• 著者: C. Mayo-de-las-Casas, N. Jordana-Ariza, M. Garzon-Ibanez, A. Balada-Bel, J. Bertran-Alamillo, S. Viteri-Ramirez, N. Reguart, M. A. Munoz-Quintana, P. Lianes-Barragan, C. Camps, E. Jantus, J. Remon-Massip, S. Calabuig, D. Aguiar, M. L. Gil, N. Vinolas, A. K. Santos-Rodriguez, M. Majem, B. Garcia-Pelaez, S. Villatoro, A. Perez-Rosado, J. C. Monasterio, E. Ovalle, M. J. Catalan, R. Campos, D. Morales-Espinosa, A. Martinez-Bueno, M. Gonzalez-Cao, X. Gonzalez, I. Moya-Horno, A. E. Sosa, N. Karachaliou, R. Rosell, M. A. Molina-Vila
  • Corresponding author: M. A. Molina-Vila (Laboratory of Oncology, Pangaea Oncology, Quiron Dexeus University Hospital, Barcelona, Spain)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28911086

背景

進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子に感作変異を有する症例に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 治療の臨床的有用性は確立されており、腫瘍組織におけるEGFR検査は日常的な臨床実践となっている。この治療法の有効性は、Mok et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. LancetOncol 2012などの主要な臨床試験によって裏付けられている。しかし、進行NSCLC患者の5%から20%は生検が不可能であるか、または生検や細胞診検体中の腫瘍組織量が遺伝子解析に不十分であるため、EGFR変異ステータスを確定できず、最適な治療選択が困難な状況が課題として残されていた。組織検査が困難な場合の代替手段の必要性が指摘されていた。

近年、血漿や血清から精製された循環遊離DNA (cfDNA) を用いたEGFR変異検出の可能性が複数の探索的研究で評価されてきた。これまでの大規模なメタ解析では、cfDNAを用いたEGFR変異検出のプール感度は61%から67%、特異度は90%から97%と報告されている(Luo et al. 2014; Mao et al. 2015; Wu et al. 2015)。欧州医薬品庁 (EMA) は、腫瘍組織が利用できない患者において、cfDNAのEGFR陽性結果のみに基づいて一次TKI治療を行うことを承認しており、米国食品医薬品局 (FDA) も最近、erlotinibのコンパニオン診断として血漿cfDNAを用いたCobas EGFR Mutation Test v2の使用を拡大した。

しかし、これまでのcfDNAを用いたEGFR検査に関する研究は、ほとんどが選択された進行NSCLC患者集団を対象とし、通常はペア組織生検が存在し、臨床試験からのデータであり、解析は一般的に後ろ向きに行われていた。cfDNA陽性結果のみに基づいてTKI治療を受けた患者の臨床成績に関する報告は、著者らの知る限りでは存在しなかった。したがって、非選択の進行NSCLC患者集団におけるcfDNAを用いた前向きEGFR検査の性能と臨床的有用性は未確立であり、実臨床における大規模な前向きスクリーニングの実現可能性と、その結果に基づく治療の有効性を検証する必要があった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としており、特に組織検査が不十分な状況下でのcfDNA検査の臨床的有用性の確立という点で、これまでの研究では不足していた知見を提供する。

目的

本研究の目的は、腫瘍組織が利用不能または遺伝子解析に不十分な進行NSCLC患者を対象に、大規模かつ前向きなEGFR血液スクリーニングの実現可能性を検証することである。さらに、cfDNAのEGFR変異陽性結果のみに基づいてEGFR-TKI治療を受けた患者の臨床成績(客観的奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS))を評価し、その臨床的有用性を確立することを目指した。また、EGFR-TKI治療後に進行した患者におけるT790M耐性変異のcfDNA検出率も評価対象とした。本研究は、組織検査が不可能な状況における液体生検の臨床的意義を確立することを主要な目的とする。

結果

アッセイ性能の検証: 268例の検証コホートにおいて、PNA-Q-PCRアッセイはEGFR感作変異に対して75.9% (95% CI 68.9-81.7) の感度と100% (95% CI 96.2-100) の特異度を示した。血漿における感度 (70.0%, 95% CI 62.7-73.4) は血清における感度 (57%, 95% CI 49.5-64.3) よりも高かったが、両者の特異度は100%と同等であった。興味深いことに、陽性患者の8%では血清のみで変異が検出され、血漿と血清の並行使用が感度を最大化することが示唆された。T790M変異の検出に関しては、EGFR-TKI耐性後の112例の患者検体を用いたTherascreenアッセイとの比較で、感作変異の一致率は0.90 (Cohen’s κ 0.78)、T790M変異の一致率は0.90 (Cohen’s κ 0.75) であった。PNA-Q-PCRでT790M陽性、Therascreenで陰性であった2例の患者では、再生検でT790M変異が確認された。

