- 著者: John V Heymach, David Harpole, Tetsuya Mitsudomi, Janis M Taube, Gabriella Galffy, Maximilian Hochmair, Thomas Winder, Ruslan Zukov, Gabriel Garbaos, Shugeng Gao, Hiroaki Kuroda, Gyula Ostoros, Tho V Tran, Jian You, Kang-Yun Lee, Lorenzo Antonuzzo, Zsolt Papai-Szekely, Hiroaki Akamatsu, Bivas Biswas, Alexander Spira, Jeffrey Crawford, Ha T Le, Mike Aperghis, Gary J Doherty, Helen Mann, Tamer M Fouad, Martin Reck
- Corresponding author: John V Heymach (Department of Thoracic–Head and Neck Medical Oncology, M.D. Anderson Cancer Center, Houston, TX)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-10-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 37870974
背景
肺癌は世界におけるがん関連死の主要な原因であり、非小細胞肺癌 (NSCLC) はその80%以上を占めている Sung et al。切除可能なNSCLC患者は全体の約25%から30%を占めるが、外科的切除が成功した場合であっても、術後5年以内に30%から55%の割合で再発を来し、疾患関連死に至るリスクが極めて高いことが知られている Taylor et al Ganti et al。従来の標準治療である術前または術後のプラチナ製剤併用化学療法は、手術単独と比較して5年生存率を約5%改善するに留まっており、治療成績の向上は限定的であった Pignon et al NSCLC et al。このため、再発率を低下させ長期予後を改善するための、より効果的な治療戦略の確立が長年の課題であった。
近年、免疫チェックポイント阻害薬の導入により、切除可能NSCLCの治療成績は大きく進展している。術前療法においてニボルマブと化学療法の併用がイベントフリー生存期間 (EFS) を有意に改善することが示され Forde et al、術後療法においてはアテゾリズマブやペムブロリズマブがそれぞれ無病生存期間 (DFS) を改善することが報告されてきた Felip et al OBrien et al。しかし、これらは術前または術後のいずれか一方のみに免疫療法を行うアプローチであった。
術前(ネオアジュバント)と術後(アジュバント)の両方の期間に免疫療法を一貫して行う「周術期 (perioperative) レジメン」は、原発腫瘍およびリンパ節が存在する状態で抗腫瘍免疫を強力にプライミングし、さらに術後に残存する微小転移を根絶するという双方の利点を組み合わせることで、より優れた長期転帰をもたらす可能性が理論的に考えられる。しかし、この周術期アプローチの有効性と安全性に関する大規模な第III相臨床試験データはこれまで不足しており、臨床的なエビデンスは未確立であった。デュルバルマブは、PD-L1とPD-1およびCD80との相互作用を阻害する選択的かつ高親和性のヒトIgG1モノクローナル抗体である。切除不能III期NSCLCに対する化学放射線療法後の維持療法として確立されているが Antonia et al. NEnglJMed 2017、切除可能NSCLCにおける周術期治療としての有用性を検証するため、本AEGEAN (A Study of Durvalumab in Patients With Stage II-III Non-small Cell Lung Cancer Undergoing Surgery) 試験が計画された。本研究は、切除可能NSCLCにおける周術期免疫療法の治療開発における知識のギャップを埋めることを目的としている。
目的
本AEGEAN試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT03800134) は、切除可能なII期からIIIB期 (N2リンパ節転移) のNSCLC患者を対象に、術前プラチナベース化学療法にデュルバルマブを追加し、さらに術後にデュルバルマブ単剤による維持療法を継続する周術期レジメンの有効性と安全性を検証することを目的とした。主要評価項目は、独立中央評価委員会 (BICR) の判定によるイベントフリー生存期間 (EFS) および中央病理評価による病理学的完全奏効率 (pCR) の2点に設定された。また、主要な副次評価項目として、主要病理学的奏効率 (MPR)、無病生存期間 (DFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイルの評価を行い、術前化学療法単独群に対する周術期デュルバルマブ併用療法の優越性を検証することを目的とした。
