と完全に一致しており、これまで抗VEGF薬の追加が必ずしも有効ではないというエビデンスが蓄積した。これは免疫チェックポイント療法への一次耐性を克服する上での課題を浮き彫りにする。

新規性: ドライバー遺伝子陽性 (TKI既治療) 亜群におけるOS延長傾向 (HR 0.71, 95% CI 0.47–1.08、+7.2か月) は、本研究で初めて示された長期追跡での知見である。EGFR変異陽性亜群に限定するとPFS延長がHR 0.65 (95% CI 0.43–0.98) まで強まり、ORIENT-31、ATTLAS、HARMONiとのデータ整合性が確認された。この結果は、TKI治療による腫瘍微小環境の変化が抗VEGF+ICIの恩恵を増幅させるという生物学的仮説を支持するが、EGFR以外のドライバー遺伝子 (ALK・ROS1・BRAF) は症例数が少なく評価不能であった。この知見は、TKI et al後の治療戦略を検討する上で新規性がある。

臨床応用: ドライバー遺伝子陰性NSCLCに対して、ATEZを含む白金製剤+ICIへのベバシズマブ追加はOS・PFS双方で恩恵を示さないため推奨されない。一方、EGFR変異陽性などのドライバー遺伝子陽性患者 (TKI後) においては、APPB療法 (または類似の四剤併用) がOS延長傾向を示しており、アミバンタマブ+化学療法など新規選択肢とともに重要な治療選択肢として位置づけられる可能性がある。特にTKI失敗後の選択肢が限られる患者では、白金製剤+ICI+抗VEGF療法のさらなる最適化が臨床応用上求められる。

残された課題: 本試験の主要な限界は、ドライバー遺伝子陽性集団の少数例と亜群解析の探索的性格にある。P値算出なしの探索的解析であり、ドライバー遺伝子陽性集団内の異種混合性 (EGFR・ALK・ROS1・BRAF、投与ライン数の多様性) も結果の解釈を困難にする。また日本のみの試験であることによる外部妥当性の限界も考慮が必要である。ベバシズマブの上乗せ利益がTKI治療による腫瘍微小環境変化によるものか、腫瘍内在的特性によるものかは不明であり、今後の機序解明研究が求められる。

方法

研究デザイン: 本研究は、日本国内37施設で実施された多施設共同オープンラベル第III相ランダム化比較試験である。2019年1月〜2020年8月にn=412例の患者が登録された。1例がGood Clinical Practice違反により除外され、ITT集団はn=411 (APP群n=206、APPB群n=205) で構成された。試験はヘルシンキ宣言の原則に従って実施され、各施設治験審査委員会によって承認された。すべての参加者からインフォームドコンセントが取得された。

対象患者: 対象は進行nonsquamous NSCLC患者であった。ドライバー遺伝子陰性患者は化学療法未治療であり、ドライバー遺伝子陽性 (EGFR、ALK、ROS1、BRAF変異/転座) 患者は少なくとも1ラインのTKI治療後の患者が組み入れられた。EGFR変異検査は必須であったが、その他のドライバー遺伝子検査およびプラットフォームは医師の裁量に委ねられた。研究デザイン時において、EGFR、ALK、ROS1、BRAFのみが臨床的および治療状況に基づいて発癌性ドライバーとして含まれた。他の既知の発癌性ドライバー (試験デザイン時に承認された標的療法がないものなど) を有する患者は、ドライバー遺伝子陰性群に含まれた。

介入: 患者は1:1の比率でAPP群またはAPPB群にランダム化された。APP群はATEZ (atezolizumab) +カルボプラチン+ペメトレキセドを投与され、APPB群はAPPにベバシズマブが追加された。層別因子は、病期 (III/IV vs 再発)、ドライバー遺伝子変異 (陽性 vs 陰性/不明)、PD-L1 TPS (腫瘍比率スコア、≥50% vs <50%/不明) であった。治療は疾患進行、許容できない毒性、または患者の同意撤回まで継続された。

エンドポイント: 主要エンドポイントはPFSであり、一次報告で既に報告済みである。本報告の主要評価項目はOSであり、副次評価項目として安全性プロファイルが評価された。データカットオフは2024年3月31日であり、追跡期間中央値は約3.5年であった。

統計解析: 全解析は探索的であり、P値は算出されていない。OSおよびPFSのKaplan-Meier曲線が作成され、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いて算出された。OSは死亡またはデータカットオフ時に打ち切られ、PFSは疾患進行または死亡、あるいは最終評価日に打ち切られた。サブグループ解析は、層別因子に基づいて実施された。