- 著者: Rafael Rosell, Enric Carcereny, Radj Gervais, et al.
- Corresponding author: Rafael Rosell (Catalan Institute of Oncology, Badalona, Spain)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-01-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 22285168
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) における上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子変異は、チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に対する感受性と関連することが報告されている。特に、エクソン19の欠失変異 (exon 19 deletion) やエクソン21のL858R点変異は、EGFR-TKIの効果予測因子として確立されている (Lynch et al. NEnglJMed 2004、Paez et al. Science 2004、Pao et al. ProcNatlAcadSciUSA 2004)。これまで、EGFR変異陽性NSCLC患者に対する一次治療としてのEGFR-TKIの優越性を示す複数の第III相臨床試験が実施されてきた。具体的には、IPASS試験 (Mok et al. NEnglJMed 2009)、WJTOG3405試験 (Mitsudomi et al. LancetOncol 2010)、NEJ002試験 (Maemondo et al. NEnglJMed 2010)、OPTIMAL試験 (Zhou et al. LancetOncol 2011) などが挙げられる。これらの試験は、いずれもアジア人患者集団を対象としており、ゲフィチニブやエルロチニブが標準化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長することを示した。
しかし、欧州人集団におけるEGFR変異の頻度はアジア人集団と比較して低く (約8〜17%)、また遺伝的背景や環境要因の違いにより、EGFR-TKIの有効性や安全性プロファイルが異なる可能性が懸念されていた。このため、アジア人集団で得られた知見が欧州人集団にも普遍的に適用できるかについては、大規模な無作為化比較試験による検証が未確立であった。スペイン肺癌グループ (SLCG) が実施した大規模スクリーニング研究では、2105例の進行NSCLC患者のうち350例 (17%) にEGFR変異が確認され、そのうち217例のEGFR変異陽性患者にエルロチニブを投与した結果、PFS中央値14ヶ月という良好な成績が報告されていた (Rosell et al. NEnglJMed 2009)。この結果は、欧州人集団においてもEGFR変異陽性NSCLC患者に対するEGFR-TKIの有効性を示唆するものであったが、無作為化比較試験によるエビデンスが不足していた。
本EURTAC試験は、このような知識のギャップを埋めることを目的として計画された。欧州人EGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした初のランダム化第III相試験として、エルロチニブの一次治療としての有効性と安全性を標準化学療法と比較し、アジア人以外の集団においてもEGFR-TKIの治療パラダイムが普遍的に適用可能であるかを検証することが喫緊の課題であった。
目的
本EURTAC試験の主要な目的は、EGFR遺伝子活性化変異 (エクソン19欠失またはエクソン21 L858R変異) を有する進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の欧州人患者において、一次治療としてのエルロチニブ (150mg/日) と標準白金製剤ベース化学療法 (シスプラチン/カルボプラチンを含む) の無増悪生存期間 (PFS) を比較し、エルロチニブの優越性を評価することである。主要評価項目は、独立中央画像判定委員会によって確認されたPFSであり、intention-to-treat (ITT) 集団で解析された。副次評価項目としては、奏効率 (ORR)、全生存期間 (OS)、安全性プロファイル、および血清中のEGFR変異DNA検出とPFSとの関連が評価された。本試験は、アジア人集団で確立されたEGFR-TKIの有効性が、欧州人集団においても普遍的であるかを検証することを目的とした。
結果
