- 著者: Arimura K., Kondo M., Nagashima Y., Kanzaki M., Kobayashi F., Takeyama K., Tamaoki J., Tagaya E.
- Corresponding author: Arimura K. (Tokyo Women’s Medical University, Department of Respiratory Medicine)
- 雑誌: Respiratory Research
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-08-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 31420048
背景
肺癌は世界で最も多い癌死亡原因であり、CT普及に伴いPPLs (peripheral pulmonary lesions) の検出頻度が増加している。ACCP (American College of Chest Physicians) ガイドライン第3版は PPLs の診断に EBUS (endobronchial ultrasonography) の使用を推奨しており (Rivera ら 2013, Chest)、EBUS-GS (endobronchial ultrasound with guide sheath) 下の TBB (transbronchial biopsy)・針吸引・ブラッシングが診断アプローチとして確立されている。一方、免疫チェックポイント阻害剤の急速な普及により、PD-L1 (programmed death ligand 1) 発現評価および十分な腫瘍組織確保が診断上の急務となっている。pembrolizumab は PD-L1 TPS (tumor proportion score)≥50% の NSCLC (non-small cell lung cancer) に対する1次単剤療法として有効性が確立され (Reck et al. NEnglJMed 2016)、nivolumab やatezolizumab も同様に肺癌治療に承認されている (Borghaei et al. NEnglJMed 2015)。このような背景から、PPLs からの生検検体には遺伝子解析とPD-L1評価の双方を満たす十分な腫瘍細胞数が必要となるが、従来の気管支鏡的生検標本は一般に小量で限界がある (Travis ら 2013, Arch Pathol Lab Med)。EBUS-GS 下クライオ生検 (Cryo) は PPLs に対して安全かつ有用であり、TBB より有意に大きな検体 (体積にして約26倍) を採取できることが先行研究で示されていたが、実際の腫瘍細胞数と 22C3 抗体による PD-L1 発現 (TPS) の両者を Cryo と TBB 間で直接比較したデータが不足しており、この gap in knowledge が本研究の動機となった。特に、TBB で PD-L1 陰性と判定された患者の一部が Cryo でどの程度陽性となりうるかという臨床的に重要な問いに対する答えが手薄な状況であった。
目的
EBUS-GS 下クライオ生検 (Cryo) と鉗子生検 (TBB) を同一患者で同時施行し、末梢性肺病変から採取された腫瘍細胞数 (単回・総数・平均の3指標) および 22C3 抗体による PD-L1 TPS≥50%・TPS≥1% の発現率と一致率を前向きに比較すること。
結果
患者背景と病変特性:本研究には男性14例・女性2例、年齢中央値69歳 (範囲46〜82歳) の計n=16例が登録された (Table 1)。喫煙歴あり14例・なし2例。PPL (peripheral pulmonary lesion) サイズの中央値は3.9 cm (範囲1〜8.1 cm) であり、大型病変が多く含まれた。TNM ステージは I 期3例 (18.8%)・II 期3例 (18.8%)・III 期5例 (31.3%)・IV 期5例 (31.3%) と進行例 (III-IV 期) が6割以上を占めた。組織型の内訳は、肺腺癌10例 (62.5%)・扁平上皮癌4例 (25%)・小細胞肺癌1例 (6.25%)・転移性肺腫瘍1例 (6.25%) であり、非小細胞肺癌が主体であった。進行例が多くを占める本コホートでは、PD-L1 評価に基づく免疫チェックポイント阻害剤の適応判断が特に重要な臨床的意義を持つ集団である。