結果
イベントフリー生存期間 (EFS) の有意な延長: データカットオフ日 (2022年11月10日) 時点において、追跡期間中央値11.7ヶ月におけるmITT集団 (n=740) の中間解析の結果、主要評価項目であるEFSはデュルバルマブ群でプラセボ群と比較して統計学的に有意な延長を示した。イベント発生はデュルバルマブ群 (n=366) で98例 (26.8%)、プラセボ群 (n=374) で138例 (36.9%) であった。EFSの層別ハザード比は HR 0.68 (95% CI 0.53-0.88, p=0.004) であり、デュルバルマブ群で有意なリスク低下が示された (Fig 1A)。EFS中央値は、デュルバルマブ群で未到達 (95% CI 31.9-未到達) であったのに対し、プラセボ群では25.9ヶ月 (95% CI 18.9-未到達) であった。12ヶ月時点におけるEFS率は、デュルバルマブ群 73.4% (95% CI 67.9-78.1) vs プラセボ群 64.5% (95% CI 58.8-69.6) であった。また、24ヶ月時点におけるEFS率はデュルバルマブ群 63.3% (95% CI 56.1-69.6) vs プラセボ群 52.4% (95% CI 45.4-59.0) であった。サブグループ解析において、EFSの改善効果は病期 (II期またはIII期) やPD-L1発現率にかかわらず、一貫して認められた (Fig 1B)。
病理学的奏効率 (pCR/MPR) および客観的奏効率 (ORR) の向上: もう一つの主要評価項目であるpCR率は、中央病理評価の結果、デュルバルマブ群で 17.2% (95% CI 13.5-21.5) であったのに対し、プラセボ群では 4.3% (95% CI 2.5-6.9) であり、デュルバルマブの追加により統計学的に有意な改善が認められた (差 13.0%ポイント, 95% CI 8.7-17.6, p<0.001) (Fig 2A)。副次評価項目であるMPR率についても、デュルバルマブ群で 30.2% (95% CI 25.5-35.2) であったのに対し、プラセボ群では 9.5% (95% CI 6.7-13.0) であり、有意な向上が示された (Fig 2B)。術前治療後の客観的奏効率 (ORR) は、デュルバルマブ群 56.3% (95% CI 51.0-61.4) vs プラセボ群 38.0% (95% CI 33.0-43.1) であり、デュルバルマブ群で有意に高値であった (Table S8)。PD-L1発現率 1%以上のサブグループにおけるEFS解析でも、デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して良好な成績を示し、HR 0.63 (95% CI 0.47-0.86, p=0.003) と有意なイベントリスクの減少が確認された。
手術実施状況および切除成功率: mITT集団における手術実施率は、デュルバルマブ群で 80.6% (295/366例)、プラセボ群で 80.7% (302/374例) と両群間で同等であった (Table 2)。手術完遂率はそれぞれ 77.6% (284/366例) および 76.7% (287/374例) であった。手術完遂した患者のうち、顕微鏡的残存のないR0切除率はデュルバルマブ群で 94.7% (269/284例) であり、プラセボ群の 91.3% (262/287例) と比較して良好な傾向を示した。一方で、顕微鏡的残存のあるR1切除率はデュルバルマブ群で 4.2% (12/284例)、プラセボ群で 7.7% (22/287例) であった。術前治療から手術までの期間や手術の遅延割合にも両群間で大きな差はなく、デュルバルマブの併用が外科的切除の機会や質を損なわないことが確認された。
安全性プロファイルと有害事象の分析: 安全性解析対象集団 (safety analysis set) において、全治療期間を通じたグレード3または4のあらゆる原因による有害事象 (AE) の発生率は、デュルバルマブ群で 42.4% (168/396例)、プラセボ群で 43.2% (171/396例) と両群間で差は認められなかった (Table 3)。治療関連の死亡に至ったAEはデュルバルマブ群で 1.7% (7/396例)、プラセボ群で 0.5% (2/396例) であった。免疫関連AEの発生率はデュルバルマブ群で 23.7% (94/396例) vs プラセボ群で 9.3% (37/396例) であり、デュルバルマブ群で高頻度であったが、その大部分はグレード1または2であり、グレード3または4の免疫関連AEはデュルバルマブ群で 4.2% (17/396例)、プラセボ群で 2.5% (10/396例) に留まった。最も頻度の高いAEは主として化学療法に関連するものであり、貧血、悪心、好中球減少症などが両群で同等に観察された。