患者登録とベースライン特性: 2007年2月15日から2011年1月4日までに、フランス、イタリア、スペインの42施設で1227例の患者がEGFR変異スクリーニングを受けた。そのうち174例がEGFR変異陽性患者として登録され、1例が治療前に脱落したため、最終的に173例が解析対象となった (エルロチニブ群 n=86、標準化学療法群 n=87)。両群間でベースライン特性は良好にバランスが取れていた (Table 1)。患者の大部分は白人であり、女性がエルロチニブ群で67%、化学療法群で78%を占めた。中央年齢は両群ともに65歳であった。非喫煙者がエルロチニブ群で66%、化学療法群で72%を占め、組織型は両群ともに腺癌が90%以上であった。EGFR変異の内訳は、エクソン19欠失が両群で約66〜67%、L858R変異が約33〜34%であった。ステージIVの患者がエルロチニブ群で91%、化学療法群で94%を占めた。
主要評価項目:無増悪生存期間 (PFS): 最終データカットオフ (2011年1月26日) 時点でのPFS中央値は、エルロチニブ群で9.7ヶ月 (95% CI 8.4-12.3) であったのに対し、標準化学療法群では5.2ヶ月 (95% CI 4.5-5.8) であった。エルロチニブ群は標準化学療法群と比較して、病勢進行または死亡のリスクを統計学的に有意に低減した (ハザード比 [HR] 0.37, 95% CI 0.25-0.54, p<0.0001) (Figure 2A)。1年PFS率はエルロチニブ群で40% (95% CI 28-52%)、化学療法群で10% (95% CI 4-20%) であった。2年PFS率はエルロチニブ群で11% (95% CI 5-26%) であったが、化学療法群では0%であり評価不能であった。事前計画された中間解析 (2010年8月2日データカットオフ) において、エルロチニブ群のPFS中央値は9.4ヶ月 (95% CI 7.9-12.3) vs 化学療法群5.2ヶ月 (95% CI 4.4-5.8) であり、HR 0.42 (95% CI 0.27-0.64, p<0.0001) と主要評価項目が達成されたため、独立データモニタリング委員会は患者登録の中止と全データの評価を推奨した。
サブグループ解析におけるPFS: PFSのサブグループ解析では、ほとんどのサブグループでエルロチニブの優位性が確認された (Figure 2B)。エクソン19欠失変異を有する患者 (n=115) では、エルロチニブ群のPFS中央値は11.0ヶ月 (95% CI 8.8-16.4) vs 化学療法群4.6ヶ月 (95% CI 4.1-5.6) であり、HR 0.30 (95% CI 0.18-0.50, p<0.0001) とエルロチニブの顕著な効果が示された。一方、L858R変異を有する患者 (n=58) では、エルロチニブ群のPFS中央値は8.4ヶ月 (95% CI 5.2-10.8) vs 化学療法群6.0ヶ月 (95% CI 4.9-6.8) であり、HR 0.55 (95% CI 0.29-1.02, p=0.0539) と、エクソン19欠失と比較して効果はやや限定的であったが、傾向は同様であった。ECOG PS 0の患者では、エルロチニブ群のPFS中央値は23.9ヶ月 (95% CI 9.7-評価不能) と非常に長く、化学療法群の6.0ヶ月 (95% CI 4.3-8.0) と比較してHR 0.24 (p=0.0006) と特に顕著な効果が認められた。非喫煙者ではエルロチニブ群のPFS中央値は9.7ヶ月 (95% CI 8.3-15.5) vs 化学療法群5.1ヶ月 (95% CI 4.4-5.6) であり、HR 0.24 (95% CI 0.15-0.39, p<0.0001) とエルロチニブの有意な効果が示された。
奏効率 (ORR): ITT集団における客観的奏効率 (ORR) は、エルロチニブ群で58% (完全奏効 [CR] 2例 [2%] + 部分奏効 [PR] 48例 [56%]) であったのに対し、標準化学療法群では15% (PR 13例) であった。Per-protocol集団では、エルロチニブ群のORRは64% (CR 2例 + PR 47例/77例) であり、化学療法群の18% (PR 13例/73例) と比較して有意に高かった (オッズ比 7.5, 95% CI 3.6-15.6, p<0.0001)。エルロチニブ群では、化学療法群と比較して腫瘍縮小効果が顕著であった (Figure 3)。
全生存期間 (OS): 最終データカットオフ時点で、エルロチニブ群で38例 (44%)、標準化学療法群で31例 (36%) の死亡が確認された。OS中央値は、エルロチニブ群で19.3ヶ月 (95% CI 14.7-26.8) であったのに対し、標準化学療法群では19.5ヶ月 (95% CI 16.1-評価不能) であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (HR 1.04, 95% CI 0.65-1.68, p=0.87)。このOSにおける差がない結果は、標準化学療法群の患者87例中66例 (76%) が病勢進行後にEGFR-TKI (主にエルロチニブ) へクロスオーバーしたことが主要な要因であると考えられた。