クライオ生検 vs 鉗子生検における腫瘍細胞数の比較:3指標すべてにおいて Cryo が TBB を有意に上回った (Table 2、Fig. 1)。単回生検あたりの腫瘍細胞数は Cryo 1321±303.7 個 vs TBB 208.8±38.24 個 (mean ± SE、95% CI 756.8-1467、p<0.0001) であり、Cryo は1〜2回の施行でTBBの5回施行を6倍以上上回る腫瘍細胞数を採取できた (Fig. 1a)。総腫瘍細胞数は Cryo 1981±411.7 個 vs TBB 1044±189.0 個 (95% CI 11.79-1862、p=0.0474) であった (Fig. 1b)。平均腫瘍細胞数でも Cryo 1406±310.3 個 vs TBB 208.8±37.81 個 (95% CI 558.6-1835、p=0.0006) とすべての指標で Cryo が有意に優れた (Fig. 1c)。これらの結果は先行研究で報告された Cryo 検体体積がTBBの約26倍であるという知見 (Arimura ら 2019、Respir Investig) と整合する。症例別データ (Table 2) を見ると、症例13 では Cryo で5641個・TBB で1675個と特に多く採取された一方、症例3 では Cryo 25個・TBB 1313個と例外的に TBB が多い症例も存在し、個体間のばらつきが大きいことが示された。Cryo 検体は2分割してもなお十分な腫瘍細胞量が確保でき、HE 染色・PD-L1 評価と並行して遺伝子解析にも供することができた。
22C3 PD-L1 TPS≥50% の発現率と診断性能:PD-L1 TPS≥50% 陽性は Cryo n=3 (18.8%) vs TBB n=2 (12.5%) であった (Table 2)。Cryo を基準 (gold standard) とした場合のTBBの診断性能は、OR 45 (95% CI: 1.394-1452)、感度66.7% (95% CI: 0.094-0.992)、特異度100% (95% CI: 0.753-1)、PPV 100% (95% CI: 0.158-1)、NPV 92.9% (95% CI: 0.661-0.998)、一致率93.8% (95% CI: 0.698-0.998)、κ 係数0.7647 (95% CI: 0.288-1) であり、substantial agreement (κ=0.61〜0.80) に相当する高い一致性が確認された (Table 3)。感度が66.7%に留まったのは Cryo で TPS≥50% 陽性だったにもかかわらずTBBで陰性と判定された false negative 例 (1例) が存在したためであるが、特異度・PPV・NPV・一致率はいずれも高値を示した。すなわち、TBB で TPS≥50% 陰性であっても Cryo を追加評価すれば pembrolizumab の適応見逃しを防げる可能性があることを示す。Fig. 2 には代表症例として TBB および Cryo 検体の HE 染色像と、同一患者における Cryo 検体の PD-L1 TPS≥50% 染色陽性像が示されており、Cryo 検体の豊富な組織量と鮮明な PD-L1 発現評価が視覚的に確認できる。
22C3 PD-L1 TPS≥1% の発現率と診断性能:PD-L1 TPS≥1% 陽性は Cryo n=9 (56.3%) vs TBB n=6 (37.5%) であった (Table 2)。Cryo 基準における TBB の診断性能は、OR 2 (95% CI: 0.244-16.37)、感度44.4% (95% CI: 0.137-0.788)、特異度71.4% (95% CI: 0.290-0.963)、PPV 66.7% (95% CI: 0.223-0.957)、NPV 50% (95% CI: 0.187-0.813)、一致率56.3% (95% CI: 0.299-0.803)、κ 係数0.1515 (95% CI: 0-0.608) と、slight agreement (κ=0〜0.20) に相当する著しく低い一致性であった (Table 3)。TPS≥1% における TBB の偽陰性率 (感度44.4%の裏返し) は55.6%に達し、半数以上の TPS≥1% 陽性例がTBBでは見落とされることを意味する。さらに2例では false positive (TBB陽性・Cryo陰性) も認められた。TPS≥50% と≥1% でこれほど大きな一致性の乖離が生じた原因として、PD-L1 発現の腫瘍内不均一性 (intratumoral heterogeneity) と採取検体量の差、および各閾値での評価難易度の違いが考えられた。