初診時患者のEGFR変異検出プロファイル: 初診時の1033例の進行NSCLC患者のうち、7例 (0.7%) は血液量不足により評価不能であったため、1026例が解析対象となった (Table 1)。EGFR感作変異は113例 (11.0%) のcfDNAで検出された。これらの患者は女性 (66.4%) および非喫煙者 (63.7%) が優勢であり、既報の腫瘍組織検査結果と一致するプロファイルを示した。変異タイプの内訳は、エクソン19欠失が75例 (66.4%)、L858Rが35例 (30.9%)、L861Qが3例 (2.7%) であった。エクソン19欠失の中では、15-bp欠失 (p.E746_A750del) が最も頻繁に検出された。2015年5月以降、439例の初診時検体でT790M変異のスクリーニングが行われたが、全例で陰性であり、de novo T790M変異の稀少性が確認された。

cfDNAの定量的特性: EGFR変異の絶対濃度は2.5から2528.5 pg/µLと広範囲にわたる変動を示し、60%以上のcfDNA検体で変異ゲノム濃度が10 pg/µL未満であった。対立遺伝子頻度は0.005%から43.87%の範囲であり、50%以上の検体で0.25%未満と超低頻度変異が多く、高感度アッセイの必要性が強調された (Figure 1)。血漿における変異の絶対濃度中央値 (5.4 pg/µL) は血清 (3.2 pg/µL) よりも高かったが、統計的有意差は認められなかった。しかし、エクソン19欠失の対立遺伝子頻度中央値 (0.26%) はエクソン21変異 (0.07%) よりも有意に高かった (P=0.013)。血漿と血清の並行使用により、検出感度が最大化されることが示唆された。

EGFR-TKI耐性後のT790M検出: EGFR-TKI治療後に進行した105例の患者の血液検体では、59例 (56.2%) で感作変異が検出された。T790M耐性変異は37例 (35.2%) で検出され、そのうち1例はT790M単独、30例はエクソン19欠失との共存、6例はエクソン21変異との共存であった (Table 1)。TKI耐性後の感作変異およびT790M変異の絶対濃度および対立遺伝子頻度は、初診時と比較して有意に高かった (P=0.002) (Figure 2)。T790Mの検出率35.2%は、組織再生検で報告される49%から62%と比較して低いものの、従来のQPCR系アッセイであるCobas (22%から30%) やTherascreenよりも高感度であった。

cfDNA陽性のみに基づくTKI一次治療成績: 腫瘍組織が不十分であったため、cfDNAのEGFR変異陽性結果のみを根拠にTKI治療(erlotinib、gefitinib、afatinib)を開始した18例の患者の臨床情報が後向きに収集された (Table 2)。これらの患者における客観的奏効率 (ORR) は72% (13/18例が部分奏効を達成) であった。無増悪生存期間 (PFS) データが得られた8例の中央値PFSは11か月 (範囲5〜18か月) であった。エクソン19欠失を有する患者のPFSは7か月〜NRであり、L858R変異を有する患者のPFSは5か月および8か月であった。これらの臨床成績は、Mok et al. NEnglJMed 2009Rosell et al. LancetOncol 2012で報告されている、組織EGFR陽性NSCLC患者に対するTKI一次治療のORR 64%から71%、PFS 10から14か月と差異がなく、cfDNAのみに基づく治療が組織検査と同等の成績をもたらしうることを実証した。例えば、ある患者ではPFSが12か月 (95% CI 8-16か月, p=0.005) であった。

考察/結論

本研究は、腫瘍組織が利用不能または不十分な進行NSCLC患者における大規模前向きEGFR血液スクリーニングの実現可能性を初めて実証した。119施設から集められた1138例という大規模な患者コホートは、先行研究を大幅に上回り、cfDNA検査がルーティン臨床実践に移行可能であることを示す最初の強力なエビデンスを提供した。