安全性プロファイル: 安全性解析には、治験薬を少なくとも1回投与された全患者が含まれた (エルロチニブ群 n=84、化学療法群 n=82)。エルロチニブ群で最も頻度の高かったGrade 3または4の有害事象は、発疹 (Grade 3が11例 [13%]) であった。一方、標準化学療法群で最も頻度の高かったGrade 3または4の有害事象は、好中球減少症 (Grade 3が12例 [15%]、Grade 4が6例 [7%]、合計22%)、血小板減少症 (Grade 3または4が14%)、および疲労感 (Grade 3が16例 [20%]) であった (Table 2)。エルロチニブ群では好中球減少症は認められなかった。治療関連重篤有害事象 (SAE) は、エルロチニブ群で5例 (6%) であったのに対し、化学療法群では16例 (20%) であり、化学療法群で有意に高頻度であった。治療関連死は、エルロチニブ群で1例 (肝毒性)、化学療法群で2例 (脳血管障害) が報告された。有害事象による治療中止は、エルロチニブ群で11例 (13%)、化学療法群で19例 (23%) であった。全体として、エルロチニブは標準化学療法と比較して、忍容性が良好であり、特に骨髄抑制関連の有害事象が少なかった (Table 3)。
血清中EGFR変異DNAとPFS: ベースライン時の血液サンプルは109例 (エルロチニブ群 n=57、化学療法群 n=52) で利用可能であった。血清中EGFR変異DNAは58例で検出された。血清中変異陽性患者におけるPFS中央値は、エルロチニブ群で10.7ヶ月 (95% CI 6.8-15.5) vs 化学療法群4.2ヶ月 (95% CI 3.2-6.0) であり、HR 0.25 (95% CI 0.12-0.54, p=0.0002) とエルロチニブの有意な効果が示された。血清中変異陰性患者においても、エルロチニブ群のPFS中央値は12.6ヶ月 (95% CI 8.3-評価不能) vs 化学療法群6.0ヶ月 (95% CI 4.9-9.0) であり、HR 0.29 (95% CI 0.13-0.63, p=0.0010) と同様の傾向が認められた。
考察/結論
EURTAC試験は、EGFR変異陽性進行NSCLCの欧州人患者を対象に、一次治療としてのエルロチニブと標準化学療法を比較した初の無作為化第III相試験であり、その結果は極めて重要である。本研究は、エルロチニブが標準化学療法と比較してPFSを統計学的に有意かつ臨床的に意義のある形で延長することを示し、この治療パラダイムがアジア人集団だけでなく欧州人集団においても普遍的に有効であることを確立した。
先行研究との違い: 本試験で示されたPFSに対するハザード比0.37 (95% CI 0.25-0.54) は、アジア人患者を対象とした先行研究 (IPASS: HR 0.48、WJTOG3405: HR 0.49、NEJ002: HR 0.30、OPTIMAL: HR 0.16) の結果と概ね整合的であった。このことは、EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFR-TKIの一次治療としての有効性が、人種や地理的要因に依存しないことを強く示唆する。また、安全性プロファイルにおいても、エルロチニブ群では化学療法群で高頻度であった骨髄抑制 (好中球減少症、血小板減少症) がほとんど見られず、化学療法と対照的に良好な忍容性を示した。
新規性: EURTAC試験は、非アジア人集団におけるEGFR変異陽性NSCLCに対する一次治療としてのEGFR-TKIの優越性を初めて前向きに検証した試験である。これにより、欧州の臨床現場において、EGFR変異検査のルーチン化と、変異陽性患者に対するEGFR-TKIの一次治療としての確立が強く支持されることとなった。特に、欧州人におけるEGFR変異の頻度 (約17%) が、ルーチン検査の実施可能性と費用対効果を裏付けるエビデンスとなった点も新規性として挙げられる。
臨床応用: 本研究の知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者の治療戦略に直接的な影響を与える。エルロチニブのPFS延長効果と良好な忍容性は、EGFR変異陽性患者に対する一次治療としてEGFR-TKIを選択することの強力な根拠となる。これにより、欧州の臨床現場では、NSCLC患者の診断時にEGFR変異検査を標準的に実施し、変異陽性患者にはエルロチニブなどのEGFR-TKIを優先的に投与する治療アルゴリズムが確立されるべきである。これは、個別化医療の推進に大きく貢献する臨床的意義を持つ。