安全性:臨床的に重篤な有害事象は認めなかった。軽度出血が4例 (25%) に生じ、全例でトロンビンを用いた内視鏡的処置で止血が可能であった。出血4例はいずれも Cryo 施行後の少量出血であり、バルーンカテーテルの追加使用は不要で、バイタルサインに臨床的に意義ある変動は認めなかった。気胸・大量出血・喉頭痙攣・空気塞栓などの重篤合併症は全例で認められず、全手技を安全に完遂した。凍結時間 3〜5 秒・1〜2 回施行・炭酸ガス使用という本プロトコルの安全性プロファイルは既報の経気管支 Cryo 報告と一致しており、EBUS-GS 下 Cryo の PPLs 診断への日常臨床応用の実行可能性を支持する結果であった。
考察/結論
本研究は、EBUS-GS 下 Cryo と TBB を同一患者・同一手技で施行し、末梢性肺病変における腫瘍細胞数と 22C3 PD-L1 発現の両者を直接比較した初めての報告である。これまで報告されていない新規な知見として、Cryo は3指標すべての腫瘍細胞数で TBB を有意に上回り、かつ PD-L1 TPS≥50% の評価においては substantial agreement が得られることが実証された。
既報との比較と相違点:PD-L1 発現の一致性に関する既報では、4059 抗体を用いた Kitazono ら (2015、Clin Lung Cancer) が切除検体と TBB 間の良好な一致を報告し、EPR1161(2) 抗体を用いた Sakakibara ら (2017、Clin Lung Cancer) は EBUS-TBNA (endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration) と切除検体間でmoderate concordance を示した。本研究はこれらの既報と異なり、同一患者内での Cryo vs TBB という直接対比設計を採用し、pembrolizumab のコンパニオン診断である 22C3 抗体・TPS 評価系という臨床直結の設定で比較した点で新規性がある。Blueprint Phase 2 プロジェクト (Tsao et al. JThoracOncol 2018) が示すように、PD-L1 IHC (immunohistochemistry) 評価は抗体・プラットフォーム間で複雑な差異が存在する。本研究で TPS≥1% の κ 係数が0.1515に留まった理由として、22C3 抗体以外の抗体を用いた既報との使用抗体の差異・スコアリング方式の相違・腫瘍内不均一性が挙げられ、これらが既報と対照的な結果をもたらした可能性がある。また、Cryo は TBB と比較して検体体積が大きいため、切除検体に近い代表性を持つ可能性があり、既報で切除検体と TBB の一致率が良好だった結果との比較においても本研究の Cryo データは妥当な位置づけを持つ。
臨床的意義とclinical applications:本研究の最も重要な臨床応用可能な示唆は、TBB で PD-L1 陰性と判定された場合でも Cryo では陽性となりうるという事実である。pembrolizumab 1次単剤療法は TPS≥50% を必要条件とし (Reck et al. NEnglJMed 2016)、TBB の偽陰性によって本来適応となる患者が治療機会を逸するリスクがある。Cryo は TPS≥50% において特異度100%・PPV100%・NPV92.9%・一致率93.8% を示し、臨床現場での PD-L1 高発現評価における信頼性が確認された。さらに Cryo 検体は2分割しても遺伝子変異解析・全エクソン解析に十分な量と質の DNA を提供でき、単一手技で PD-L1 評価・遺伝子解析・病理組織診断の三者を同時に達成できる点が大きな利点である。臨床的意義として、特にTBBで初回生検が不十分であった症例、あるいは初回 TBB で PD-L1 陰性だったが pembrolizumab の適応を再評価したい症例において、EBUS-GS 下 Cryo の追加を積極的に検討すべきであることが示唆される。bench-to-bedside の観点からも、Cryo の普及は precision medicine における分子プロファイリングの質を向上させる潜在性を持つ。