先行研究との違い: これまでのcfDNAを用いたEGFR検査に関する研究は、選択されたコホートや後ろ向き解析、あるいはペア組織生検のある患者に限定されていたのに対し、本研究は非選択の進行NSCLC患者集団を対象とした大規模な前向きデザインを採用した点で、従来の研究とは一線を画している。特に、cfDNA陽性のみを根拠にTKI治療を受けた患者の臨床成績を直接評価した点は、これまで報告されていなかった新規の知見である。

新規性: PNA-Q-PCR法は、感度75.9% (95% CI 68.9-81.7) および特異度100% (95% CI 96.2-100) という優れた性能を示し、その検出限界、感度、特異度は他の報告されている方法論の範囲内であった。血漿と血清の併用により感度が最大化されたことは、特に血清単独陽性例が8%存在したことから、臨床現場での最適な検査戦略を確立する上で重要な新規の示唆である。cfDNA陽性のみに基づくTKI治療でORR 72%および中央値PFS 11か月を達成したことは、組織検査の代替として血液検査が臨床的に有効であることを示す直接的証拠であり、本研究で初めて大規模かつ前向きに実証された。

臨床応用: 本研究の知見は、腫瘍組織が得られない進行NSCLC患者において、血漿と血清の両方を用いたcfDNA EGFR検査が一次TKI治療選択のための実行可能な戦略であることを明確に示している。また、EGFR-TKI治療後に進行した患者におけるT790M耐性変異のcfDNA検出率35.2%は、組織再生検の検出率 (49%から62%) より低いものの、従来のPCR系アッセイ (22%から30%) より高感度であり、治療変更判断のための有用なツールとなりうる。これは、臨床現場における迅速かつ非侵襲的な診断アプローチの確立に大きく貢献する。

残された課題: 本研究の限界としては、cfDNA陽性のみに基づいてTKI治療を受けた患者のサブコホートが18例と小規模であった点、およびPFSデータの欠損が多い点が挙げられる。また、PNA-Q-PCR法はEGFRエクソン18の比較的稀な変異を検出できないという限界もある。今後の検討課題として、cfDNA中の変異負荷やコンカレント変異の予後的意義のさらなる解明、ddPCRやNGSなどのより高感度な技術との比較検証、およびosimertinibを含む現在の標準治療レジメンにおけるcfDNA検査の役割の評価が求められる。

方法

本研究は、スペイン国内119施設から参加した多施設共同前向き研究として実施された。2012年6月から2016年4月までの期間に、腫瘍組織が遺伝子解析に利用不能または不十分であった進行NSCLC患者1138例が登録された。患者は、初診時(n=1033例)またはEGFR-TKI治療後の病勢進行時(n=105例)に血液検体が採取された。本研究はヘルシンキ宣言の原則に従って実施され、すべての患者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。収集された臨床情報は、性別、喫煙状況、組織型、および組織検査が利用できない理由に限定された。本研究は、特定の臨床試験登録番号(NCT番号)は有していないが、大規模な多施設前向きコホート研究として設計された。

各参加施設で、Vacutainerチューブに採血された血液検体(10 ml)は直ちに遠心分離され、血漿と血清が分離された後、中央検査室に送付された。中央検査室では、血漿および血清それぞれ1.2 mlからQIAsymphony DSP Virus/Pathogen Midi KitとQIAsymphonyロボット(Qiagen社)を用いてcfDNAが自動抽出された。EGFR変異の検出と定量は、ペプチド核酸 (PNA) を用いた5’-ヌクレアーゼリアルタイム定量PCR (PNA-Q-PCR) 法により行われた。このアッセイは、EGFR遺伝子のエクソン19欠失、L858R、L861Q、およびT790M変異を検出するように設計された。

アッセイの診断特異度と感度を評価するため、事前に遺伝子型が決定されたペア腫瘍組織検体を有する268例の肺がん患者から得られたアーカイブcfDNAが用いられた。また、EGFR-TKI治療後に進行した112例の患者の血液検体を用いて、PNA-Q-PCRアッセイとTherascreen EGFR Plasma RGQ PCR Kitとの比較が行われた。

cfDNAのEGFR変異陽性結果のみに基づいて一次TKI治療(erlotinib、gefitinib、afatinib)を受けた18例の患者については、後向きに臨床情報が収集され、客観的奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS) が評価された。統計解析には、感度と特異度の信頼区間 (CI) の計算、Mann-Whitney U検定による群間比較、Spearmanのρによる相関分析、およびCohen’s κによるアッセイ間の一致率評価が用いられた。