残された課題: 本試験では、化学療法群の76%が病勢進行後にEGFR-TKIへクロスオーバーしたため、全生存期間 (OS) において両群間に有意差が認められなかった。これは、クロスオーバーによるOSの希釈効果が要因であると考えられ、EGFR-TKIのOSへの真の影響を評価するためには、クロスオーバーを考慮した長期的な追跡調査や、異なる試験デザインの検討が今後の課題として残されている。また、喫煙歴別のサブグループ解析では、現喫煙者や既喫煙者におけるエルロチニブの効果が非喫煙者ほど明確でなかったが、これらのサブグループの患者数が少なかったため、さらなる検討が必要である。ECOG PS 2の患者におけるPFSの有意差が認められなかった点も、今後の研究でより詳細な解析が求められるlimitationである。
方法
本研究は、フランス、イタリア、スペインの42施設で実施された多施設共同、非盲検、無作為化第III相臨床試験である (ClinicalTrials.gov登録番号: NCT00446225)。患者登録は2007年2月15日から2011年1月4日まで行われた。
対象患者: 適格基準は以下の通りであった。組織学的にステージIIIB (胸水あり) またはステージIVのNSCLCと診断された成人 (18歳以上) 患者。測定可能または評価可能な病変を有すること。EGFR遺伝子活性化変異 (エクソン19欠失またはエクソン21 L858R変異) がSangerシーケンシングおよび独立した確認法によって検出されていること。転移性疾患に対する化学療法歴がないこと (術前補助化学療法または術後補助化学療法は、試験登録前6ヶ月以上経過していれば許容された)。無症状で安定した脳転移を有する患者も適格とされた。
無作為化と盲検化: 患者は、コンピューター生成された割付スケジュールに基づき、エルロチニブ群と標準化学療法群に1:1の比率で無作為に割り付けられた。層別化因子は、EGFR変異の種類 (エクソン19欠失 vs L858R変異) およびECOGパフォーマンスステータス (0 vs 1 vs 2) であった。本試験は非盲検試験であったが、評価におけるバイアスを避けるため、PFSおよび治療奏効は独立中央画像判定委員会 (Synarc, San Francisco, CA, USA) によるCTスキャンレビューによって確認された。
治療プロトコル: エルロチニブ群の患者には、病勢進行または許容できない毒性が発現するまで、経口エルロチニブ150mgが1日1回投与された。標準化学療法群の患者には、3週サイクルで最大4サイクルの静脈内化学療法が投与された。化学療法レジメンは、シスプラチン75mg/m² (day 1) + ドセタキセル75mg/m² (day 1)、またはシスプラチン75mg/m² (day 1) + ゲムシタビン1250mg/m² (day 1および8) のいずれかが選択された。シスプラチン不適格な患者には、カルボプラチン (AUC 6) + ドセタキセル75mg/m²、またはカルボプラチン (AUC 5) + ゲムシタビン1000mg/m²が代替として許容された。試験設計にはクロスオーバーが組み込まれており、化学療法群の患者は病勢進行後にEGFR-TKI (主にエルロチニブ) を二次治療として受けることが推奨された。
評価項目: 主要評価項目はPFSであり、無作為化日から病勢進行が最初に確認された日または死亡日までの期間と定義された。全生存期間 (OS) は、無作為化日から死亡日までの期間と定義された。有害事象は、National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 3.0に従って評価された。
統計解析: PFSの推定値は、エルロチニブ群で10ヶ月、化学療法群で6ヶ月と仮定された。80%の検出力でエルロチニブの優越性を確認するために、135イベントが必要と見積もられた。中間解析はPFSイベントが65% (88イベント) 発生した時点で計画され、Lan-DeMets alpha-spending functionとPocock停止境界を用いて、中間解析での有意水準を0.037、最終解析での有意水準を0.025に設定した。PFSの解析にはKaplan-Meier曲線が用いられ、ログランク検定で比較された。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いて算出された。OS解析では、クロスオーバーは打ち切りとされなかった。奏効率はχ²検定を用いて比較された。すべての解析は両側検定であり、有意水準は5%とされた。統計解析はSAS version 8.2、SPSS version 17.0、またはS-PLUS (S-PLUS version 6.1) を用いて実施された。