残された課題と今後の展望:本研究の limitation として、単施設・n=16 という小規模サンプルサイズと非無作為化設計が挙げられる。単施設デザインは施設ごとの技術差や患者特性の偏りを制御できない点でも限界がある。また本研究では Cryo vs TBB の比較に留まり、Cryo vs 切除検体との比較は今後の検討が必要な課題として残されている。使用した 1.9 mm クライオプローブよりも大径の 2.4 mm プローブを用いれば更に多くの組織を採取できる可能性があるが、重篤合併症リスクとのトレードオフがあり、最適なプローブサイズの確立は future research として残されている。PD-L1 TPS≥1% の低い一致率 (κ=0.1515) の原因を解明するためにも、腫瘍内不均一性の定量的評価と多部位生検の比較を含む大規模多施設研究が必要である。更なる検討として、Cryo が第2世代免疫チェックポイント阻害剤の適応判断においても有用かどうか、また他の生検手法 (EBUS-TBNA など) との比較も今後の研究課題として重要である。
方法
東京女子医科大学病院の倫理委員会承認 (承認番号: 170404、承認日: 2017年4月19日) のもと、2017年6〜11月に実施された前向き研究。肺癌が疑われる PPLs を有する20歳以上の患者を対象とし、出血素因・血小板数<20,000/mm³・妊娠・活動性感染症・呼吸不全・胸膜から2cm以内の病変・隣接血管径>0.5cmの症例を除外した。初回EBUS-GS下Cryo施行23例のうち、気管支鏡生検で確定診断が得られた16例を解析対象とした。PPLs は CT・FDG-PET (fluorodeoxyglucose positron emission tomography) で同定し、病変径は最大径で計測した。ground glass nodule は除外した。
全例において EBUS-GS 下ブラッシング→TBB→Cryo をこの順で実施した。使用機器: 軟性気管支鏡 (Olympus、東京)、20 MHz (megahertz) 放射型 EBUS プローブ (Olympus)、ガイドシース (Olympus)、ブラシ (Olympus)、鉗子 (Olympus)、ERBE (ERBE Elektromedizin GmbH、Tuebingen、ドイツ) 製 1.9 mm クライオプローブ。TBB は鉗子を5回挿入して組織採取した。Cryo はプローブをアルコール綿で湿らせた後ガイドシース内に挿入し、炭酸ガスで3〜5秒間凍結 (-70°C) を1〜2回施行し、ガイドシース・気管支鏡ごと引き抜いて生理食塩水で融解して組織を採取した。出血対策としてトロンビンとバルーンカテーテルを準備した。全手技中、血圧・酸素飽和度・脈拍・心電図を継続モニタリングした。
腫瘍細胞数の評価: Cryo 検体は HE (hematoxylin-eosin) 染色・PD-L1 評価用と遺伝子解析用に2分割した。HE 染色標本を用い、1名の細胞診技師と1名の呼吸器内科医が盲検下に腫瘍細胞数を手動計数した。単回生検あたりの腫瘍細胞数・総腫瘍細胞数・平均腫瘍細胞数の3指標を算出した。PD-L1 評価: 22C3 抗体 (ウサギモノクローナル、クローン 22C3; Agilent Dako、Glostrup、デンマーク) を Autostainer Link 48 (Agilent Dako) で使用。TPS のカットオフ値を≥50% および≥1% と設定した。PD-L1 陽性は膜染色が少なくとも1%の細胞に認められる場合と定義した。全病理標本は経験豊富な病理医が評価した。
統計解析: GraphPad PRISM (GraphPad Software、La Jolla、CA、USA) を使用。腫瘍細胞数の比較には Student’s t-test を使用し (非正規分布例には Mann-Whitney U test を補完適用)、p<0.05 を有意差の閾値とした。データは mean ± SE (standard error) で表示した。PD-L1 発現の一致性評価には OR (odds ratio)、感度・特異度・PPV (positive predictive value: 陽性的中率)・NPV (negative predictive value: 陰性的中率)・一致率、およびCohen’s kappa coefficient を使用した。κ係数の解釈基準は Landis & Koch (1977) に準拠し、0〜0.20 (slight agreement: わずかな一致)、0.21〜0.40 (fair)、0.41〜0.60 (moderate)、0.61〜0.80 (substantial)、0.81〜1.0 (almost perfect) と分類した。