考察/結論
AEGEAN試験は、切除可能なII期からIIIB期のNSCLC患者において、術前化学療法へのデュルバルマブの追加および術後デュルバルマブ継続投与を行う周術期治療が、術前化学療法単独と比較してEFSおよびpCRを有意に改善することを実証した。
先行研究との違い: 本研究の周術期アプローチは、術前療法のみを評価したCheckMate-816試験 Forde et al や、術後アジュバント療法のみを評価したIMpower010試験 Felip et al、KEYNOTE-091試験 OBrien et al とは異なり、術前と術後の双方で一貫して免疫チェックポイント阻害薬を投与する治療デザインを採用している。同様の周術期レジメンを検証したKEYNOTE-671試験 Wakelee et al と同様に、周術期免疫療法が切除可能NSCLCの治療成績を包括的に向上させる強力な戦略であることを示す結果となった。
新規性: 本研究で初めて、周術期デュルバルマブ治療が切除可能NSCLC患者のEFSをハザード比 0.68 と有意に延長させ、pCR率を 17.2% とプラセボ群の 4.3% に対し約4倍に向上させることが新規に示された。術前治療にデュルバルマブを追加しても手術実施率や手術完遂率に悪影響を及ぼさず、R0切除率の向上が得られた点は、実臨床における本治療の実現可能性を強く支持するものである。
臨床応用: 本知見は、切除可能NSCLCの臨床現場における治療パラダイムを大きく変える臨床的有用性を持つ。周術期デュルバルマブ併用療法は、新たな標準治療の選択肢として位置づけられる。安全性プロファイルは既知のデュルバルマブおよび化学療法のものと一貫しており、忍容性は良好であった。PD-L1発現レベルにかかわらずEFSのベネフィットが確認されたが、PD-L1発現率50%以上の集団で特に高い効果が示されており、バイオマーカーに基づく個別化医療への応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、術前治療と術後治療のそれぞれが治療効果全体に寄与する割合の解明や、周術期アプローチと術前単独・術後単独アプローチとの直接比較が残されている。また、EGFR遺伝子変異陽性例ではデュルバルマブの明確な上乗せ効果が認められなかったことから、ドライバー遺伝子変異陽性例に対する最適な周術期治療戦略の確立が今後の重要な研究方向性となる。さらに、全生存期間 (OS) のデータは現時点で未成熟であり、長期的な生存ベネフィットを確定するためのさらなる追跡調査が必要である。
方法
本試験は、28カ国の医療機関が参加した国際多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化第III相試験として実施された。適格基準は、新たに診断された未治療の切除可能NSCLC (AJCC第8版における病期IIA期からIIIB [N2] 期) であり、ECOGパフォーマンスステータスが0または1、十分な臓器機能を有し、腫瘍のPD-L1発現状況が中央測定されている患者とした。
登録された患者は、デュルバルマブ群またはプラセボ群に1:1の割合でランダムに割り付けられた。ランダム化の層別化因子は、病期 (II期 vs III期) およびPD-L1発現率 (1%以上 vs 1%未満) とされた。術前治療として、デュルバルマブ群はデュルバルマブ 1500 mg、プラセボ群はプラセボを、それぞれプラチナ製剤併用化学療法 (組織型に応じて治験責任医師が選択) と併用して3週ごとに4サイクル静脈内投与された。手術は術前治療の最終投与後40日以内に予定され、術後アジュバント治療として、デュルバルマブ群はデュルバルマブ 1500 mg、プラセボ群はプラセボを4週ごとに最大12サイクル静脈内投与された。
主要評価項目であるEFSは、ランダム化から、手術を妨げる進行性疾患の発生、手術完遂を妨げる術中進行の判明、RECIST 1.1に基づく局所・遠隔再発、またはあらゆる原因による死亡のいずれか早い方の発生までの期間と定義された。もう一つの主要評価項目であるpCRは、切除された肺標本および採取されたすべてのリンパ節において、生存腫瘍細胞が完全に消失した状態と定義された。副次評価項目であるMPRは、原発腫瘍における生存腫瘍細胞が10%以下であることと定義された。
統計解析は、既知のEGFR遺伝子変異またはALK融合遺伝子陽性の患者62例を除外した修正意図解析 (mITT) 集団 (n=740) を対象として実施された。EFSの比較には層別ログランク検定 (stratified log-rank test) を用い、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) を算出した。pCR率の比較には層別Cochran-Mantel-Haenszel検定を用いた。タイプIエラーの制御には、Lan-DeMetsアルファ消費関数を用いたO’Brien-Fleming境界を適用した。